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帰路の車中で目に付いた物は
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しおりを挟む「すっかり遅くなっちゃったね。疲れたでしょ」
しおり先生が運転席から私に目を向けながら言った。
「そうですね、流石にちょっと疲れちゃいました」
私が今いるのは学校の駐車場内に停めてあるしおり先生の車の中。二十一時過ぎ。辺りは真っ暗だ。事情が事情でもあるし、しおり先生が「家まで送るよ」と申し出てくれたのだ。心身共に疲れていた為有難く甘えさせてもらう事にする。
「大変だったでしょ……色々」
確かに大変だった。今日放課後以降に起きた出来事は今まで生きてきた中で一番だろう。
「そうですね。でも、先生もそれは同じだったんじゃないですか」
彼女にしてみても親しかったエリナの死に直面したのだ。
「そう……ね。あの娘をあんな形で看取る事になるなんて思わなかった」
エリナは転落地点に落ちた直後はまだ息があったらしい。
「あの、実は彼女と亡くなる直前に話をしたんです。それで、二人の関係。エリナと先生の事、彼女から聞いていたんですよ」
「えっ! 私と彼女の関係って……」
私は何気なく言ったつもりだったが、彼女は想像以上に驚いたような声を上げた。
「は、はい。あの、幼馴染だったんですよね。姉の様に慕っていたって言ってました」
私は想定外の反応に一瞬飛び上がりそうになる。が、気を取り直して言葉を返す。
「あ、ああ。そういう事。そう、ね。私もあの娘の事妹のように思っていたよ」
しおり先生は私の言葉になぜかほっとしたような顔をした後、寂しげな顔と懐かし気な顔が入り混じった感情を表しながら言う。
「子供の頃からお家に良く遊びに行ってたって聞きました」
「そうね。初めは優斗と仲良くしてたんだけど、いつの頃からか私の部屋で一緒に遊ぶことが多くなってたね」
「……そうなんですか」
聞いた限りではえりなの言葉と齟齬がない。という事は、二人とも昔から今まで変わらなく親しい付き合いをしていたという事だろう。
「彼女が飛び降りる前に会ったんだよね、私達姉弟の事以外他に何か話をした?」
「えっとそうですね。あ、先生の婚約の事を話しました」
フル先としおり先生の婚約。私以外の生徒にとっても意外なこのニュース。
「降矢先生との事? そう、何て言ってた?」
「えっと、『寂しくないといえば嘘になるけどしおちゃんが幸せならそれでいい』って。あ、しおちゃんて……」
「うん。私の事。昔からプライベートではそう呼んでくれていたんだ。そう、彼女、そんな風にいってたんだ。因みに彼女の方からその話をしてきたの?」
「いえ違います。正直なところ私もそのニュースに驚いていたんです。」
ある意味下世話な興味。自分のクラスの担任である男性教師とマドンナ教師の婚約。他の生徒達も首を傾げるようなカップリングだった。
だから、しおり先生と親しかったというエリナならその辺の事も聞いているかもしれないという想いを抱いてその話を振ったのだ。
「そう。まあ、他の生徒達の間でも大分噂になっているみたいだよね。気持ちは分からないでもない。私だって自分が学生だったら先生同士が婚約したって話に興味もっちゃうかもしれないもの」
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