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第12章 Moving Voice
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目が覚めると、カーテンのなされていない窓は朝日の光を差し込んでいた。
ぽかぽかと温かいのは、暖房でも入れて寝ちゃったんだっけ……などとぼんやりする頭で考えるあたしは、須王の胸の中に顔を埋め、足と足を絡めてしっかりと須王を抱き枕にしていた現実を悟る。
須王は目を瞑って、規則正しい寝息をたてている。
長い睫と共に美しさを際立たせる、目許の泣きぼくろ。
陽光によって青さを煌めかす、ダークブルーの髪先。
滑らかな肌。
隆起ある筋肉。
ベリームスクの匂いに包まれながら、この美貌の男に散々愛されたあれやこれを思い出して赤面する。
まだ下腹部になにか大きいものが入って息づいている気さえする。
どれだけ彼に繋がれて、その大きすぎる官能の波に溺れて、果ててしまっていたのだろう。
ふと、あたしの目に、床に散らばる封が切られた避妊具の包みが点在しているのが映る。
その中身も放られているのだろうかと、恐る恐る床を見渡して見ると、ぽかりと後頭部が叩かれた。
「お前……おはようのキスとかねぇわけ?」
不機嫌そうに片目を開いている須王だった。
「起きてたの!? えっち!!」
「今さらじゃねぇか? お前と会って、どれだけのことを俺、お前にしてきたよ」
「……っ」
「俺の舌と指で、触ってねぇのはねぇくらいに、俺の身体に慣れてるだろう、お前。ああ、ひとつあったな、舐めても触ってもねぇところ」
須王はにやりと笑い、あたしを引き寄せて耳元に囁いた。
「後の穴」
「なっ」
そしてもぞもぞと手を動かして、あたしの尻たぶを揉む。
「いい?」
「駄目!」
あたしは断固拒否!
「お前のバージン、すべて俺にくれよ?」
「……っ」
ねぇ、どうしてそんなに扇情的な瞳で、甘く囁いてくるの?
「俺、柚のすべてを愛してぇんだ」
どうして、そんな誘惑の声音で。
「お前、まだここの中が空っぽだと思ってる?」
須王があたしのお腹を掌で撫でる。
「ほら」
須王が下半身をもぞりと動いたら、あたしは身体に走る甘美な刺激に、声を上げた。
……挿っていた。
挿れながら、寝ていたの、このひと。
まあ、寝てはいなかったみたいだけれど。
「気持ちいい?」
須王の声が聞こえる耳は、須王の唇と舌でねっとりと攻められて、朝方まで愛された余韻を残す身体は簡単に火がつく。
須王は繋げたままあたしを上に乗せ、熱っぽい目を向けたまま、あたしの唇を貪るようにして官能的なキスをしながら、ゆっくり下から腰を動かしてくる。
須王の動きはト……ント……ンかもしれないけれど、さらに胎内で膨張した質量ある彼の動きは、ズンズンと突き刺さり擦り上げてきて、眠気すら吹き飛ばすほどの快感をあたしの身体に奔らせる。
「やっ、ああ、駄目、すお……っ」
官能の火は冷めるのが難しく、そして火が着いたら燃え広がるのが早くて。
なによりあたしの身体に馴染んだそれが、あたしの気持ちよくてたまらないところばかり攻めては焦らしてくるから、あたしは悶えてよがりながら啼くしかない。
「……すお……すお……ぅ、いじめちゃ、いや……っ」
下から揺さぶられながら、片言な言葉で懇願すると、須王があたしの乳房も潰れるほどにぎゅうっと抱きしめながら、頬にちゅっちゅっと口づけをして、嬉しそうに言った。
「お前、中でも凄く感じるようになったな」
須王も感じている証拠のハスキーボイスで。
「お前の中、すげぇ熱くてぬるぬるで、きゅうきゅうしてるんだ。一気に昇天したい誘惑と、すげぇ戦っているんだぞ、俺。俺の理性、半端ねぇな」
そんなこと、言わないでよ。
繋がっているところがカッと熱くなって、蕩けてくるじゃない。
「お前の中、うねって絡みついて……俺が好きでたまらねぇっていう、俺を求めてやまない……そんな中になっている。……最高だ」
須王はうっとりとした顔に、熱を孕んだ目を細めながら言う。
「……っ」
「お前の中もすげぇ好き。こんなに愛してくれるなら、俺もとことん愛したくなる。枯れ果てて萎もうが、お前の中から出たくねぇよ」
だから繋いだまま寝たのだと、彼は微笑む。
あ、駄目。
「こら、喜んでそんなにきゅうきゅう締めるな、よ……。俺、お前の攻めに、イキそうになるの、すげぇ我慢してるって言っただろう?」
汗と共に色香を纏う須王は、苦しげな顔ですら壮絶に色っぽくて、あたしの身体がざわざわする。
狂ってしまうと思うほどに、内からも外からもなにか渦巻いていたものが、解放されたいと一気に動き出す。
「須王……っ、もっと……ちょうだい」
あたしは自然と腰を揺らめかせて、そんなゆっくりの動きでは嫌だと、もっと愛して欲しいのだと、須王におねだりをする。
「本当にお前、可愛いわ」
「……っ」
「顔も性格も、セックスまで可愛いの三冠達成してるなんて、本当にお前反則だろ」
須王の手があたしの尻を掴み、あたしの動きとは違う左右の動きをする。
角度が変わって、あたしの弱いところに硬いので擦られ、悲鳴を上げる。
「お姫様のお望み通りに。せめて……お前の中での俺は、最初に比べたら、マシであって欲しいと思う」
「あっあっあっ、すお……それ駄目、おかしくなるっ」
「ああ、いいぞおかしくなれ。お前だけは俺、死ぬまで甘やかすから。だから、俺だけの女でいろよ、柚。俺だけに感じろよ!?」
下からがつんがつんと須王の恥骨がぶつけられる。
あたしは気持ちよすぎて、泣いて須王の首筋に噛みついた。
「須王、須王っ、気持ちよくてたまらないっ、どうしよう!?」
「……すげぇ可愛いよ、柚。そのままのお前でいてくれ」
微笑む須王が、涙でぐちゃぐちゃのあたしの顔にキスの雨を降らせる。
そして尻にあった須王の指がするする動き、あたしの後穴に触れた。
「あ……っ、駄目ぇぇぇぇっ」
本能的に仰け反った瞬間、肛門を揉んでいた須王の指が中に入る。
ざわりとしたおぞましさと同時に、彼の指の抜き差しが、便秘が解消された時のようなそんな幸福感にも似た快感をもたらし、あたしを攻め立てる。
腸が収縮して須王の指を締め付けてしまうと、須王の指が大胆に動いた。
「やああああ、須王の馬鹿ああああっ」
繋がっているところからイク寸前だったあたしは、須王の悪戯の快感が鋭く切り込んできて、そちらのせいで達してしまったのだ。
須王はにやりと笑う。
「お前、後ろでもイケるんだ?」
「馬鹿、馬鹿っ!!」
「後のバージンも、さんきゅ。なんなら後ろで繋いで、正式に喪失する?」
「いやあああああ!!」
泣きながらあたしは須王の胸をポンポン叩くと、須王が笑って、への字型になったあたしの唇に口づけながら、やがて切羽詰まったようにして言う。
「もっと……感想を聞きてぇところだが、俺ももう限界」
「後ろはいや、いやっ!!」
「いやいや言うお前も可愛いが、後ろに行く余裕がねぇわ、俺」
そして須王はあたしごと起き上がり、キスをしながら座位の形を取ると、猛攻を始めた。
「あああ、須王、駄目、あたし、あああああっ」
「柚、上も……上も繋ごう」
須王が苦しそうな顔をしながら、両手であたしの頭を強制的に下げさせ、彼の舌であたしの舌を搦め取ると、あたしの口腔内で暴れる。
「ん……むぅっ、んんんっ」
「……ん、ん……ぐっ」
あたし達の同時に身体がぶるぶると震える。
あたしは須王の広い身体に包まれ、須王の剛直に深く穿たれながら、須王と共に……目覚めてから二度目の果てに駆け上ったのだった。
……それから三十分後、思うように腰が動かないあたしは、元気溌剌で色香満載でベッドの上からあたしを見ている須王にからかわれる。
「なんだ? お前一気に老けたな」
「誰のせいだと……」
「ん? だったらお前、身体鍛えねぇといけねぇな。俺とのセックスに耐えれる身体を作れ?」
「手加減するとか、優しい心は……」
「あるわけねぇだろ? 生温い愛し方してねぇから、俺」
ふっと魅せる須王の真顔に、きゅんとときめいてしまったあたしは、拳を作って湧き上がる敗北感をひしひしと感じて、悔しいと唸る。
「くぅ……」
同い年の同級生、二十六歳にして肉体年齢に年の差がついたようだ。
あたしは須王を睨んで、よたよたと朝食を作りにキッチンに向かう。
「あ、俺から皆に言っておくな。柚は後ろも開発されてお疲れだって」
「必要ありません!!」
須王が声をたてて笑った。
そこには、昨夜に見せた寂しい翳りはなく。
……少しは彼のために役立てれたのかなと思ったら、嬉しくてにやにやしてしまった単純極まりないあたし。
彼が望むものはなんでもしてあげたい。
だけど。
後ろの工事は、絶対反対!
工事の必要性はまったくありません!
そこは一団となって戦う住民運動よろしく、毅然と行こうと思いながら、どこもかしこも身体が重くて怠くて、ひぃひぃと情けない声を上げながら、老女のように廊下を歩くあたしだった。
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