上 下
23 / 40
蛇石の封印

6

しおりを挟む
「アタシはどんな相手からも好きって言ってもらえるのは嬉しいし、好きだって伝えるのも嬉しいんだよね。それはそれでおかしいのかもしれないんだけど」

 「いまりはいまりの考え方感じ方があるんだろうから、それでいいと思うよ。楽しいんだろ?」

 「うん、毎日楽しくてしようがないんだよね。沢山の人に愛されてアタシってば世界一の幸せものだと思っちゃうわ」

 「じゃあ、そんな君と二人っきりでいられる今の私も世界一の幸せものだね」

 言ってひみかはいまりの頭をにポンポンと優しく撫でる。

 「も、もう~。そういう事するから勘違いする子が出てくるんだよ」

 「勘違いってなんのことだい?」

 「忘れたとは言わせないわよ。卒業式の日、呼び出されたりお手紙貰ったりしてたじゃない」

 小学校でも既に中性的で整った見た目とその振る舞いから彼女は注目を集めていたが。

 中学校入学式に起こったある出来事が彼女の印象を決定づけることになる。

 教職員の紹介、それぞれクラスの生徒の名前呼びなどが進み、お定まりの校長先生の式辞の際。起立していたひみかの真ん前に立っていた女子が突然彼女に向かって倒れてきた。

 しかし、彼女は慌てずそれを優しく抱きとめた。そしてそのまま所謂お姫様抱っこの状態にする。
 みんな大注目だ。一部の女子生徒からキャーキャーと声が上がっていた気がする。

 ひみかはそんな視線にも気に留めないように、その場にいた養護教諭に向かっていった。

 「すみません。保健室で休ませてあげたいんですが。お付き添いお願いします」

 そんな事本来生徒がするものではないような気がするが、あまりの堂々とした様に教職員一同気をされてしまった。

  そして一瞬ポカンとした表情をした後、女性の養護教諭は、
 「あ、はい。じゃあ、そのまま連れて行って貰いましょうか」

 言って彼女を先導する形で保健室へ向かった。

 倒れた女生徒はただの貧血であり保健室で休んだらすぐに良くなったのだが、暫くひみかの顔を見ると真っ赤になってしまうという症状を抑えることができなくなった。


 そしてこの直後にあった学級会では大多数女子から保険委員に推薦。ひみか自身も拒否する事になくそれを受けた。

 結果三年間彼女は保険委員を務めることになる。

 当然の流れとして彼女のクラスでちょっとした怪我や体調不良でも彼女は頼られる事になる。

 貧血で倒れる生徒には入学式のようにお姫様だっこ。

 足が痛むという子には肩を貸して保健室まで付き添ってあげる。

 更にはちょっとした手の怪我や傷でも絆創膏を貼ってもらう。

 それに対して一人一人、

 「大丈夫かい?痛そうだね。私にできることならなんでもするよ。さあおいで」

 そんな事を言いながら心配顔で手を差し伸べるのだ、人気が出ない筈ない。

 更に二年生で副委員長、三年生で委員長になった彼女は更に学校全体から頼られる存在になってしまう。

 その数が余りに多くなり、最終的には保険委員として頼る内容を『お姫様抱っこオプション』『肩抱きオプション』『絆創膏お手握りオプション』などと称して回数制限が決まったなどという噂も聞いたことがある。
 
 そんな中でもひみかは委員会活動をしながら文武両道も頑張っていた。

 身体能力は比較的高くスポーツも好きな方だが、雪女の血が流れている為だろうか、気温や環境で差がでてしまう。

 その為、一貫して一つのスポーツに打ち込むのは難しい。

 なので、運動系の部活に入部することはないが、人出が足りない時に助っ人として入る事はある。
 その際は練習からみっちり一緒に参加する。

 出来ないことがあれば、何度もそれに打ち込み最低限できるような状態に仕上げる。

 助っ人を頼んだ側からすれば自分達の為にそこまでしてくれるのかと感激して更に株が上がっていった。

 更に成績は学年一、二位を争うという程ではないが十位以内くらいを維持している。
 
 その中で学年女子一位の女生徒、田所珠代という女の子がライバル心をむき出しにしてきたのだ。
しおりを挟む

処理中です...