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1巻
1-3
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唇を噛みしめ足早にカートを押していた雫の腕を、ため息をついた瑞貴が引く。
「……ごめん、大人げなかった。だからそんなに泣きそうな顔をしないで」
ああ、まただ。子供すぎる自分をあやすために、彼は正論すら呑み込む。自分はいまだ彼の庇護の下から抜けきれていない、未熟な子供のままなのだ。
「若旦那が謝られることはありません。わたしが至らなかったからです。粛として受け止め、今後二度と若旦那を失望させぬよう……」
しかし瑞貴は暗紫色の瞳を大きく揺らし、悲しげな表情を浮かべた。
「いつからきみは……」
「若旦那?」
瑞貴はおもむろに手を伸ばし、ほつれた雫の髪の束を耳に掛ける。
「……その化粧、やめてくれないか」
「え……」
「きみには似合わない。いつものにして」
冷ややかに響く瑞貴の声。鼻の奥はつんと熱くなり、同時に胸がじくじくと痛む。
(意識してもらうどころか、不興……)
「……わかりました。お見苦しいものをお見せしてしまい、申しわけありません。配膳室に行ってから、直ちに化粧を直して戻ってきます」
震える声でそう言うと、奥歯を噛みしめて小走りに去った。
瑞貴が名前を呼んだ気がしたが、雫は止まらない。
彼と顔を合わせたら、涙が溢れていることに気づかれてしまうから。
(どうしよう、このまま配膳室に行ったら、泣いているのがばれちゃう……)
そんな時、大倭の姿が見えた。雫は彼を呼び止め、カートを配膳室に運んでほしいと頼んだ。
「配膳室? 別にいいけれど、ここまで押してきたなら、お前が持って……」
言葉を切ったのは、雫の涙に気づいたからだろう。
「うわ、泣いたら、ますますドブス」
「……うるさいわ、この常時イケメンもどき。顔を直しに行きたいの!」
「今夜『四季彩亭』で、生ビールおごれよ?」
「すぐそこに持っていくだけなのに……。わかったよ、お願いします」
「商談成立!」
大倭とハイタッチをしてから急いで控え室に走る雫は、そんな様子を……瑞貴が、暗い眼差しで見つめていたことには気づかなかった。
*゚。・*・。゚*
華宵亭にある居酒屋『四季彩亭』は、完全個室制となっている。
海の幸料理が特に絶品で、雫が好きなホタテ貝のバター焼きは、ホタテがとても大きく肉厚であり、病みつきになる美味しさだ。さらに従業員割引をしてくれるのだから、太っ腹だと思う。
「信じられない、あの愛されメイクを落とせだなんて……!」
ウーロン茶の入ったジョッキをテーブルへ乱暴に置いたのは、香織だ。
アルコールが飲めないらしい彼女は、素面なのにかなり荒れている。
「……おい、雫。なんであいつがいるわけ?」
大倭が香織を見ながら、横に座る雫にぼそぼそと耳打ちした。
「……わたしがプライドを傷つけちゃったから、おわびに連れてきたの」
仲居にとって忙しい夕食の時間帯ですら、香織はいつも雲隠れをしていた。そんな彼女を戦力外とみなしていた仲居たちの前に、手伝いたいと香織が殊勝な態度で現れたのは、数時間前のこと。
思わず雫が驚いた顔を向けると、香織はそれ以上に驚いて尋ねてきたのだ。
『どうして貧乏臭いメイクに戻っているんですか! 私がした化粧は⁉』
それで事情を説明したところ、彼女が荒れ狂ったため連れてきたのだった。
「……ねぇ、副番頭。私がした雫さんのメイク、見たんですよね? あのメイクの雫さんと、この貧乏メイクの雫さん、どちらが可愛いと思います?」
すると大倭は、事もなげに言う。
「俺はすっぴんの雫を見慣れているし、変な武装されるより、化粧しない方がいいからなあ」
「うわー、何気に独占欲丸出し。せめて化粧が落ちるくらいの激しいセックスができるようになってから言って下さいよ。ヘタレな副番頭さん」
ビールを呷っていた大倭は途端に噴き出し、げほげほと咽せ込んだ。香織流のジョークだと思っている雫は、遠い目をしながら大倭に水を差し出し、彼の背中を撫でる。
「……こ、こいつ、なに? なんでキャラ変?」
「私、素はこっちですので。ぶりっこキャラはおふたりの前ではもう意味がないので、やめることにしました。これからはのびのびと、日頃のストレスを発散させてもらいます」
香織はひとつ残っているホタテを箸でぐさりと突き刺すと、豪快にかぶりついた。
「あ、それわたしのホタテ……」
涙目の雫に構わず、香織は別の話題を振る。
「若旦那のタイプってどんな女性なんですか? まさかブス専? 歴代彼女はブスばかり?」
「若旦那のタイプ……わたし知らないや。彼女……いなかったはずだけど」
「いないってことはないでしょう、あのスペックで。雫さんが知らないだけでは?」
香織の言葉が心を抉る。確かに瑞貴なら、どんな美女でも選り取り見取りだ。彼には恋人や、一夜限りの存在がいたのだろうか。……もしや、現在進行形で。
(いやいやいや! 若旦那は忙しいし、恋人を作っている暇などないはず……)
同意を求めて大倭を見ると、彼は店員にホタテと飲み物を追加注文している。
注文が終わると、雫は香織からの質問を大倭に投げかけた。
すると彼は、心底いやそうな顔で答える。
「あいつはブス専どころか、どんな美女でも堕ちねぇよ。なのにあいつが少し優しく声をかけただけで、女たちが勝手に自分は特別だと勘違いし、醜い争いを繰り広げる。俺なら望みを持たせないけど、あいつは夢だけ見せる分、残酷だ」
すると香織が、こくこくと頷きながら言った。
「確かに私が声をかけても、副番頭のようにうざがらず、にこにこしていましたしね。私はあれを特別な優しさだと勘違いするほど経験値が低い痛い女ではないですが。雫さんに対してもそう?」
特別な優しさだと思っていた経験値が低い女は、返事の代わりに突っ伏した。
「ホ、ホタテ来たぞ、雫。お前の大好きなホタテ! 食べて元気出せ、な?」
雫は鼻を鳴らして顔を上げると、熱々のホタテを口にする。悲しみが吹き飛ぶほど、今日もホタテは美味しい。我ながら単純だと思うが。
「……おふたりは普段も一緒に飲んでいるんですよね? そこに若旦那が入ることは?」
「ないない。若旦那、仕事とか稽古とか忙しいし」
