上 下
30 / 40
蛇石の封印

12

しおりを挟む
 金鞠家が沼から去っても特に問題がない日が続いた。

 それから大分経ち、明治が終わり大正の世になって暫くした時の事。沼のほとりを一人の男が歩いていた。

 すると、
「お~い。お~い。お~い……」
 
 お堂の方から呼び声がする。でもここは基本的に無人の筈。
 不審に思いながら中を覗くと誰もいない。
 
 しかし、

「お~い。お~い。お~い……」

 どこからともなく声は聞こえて続ける。

 薄気味悪くなった男はその場を逃げ出して村の者に話した。

 恐れる者もいたが、中には豪胆なものもいる。

 まだ年若い茂三という男が、

 「よし、俺が正体を確かめてやる」

 言って、お堂に向かうった。そして暫くして帰って来た。

 みんな口々に様子を聞いたが、

「そんなに恐ろしいことはなかった」
 
 と言いながら口を噤む。以降何を聞いても話をしたがらない。

 その数日後、男がどこからか大金を手にしたらしいとの噂が村に回る。
 五人家族全員今までとは比べ物にならないくらい身なりが良くなり、豪華な食事をして、働きもせずに遊んで暮らし始めた。

 村の者もおかしいく思い、聞いてみたがノラリクラリと言葉を返すだけだった。

 ついには村を出て町に新しい家に住むと言って越していった。

 みんなますますおかしいと想っていたが一月後、一家全員火事で焼け死んだとの話が入ってきた。

 村中の者は全員唖然としたが、中でも驚きながら青ざめた顔をした男がいる。金太といって茂三と親しかった男だ。実は彼にだけ茂三は話をしていたのだ。

 金太はすぐに望月神社にかけこみ神主の元にかけこみ、茂三から聞いた話をそのまま伝えたという。

 それはこのような内容だった。

 あの日お堂へ向かうその最中、確かに「お~い。お~い。お~い」という呼び声が聞こえてきた。

 でも、お堂の中を覗いても人の姿はない。

 ただ、声だけはする。

 気味が悪くなりながらもよくよく調べてみると、なんと声は石から聞こえてきていたのだ。

 驚きながらも彼はその石を手にしてみた。

 すると、

「お前の願いはなんだ。お前の願いを言え。お前の願いを叶えてやる」

 頭の中にその声が響く。胸の内に恐怖が広がる。でも、同時に彼は言わなければならないとの想いが急激にもたげてきた、

「金が欲しい。家族全員で楽に暮らしたい」

 それは誰もが望む平均的な願いだったかもしれない。

「そんな事でいいのか。ではいいことを教えてやろう」

 村の裏手にある山を分け入っていくと、一本の大きな杉がある。その根元を掘ってみろ。

 茂三は半信半疑ながら鍬を使って掘ってみたところ、そこになんと千両箱が埋まっていたのだ。

「茂三は大蛇は悪い物じゃない。福を授けてくれる神様みたいなもんだ。お前も行って声が聞こえたら頼んでみろよと言ってました。でも、オレは怖くて何か悪いことが起きないか案じてたんですが」

 彼の悪い予感は当たり、家族全員の焼死という最悪の結果に結びついた。

 大蛇の死に様も火を放たれて焼き殺されたものなのだから。偶然にしては出来すぎている。

 望月神社の神主はすぐに金鞠家に出向き相談した。

当時の当主、金鞠民代はすぐに事態を飲みこんだようだ。

「おそらく、大蛇の霊気が強まっています。そして、復活の機会を伺っているのでしょう」

その為に人の邪気や欲を吸いあげることにより力を溜めようとしている。

このまま行けば犠牲者は増え、更に大蛇がこの地に復活してしまう。

それを避ける為に民代はこの玉を3つに砕いた上で封印を施した。

 そして、各々を金鞠家と、望月神社、村長である池端家がそれぞれ管理することとした。

 以来一年に一度望月神社で封印が弱まらないようにする為の儀式が行われている。

 そして今日がその日なのだ。

 多津乃が亡くなって以来、あゆみの母である須磨子が変わりに行っていたが、彼女は身体が弱い。既に述べた通り霊能力を使うことは更に負荷をかけることを意味する。

 そこで、あゆみにお鉢が回ってきたわけだ。
 彼にも能力はある。しかし、金鞠家の女性と比べると能力は大きく劣る。
 ではその霊力を大きく引き上げる方法はないか。
 亡くなる前に多津乃はそれを言い残していた。
 
 それが男性であるあゆみが女性の装いをすることだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【R18】私の可愛いペット~イケメン女子が金髪ヤリチン男子をペットにするが彼の夜の行為の激しさに驚いた~

黒夜須(くろやす)
恋愛
基本は女性優位の襲い受けですが、中盤男性が暴走する場面があります。最終的には男性がペットとなります。 凪りおん学校から妙な視線を感じていた。学校帰りによったジムからでると以前関係を持った金髪男子の星史郎がぼこされている現場に遭遇。彼を助け家に招くと、好意を寄せている伝えられる。嬉しかったが彼が以前関係を持った女子に嫉妬をして拘束していたずらをするが、逆に激しく抱かれてしまう。 以下の続きですが、これだけでも読めます。 甘えたい~ヤリチン男がイケメン女子に好きにされる~ https://www.alphapolis.co.jp/novel/916924299/710772620

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...