あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は

山井縫

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彼女の隠していた事実とは

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「あの日、一体何があったのか聞かせてくれない?」
 あの日というのは勿論、先週の金曜日の事だ。
「何って言っても、そんな言う程の事はなかったよ。校長先生は相談室に私が日奈ピを連れてきてる事に驚いてた。それに私達が相談室にいることを他の先生にも伝えたっていったら慌ててた。結局、当たり障りのないやり取りが始めって終わりそうになっちゃった」
 麻衣の言葉からして建設的なやりとりには発展しなかったという事だ。
「でも、その場で逃げ切られても問題は解決しないよね」
「うん、でも一応言ったよ。こんな事は困りますって。特に学校でやり取りされてる所をみられたらお互いに大変な事になりますって」
「極めて全うな意見だけど、もうちょっと早く伝えられなかったものかね」
「無理だよ。私ももし、一人だけだったら言えなかった」
 しかし、そもそもその相手と一緒に遊びに行ったりホテルで抱き合ったりしていたのではなかったか。そこから随分と関係性が変わってしまったもんだ。
「でも、それで諦めてくれるくらいなら苦労はないんじゃないの」
「どうだろう。話は分かったって言って話は打ち切り。そのまま校長は一方的に出てっちゃったんだけど」
 聞いている限りではとても円満に話し合いが済んだという気配はない。つまり禍根を残したという事だ。
「その時間が十七時十五分くらいだったんだっけ?」
「うん。スマホの時間を確認したから間違いないよ」
 確か、この時間に関しては校長も意見が一致しているんだったか。
 でも、この点のネックは校長先生の証言だ。もし、校長が嘘をついていたらそこは崩れる事になる。
「問題はその後だよね、あんたらエリナの転落の時はどうしてたの?」
「し、知らなかったよ。まさか、あんな事が起きてたなんて」
 流石にそれを言う彼女の顔はまた青くなる。更には日奈も続けていった。
「う、うん。うちら……だって裏口から帰ったから。本校舎の方で何が起きてたか分からなかったし」
 私自身もあの後意識を失ってしまったので、エリナの転落直後に他の皆がどう動いていたかが分からない。でも、大分騒がしかった筈だ。もし、校内に居れば異変が起きていることくらいは勘付けなかったのだろうかと思うし、それに……。
「ならアプリにメッセージが入った時間は校内にいたんじゃなかったの」
 確か彼女らが旧校舎玄関に居た時、転落の報を受けて用務員さんが向かったのに鉢合わせたのだ。メッセージ書き込みは既に終わっている時間の筈。
「それは……。後で気づいたの。本当だよ。ウチ等さ、ぶっちゃけクラスの中で浮いてたじゃん。それくらい自覚あるよ。だから、元々クラスのグループメッセとかあんま見てなかったの、それで確認するの遅れちゃってさ」
 確かに、ある時期から彼女等はクラスのグループメッセージに余り反応しなくなった。一頃は大した話題じゃないのに、我が物顔で書き込みしてたし、既読も早かったのに。
「でも、その後気付いたんでしょ。カラオケ行って家帰るまで全く気付かなかったっていうのは信じられないな」
「それは……。勿論後から気づいたよ。通知があまりに多いからさ、流石に何かあったのかなって思って学校出てから確認した。でもさ、あんなの信じられると想う? 何かの悪ふざけだとしか思えないじゃん」
 この麻衣の言葉には嘘は無さそうだった。それでも一応尋ねてみる事にする。
「でも、フル先も書き込んでたよね。それも悪ふざけだと想った訳?」
 担任教師がクラスメイトの死を伝達する。それは流石に尋常じゃないと想う筈だ。
「それは……。おかしいと思ったよ。でも、やっぱり怖かったって言うか……」
 彼女はそこで追い込まれたような口調で言葉を途切れさせた。
「怖いって何が?」
 私も何となく意味はわかったが敢えてそこをえぐるように言葉を投げる。
「あなたも知ってるじゃん。私達がエリナと揉めてたの。彼女の事に関係は無いよ。それは誓ってもいい。そりゃ、最期まで仲良くはなれなかったけど……。でも、こ、殺したりする? するわけないじゃん。でも、それで反応したり学校戻ったりして疑われたら堪らないよ」
 つまり、やっぱり疚しい気持ちがあったということだ。その疚しさが果たしてどんなものかはまだ判断が付かない。そこで私はもう一人の方にも顔を向けて聞いてみる。
「日奈、あんたの方はどう思った訳?」
「どうって……。わ、分からないよ。何もかも分からない。こっちはさ、只でさえ麻衣と校長の話合いに付添ってくれって言われてさ。そんなのどうしていいか分からないのに、その後、エリナがあんな事になったって言われて、どう考えていいかさっぱりわからなかった。だから……その、見なかったことしたっていうか」
 彼女は彼女で相当混乱している様に見えた。その言葉にも嘘はなさそうだ。
「現実逃避した?」
「……うん。さ、最低だって言われてもしようがないかもしれないけど、でも、じゃあ、他にどうすればよかった訳?」
「別に、最低だとは思わないよ」
 彼女等の話が本当だとすれば、気持ちは分からないでもない。だからこそその場から離れてなかったことにしたかったという事だろう。
そう考えたところでガラガラガラガラと扉が開く音がした。
「宮前麻衣さん居ますか? お話を伺いたいのですが」
 音のした方に目をやるとスーツ姿の男性が立っていた。恐らく警察官だろう。
「はい。私です」
 対して麻衣は無表情で答えると扉の向こうに消えていった。恐らく、その様子から既に覚悟は出来ているように思えた。
 先程この教室でやたらと攻撃的になっていたのも、一転、問い詰めた私に対してべらべら喋り始めたのも、この後警察から諸々話を聞かれることを想像して自棄になってたのかもしれない。
 彼女にはエリナを良く思っていなかった。揉めていたのは確かだ。そして更にパパ活ストーカーと化した校長。その問題を相談したけど動いてくれなかった担任教師のフル先という存在がいた。
 そしてその何れもが死んでしまったのだ。実際に関わっている居ないに関わらず警察が関心を示すのは当然だった。パパ活の件含めて相当搾られるだろう。
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