瑞貴は月に一度、大庭園にある神社の、神楽殿にも似た小さな舞台で利用客に舞いを披露するため、時間がある時は日舞の稽古をしている。その時間を邪魔したくはない。それでなくとも若旦那業は重労働。稽古がない時は身体を休めたり、自分の時間を満喫したりしてほしい。
「忙しいといっても、三百六十五日、毎秒忙しいわけじゃないでしょう? 若旦那も従業員も月に数度の深夜勤以外、終業後は自由だし、休日もちゃんとあるし。若旦那からお誘いは来ないんですか? 遊びに行こうぜ、食べに行こうぜー! 的な」
雫と大倭は同時に、ないと即答する。すると香織は怪訝な顔をしてさらに尋ねた。
「……若旦那、おふたり以外に友達いるんですか?」
「友達? どうなんだろう……。大倭、知ってる?」
「興味ねぇし」
「本当に幼馴染なんですか、あなたたち! 幼馴染としての会話、しないんですか⁉」
香織の剣幕にたじろぎながら、雫は答える。
「し、しているよ。立ち話はよくあるし」
「どんな話をしているんですか」
「お疲れ様とか、身体を大切にとか。仕事のことや昔の話、お花やお菓子、体操……まあこれはいいや」
「どこの老人の会話ですか。二十代がする会話じゃないです!」
「や、大倭の方は、もっと軽口を叩き合っているよ? 素を見せて」
「エベレスト登山しようとしているのは、副番頭じゃないでしょう? ではもうひとつ聞きますが、雫さんにとって幼馴染の利点ってなんですか?」
「優しくしてもらえる……?」
「あの若旦那は皆に優しいんです。幼馴染に特別な優しさがあるのだとすれば、化粧だって落とせなんて言わずにベタ褒めするでしょう! だったら幼馴染が知る若旦那の裏情報は? たとえば皆に隠している趣味や癖があるとか、スポーツや音楽はなにが好きとか」
改めて考えると、瑞貴の個人情報はなにひとつわからない。そばにいられることに満足していたため、知りたいとも思わずにいた。
(幼馴染だから知りえる情報? え……と)
「携帯番号とかメルアドを知っている!」
「では、それを使って週に何度、連絡をとり合っています?」
「連絡もなにも……用があれば、昼間本人に直接言えばいいし」
すると香織は哀れみの目を向けてくる。そのため雫は、別案を口にした。
「昔の若旦那を知っているし!」
「……それ、現在のエベレスト登山に役立っています?」
すると訝しげな顔をした大倭が、口を挟んだ。
「なあ、さっきからエベレスト登山ってなに?」
「雫さんの無謀すぎる挑戦のことです。……雫さん。ちなみに、若旦那の誕生日や血液型、身長とかは知っていますか?」
「し、知っているよ! 誕生日は九月四日! 血液型は……確かAB! 身長は知らないけど」
「誕生日は正解ですが、血液型はA! 身長は百八十一です」
「あれ、A型だったっけ……って、なんで香織ちゃんが知っているの?」
「そんなもん、本人に直接聞いたんですよ。こんな下っ端にもオープンにする程度の情報も知らないなんて、幼馴染の特権なぞ意味ないじゃないですか!」
「う……」
「雫さんは、幼馴染という関係に胡座をかいて、若旦那に対する積極的な姿勢が欠けています。今の雫さんは、縁側で茶を啜り、昔を思い出してほのぼのしている老婆に等しい! ……私が断言します。エベレストどころか熱海の山だって登れませんよ、よぼよぼの雫さんは」
……雫の体力気力のゲージが、一気にゼロとなった。
*゚。・*・。゚*
『もっと若旦那に興味を持て』と、香織に懇々と説教をされて、小一時間。大倭が寝てしまったため、叩き起こしてお開きになった。
華宵亭の従業員は、徒歩五分の場所にある完全個室制の寮から通っている。
例外なのは雫と大倭と、仲居長の小夜子だけだ。
小夜子は、身体が弱く昔から寝込むことが多かったため、ゆっくりできるよう女将に離れを与えられたらしい。庭の裏手にある元蔵を改装したもので、今彼女はそこでひとり暮らしをしていた。
雫と大倭は、従業員用に用意された離れの一室にそれぞれ住んでいる。他に住まう者がいないため、六畳二間の使用を許されていた。
だが厳格な女将の部屋が近いため、騒ぐことはおろかくつろぐことも難しい。それもあってほとんどの仲居は寮を選ぶが、雫にとってはそれがデメリットには思えなかった。静かで広い部屋に三食つきで通勤時間なし。従業員用の温泉に気兼ねなく入り放題。パラダイスである。
「子供じゃないんだから、家まで送らなくていいですってば!」
「駄目! 女の子を夜道にひとりでは帰せません」
時刻は二十二時を過ぎている。雫は大倭とともに香織を寮まで送り届けようと、香織を説得しつつ、三人で従業員専用の裏口を出た。
「あれ……若旦那じゃね?」
突然の大倭の声に、雫は彼が顎で促す方を見る。淡いオレンジ色の街灯に照らされ、それっぽい後ろ姿が見えた。雫たちが裏口に現れる少し前に、外に出ていったようだ。
「学生服以外の洋服姿、初めて見たかも。……こんな時間に外に出るなんて、散歩かしら?」
「もしや、誰かと逢引きとか?」
不穏さを孕んだ香織の言葉に、雫は引き攣る。
「ねぇ、つけてみませんか。ただの散歩ならそれでよし。もしかすると些細な発見が、登山攻略のヒントになるかもしれません」
登山攻略と聞いて雫は鼻息荒く賛同し、香織とともに尾行を開始する。渋々大倭もついてきて、ちょっとした探偵団の気分だ。
瑞貴は、裏手の一角にある雅楽川家のガレージを開けて入った。
やがてエンジン音が聞こえてくる。
(若旦那が、免許を取っていたことすら知らなかった……)
軽くショックを受けている雫に、香織が早口で言った。
「追いかけましょう! 副番頭、車のキーあります? 社用車、近くにありましたよね」
「あ、ああ。鍵は持ち歩いているけど、俺……酒を飲んでいるし」
「私が運転します。こう見えて私、運転は得意なんです。任せて下さい」
ふたりは目を輝かせる香織に腕を掴まれて、小さな箱形車の後部座席に放り込まれた。
目の前を走り抜けたシルバーのスポーツカーを追いかけ、白い軽自動車が爆走する。
瑞貴の車は高速に乗った。引き離されるかと思いきや、香織は一定距離をあけて食らいついている。そのことに大倭が驚きの声を上げ、雫は恐怖の声を上げた。そして香織は高笑いをする。
「『ころがしの赤薔薇』が、高級外車などに負けるものですか!」
