あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は

山井縫

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保健室で聞かされた彼女の話は

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「ああ、そっちは知らなかったんだね」
「知りませんでした。でも、降矢先生こそどこも悪そうには見えませんでしたよ」
 気だるげに授業をやっている姿は見慣れたものだったが、病気をしているようには見えなかったが。
「病気っていっていいのか微妙な所だけどね。前からちょっと相談は受けててね。朝起きると頭痛が酷い時があって堪らないと。で、その反面夜は眠れない日が多いっていうんだよ。だからひょっとしたらと想って病院受診を勧めたんだけど、案の定。カフェイン中毒だったみたい」
「カフェイン中毒。ああ、そういえばこの間カフェインを控えてるとかっていう話は聞きました。でも、病院に行くほどだったんですね?」
 それを聞いて思い出したのだが、入学の時にフル先が自己紹介の時に言っていたっけ。コーヒーを一日何杯も飲むとか何とか。
「うん。コーヒーだけじゃなくてペットボトルのお茶とか飲んじゃう訳。それにもカフェインが入っちゃってるからさ。それが良くなかったんでしょうね」
「カフェイン中毒ってそんなに酷い症状なんですか」
「人によっても違うんでしょうけどね。聞いた話だと、身体にも心にも良くない影響がでるらしいよ。死者も出てるみたいだしね」
「ええ! それは深刻ですね。コーヒーって身体によくないんだ」
「量によりけりよ。適度に飲む分には問題ないし死ぬなんていうのは稀な話。寧ろ離脱症状って奴の方が深刻な場合があってね」
「離脱症状ってなんですか」
「カフェイン中毒の状態で、摂取する時間がある程度過ぎると、頭が痛くなったり急激な眠気に襲われたりするの」
「じゃあ、降矢先生の症状ってまさしくそれなんですね」
「私も彼がコーヒー飲みまくってるのは知ってからさ。それが原因じゃないかって思って病院受診を勧めたの」
「それってどうやって治るんですか」
「当然、飲む量を減らすしかない。でも、急激に減らしたら今言ったみたいに身体に影響が出ちゃう。だから少しずつ減らしていくしかない訳ね」
「想ったより結構大変そうですね」
 つまりいきなりコーヒーを飲まなくするだけではダメなんだ。飲まないと頭痛等がおきてしまう。でも飲むと中毒は治らない。だから加減しながら少しずつ減らしていく訳か。でも、減らしていくっていう事は大好きだったコーヒーが飲めなくなるわけでそれはそれで辛い話だろうし。うーん、やっぱり大変だな。
「うん、だからね。カフェインレスのコーヒーとか低カフェインのお茶なんかを飲むようにしていたみたいだよ」
「ああ、確かにカフェインレスコーヒー飲んでましたね。それが理由だったんだ。」
「うん。通販で取り寄せてたみたいだね。だから彼は職員用の冷蔵庫にも常に入れてたの。あっちが一杯の時はここにある冷蔵庫を使わせてくれって持ってくることもあったな」
 職員用の冷蔵庫というのは私も見た事がある。先生達が昼食や飲み物を置いておくために職員室に備え付けてあるものだ。でも、それほど大きくはない。先生の間では使用権を巡って暗闘が繰り広げられているなんて噂も聞く。そして、保健室の冷蔵庫というのは今目の前にあるこれだが。
「ええ? でも、この間理科準備室の冷蔵庫使ってましたけど」
 そこから取り出したコーヒーを私も貰った覚えがある。
「ほら、理科準備室だと上にあがらなきゃならないからさ」
「それ、公私混同じゃないですか。ここの冷蔵庫ってそういうのに使っていい物じゃないでしょ」
「まあね。ただの飲み物なら断る所だけど健康維持の為って言われちゃうとね。断る事も出来なかったの」
「はあ、そういうものですか」
「それももう頼まれることはないのかと想うと何だか複雑な気もするね」
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