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55話 遠洋漁業 1
しおりを挟む【マグロ視点】
「おい! さっさと、動け! その仕掛けにいつまでも時間掛けてるんじゃねぇ!」
「りょ、了解!!」
私はマグロ・フォルクス公爵……元公爵ではあるが。レミーラとの一件で父上や母上の反感を買い、現在は公爵の称号を剥奪され、一般人扱いで大型船に乗せられ遠洋漁業に来ている。
仕事仲間……いや、上司からは毎回のように怒号が飛んで来る環境下で働かされているのだ。
「しっかし、大変だよな~この仕事も。なあ、ええと……」
「あ、私は……いや、俺はマグロだ」
「そうかいそうかい、俺の名前はトビウオって言うんだ。よろしくな!」
トビウオ……何か親近感が出て来てしまうの気のせいだろうか?
「この遠洋漁業……2年間も岸に戻らないらしいじゃねぇか。部屋は個室じゃなくて、基本的には共同部屋だしよ。風呂もトイレも共同ときたもんだ」
「あ、ああ……そうみたいだな」
モヒカン頭のその男は低い声で私に話しかけて来ている。見た目ほど悪い人物には見えないが、私としては恐怖しか感じられない。それに、この船の中での生活は大変なのだ……共同の部屋にトイレや風呂までが共同と来ている。
つまり、プライベート空間などないに等しい。そして……乗組員の9割以上が男性なのだ。
「2年か……気が遠くなるな……」
「その通りだぜ、マグロ。まるで、罪人の懲役刑みたいなもんだぜ!」
私の場合は罰でここに居るわけだが、周囲の者達は罪人というわけではないだろう。中には借金の返済の為に乗せられている者も居るかもしれないが……。
「しかもよ、男ばっかりなんだぜ!? あり得るか……?」
「ま、まあ確かに……それはそうだけど」
「こっちは既に今の段階で溜まってるってのによ……」
何が溜まっているのだろうか? 聞くのが怖いのだが……いや、どういう意味かはもちろん分かっている。こういう長期の遠洋漁業では起こり得ると聞いたことがあるからな……。
「知ってるか? あそこで魔物が出て来ないように監視している冒険者達が居るだろ? 魔導士とシーフは女なんだぜ。しかもなかなかの美人って評判だ」
美人の女性も乗っているのか……なるほどな。ここに来る前は、私も美人に囲まれてはいたが……なんとも落差が大きいな。だが、女性が居るというのであれば少しは安心かもしれない。このトビウオという男のターゲットにはならないだろうからな。
私は少し安心していた……。
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