(その物騒な二つ名はなに……? 怖くて聞くことができないけど、どうかどうか! あの世ではなく無事に目的地へ着きますように……)
雫の切なる祈りが通じたのか、首都高の看板が出ると、瑞貴の車は緩やかに減速した。
「……都心……に向かっていますね」
訝しげな香織の声が響く中、車外の景色にイルミネーションがぽつぽつと光り出している。出口を下りると夜景は明るさを増した。ぎらついたネオンの光に眩暈がしそうだ。
「こんな時間なのにホテルや住宅街に向かわず、繁華街に向かっているということは……夜遊びでもする気でしょうか。そういえば雫さん、東京に住んでいたんでしたっけ。心当たりは?」
「わ、わたし、東京で若旦那と会っていないんだけれど。一度も」
雫が涙声になると、大倭はなにも言わずぽんぽんと雫の肩を叩いて励ました。
瑞貴は『sirène』と看板が掲げられた建物の前で車を停める。降車すると黒服の男が現れ、瑞貴は車のキーを渡して建物の中に入っていく。
「ここは……噂に聞く人気クラブ、セイレーンですね。あの入り口はVIP会員専用のはず。それを顔パスですか……」
知った顔で唸る香織に、大倭が怪訝な目を向けた。
「ずいぶん詳しいな、お前」
「こっちの短大に通っていた頃、よく遊びましたから。クラブって、パーティードラッグの温床になることもあるんです。ヤバいのに巻き込まれそうになって、今は足を洗っていますけど。しかし若旦那クラスなら、ここまで来なくても近場で女漁りができそうなものを。まあいいわ、行きましょう。昔取った杵柄、駄目元で会員入り口にあたってみます」
車は裏手の駐車場に停めた。瑞貴が消えた入り口に行くと、黒服が立ち塞がる。
すると香織は、海外ブランドのロゴがついた長財布の中から黄金色に輝くカードを取り出した。それを見た途端、黒服たちは恭しく一礼し、三人をすんなりと中に通したのだった。
香織はカードをしまいながら、事もなげに説明する。
「このパスカードがあれば、東京にあるクラブなら大体、連れとともにVIP待遇で入場できるんです。捨てないでおいてよかった」
(なんでそんなものを持っているのかは謎だけど、わたしの知らない世界をよく知る香織ちゃんの方が、大先輩に思えてくる……)
年上の威厳がガラガラと崩れ落ちる音を聞きながら、雫は香織について中に入っていく。
途端に身体を突き上げてくる重低音。ホールには近未来的なダンス音楽が絶え間なく流れている。
大画面とDJブースがあるメインフロアでは、音楽に合わせて無数の光線が飛び交い、たくさんの男女が踊り狂っていた。
狂騒的な音に負けじと、香織は声高にふたりに話しかけた。
「この混雑ぶり、さすがはセイレーンです。見たところ、両脇のBARカウンターやラウンジにも、若旦那はいないみたいですね。彼ほどの美形がいれば、女たちが群がると思うので。二階のVIPルームにいるのかもしれません。見えます? 硝子張りになっている、あそこです」
香織が指し示す場所はわかった。しかし雫は、そこで瑞貴の姿を確認するのが怖いとも思う。
謎めく彼のことを暴いてみたいのは事実。だが――この場はあまりにも瑞貴のイメージからかけ離れている。
彼はひだまりのように穏やかで清らかな男性なのだ。荒んだ夜の喧噪が似合う男ではない。
もしあそこに瑞貴がいたら、今まで想い続けてきた彼の姿が泡のように消えてしまうのではないか。そんな不安が胸を過ったのだ。
「……ねぇ、帰らない?」
「ここまで来たのに、なにを言っているんですか」
「いや、でも……」
「……雫さん。どんな若旦那でも、雫さんと副番頭の幼馴染には変わりないんです。それにクラブ程度でなにをビビっているんですか。クラブは悪の巣窟だと決まったわけじゃない。ここまで来て息抜きをするくらい、認めてあげましょうよ」
クラブ慣れをしている香織にとっては〝それくらい〟のことらしい。
(そうね、香織ちゃんの言うことも一理あるわ。クラブ好きだからなんだっていうの。わたしが田舎者すぎるんだわ。そうよ、若旦那には変わりないのよ……)
「なぁ。二階から見下ろしているの、あれ、若旦那だよな」
訝しげな大倭の声に誘われ、二階を凝視した雫は、その目を驚きに見開いた。
窓の前に立ってフロアを眺めているのは、瑞貴と瓜二つの秀麗な顔と髪形をした男だ。
黒いレザージャケットの下に白いカットソーを着て、首元にはチョーカーをつけている。
やがて彼は、脱いだジャケットを放って黒いソファに座り、長く伸びた黒パンツの足を組む。そして慣れた手つきでタバコを取り出すと、紫煙をくゆらせ始めたのだ。
その姿はまるで、殺伐とした裏世界に君臨する帝王のよう。
「ち、違うよ、大倭。若旦那はあんなに不良じゃないって! 品行方正な優等生だもの」
一心に否定する雫の声は、動揺にひっくり返った。
「うーん。確かに、ダークを通り越してブラックすぎますね。若旦那かどうか確かめるには、近くまで行って会話してみるのがベストですが……ちょっと待ってて下さい。セイレーンのVIPルームに顔パスで居座れるレベルともなれば、狙わない女はいないはずなので……」
香織は、同じように二階を見上げて騒いでいる女性たちのそばに行き、話しかけた。そして、少し強張った表情をして、雫たちのもとに戻ってくる。
「――VIPルームにいるのはセイレーンのオーナーの友人で、ミズキという名前だそうです」
これで別人だと言い張るのは、無理があった。
さらに香織は、当惑した表情で告げる。
「彼は不定期にセイレーンを訪れ、気まぐれに下に降りてきては、気に入った女の子をVIPルームに引き入れるそうで。ミズキに望まれたくて、女たちはアピールしているとか」
雫が眉を顰めた時、突然歓声がどっと沸いた。
ミズキがVIPルームに繋がる螺旋階段から、ダンスフロアに〝降臨〟したのだ。
蒼い光が彼の顔を照らし、頽廃的な雰囲気を強めていく。
彼を称えるが如く音楽が激しいビートを刻むと、ミズキは取り巻く女たちとともに踊り出した。
その動きは優雅でしなやかで、そして妖艶で……日舞を彷彿とさせるものだった。
(間違いない。あれは若旦那だ……。若旦那なんだ……)
初めて知った瑞貴の一面。受け入れなければと思うのに、今まで見ていたのは偽りの姿だったのだろうかと思うと、あまりの悲しみに現実を拒絶したくなってくる。
