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番外編
私だけの王子様 1
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夏の終わり。
いつものようにラトクリフ家のアトリエにお邪魔した私はキースから、ある知らせを受けた。
「コルベイルの、御前試合……?」
「そうだ。殿下や俺が出られる、最後の御前試合になりそうなんだ」
キースは教えてくれた。
コルベイルとは、キースやジェローム殿下が学校のクラブ活動で行っているスポーツの名前だ。たしか、創始者の名前を取っているんだったっけ。
私は男の子のするスポーツにあまり詳しくはないのだけれど……キースの説明を要約したところ、コルベイルは球技の一種だという。
フィールドに出られる選手は、最大六人。アメフトみたいに、ヘルメットと上半身にプロテクターを装着して、顔や体への衝撃を緩和させる。選手一人一人がボートのオールみたいな形の棒を持って、バスケットボール大のボールを打ってゴールを狙うというものらしい。
選手はコート外からのスローイン以外でボールに触れてはいけないし、オールの先でボールを転がすなどの行為も全て反則対象。ひたすらオールでボールを打って吹っ飛ばして味方でパスを繋ぎ、ゴールを決めるんだ。
私はこのコルベイルという競技について、クラブの男の子たちが持っているオールだけで判断しラクロスのようなものだと思っていた。でも選手の格好はアメフトみたいだし、ボールに触れてはいけないというのはサッカーみたいだし、ボールを打つという点では野球やゴルフに近く、そのほか諸々のルールはバスケットボールに近そうだ。ま、異世界だし考えても仕方ないよね!
キースは入学したときからコルベイルチームで活躍していたそうだけれど、もうじきジェローム殿下が学校を卒業し、王太子としての公務を始められるそうだ。キースを初めとした「殿下の学友」たちも全員、ジェローム殿下と同時に卒業することが決まっている。
御前試合は、夏と冬の二回開かれる。卒業予定は来年の春の頭だけど、秋頃にはもう引退しなければならないらしく、彼らが今のチームで御前試合に出られるのはこれが最後になるんだそうだ。
「そうなのね……キースは、御前試合のメンバーに入れそう?」
「あたりまえだ。俺はチームの中では一番小柄だし細い方だけど、ごつければいいってわけじゃない。俺には俺なりの戦い方があるし、それをチームの皆も先生も認めてくれている。エースとして参加するさ」
キースは自信満々に言う。
彼が勉強と執筆活動に加え、クラブ活動も精力的に取り組んでいることを私はよく知っている。
それに、この御前試合はキースたちの進路にも関わる。対戦相手は本場の騎士たちだけれど、少しでもいいプレイを見せたり一点でも奪い取ったりできれば、皆から注目される。御前試合には国王陛下、騎士団長、文官たちも数多く見学に来られるから、彼らにスカウトされるだけの奮闘っぷりを見せるのがクラブ生徒たちの目的だ。最初から、勝つことなんて考えてもいないんだ。
ジゼルが淹れてくれた冷茶を飲み、私は笑顔で頷いてみせる。
「キースならきっと大丈夫よ。応援しているわ」
「ああ。……それで、よかったらなんだが……俺たちの最後の御前試合、あんたも見に来てくれないか」
「え?」
思わず声を上げてしまう。
向かいの席のキースはカップを置き、私から視線を逸らしてぽりぽりと頭を掻いた。
「その……競技場は人もたくさんいるし、夏だからかなり暑い。あんたのきれいな肌が焼けたらいけないってのは分かっている。だから、無理ならいいんだけれど――」
「何言っているの? 行ってもいいのなら、ぜひ見に行くわ!」
私は身を乗り出し、気まずそうな顔のキースをじっと見つめた。
「せっかくのキースの晴れ舞台だもの。お肌なんて、少々焼けたって気にしないわ!」
「そこは気にしろよ!」
「えっ、キースは私がこんがり焼けてしまったり染みができてしまったりしたら、やっぱり嫌いになる?」
「なるわけないだろ!」
キッとにらみながら怒鳴られたけれど、その答えだけで十分だ。
一気に元気いっぱいになったキースにほほえみかけ、私は自分の胸を叩いた。
「それなら安心だわ。……大丈夫。日焼け対策はしていくし、邪魔にならないようにするわ」
「……そっか。いや……その、なんか悪い」
「もう……こういうときに言うのは『悪い』じゃないでしょ?」
めっ、とちょっと芝居かかった仕草で人差し指を立てると、キースはしばしあっけにとられたように私を見ていた。
でもすぐに彼は目元をゆるませ、優しい眼差しで頷く。
「……あんたの言うとおりだ。ありがとう、タリカ。あんたが来てくれるなら、百人力だよ」
