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休み明けの校舎で見た光景は
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「君たち、下がりなさい。教室の中に入るんだ」
呆然としている所に男性の声が耳へ入りそちらに目をやると教頭先生と何人かの教師がこちらに向かって来ていた。
「皆、落ち着きなさい。校内に入るんだ」
辺りを取り巻いていた生徒達もそれに異存はないようだった。我に帰ったようにノロノロと玄関口に向かう。
「教頭先生。あの、今日はどうなるんですか。授業は通常通りあるんでしょうか」
未だ青ざめながらも気丈な様子で会長が尋ねる。
「ああ、真田君。今後の事はまだ何も決まっていない。決まり次第伝える予定だ。その旨伝えるように生徒会の方で手配してもらえないだろうか」
「わ、わかりました。あ、あの。で、でも。こ、これからドンドン生徒達が登校してきますよ」
「あの通り校門とこちら側の昇降口は閉鎖することにした。生徒達には面倒だろうが裏門から周ってもらう事にする」
「閉鎖ですか?」
言われて教頭の目線の先に目を向けると体育教師が門を閉めていた。そしてそのまま外側に立つ。更に、昇降口の外にも教師が立番状態になる。こちら側は閉鎖し片側のみ利用するという事だろう。
「わかりました。と、とりあえずクラス委員に声をかけて教室待機の件を伝えさせます」
「うむ、あ、後、現場には近づかない様にも伝えてくれ。これから警察も来ることだしな」
「はい、わかりました。それから事情を知らない生徒に校長先生や降矢先生が亡くなった事を伝えた方が良いんでしょうか」
教頭の言葉を受けて生徒会長は困惑したような顔で更に尋ねる。彼女の気持ちも分からないではない。正直人の死を告知するというのは中々に気が重い行為だ。
かと言って教師が二人亡くなったのは事実。どのように事情を説明すればいいかは悩み所だろう。
「うーむ、確かに君らがそれを伝えさせるのも酷だよな。とりあえず事故が起きたということだけ伝えなさい。そして連絡があるまで教室待機だ」
「わかりました。声を掛けられるクラス委員に声をかけて入り口の導線説明と教室待機の件を伝えます」
「うむ。頼んだぞ」
「はい」
「あ、あの……」
二人の会話がひと段落付いた様なので私は教頭先生に声をかける。
「ん、君は……。東雲君だったな」
「はい。ウチのクラスはどうしたらいいんでしょうか。1年A組です」
担任が来るまで教室待機。他のクラスはそれでいいだろうが、ウチはそうはいかない。
「ああ、君のクラスは降矢先生の所だったな」
「はい、あの……先生が」
言おうとしたが流石にその先は言葉が詰まってしまう。
「後の事は副担任の今宮先生に頼んでおく。他のクラス同様に教室待機していてくれればいいよ」
「わ、分かりました」
「大丈夫かね。無理はしなくていいぞ。もし気分が悪い様なら休んでいなさい」
「いえ。大丈夫です。私もクラス委員ですからやれることはやります」
「そうか。すまないな」
「ただ、先生達に手を合わせてもいいでしょうか」
「ん……。ああ、構わんよ」
エリナの転落の時には気が動転して失神してしまった。だから、せめてその分も含めて形にしたかった。
私は再び遺体に向きあい少し近づくと手を合わせて黙祷を捧げる。途端に色々な感情が押し寄せてきて暫く頭を上げることができなかった。と、ふいに、
「大丈夫かい?」
心配気な声に頭を上げる。生徒会長がすぐ横にいてくれた。彼女も私に倣って一緒に手を合わせてくれていた様だ。
「大丈夫です。行きましょう」
私は立ち上がろうとして目を開けた瞬間妙なことに気が付いた。目に入って来たのはフル先の後ろ姿。その首の後ろ側が見えていたのだ。が、その首にロープが巻き付いていたのだ。
呆然としている所に男性の声が耳へ入りそちらに目をやると教頭先生と何人かの教師がこちらに向かって来ていた。
「皆、落ち着きなさい。校内に入るんだ」
辺りを取り巻いていた生徒達もそれに異存はないようだった。我に帰ったようにノロノロと玄関口に向かう。
「教頭先生。あの、今日はどうなるんですか。授業は通常通りあるんでしょうか」
未だ青ざめながらも気丈な様子で会長が尋ねる。
「ああ、真田君。今後の事はまだ何も決まっていない。決まり次第伝える予定だ。その旨伝えるように生徒会の方で手配してもらえないだろうか」
「わ、わかりました。あ、あの。で、でも。こ、これからドンドン生徒達が登校してきますよ」
「あの通り校門とこちら側の昇降口は閉鎖することにした。生徒達には面倒だろうが裏門から周ってもらう事にする」
「閉鎖ですか?」
言われて教頭の目線の先に目を向けると体育教師が門を閉めていた。そしてそのまま外側に立つ。更に、昇降口の外にも教師が立番状態になる。こちら側は閉鎖し片側のみ利用するという事だろう。
「わかりました。と、とりあえずクラス委員に声をかけて教室待機の件を伝えさせます」
「うむ、あ、後、現場には近づかない様にも伝えてくれ。これから警察も来ることだしな」
「はい、わかりました。それから事情を知らない生徒に校長先生や降矢先生が亡くなった事を伝えた方が良いんでしょうか」
教頭の言葉を受けて生徒会長は困惑したような顔で更に尋ねる。彼女の気持ちも分からないではない。正直人の死を告知するというのは中々に気が重い行為だ。
かと言って教師が二人亡くなったのは事実。どのように事情を説明すればいいかは悩み所だろう。
「うーむ、確かに君らがそれを伝えさせるのも酷だよな。とりあえず事故が起きたということだけ伝えなさい。そして連絡があるまで教室待機だ」
「わかりました。声を掛けられるクラス委員に声をかけて入り口の導線説明と教室待機の件を伝えます」
「うむ。頼んだぞ」
「はい」
「あ、あの……」
二人の会話がひと段落付いた様なので私は教頭先生に声をかける。
「ん、君は……。東雲君だったな」
「はい。ウチのクラスはどうしたらいいんでしょうか。1年A組です」
担任が来るまで教室待機。他のクラスはそれでいいだろうが、ウチはそうはいかない。
「ああ、君のクラスは降矢先生の所だったな」
「はい、あの……先生が」
言おうとしたが流石にその先は言葉が詰まってしまう。
「後の事は副担任の今宮先生に頼んでおく。他のクラス同様に教室待機していてくれればいいよ」
「わ、分かりました」
「大丈夫かね。無理はしなくていいぞ。もし気分が悪い様なら休んでいなさい」
「いえ。大丈夫です。私もクラス委員ですからやれることはやります」
「そうか。すまないな」
「ただ、先生達に手を合わせてもいいでしょうか」
「ん……。ああ、構わんよ」
エリナの転落の時には気が動転して失神してしまった。だから、せめてその分も含めて形にしたかった。
私は再び遺体に向きあい少し近づくと手を合わせて黙祷を捧げる。途端に色々な感情が押し寄せてきて暫く頭を上げることができなかった。と、ふいに、
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