曲が終わると、瑞貴はふたりの女性の腕を掴み、螺旋階段を上った。
選ばれた女たちのハイテンションな声と、選ばれなかった女たちの羨望の声が入り交じる中、VIPルームの窓が深紅の厚いカーテンで遮られた。
「うわ、まさかの乱交パーティー⁉」
驚愕に満ちた香織の声に煽られ、雫の頭が拒絶反応を起こしたみたいにがんがんと痛み出す。
「……雫。あいつにもなにか事情があるんだ」
険しい顔つきのまま、大倭がカタカタと震えている雫の手を握ってそう呟いた。
なんの事情があるというのだろう。
瑞貴はこうして女遊びをしていた。それは許婚である雫に満足できないからだ。
至極、単純明快ではないか――
(……わたしは、女扱いもしてくれないのに)
紅いカーテンを睨みつけた雫の目から、涙がほろりとこぼれ落ちた。
*゚。・*・。゚*
どんなに寝不足で、泣き腫らした顔をしていても、小鳥が囀る朝は来る。
仲居の朝は早い。五時には起床して洗面をすませ、ぼさぼさの髪を梳いてひとつにまとめる。
着付けの時間は十分もあればいい。部屋から飛び出そうとした雫は、化粧をしていないことに気づき慌てて戻った。
愛されメイクが映えない顔とはいえ、今日は少しでも地顔を隠せる化粧が必須。
化粧中、鏡面に映る顔が歪んで、昨夜のブラックで頽廃的な瑞貴になっていく。
モデルのような服装をした彼。タバコを吸う彼。喧噪の中で踊っていた彼。
瑞貴はその場にいた綺麗な女性をふたりも持ち帰った。
どんなに泣いても喚いても、それが……今まで見ようとしてこなかった現実――
「わたし本当に、若旦那のことを知らなかったんだな……」
知っていれば、彼の好みに近づけられたのだろうか。彼は自分を愛してくれただろうか。
その可能性は限りなくゼロに近い。布団の中で何度も出した結論に、雫は改めてずぅんと落ち込んだ。
「これからよ、これから。わたしの取り柄はしぶとく努力すること。どうすれば愛されるかを勉強して、頑張ればいい。とりあえず、昨日はお喋りしていて怒られたから、今日はそれを挽回するように働いて働いて働きまくろう。レッツゴー、エベレスト山頂!」
拳を天井に突き上げ、雫は気持ちを切り替えて部屋から出ていった。
瑞貴はいつもと変わらず、微笑みを湛えながら色香を撒き散らし、優雅な佇まいで精力的に動いていた。昨晩の姿は別人か、夢だったかのように思える。
「……ん? 雫、どうした? 僕の顔になにかついている?」
「い、いえ……」
いつも通りではないのは雫の方だった。瑞貴を凝視してしまうだけではなく、話しかけられても、秘密を勝手に覗いた気まずさで、目が泳いでしまうのだ。
「顔色も悪いな。きちんと寝ていないんじゃないか?」
そういう瑞貴だって寝ていないに違いない。それなのに肌は艶々で顔色は頗るよかった。
それがなぜなのかを邪推すると、自然と涙目になってしまう。
「熱でもあるのかな、目も潤んでいる」
瑞貴が雫の額を触ろうとした瞬間、びくりとした雫はさっと身を引いてその手を躱し、ぎこちなく笑って言った。
「熱はありません。ぐっすりと眠っていますし、ご心配なく。仕事がありますので、これで!」
こんなのは自分らしくないと思いつつも、瑞貴から逃げるしかできない。
(仕事! 仕事をするのが一番!)
そんな雫に苦言を呈したのは、香織だった。
「わかりやすすぎるんですよ、雫さんは。この量をひとりで裏庭に運ぶなんて無謀すぎます。あの孝子さんも絶句していたじゃないですか」
香織は、客室から持ち出した掛け布団をふたり分、両手に抱えている。
対して雫は五人分の敷き布団と、ふたり分の掛け布団と枕を積み重ねて歩いていた。
「今日はいいお天気だし、ふかふかなお布団にしたらお客様が喜ぶと思って」
「そりゃあ喜ぶでしょうけれど……。まあいいや、私は雫さんとは違って仕事馬鹿でも怪力でもありませんから、できることは限られていますけれどフォローします。ぶっ倒れないで下さいね。昨日以上に、すごく不細工な顔していますから」
香織なりに心配してくれているらしい。朝帰りしたのは彼女も一緒なのに、肌が瑞々しく顔色がいいのは若さのおかげなのか、化粧品やメイクのおかげなのか。
助っ人を買って出たわりには、香織の動きはぎこちない。しかし、短くしている爪を見て、雫はその真摯な変化に嬉しくなる。……相変わらず香織の言葉は、辛辣ではあるが。
「ねぇ、雫さん。若旦那の二重人格説はなし?」
「なし。そうであれば、大倭が気づいているはずだし」
離れていた七年の分、大倭の方が瑞貴と近しい間柄なのが悔しいところだ。
「でも、副番頭はあまり驚いてなかったじゃないですか。妙に考え込んでいたし」
「思い当たるところがあったにしても、二重人格ではないよ」
いっそそうであってほしかった。そうすれば彼の意思ではなかったのだと逃げ道を作れる。
「そうですか。同一人物なら、いっそ清々しいですよね。あそこまで完璧に演じられるなんて。一体なぜひとの目を欺く生活をするようになったのか。完全無欠な王子様も、なにか悩みがあるんでしょうか」
悲しいのは、彼の異変を感じ取れなかったこと。そして、瑞貴から相談されるほど信頼されていなかったこと――
(許婚どころか幼馴染も失格……。だったらわたしに強みなんてないじゃない)
なにも知らなかった瑞貴について暴かれていく中で明らかになったのは、希薄すぎた彼との関係だった。だからこそ、深く理解したいと思う。瑞貴のすべてを。
「ま、若旦那の本性がどうであれ、雫さんは登山をやめないんでしょう?」
「やめない」
そう言い切った雫の言葉には、迷いがなかった。
*゚。・*・。゚*
シュッシュッと竹箒の音をたて、雫は大庭園散策用細道を掃く。
蒼天の下で自然に囲まれていると、清々しい気持ちになってくる。
五月は藤だけではなく、皐月躑躅や石楠花も桃色が色鮮やかで綺麗だ。
昔、瑞貴と躑躅の花の蜜を吸ったことを思い出し、雫は静かに微笑む。
彼と出会った岩風呂は、今は瑞貴専用露天として葦簾の垣根で囲われており、外から見ることはできない。岩風呂へ至る砂利道は使われることがないせいで、寂れてしまった気がする。
それでも雫は思い出を磨くように、いつも砂利道を綺麗に清掃していた。
「雫、ここにいたのか! 捜したよ」
不意に背後から聞こえてきた艶のある声は、瑞貴のものだ。