「ええ。楽しみにしているからね」
……さて、私もマリィと一緒に日焼け対策を考えないとね。
いつものようにラトクリフ家のアトリエにお邪魔した私はキースから、ある知らせを受けた。
「コルベイルの、御前試合……?」
「そうだ。殿下や俺が出られる、最後の御前試合になりそうなんだ」
キースは教えてくれた。
コルベイルとは、キースやジェローム殿下が学校のクラブ活動で行っているスポーツの名前だ。たしか、創始者の名前を取っているんだったっけ。
私は男の子のするスポーツにあまり詳しくはないのだけれど……キースの説明を要約したところ、コルベイルは球技の一種だという。
フィールドに出られる選手は、最大六人。アメフトみたいに、ヘルメットと上半身にプロテクターを装着して、顔や体への衝撃を緩和させる。選手一人一人がボートのオールみたいな形の棒を持って、バスケットボール大のボールを打ってゴールを狙うというものらしい。
選手はコート外からのスローイン以外でボールに触れてはいけないし、オールの先でボールを転がすなどの行為も全て反則対象。ひたすらオールでボールを打って吹っ飛ばして味方でパスを繋ぎ、ゴールを決めるんだ。
私はこのコルベイルという競技について、クラブの男の子たちが持っているオールだけで判断しラクロスのようなものだと思っていた。でも選手の格好はアメフトみたいだし、ボールに触れてはいけないというのはサッカーみたいだし、ボールを打つという点では野球やゴルフに近く、そのほか諸々のルールはバスケットボールに近そうだ。ま、異世界だし考えても仕方ないよね!
キースは入学したときからコルベイルチームで活躍していたそうだけれど、もうじきジェローム殿下が学校を卒業し、王太子としての公務を始められるそうだ。キースを初めとした「殿下の学友」たちも全員、ジェローム殿下と同時に卒業することが決まっている。
御前試合は、夏と冬の二回開かれる。卒業予定は来年の春の頭だけど、秋頃にはもう引退しなければならないらしく、彼らが今のチームで御前試合に出られるのはこれが最後になるんだそうだ。
「そうなのね……キースは、御前試合のメンバーに入れそう?」
「あたりまえだ。俺はチームの中では一番小柄だし細い方だけど、ごつければいいってわけじゃない。俺には俺なりの戦い方があるし、それをチームの皆も先生も認めてくれている。エースとして参加するさ」
キースは自信満々に言う。
彼が勉強と執筆活動に加え、クラブ活動も精力的に取り組んでいることを私はよく知っている。
それに、この御前試合はキースたちの進路にも関わる。対戦相手は本場の騎士たちだけれど、少しでもいいプレイを見せたり一点でも奪い取ったりできれば、皆から注目される。御前試合には国王陛下、騎士団長、文官たちも数多く見学に来られるから、彼らにスカウトされるだけの奮闘っぷりを見せるのがクラブ生徒たちの目的だ。最初から、勝つことなんて考えてもいないんだ。
ジゼルが淹れてくれた冷茶を飲み、私は笑顔で頷いてみせる。
「キースならきっと大丈夫よ。応援しているわ」
「ああ。……それで、よかったらなんだが……俺たちの最後の御前試合、あんたも見に来てくれないか」
「え?」
思わず声を上げてしまう。
向かいの席のキースはカップを置き、私から視線を逸らしてぽりぽりと頭を掻いた。
「その……競技場は人もたくさんいるし、夏だからかなり暑い。あんたのきれいな肌が焼けたらいけないってのは分かっている。だから、無理ならいいんだけれど――」
「何言っているの? 行ってもいいのなら、ぜひ見に行くわ!」
私は身を乗り出し、気まずそうな顔のキースをじっと見つめた。
「せっかくのキースの晴れ舞台だもの。お肌なんて、少々焼けたって気にしないわ!」
「そこは気にしろよ!」
「えっ、キースは私がこんがり焼けてしまったり染みができてしまったりしたら、やっぱり嫌いになる?」
「なるわけないだろ!」
キッとにらみながら怒鳴られたけれど、その答えだけで十分だ。
一気に元気いっぱいになったキースにほほえみかけ、私は自分の胸を叩いた。
「それなら安心だわ。……大丈夫。日焼け対策はしていくし、邪魔にならないようにするわ」
「……そっか。いや……その、なんか悪い」
「もう……こういうときに言うのは『悪い』じゃないでしょ?」
めっ、とちょっと芝居かかった仕草で人差し指を立てると、キースはしばしあっけにとられたように私を見ていた。
でもすぐに彼は目元をゆるませ、優しい眼差しで頷く。
「……あんたの言うとおりだ。ありがとう、タリカ。あんたが来てくれるなら、百人力だよ」
「ええ。楽しみにしているからね」
……さて、私もマリィと一緒に日焼け対策を考えないとね。
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