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静寂と狂乱が渦巻く教室では
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それも無理ない。この学校内で良く知る人物が立て続けに三人も亡くなったのだ。気持ちが打ち沈むのは当然だ。
「ねえ、エリナのお葬式ってどうなるんだろう」
香の口にした言葉は確かに気になっていた。ひょっとしたら週明けに学校でフル先から何かアナウンスがあるかもしれないとも思っていたのだが、それを聞く事も叶わない。
「そういえばそうだね。いつになるとか決まってるのかな。熊谷君聞いてる?」
私は熊谷優斗君なら何か知っているかもしれないと想い尋ねてみる事にする。
「うん。それを伝えなきゃいけなかったね。エリナの遺体は、ああいう事になってしまったので一度警察に連れていかれたみたいなんだよ。昨日とりあえずは自宅に戻って来た。ただ、ご両親の意向でね、お葬式は近親者のみにしたいんだって」
優斗君は複雑な顔をしながら言う。そこへ冷え冷えとした教室の中、毒の含んだ一言が発せられる。
「そういう事ってさ、分かってたなら自分からちゃんというべきじゃね」
宮前麻衣の言葉だった。
「あ、ああ。確かに言うべきだったかもね」
熊谷君は動揺しつつ申し訳なさそうな顔を浮かべる。でも、幼馴染が亡くなって数日しかたってない。彼女の死について自分の口で触れたくない理由が彼にはある。それは誰にでも想像が付いた事の筈で咎める事ではない筈なのに。
「ふん、まあ、あんたみたいなのに期待はしてないけどさ。どん臭すぎっしょ」
「う……む」
まさか、こんな言葉を投げかけられるとは思わなかったのだろう。優斗君は返す言葉を失ってしまっているようだった。でも、別にこの情報だって彼が本来伝達しなければならないものではない筈だ。恐らく、時がきたらしかるべき手段で学校なりから伝えて貰えるだろう。それを偶々私が先んじて彼に尋ねただけの話だ。
でも、彼女はそんな彼に皮肉と嘲りが混じった様な表情を浮かべ尚も言い募ろうとする、
「そもそも。あんたあの子と幼馴染だったみたいだし~。ぶっちゃけあんたとマジ怪しくねって言ってたんだけど、そこんとこどうよ?」
この内容は以前、日奈がエリナに言ったという内容をなぞったものだろう。しかし、この場でそれを口にするのは流石に酷すぎる。
宮前麻衣は日頃表向きおっとりとした様に振舞っていたが、裏に回ると誰かしらの陰口を叩くのが当たり前というタイプ。
とはいえ、普段はここまで攻撃的な姿勢を見せたりはしない。無理に空威張りをしている様にすら見えた。
でも、今は彼女の真意は関係ない。この流れは私が熊谷君に話を振ったから起こってしまったことだ。まずは収める側に回らなくてはと想い口を挟む。
「ちょちょっと、いい加減にしなよ。熊谷君は自分の知っている事を教えてくれただけだよ」
「そうだよ。そうだよ。あんたが横からとやかく言える事じゃないでしょ。熊谷君に謝んなよ」
香もすぐに私の言葉の後について加勢してくれた。
「何でアタシがそんな奴に謝んなきゃならないわけ? 笑けるわ。伝えるべきこと伝え忘れたそいつが悪いんしょ。寧ろ皆にそいつが謝るべきじゃね」
飽くまでも折れない彼女に私も流石に苛立ちを隠せずに強い言葉を発してしまう。
「彼は私が聞いた事に答えてくれただけだよ。それに感謝こそすれ謝る必要はない。皆だって謝って欲しい訳じゃないよね?」
まず彼女に向いて言った後、クラスの皆にも向き直って言った。するとまず香が、
「熊谷君、謝る事なんてないよ。ありがとう」と言った。
それにつられるように皆も「熊谷君ありがとう」「優斗ありがとうな」と口々に言った。その中には麻衣が好きだったという真田君の姿もある。
そしてその中で「宮前さんとか秋田さんってそもそもエリナのお葬式あったとしても行く資格があると思ってるのかね」「ははは、どんだけ図々しいんだか」という言葉が聞こえてきた。