雫はため息をつくと、控えめな挨拶をする。瑞貴は、雫が作る距離を感じたらしく、秀麗な顔を強張らせ、真摯な表情を向けてくる。
「……ごめん、大人げなかった。だからそんなに泣きそうな顔をしないで」
ああ、まただ。子供すぎる自分をあやすために、彼は正論すら呑み込む。自分はいまだ彼の庇護の下から抜けきれていない、未熟な子供のままなのだ。
「若旦那が謝られることはありません。わたしが至らなかったからです。粛として受け止め、今後二度と若旦那を失望させぬよう……」
しかし瑞貴は暗紫色の瞳を大きく揺らし、悲しげな表情を浮かべた。
「いつからきみは……」
「若旦那?」
瑞貴はおもむろに手を伸ばし、ほつれた雫の髪の束を耳に掛ける。
「……その化粧、やめてくれないか」
「え……」
「きみには似合わない。いつものにして」
冷ややかに響く瑞貴の声。鼻の奥はつんと熱くなり、同時に胸がじくじくと痛む。
(意識してもらうどころか、不興……)
「……わかりました。お見苦しいものをお見せしてしまい、申しわけありません。配膳室に行ってから、直ちに化粧を直して戻ってきます」
震える声でそう言うと、奥歯を噛みしめて小走りに去った。
瑞貴が名前を呼んだ気がしたが、雫は止まらない。
彼と顔を合わせたら、涙が溢れていることに気づかれてしまうから。
(どうしよう、このまま配膳室に行ったら、泣いているのがばれちゃう……)
そんな時、大倭の姿が見えた。雫は彼を呼び止め、カートを配膳室に運んでほしいと頼んだ。
「配膳室? 別にいいけれど、ここまで押してきたなら、お前が持って……」
言葉を切ったのは、雫の涙に気づいたからだろう。
「うわ、泣いたら、ますますドブス」
「……うるさいわ、この常時イケメンもどき。顔を直しに行きたいの!」
「今夜『四季彩亭』で、生ビールおごれよ?」
「すぐそこに持っていくだけなのに……。わかったよ、お願いします」
「商談成立!」
大倭とハイタッチをしてから急いで控え室に走る雫は、そんな様子を……瑞貴が、暗い眼差しで見つめていたことには気づかなかった。
*゚。・*・。゚*
華宵亭にある居酒屋『四季彩亭』は、完全個室制となっている。
海の幸料理が特に絶品で、雫が好きなホタテ貝のバター焼きは、ホタテがとても大きく肉厚であり、病みつきになる美味しさだ。さらに従業員割引をしてくれるのだから、太っ腹だと思う。
「信じられない、あの愛されメイクを落とせだなんて……!」
ウーロン茶の入ったジョッキをテーブルへ乱暴に置いたのは、香織だ。
アルコールが飲めないらしい彼女は、素面なのにかなり荒れている。
「……おい、雫。なんであいつがいるわけ?」
大倭が香織を見ながら、横に座る雫にぼそぼそと耳打ちした。
「……わたしがプライドを傷つけちゃったから、おわびに連れてきたの」
仲居にとって忙しい夕食の時間帯ですら、香織はいつも雲隠れをしていた。そんな彼女を戦力外とみなしていた仲居たちの前に、手伝いたいと香織が殊勝な態度で現れたのは、数時間前のこと。
思わず雫が驚いた顔を向けると、香織はそれ以上に驚いて尋ねてきたのだ。
『どうして貧乏臭いメイクに戻っているんですか! 私がした化粧は⁉』
それで事情を説明したところ、彼女が荒れ狂ったため連れてきたのだった。
「……ねぇ、副番頭。私がした雫さんのメイク、見たんですよね? あのメイクの雫さんと、この貧乏メイクの雫さん、どちらが可愛いと思います?」
すると大倭は、事もなげに言う。
「俺はすっぴんの雫を見慣れているし、変な武装されるより、化粧しない方がいいからなあ」
「うわー、何気に独占欲丸出し。せめて化粧が落ちるくらいの激しいセックスができるようになってから言って下さいよ。ヘタレな副番頭さん」
ビールを呷っていた大倭は途端に噴き出し、げほげほと咽せ込んだ。香織流のジョークだと思っている雫は、遠い目をしながら大倭に水を差し出し、彼の背中を撫でる。
「……こ、こいつ、なに? なんでキャラ変?」
「私、素はこっちですので。ぶりっこキャラはおふたりの前ではもう意味がないので、やめることにしました。これからはのびのびと、日頃のストレスを発散させてもらいます」
香織はひとつ残っているホタテを箸でぐさりと突き刺すと、豪快にかぶりついた。
「あ、それわたしのホタテ……」
涙目の雫に構わず、香織は別の話題を振る。
「若旦那のタイプってどんな女性なんですか? まさかブス専? 歴代彼女はブスばかり?」
「若旦那のタイプ……わたし知らないや。彼女……いなかったはずだけど」
「いないってことはないでしょう、あのスペックで。雫さんが知らないだけでは?」
香織の言葉が心を抉る。確かに瑞貴なら、どんな美女でも選り取り見取りだ。彼には恋人や、一夜限りの存在がいたのだろうか。……もしや、現在進行形で。
(いやいやいや! 若旦那は忙しいし、恋人を作っている暇などないはず……)
同意を求めて大倭を見ると、彼は店員にホタテと飲み物を追加注文している。
注文が終わると、雫は香織からの質問を大倭に投げかけた。
すると彼は、心底いやそうな顔で答える。
「あいつはブス専どころか、どんな美女でも堕ちねぇよ。なのにあいつが少し優しく声をかけただけで、女たちが勝手に自分は特別だと勘違いし、醜い争いを繰り広げる。俺なら望みを持たせないけど、あいつは夢だけ見せる分、残酷だ」
すると香織が、こくこくと頷きながら言った。
「確かに私が声をかけても、副番頭のようにうざがらず、にこにこしていましたしね。私はあれを特別な優しさだと勘違いするほど経験値が低い痛い女ではないですが。雫さんに対してもそう?」
特別な優しさだと思っていた経験値が低い女は、返事の代わりに突っ伏した。
「ホ、ホタテ来たぞ、雫。お前の大好きなホタテ! 食べて元気出せ、な?」
雫は鼻を鳴らして顔を上げると、熱々のホタテを口にする。悲しみが吹き飛ぶほど、今日もホタテは美味しい。我ながら単純だと思うが。
「……おふたりは普段も一緒に飲んでいるんですよね? そこに若旦那が入ることは?」
「ないない。若旦那、仕事とか稽古とか忙しいし」
瑞貴は月に一度、大庭園にある神社の、神楽殿にも似た小さな舞台で利用客に舞いを披露するため、時間がある時は日舞の稽古をしている。その時間を邪魔したくはない。それでなくとも若旦那業は重労働。稽古がない時は身体を休めたり、自分の時間を満喫したりしてほしい。
