17 / 84
夜の教室で聞かされた話は
7
しおりを挟む
「いや、探しました~。どこへ行ったのかと想いましたよ」
突然扉が開いた。驚いて目を向けるとスーツ姿の若い男が入ってくる。
「こら有吉ぃ~。捜査協力者がいるんだぞ。シャキッとせんか」
つい今しがたまで物腰柔らかに対応してくれていた品川刑事が厳しい顔付きで男に吠える。
「へいへいすいませーん」
有吉と呼ばれた男はどこ吹く風の体でこちらに近づいてくると私の隣の席の椅子を引いて座った。それに対して今度は滝田さんが追い打ち様にピシャリと声を掛ける。
「こら、有吉。誰が座っていいと言った」
その様子からどうやら彼も刑事らしいと想像が付く。
「え~。デカジョウ殿も座ってるじゃないですか」
不満気な有吉刑事は不平を漏らしながらもノロノロと立ち上がる。
「その呼び名はやめろっつってんでしょ。アタシはパソコン打ち込まなきゃならないから座ってるの。あんたには不要でしょ」
「はぁーい。承知しました。滝田巡査部長殿」
これ以上のやりとりは不毛と考えたのか彼も逆らわずに敬礼して答える。滝田さんはそれに答えもせず目だけで私に示して言った。
「ああ、こいつは刑事の有吉、私の部下よ」
「有吉です! よろしく。いや~いいな~二人共。自分も女子校生と夜の教室でお話する役になりたかったもんすよ。出来れば二人っきりで、なーんてね」
「あんた。少しは考えて物言いなさいよ。こっちはね、捜査にご協力願っているの。今の発言、一歩間違えれば問題発言だかんね」と言った後私に「ごめんなさいね」と謝った。そして品川刑事共々頭を下げる。
私はそれに「大丈夫ですよ」と苦笑を浮かべながら答えた。
品川刑事も滝田さんも彼には当たりが強い。が、彼はそれを気にも留めない様子だった。髪は明るめのマッシュツーブロックで身体の線も細い。刑事であるという前提で見ると少し頼りなげな印象も感じてしまう。
「で、現場の方はどうなってんの? 何か新しい事の一つや二つ掴んだんでしょうね?」
滝田さんは有吉刑事に圧を掛けながら尋ねる。が、それはいつものことのようで彼は柳に風で受け流しながら手帳を取り出し言葉を返す。
「えっと、遺体は靴を履いていなかったっていうのは知っているんすよね」
その話は既に私も聞いていた。靴は入り口におきっぱだった。
「ええ、知ってるわよ。因みに裸足という訳でもなかったのよね」
「はい、生足って訳じゃなく黒のソックス姿で見つかりました」
後ろから品川刑事が有吉刑事に『生足とかっていう言葉を使うんじゃない。バカタレが』と怒鳴った後「ゴム手袋の方は出所はわかったのか」と続ける。
「いえ。具体的にどこからかはまだわからないっすね」
ただ、学校の備品として使っていたもの同じだという事は確認がとれたという。
「ふむ、そういう消耗品となるといつどこでかっていうのか特定は難しいか」
品川刑事は独り言ちるようにつぶやく。それに続いて滝田さんが尋ねた。
「他に、何か分かった事はないの?」
「ああ、はい。実はあの後調べたところ遺体からそう離れていない場所に白い三角巾が落ちているのが見つかりました」
「三角巾って……ああ、応急処置とかに使うあれね」
「そうっすね。その三角巾に毛髪が付着していまして、これがどうも二見エリナの物だと想われます」
三角巾。確かに授業で使った覚えはあった。エリナが使っている姿も記憶にある。だからそれが彼女の持ち物であっても不思議はない。
「ということは彼女が身に付けていた訳か」
「恐らくそうっすね。転落の際に別々に落ちてしまったんでしょ」
「ゴム手袋に加えて三角巾を頭にかぶってたってわけか。更なる謎が増えたわね。東雲さん、彼女がそんな恰好をしていた理由に思い当たる事はなかったりしない?」
「ゴム手袋に三角巾っていうと思い浮かぶのは授業の時ですね」
「へえ。高校の授業でそんな恰好することあったっけ」
滝田さんは思案気な顔をして尋ねてくる。でもそれに私は困惑気味に答えた。だって、それがわかったって謎の答えにはならないからだ。
「えっと家庭科の調理実習の時です」
突然扉が開いた。驚いて目を向けるとスーツ姿の若い男が入ってくる。
「こら有吉ぃ~。捜査協力者がいるんだぞ。シャキッとせんか」
つい今しがたまで物腰柔らかに対応してくれていた品川刑事が厳しい顔付きで男に吠える。
「へいへいすいませーん」