その言葉が耳に入ったんだろう、麻衣とその前に座っている日奈の顔が目に見えて青ざめていく。
「ねえ、エリナのお葬式ってどうなるんだろう」
香の口にした言葉は確かに気になっていた。ひょっとしたら週明けに学校でフル先から何かアナウンスがあるかもしれないとも思っていたのだが、それを聞く事も叶わない。
「そういえばそうだね。いつになるとか決まってるのかな。熊谷君聞いてる?」
私は熊谷優斗君なら何か知っているかもしれないと想い尋ねてみる事にする。
「うん。それを伝えなきゃいけなかったね。エリナの遺体は、ああいう事になってしまったので一度警察に連れていかれたみたいなんだよ。昨日とりあえずは自宅に戻って来た。ただ、ご両親の意向でね、お葬式は近親者のみにしたいんだって」
優斗君は複雑な顔をしながら言う。そこへ冷え冷えとした教室の中、毒の含んだ一言が発せられる。
「そういう事ってさ、分かってたなら自分からちゃんというべきじゃね」
宮前麻衣の言葉だった。
「あ、ああ。確かに言うべきだったかもね」
熊谷君は動揺しつつ申し訳なさそうな顔を浮かべる。でも、幼馴染が亡くなって数日しかたってない。彼女の死について自分の口で触れたくない理由が彼にはある。それは誰にでも想像が付いた事の筈で咎める事ではない筈なのに。
「ふん、まあ、あんたみたいなのに期待はしてないけどさ。どん臭すぎっしょ」
「う……む」
まさか、こんな言葉を投げかけられるとは思わなかったのだろう。優斗君は返す言葉を失ってしまっているようだった。でも、別にこの情報だって彼が本来伝達しなければならないものではない筈だ。恐らく、時がきたらしかるべき手段で学校なりから伝えて貰えるだろう。それを偶々私が先んじて彼に尋ねただけの話だ。
でも、彼女はそんな彼に皮肉と嘲りが混じった様な表情を浮かべ尚も言い募ろうとする、
「そもそも。あんたあの子と幼馴染だったみたいだし~。ぶっちゃけあんたとマジ怪しくねって言ってたんだけど、そこんとこどうよ?」
この内容は以前、日奈がエリナに言ったという内容をなぞったものだろう。しかし、この場でそれを口にするのは流石に酷すぎる。
宮前麻衣は日頃表向きおっとりとした様に振舞っていたが、裏に回ると誰かしらの陰口を叩くのが当たり前というタイプ。
とはいえ、普段はここまで攻撃的な姿勢を見せたりはしない。無理に空威張りをしている様にすら見えた。
でも、今は彼女の真意は関係ない。この流れは私が熊谷君に話を振ったから起こってしまったことだ。まずは収める側に回らなくてはと想い口を挟む。
「ちょちょっと、いい加減にしなよ。熊谷君は自分の知っている事を教えてくれただけだよ」
「そうだよ。そうだよ。あんたが横からとやかく言える事じゃないでしょ。熊谷君に謝んなよ」
香もすぐに私の言葉の後について加勢してくれた。
「何でアタシがそんな奴に謝んなきゃならないわけ? 笑けるわ。伝えるべきこと伝え忘れたそいつが悪いんしょ。寧ろ皆にそいつが謝るべきじゃね」
飽くまでも折れない彼女に私も流石に苛立ちを隠せずに強い言葉を発してしまう。
「彼は私が聞いた事に答えてくれただけだよ。それに感謝こそすれ謝る必要はない。皆だって謝って欲しい訳じゃないよね?」
まず彼女に向いて言った後、クラスの皆にも向き直って言った。するとまず香が、
「熊谷君、謝る事なんてないよ。ありがとう」と言った。
それにつられるように皆も「熊谷君ありがとう」「優斗ありがとうな」と口々に言った。その中には麻衣が好きだったという真田君の姿もある。
そしてその中で「宮前さんとか秋田さんってそもそもエリナのお葬式あったとしても行く資格があると思ってるのかね」「ははは、どんだけ図々しいんだか」という言葉が聞こえてきた。
その言葉が耳に入ったんだろう、麻衣とその前に座っている日奈の顔が目に見えて青ざめていく。
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