「忙しいといっても、三百六十五日、毎秒忙しいわけじゃないでしょう? 若旦那も従業員も月に数度の深夜勤以外、終業後は自由だし、休日もちゃんとあるし。若旦那からお誘いは来ないんですか? 遊びに行こうぜ、食べに行こうぜー! 的な」
雫と大倭は同時に、ないと即答する。すると香織は怪訝な顔をしてさらに尋ねた。
「……若旦那、おふたり以外に友達いるんですか?」
「友達? どうなんだろう……。大倭、知ってる?」
「興味ねぇし」
「本当に幼馴染なんですか、あなたたち! 幼馴染としての会話、しないんですか⁉」
香織の剣幕にたじろぎながら、雫は答える。
「し、しているよ。立ち話はよくあるし」
「どんな話をしているんですか」
「お疲れ様とか、身体を大切にとか。仕事のことや昔の話、お花やお菓子、体操……まあこれはいいや」
「どこの老人の会話ですか。二十代がする会話じゃないです!」
「や、大倭の方は、もっと軽口を叩き合っているよ? 素を見せて」
「エベレスト登山しようとしているのは、副番頭じゃないでしょう? ではもうひとつ聞きますが、雫さんにとって幼馴染の利点ってなんですか?」
「優しくしてもらえる……?」
「あの若旦那は皆に優しいんです。幼馴染に特別な優しさがあるのだとすれば、化粧だって落とせなんて言わずにベタ褒めするでしょう! だったら幼馴染が知る若旦那の裏情報は? たとえば皆に隠している趣味や癖があるとか、スポーツや音楽はなにが好きとか」
改めて考えると、瑞貴の個人情報はなにひとつわからない。そばにいられることに満足していたため、知りたいとも思わずにいた。
(幼馴染だから知りえる情報? え……と)
「携帯番号とかメルアドを知っている!」
「では、それを使って週に何度、連絡をとり合っています?」
「連絡もなにも……用があれば、昼間本人に直接言えばいいし」
すると香織は哀れみの目を向けてくる。そのため雫は、別案を口にした。
「昔の若旦那を知っているし!」
「……それ、現在のエベレスト登山に役立っています?」
すると訝しげな顔をした大倭が、口を挟んだ。
「なあ、さっきからエベレスト登山ってなに?」
「雫さんの無謀すぎる挑戦のことです。……雫さん。ちなみに、若旦那の誕生日や血液型、身長とかは知っていますか?」
「し、知っているよ! 誕生日は九月四日! 血液型は……確かAB! 身長は知らないけど」
「誕生日は正解ですが、血液型はA! 身長は百八十一です」
「あれ、A型だったっけ……って、なんで香織ちゃんが知っているの?」
「そんなもん、本人に直接聞いたんですよ。こんな下っ端にもオープンにする程度の情報も知らないなんて、幼馴染の特権なぞ意味ないじゃないですか!」
「う……」
「雫さんは、幼馴染という関係に胡座をかいて、若旦那に対する積極的な姿勢が欠けています。今の雫さんは、縁側で茶を啜り、昔を思い出してほのぼのしている老婆に等しい! ……私が断言します。エベレストどころか熱海の山だって登れませんよ、よぼよぼの雫さんは」
……雫の体力気力のゲージが、一気にゼロとなった。
*゚。・*・。゚*
『もっと若旦那に興味を持て』と、香織に懇々と説教をされて、小一時間。大倭が寝てしまったため、叩き起こしてお開きになった。
華宵亭の従業員は、徒歩五分の場所にある完全個室制の寮から通っている。
例外なのは雫と大倭と、仲居長の小夜子だけだ。
小夜子は、身体が弱く昔から寝込むことが多かったため、ゆっくりできるよう女将に離れを与えられたらしい。庭の裏手にある元蔵を改装したもので、今彼女はそこでひとり暮らしをしていた。
雫と大倭は、従業員用に用意された離れの一室にそれぞれ住んでいる。他に住まう者がいないため、六畳二間の使用を許されていた。
だが厳格な女将の部屋が近いため、騒ぐことはおろかくつろぐことも難しい。それもあってほとんどの仲居は寮を選ぶが、雫にとってはそれがデメリットには思えなかった。静かで広い部屋に三食つきで通勤時間なし。従業員用の温泉に気兼ねなく入り放題。パラダイスである。
「子供じゃないんだから、家まで送らなくていいですってば!」
「駄目! 女の子を夜道にひとりでは帰せません」
時刻は二十二時を過ぎている。雫は大倭とともに香織を寮まで送り届けようと、香織を説得しつつ、三人で従業員専用の裏口を出た。
「あれ……若旦那じゃね?」
突然の大倭の声に、雫は彼が顎で促す方を見る。淡いオレンジ色の街灯に照らされ、それっぽい後ろ姿が見えた。雫たちが裏口に現れる少し前に、外に出ていったようだ。
「学生服以外の洋服姿、初めて見たかも。……こんな時間に外に出るなんて、散歩かしら?」
「もしや、誰かと逢引きとか?」
不穏さを孕んだ香織の言葉に、雫は引き攣る。
「ねぇ、つけてみませんか。ただの散歩ならそれでよし。もしかすると些細な発見が、登山攻略のヒントになるかもしれません」
登山攻略と聞いて雫は鼻息荒く賛同し、香織とともに尾行を開始する。渋々大倭もついてきて、ちょっとした探偵団の気分だ。
瑞貴は、裏手の一角にある雅楽川家のガレージを開けて入った。
やがてエンジン音が聞こえてくる。
(若旦那が、免許を取っていたことすら知らなかった……)
軽くショックを受けている雫に、香織が早口で言った。
「追いかけましょう! 副番頭、車のキーあります? 社用車、近くにありましたよね」
「あ、ああ。鍵は持ち歩いているけど、俺……酒を飲んでいるし」
「私が運転します。こう見えて私、運転は得意なんです。任せて下さい」
ふたりは目を輝かせる香織に腕を掴まれて、小さな箱形車の後部座席に放り込まれた。
目の前を走り抜けたシルバーのスポーツカーを追いかけ、白い軽自動車が爆走する。
瑞貴の車は高速に乗った。引き離されるかと思いきや、香織は一定距離をあけて食らいついている。そのことに大倭が驚きの声を上げ、雫は恐怖の声を上げた。そして香織は高笑いをする。
「『ころがしの赤薔薇』が、高級外車などに負けるものですか!」
(その物騒な二つ名はなに……? 怖くて聞くことができないけど、どうかどうか! あの世ではなく無事に目的地へ着きますように……)
雫の切なる祈りが通じたのか、首都高の看板が出ると、瑞貴の車は緩やかに減速した。
「……都心……に向かっていますね」
訝しげな香織の声が響く中、車外の景色にイルミネーションがぽつぽつと光り出している。出口を下りると夜景は明るさを増した。ぎらついたネオンの光に眩暈がしそうだ。
「こんな時間なのにホテルや住宅街に向かわず、繁華街に向かっているということは……夜遊びでもする気でしょうか。そういえば雫さん、東京に住んでいたんでしたっけ。心当たりは?」
「わ、わたし、東京で若旦那と会っていないんだけれど。一度も」
雫が涙声になると、大倭はなにも言わずぽんぽんと雫の肩を叩いて励ました。
瑞貴は『sirène』と看板が掲げられた建物の前で車を停める。降車すると黒服の男が現れ、瑞貴は車のキーを渡して建物の中に入っていく。
「ここは……噂に聞く人気クラブ、セイレーンですね。あの入り口はVIP会員専用のはず。それを顔パスですか……」
知った顔で唸る香織に、大倭が怪訝な目を向けた。
「ずいぶん詳しいな、お前」
「こっちの短大に通っていた頃、よく遊びましたから。クラブって、パーティードラッグの温床になることもあるんです。ヤバいのに巻き込まれそうになって、今は足を洗っていますけど。しかし若旦那クラスなら、ここまで来なくても近場で女漁りができそうなものを。まあいいわ、行きましょう。昔取った杵柄、駄目元で会員入り口にあたってみます」
車は裏手の駐車場に停めた。瑞貴が消えた入り口に行くと、黒服が立ち塞がる。
すると香織は、海外ブランドのロゴがついた長財布の中から黄金色に輝くカードを取り出した。それを見た途端、黒服たちは恭しく一礼し、三人をすんなりと中に通したのだった。
香織はカードをしまいながら、事もなげに説明する。
「このパスカードがあれば、東京にあるクラブなら大体、連れとともにVIP待遇で入場できるんです。捨てないでおいてよかった」
(なんでそんなものを持っているのかは謎だけど、わたしの知らない世界をよく知る香織ちゃんの方が、大先輩に思えてくる……)
年上の威厳がガラガラと崩れ落ちる音を聞きながら、雫は香織について中に入っていく。
途端に身体を突き上げてくる重低音。ホールには近未来的なダンス音楽が絶え間なく流れている。
大画面とDJブースがあるメインフロアでは、音楽に合わせて無数の光線が飛び交い、たくさんの男女が踊り狂っていた。
狂騒的な音に負けじと、香織は声高にふたりに話しかけた。
「この混雑ぶり、さすがはセイレーンです。見たところ、両脇のBARカウンターやラウンジにも、若旦那はいないみたいですね。彼ほどの美形がいれば、女たちが群がると思うので。二階のVIPルームにいるのかもしれません。見えます? 硝子張りになっている、あそこです」
香織が指し示す場所はわかった。しかし雫は、そこで瑞貴の姿を確認するのが怖いとも思う。
謎めく彼のことを暴いてみたいのは事実。だが――この場はあまりにも瑞貴のイメージからかけ離れている。
彼はひだまりのように穏やかで清らかな男性なのだ。荒んだ夜の喧噪が似合う男ではない。
もしあそこに瑞貴がいたら、今まで想い続けてきた彼の姿が泡のように消えてしまうのではないか。そんな不安が胸を過ったのだ。
「……ねぇ、帰らない?」
「ここまで来たのに、なにを言っているんですか」
「いや、でも……」
「……雫さん。どんな若旦那でも、雫さんと副番頭の幼馴染には変わりないんです。それにクラブ程度でなにをビビっているんですか。クラブは悪の巣窟だと決まったわけじゃない。ここまで来て息抜きをするくらい、認めてあげましょうよ」
クラブ慣れをしている香織にとっては〝それくらい〟のことらしい。
(そうね、香織ちゃんの言うことも一理あるわ。クラブ好きだからなんだっていうの。わたしが田舎者すぎるんだわ。そうよ、若旦那には変わりないのよ……)
「なぁ。二階から見下ろしているの、あれ、若旦那だよな」
訝しげな大倭の声に誘われ、二階を凝視した雫は、その目を驚きに見開いた。
窓の前に立ってフロアを眺めているのは、瑞貴と瓜二つの秀麗な顔と髪形をした男だ。
黒いレザージャケットの下に白いカットソーを着て、首元にはチョーカーをつけている。
やがて彼は、脱いだジャケットを放って黒いソファに座り、長く伸びた黒パンツの足を組む。そして慣れた手つきでタバコを取り出すと、紫煙をくゆらせ始めたのだ。
その姿はまるで、殺伐とした裏世界に君臨する帝王のよう。
「ち、違うよ、大倭。若旦那はあんなに不良じゃないって! 品行方正な優等生だもの」
一心に否定する雫の声は、動揺にひっくり返った。
「うーん。確かに、ダークを通り越してブラックすぎますね。若旦那かどうか確かめるには、近くまで行って会話してみるのがベストですが……ちょっと待ってて下さい。セイレーンのVIPルームに顔パスで居座れるレベルともなれば、狙わない女はいないはずなので……」
香織は、同じように二階を見上げて騒いでいる女性たちのそばに行き、話しかけた。そして、少し強張った表情をして、雫たちのもとに戻ってくる。
「――VIPルームにいるのはセイレーンのオーナーの友人で、ミズキという名前だそうです」
これで別人だと言い張るのは、無理があった。
さらに香織は、当惑した表情で告げる。
「彼は不定期にセイレーンを訪れ、気まぐれに下に降りてきては、気に入った女の子をVIPルームに引き入れるそうで。ミズキに望まれたくて、女たちはアピールしているとか」
雫が眉を顰めた時、突然歓声がどっと沸いた。
ミズキがVIPルームに繋がる螺旋階段から、ダンスフロアに〝降臨〟したのだ。
蒼い光が彼の顔を照らし、頽廃的な雰囲気を強めていく。
彼を称えるが如く音楽が激しいビートを刻むと、ミズキは取り巻く女たちとともに踊り出した。
その動きは優雅でしなやかで、そして妖艶で……日舞を彷彿とさせるものだった。
(間違いない。あれは若旦那だ……。若旦那なんだ……)
初めて知った瑞貴の一面。受け入れなければと思うのに、今まで見ていたのは偽りの姿だったのだろうかと思うと、あまりの悲しみに現実を拒絶したくなってくる。
曲が終わると、瑞貴はふたりの女性の腕を掴み、螺旋階段を上った。
選ばれた女たちのハイテンションな声と、選ばれなかった女たちの羨望の声が入り交じる中、VIPルームの窓が深紅の厚いカーテンで遮られた。
「うわ、まさかの乱交パーティー⁉」
驚愕に満ちた香織の声に煽られ、雫の頭が拒絶反応を起こしたみたいにがんがんと痛み出す。
「……雫。あいつにもなにか事情があるんだ」
険しい顔つきのまま、大倭がカタカタと震えている雫の手を握ってそう呟いた。
なんの事情があるというのだろう。
瑞貴はこうして女遊びをしていた。それは許婚である雫に満足できないからだ。
至極、単純明快ではないか――
(……わたしは、女扱いもしてくれないのに)
紅いカーテンを睨みつけた雫の目から、涙がほろりとこぼれ落ちた。
*゚。・*・。゚*
どんなに寝不足で、泣き腫らした顔をしていても、小鳥が囀る朝は来る。
仲居の朝は早い。五時には起床して洗面をすませ、ぼさぼさの髪を梳いてひとつにまとめる。
着付けの時間は十分もあればいい。部屋から飛び出そうとした雫は、化粧をしていないことに気づき慌てて戻った。
愛されメイクが映えない顔とはいえ、今日は少しでも地顔を隠せる化粧が必須。
化粧中、鏡面に映る顔が歪んで、昨夜のブラックで頽廃的な瑞貴になっていく。
モデルのような服装をした彼。タバコを吸う彼。喧噪の中で踊っていた彼。
瑞貴はその場にいた綺麗な女性をふたりも持ち帰った。
どんなに泣いても喚いても、それが……今まで見ようとしてこなかった現実――
「わたし本当に、若旦那のことを知らなかったんだな……」
知っていれば、彼の好みに近づけられたのだろうか。彼は自分を愛してくれただろうか。
その可能性は限りなくゼロに近い。布団の中で何度も出した結論に、雫は改めてずぅんと落ち込んだ。
「これからよ、これから。わたしの取り柄はしぶとく努力すること。どうすれば愛されるかを勉強して、頑張ればいい。とりあえず、昨日はお喋りしていて怒られたから、今日はそれを挽回するように働いて働いて働きまくろう。レッツゴー、エベレスト山頂!」
拳を天井に突き上げ、雫は気持ちを切り替えて部屋から出ていった。
瑞貴はいつもと変わらず、微笑みを湛えながら色香を撒き散らし、優雅な佇まいで精力的に動いていた。昨晩の姿は別人か、夢だったかのように思える。
「……ん? 雫、どうした? 僕の顔になにかついている?」
「い、いえ……」
いつも通りではないのは雫の方だった。瑞貴を凝視してしまうだけではなく、話しかけられても、秘密を勝手に覗いた気まずさで、目が泳いでしまうのだ。
「顔色も悪いな。きちんと寝ていないんじゃないか?」
そういう瑞貴だって寝ていないに違いない。それなのに肌は艶々で顔色は頗るよかった。
それがなぜなのかを邪推すると、自然と涙目になってしまう。
「熱でもあるのかな、目も潤んでいる」
瑞貴が雫の額を触ろうとした瞬間、びくりとした雫はさっと身を引いてその手を躱し、ぎこちなく笑って言った。
「熱はありません。ぐっすりと眠っていますし、ご心配なく。仕事がありますので、これで!」
こんなのは自分らしくないと思いつつも、瑞貴から逃げるしかできない。
(仕事! 仕事をするのが一番!)
そんな雫に苦言を呈したのは、香織だった。
「わかりやすすぎるんですよ、雫さんは。この量をひとりで裏庭に運ぶなんて無謀すぎます。あの孝子さんも絶句していたじゃないですか」
香織は、客室から持ち出した掛け布団をふたり分、両手に抱えている。
対して雫は五人分の敷き布団と、ふたり分の掛け布団と枕を積み重ねて歩いていた。
「今日はいいお天気だし、ふかふかなお布団にしたらお客様が喜ぶと思って」
「そりゃあ喜ぶでしょうけれど……。まあいいや、私は雫さんとは違って仕事馬鹿でも怪力でもありませんから、できることは限られていますけれどフォローします。ぶっ倒れないで下さいね。昨日以上に、すごく不細工な顔していますから」
香織なりに心配してくれているらしい。朝帰りしたのは彼女も一緒なのに、肌が瑞々しく顔色がいいのは若さのおかげなのか、化粧品やメイクのおかげなのか。
助っ人を買って出たわりには、香織の動きはぎこちない。しかし、短くしている爪を見て、雫はその真摯な変化に嬉しくなる。……相変わらず香織の言葉は、辛辣ではあるが。
「ねぇ、雫さん。若旦那の二重人格説はなし?」
「なし。そうであれば、大倭が気づいているはずだし」
離れていた七年の分、大倭の方が瑞貴と近しい間柄なのが悔しいところだ。
「でも、副番頭はあまり驚いてなかったじゃないですか。妙に考え込んでいたし」
「思い当たるところがあったにしても、二重人格ではないよ」
いっそそうであってほしかった。そうすれば彼の意思ではなかったのだと逃げ道を作れる。
「そうですか。同一人物なら、いっそ清々しいですよね。あそこまで完璧に演じられるなんて。一体なぜひとの目を欺く生活をするようになったのか。完全無欠な王子様も、なにか悩みがあるんでしょうか」
悲しいのは、彼の異変を感じ取れなかったこと。そして、瑞貴から相談されるほど信頼されていなかったこと――
(許婚どころか幼馴染も失格……。だったらわたしに強みなんてないじゃない)
なにも知らなかった瑞貴について暴かれていく中で明らかになったのは、希薄すぎた彼との関係だった。だからこそ、深く理解したいと思う。瑞貴のすべてを。
「ま、若旦那の本性がどうであれ、雫さんは登山をやめないんでしょう?」
「やめない」
そう言い切った雫の言葉には、迷いがなかった。
*゚。・*・。゚*
シュッシュッと竹箒の音をたて、雫は大庭園散策用細道を掃く。
蒼天の下で自然に囲まれていると、清々しい気持ちになってくる。
五月は藤だけではなく、皐月躑躅や石楠花も桃色が色鮮やかで綺麗だ。
昔、瑞貴と躑躅の花の蜜を吸ったことを思い出し、雫は静かに微笑む。
彼と出会った岩風呂は、今は瑞貴専用露天として葦簾の垣根で囲われており、外から見ることはできない。岩風呂へ至る砂利道は使われることがないせいで、寂れてしまった気がする。
それでも雫は思い出を磨くように、いつも砂利道を綺麗に清掃していた。
「雫、ここにいたのか! 捜したよ」
不意に背後から聞こえてきた艶のある声は、瑞貴のものだ。
雫はため息をつくと、控えめな挨拶をする。瑞貴は、雫が作る距離を感じたらしく、秀麗な顔を強張らせ、真摯な表情を向けてくる。
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