有吉と呼ばれた男はどこ吹く風の体でこちらに近づいてくると私の隣の席の椅子を引いて座った。それに対して今度は滝田さんが追い打ち様にピシャリと声を掛ける。
「こら、有吉。誰が座っていいと言った」
その様子からどうやら彼も刑事らしいと想像が付く。
「え~。デカジョウ殿も座ってるじゃないですか」
不満気な有吉刑事は不平を漏らしながらもノロノロと立ち上がる。
「その呼び名はやめろっつってんでしょ。アタシはパソコン打ち込まなきゃならないから座ってるの。あんたには不要でしょ」
「はぁーい。承知しました。滝田巡査部長殿」
これ以上のやりとりは不毛と考えたのか彼も逆らわずに敬礼して答える。滝田さんはそれに答えもせず目だけで私に示して言った。
「ああ、こいつは刑事の有吉、私の部下よ」
「有吉です! よろしく。いや~いいな~二人共。自分も女子校生と夜の教室でお話する役になりたかったもんすよ。出来れば二人っきりで、なーんてね」
「あんた。少しは考えて物言いなさいよ。こっちはね、捜査にご協力願っているの。今の発言、一歩間違えれば問題発言だかんね」と言った後私に「ごめんなさいね」と謝った。そして品川刑事共々頭を下げる。
私はそれに「大丈夫ですよ」と苦笑を浮かべながら答えた。
品川刑事も滝田さんも彼には当たりが強い。が、彼はそれを気にも留めない様子だった。髪は明るめのマッシュツーブロックで身体の線も細い。刑事であるという前提で見ると少し頼りなげな印象も感じてしまう。
「で、現場の方はどうなってんの? 何か新しい事の一つや二つ掴んだんでしょうね?」
滝田さんは有吉刑事に圧を掛けながら尋ねる。が、それはいつものことのようで彼は柳に風で受け流しながら手帳を取り出し言葉を返す。
「えっと、遺体は靴を履いていなかったっていうのは知っているんすよね」
その話は既に私も聞いていた。靴は入り口におきっぱだった。
「ええ、知ってるわよ。因みに裸足という訳でもなかったのよね」
「はい、生足って訳じゃなく黒のソックス姿で見つかりました」
後ろから品川刑事が有吉刑事に『生足とかっていう言葉を使うんじゃない。バカタレが』と怒鳴った後「ゴム手袋の方は出所はわかったのか」と続ける。
「いえ。具体的にどこからかはまだわからないっすね」
ただ、学校の備品として使っていたもの同じだという事は確認がとれたという。
「ふむ、そういう消耗品となるといつどこでかっていうのか特定は難しいか」
品川刑事は独り言ちるようにつぶやく。それに続いて滝田さんが尋ねた。
「他に、何か分かった事はないの?」
「ああ、はい。実はあの後調べたところ遺体からそう離れていない場所に白い三角巾が落ちているのが見つかりました」
「三角巾って……ああ、応急処置とかに使うあれね」
「そうっすね。その三角巾に毛髪が付着していまして、これがどうも二見エリナの物だと想われます」
三角巾。確かに授業で使った覚えはあった。エリナが使っている姿も記憶にある。だからそれが彼女の持ち物であっても不思議はない。
「ということは彼女が身に付けていた訳か」
「恐らくそうっすね。転落の際に別々に落ちてしまったんでしょ」
「ゴム手袋に加えて三角巾を頭にかぶってたってわけか。更なる謎が増えたわね。東雲さん、彼女がそんな恰好をしていた理由に思い当たる事はなかったりしない?」
「ゴム手袋に三角巾っていうと思い浮かぶのは授業の時ですね」
「へえ。高校の授業でそんな恰好することあったっけ」
滝田さんは思案気な顔をして尋ねてくる。でもそれに私は困惑気味に答えた。だって、それがわかったって謎の答えにはならないからだ。
「えっと家庭科の調理実習の時です」
0
ツギクルバナーリンクよろしければお願い致します。
関連作品【東雲塔子シリーズ】
-------------------------------------------------------
【連作短編集】東雲塔子の事件簿
あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は
-------------------------------------------------------
【連作短編集】東雲塔子の事件簿
あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる