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番外編

タリカとキースと白い罠 2

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「ねえ、キース。せっかくだから聞いていい?」
「ん? ああ、どうぞ」
「キースは私のことを、どう思っている?」

 よし、聞いてやったぞ!
 普段この質問をしても、「どうって……好きだけど」とか、「べ、べつに今言わなくてもいいだろう!」とか、分かりにくかったり遠回しに拒否されたりすることが多い。でも、今なら素直な彼の気持ちを聞けるんじゃないかな。

 ……そんな軽い気持ちで待っていた私を、キースはじっと見つめてくる。その頬が徐々に赤くなっていくから、遅れてお酒が回ってきたのかなぁ……なんて考えていたら。

 彼はいきなり両手を伸ばして私の肩を掴むと、問答無用でキスしてきた。

 ……え?

「ん、む、キー……!?」
「好き。むちゃくちゃ好き」
「ひょえっ!?」

 キース選手、直球ストレートを投げてきました! デッドボール! タリカ選手は動けない!

「馬鹿なことばっかり言うけれど可愛いし、美人だし。こうやって抱きしめると柔らかいし、いい匂いがする」
「お、おう……?」
「離したくない。離れてほしくないし、ずっと側にいてほしい。朝起きたらあんたが隣にいて、昼は一緒に散歩をして、夜はあんたの隣であんたの夢を見たい。ずっとずっと俺だけを見てほしいし、俺もあんたのことだけを見ていたい」

 お、おわわわわ……!
 これは、これは、いったいなんだ!?

「あんた馬鹿だろう」と三白眼で言ってくるキースはどこに行った!?
 しかも、朝起きたら隣に私がいるって……つまり……わぁ……。

 私の方は既に脳のキャパを超えているというのに、お酒の入ったキースは無敵モードなのか、真顔で私の喉や胸元にキスを落としていく。最後には胸元に顔を埋め、ぐりぐりと額をこすりつけてきた。

 ……いや、決して嫌じゃないよ。恋人だし、抱きしめられるのは好きだし。
 でもいかんせん、普段とのギャップがすごすぎる! この酔っぱらいをどうすればいいの!?

 ふと、視線を感じたのでさっと横を見る。そこにいたのはマリィと、水差しを持ったジゼル。
 戻ってきてたんじゃん! なんでそんなところで突っ立ったままで、こっちを観察しているの!? 助けてくれないの!? いや、なんで二人とも至極満悦の笑みを浮かべているの!? この酔っぱらいは放置なの!?

 手助けをするつもりのない侍女たちに愕然としていると、胸元から「タリカ?」とかすれた声がした。

「タリカは、俺のことが好きか?」
「いっ!?」
「いつも馬鹿馬鹿言ってすまない。でも俺はあんたが大好きだし、あんたに馬鹿って言うのは俺だけでありたいんだ」

 それはそれでどうかと思うけれど、酔っぱらいに正論を言ってもどうにもならない。
 それよりは、この状況をどうにかせねば!

「え、ええ。私も大好きよ」
「本当に?」
「もちろん! あ、あの、私も……あなたと一緒に目覚めたり、お散歩したり、あなたと一緒に夢を見たり……したい、から……」

 かーっ! 何を言わされているんだ、私!
 でも私のたどたどしい言葉を聞いたキースは嬉しそうにふわりと笑うと、「ありがと」と囁いて唇にキスを落としてきた。

 優しいキスをされると、混乱していた心も落ち着いてくる。
 やっぱりキースとのキスは好きだな……そんなことを思って甘い予感に身を震わせていると、突然キースが立ち上がり、私はソファの上でずるっとお尻を滑らせてしまう。

「え、あれ?」
「ちょっと仮眠を取る。しばらく待っていてくれ」
「あ、はい」

 あまりにもしゃっきりと言われるから、「いや、なんで?」と言うこともできずこくこく頷く。
 キースはそれまでの酔っぱらい具合が嘘のようにきびきびと歩くと、ジゼルに「半刻経ったら起こしてくれ」と命じ、そのまま出て行ってしまった。


 ……。
 ……私、どうすればいいんだろう?










 結局私は残っていたワインを飲んでおつまみを食べ、キースが戻ってくるまで待つことにした。
 ちなみにその間にマリィにいろいろ文句を言ったのだけれど、「本当は嬉しくてたまらなかったのでしょう?」と言われてぐうの音も出なかった。

 さて、きっかり半刻後に、キースが戻ってきた。
 上着を脱いだ薄手のシャツ姿の彼は頭をぼりぼり掻きながら戻り、私を見ると少しだけ申し訳なさそうな顔になった。

「待たせてすまなかった。俺は酔ったら饒舌になるみたいなんだ。少し寝ればましになるんだが……」
「あ、そ、そうなのね。もう体調はいいの?」
「別に、元々体調は悪くない。あんたとのやりとりも全部覚えているし」

 覚えている……? え、ええ……そうなの?
 酔った間の記憶がなくなるとか、頭痛がひどいとか吐くとか、そういうタイプの人は日本にもいたけれど、おしゃべりになるだけで体調は普通、記憶もちゃんと残っている人もいるんだ……。

 キースはすとんと私の隣に腰を下ろした。あ、やっぱり向かいじゃなくてこっちに座るんだ、と思っていると、いきなりぐいっと顎を掴まれ、問答無用で口を塞がれた。

「んっ……!?」
「タリカ。あんた、俺が酔って油断しているだろうからって、あの質問をしてきただろう」

 あの質問って……「キースは私のことを、どう思っている?」って聞いたこと? うわぁ、やっぱりばっちり覚えているんだ!

 ……あれ? でも結局キースは酔っていなかったんだよね?

「え、ええと……その、酔っているのなら、質問しても怒られないかなぁ、って思って……」
「俺は酔っていないと何度も言ったはずだが?」

 はいそうですね! キース様のおっしゃるとおりでした!
 キースは私をうろんな目で見た後、ふっと微笑んで頬に軽くキスを落とした。

「まあ、たまには素直な気持ちを言うべきだろうな。俺も、あんたから嬉しい言葉を聞き出せたし」
「……まさかの計算の上だったの!?」
「あんたは単純だからな。押せば絶対にこっちの勝ちだと踏んでいた」
「鬼畜!」
「何とでも言っていろ。……だがな、タリカ」

 そこでキースはいったん言葉を切り、ほんのり頬を赤らめた。

 ……彼が顔を赤くするのはお酒を飲んだときじゃなくて、恥ずかしがっているときだけなのだ。

「……俺が言ったことは、その場しのぎの虚言ではない。俺の本心だ」
「……えっ」
「断じて俺は酔ってはいないが、酒の力で少々気が大きくなっていたのは確かだ。……そういうことだから、覚えておけ」

 いつものようにツン多めツンデレに戻ったキースはそう言うと、ごまかすように私の額にちゅっとキスをした。

 ……なんというか。
 私はきっと、一生キースには勝てないんだろうな。
 でも、こうやっていろんな顔を見せてくれるキースに、私はそのたびに恋をしてどんどん好きになってしまうんだろう。


 空っぽになった、白ワインのボトル。
 その罠に引っかかったのはキースではなく、私だったようだ。








 お酒は、十八歳になってから。
 節度を守り、楽しく飲みましょう――
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感想 46

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みんなの感想(46件)

みる
2020.02.08 みる
ネタバレ含む
瀬尾優梨
2020.02.09 瀬尾優梨

みるさん

書籍版をお読みくださりありがとうございます!
元タリカは、せめてマリィだけにでも優しくしていれば、誰か一人でも相談していれば、話が違ったかもしれませんね。
私もみるさんの感想で「確かに」と考えさせられました。ありがとうございます!

解除
おひさま
2019.07.29 おひさま

読み返そうと思ったら本編無くなっちゃってた…。でも、番外編のキースもかっこいいから読み返します( ˙꒳​˙ )👍✨

瀬尾優梨
2020.02.09 瀬尾優梨

おひさまさん

書籍化にともない本編は削除し、現在レンタル有りとなっております。
番外編は削除しないので、どうぞお楽しみください!

解除
咲
2018.10.22

キースやばい
とにかくやばい
イケメンすぎる
どタイプすぎて死にます

瀬尾優梨
2018.10.22 瀬尾優梨

桜那さん

感想ありがとうございます。
キースは見た目はもちろん心もイケメンです。
嬉しいお言葉、ありがとうございます。
生きてください。

解除

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