あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は

山井縫

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取り残された彼女が想う事は

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「まあ、いいや。兎に角その後エリナとは完全決裂した訳ね」
「んー。まあ、そうなるのかもしれないけど」
 私の質問に対してひなの返事は鈍かった。
「なに? まだ修復の目があったとか?」
 流石にそこまでの状況になって、前の様な関係を求めるのはムリだと思うのだが。
「ううん。違う、違う。そうじゃなくてさ。私達ってエリナに嫌われたのかな」
 私が疑問に思ってぶつけた質問にだが彼女はそれに質問で返して来た。
 その内容はとてもシンプルだ。が、私はどう言葉を返せばいいか、迷ってしまい、
「いや、それはどうだろう」
 と曖昧な言葉を返してしまう。
「そもそもさ、私達って彼女に好きとか嫌いとかで見られる対象なのかなって想っちゃって……」
「言わんとしている事は分かるよ」
 私も感じていた事を日奈も感じていたのだろう。エリナは基本人によって態度を変えない娘だ。だがそれは誰とでも分け隔てなく接していたとも違う。恐らく分け隔てはあった。寧ろその距離がどんな相手にでも等間隔だったという事に過ぎなかった。
「初めて彼女と接した時、この子とお近づきになりたいって思ったの。でも、微妙な距離があるのも感じてた。だから私は無理やりにでも彼女の傍に近づいてどうにかそれは取り払えないかと想ったんだけど、それは埋まらなかった」
「うん、物理的に近かったあなた達と他のクラスの皆。彼女にとってそれは等価だった様に見えたよ」
「でもさ、それって寂しいじゃん。こっちは仲間意識持っちゃってたし、傍にいる分、他の人より仲が良いって思いたいじゃん。だから懐に飛び込むつもりで、あえてちょっとドギツイ事言ったりもしたの。でも、それが裏目に出ちゃった」
「ふん。自業自得だね。でも、それで言えばあんた方の事、エリナは嫌ってはいないと想うよ。ただ……」
「目を向けてくれる気も全く無くなったって事でしょ。分かってる。嫌われる事すらもうなくなったんだって。それが何だか一番悲しくて切なかった」
 彼女は悄然として俯き加減で言う。それに対して私は疑問に思っていたことをぶつけた。
「そもそもさ、日奈は初めに会った時エリナのことどう思って近づいた訳?」
「うん、初めて彼女を見た時、綺麗な子だなって思った。飾る必要もない誰が見ても文句のない超美形。それにオーラって言うの? そういうのもあったし。私、中学ではさ、まあまあ目立つグループの中にいたの。ただ、グループの中で中心にいたっていう訳じゃなくって、リーダーの子に引っ付いて回ってたって感じだった。でも、幸いって言ってはなんだけど、その子と学校別々になったし、今度は自分が主導権を握ってやるんだってクラスの中心になれたらなって思った」
 でも、エリナを見たらそれはムリだとわかる。どう考えても彼女が中心になってしまう。それなら、グループを作って彼女も巻き込む形にしちゃえば上手くいくと考えた訳だ。
「でもそれなら、対等に思って欲しいっていうのがムリじゃない? 利用しようとしてた訳でしょ」
「で、でもさ。こういっちゃなんだけど、私達も見た目それなりじゃん。あれだけのレベルのエリナだってさ、その中に居た方が他の奴らといるよりもメリットあるでしょって」
 意識的なのか無意識的なのか、少し前まで遠慮気味に話していた彼女が突然無神経なことを言い放つ。
「へえ、その他の奴らって言うのは私も含まれてる訳?」
 私は少し意地悪な笑みを浮かべると己の顔を彼女に近づけて凄んだ。
「え、えへへへへへ。ち、違うよ。塔子の事な訳ないじゃん。でも、どっちにしろさ彼女はそんな事に価値を求めてなかったんだよね」
「どっちかっていうと有難迷惑。いや、有難いとすら思ってなかったんじゃない?」
「それってタダの迷惑じゃん」
「ははははは。でも、違う?」
 私は笑みを崩さないまま彼女に問い返した。
「後になったらそうかなとも思う」と言った後、続けてこう言った「ねえ、彼女。好きな人いたのかな」
「また、そんな事を。それで怒らせたんでしょ。私は知らないし、それに第一今それ知ってどうなるんだよ」
「どうにもならないよね。でも、もしそんな人がいたら」
 もし、彼女に好きだと言ってもらえる人がいたとしたら……。
「ガラガラガラガラ……。秋田日奈さんいらっしゃいますか」
 突然扉が開く音がして思考が寸断される。警察が彼女を呼びに来たのだ。
 ひなは「私です」と言葉少なに答えるとそのまま扉の外に消えていった。
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