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なんか私がすごいえっち好きだと思われてるみたいで解せない!!
しおりを挟む『んっ、……ん、はぁ』
ぴちゃ、と漏れ聞こえてくる水音と共に、切羽詰まったような荒い吐息を肌に感じる。
休憩室のロッカーに押さえつけられるようにして立たされている芽衣は、あごを上げ降ってくる久我の口づけに懸命に応えている。舌をねじ込まれ、口内を探るように弱い力で擦られる感覚に過敏に反応し、ピクピクと体を揺らす。
『……っはぁ、はぁ……っん』
『…………えっろ』
重なっていた唇を離し嫌らしく目を細めて笑った久我は、再び角度を変えて芽衣を貪る。
昼休み以外に二回設けられている、小休憩の時間。
部署内でローテーションを組まれ、各自決められた時間になれば好きに席を立つことを許されている。今の時間、本来であれば休憩室を利用しているのは芽衣だけであるはずだった。
『んんっんぁ、あ、やっめ』
『っは、こんな事されても感じちゃうなんて、沢渡さん器用だね』
『………っ、んぁ』
芽衣の足の間に割り込むようにして膝を入れ、そのままグリグリと弱い力で股を刺激する久我。たまにグッと強弱をつけて押し付けられるその行為に、芽衣はビクッとさっきよりも大きく体を揺らして反応している。
『ダメ、手はこっち』
『……ッ』
強い刺激と共に感じる羞恥心に耐え切れず、今も自分のそこを小刻みに揺らして責め立てる久我のスラックスを掴もうと伸ばした手をとられ、彼の首へと回される。
『うっ……んぁっ』
『ん?』
小さく円を描くように股を刺激していた久我は、最後に芽衣の体を持ち上げるようにグリッと膝を擦り付けた後、ゆっくりと体勢を整える。久我の後ろ襟をギュッっと掴んで耐えていた芽衣は、ようやく解放されたのだと、はぁっと安堵の息を漏らした。
しかし、それもつかの間。目の前に立っている久我は、くたりと後ろのロッカーに背を預けた芽衣のスカートの裾を掴むと、グイッと胸下まで捲り上げた。先ほどまで彼の膝で強引に刺激を与えられていた秘所が曝け出され、空気に触れた肉唇が冷やっとした芽衣はビクリと体を揺らす。
『っふ』
『……っ』
『やっぱり、湿ってる』
嘲笑する久我の言葉に、一気に顔が熱くなった。
今朝、久我の部屋から出勤した芽衣は、「えっちな沢渡さんはどうせすぐ濡らしちゃうから、コレいらないよね?」と言われ、ショーツを奪われていた。そのため、スカートの下にはショーツを穿かせてもらえず、素肌にストッキングだけを身につけた状態で会社に来ていたのだ。
『んっ……』
湿り気を帯びた芽衣の股に、大きな久我の手のひらがあてがわれた。中指にだけ力を入れ、ゆっくりと下からなぞるように上がってくる。割れ目に食い込んだ指が中心にある蕾に触れ、ビクッと体を揺らす。
『……っはぁ、く、がくん』
『なに?』
爪でカリカリと蕾を何度も弄る久我に、こんな所で、もうやめてと口にしたかった芽衣だったが、コンコン、と休憩室の扉を叩く音が聞こえギュッと口を噤んだ。
『沢渡さん~いる?ちょっといいかな?』
この声は、同期の笹木君だ。
ドクドクと心臓が高鳴っているのを悟られないように、芽衣は扉に向かって答える。それを見た久我は這わしていた手をゆっくりと離した。
『ごめんね、休憩中。ちょっと急ぎで……ってお前も居たのか』
『はい、俺も沢渡さんに聞きたいことがあって。でもちょっと時間かかりそうなんで、先輩お先にどうぞ』
さっきまで、あんなに淫猥な表情を芽衣に向けていた久我は、今はいかにもいい後輩を演じて笹木と話している。芽衣は、笹木が早急に必要になったというデータが保存されているフォルダを伝える。「あーそこにあったのか!助かったわありがと」と言った笹木が、久我を見てふと視線を下に向けた。
『……ん?』
『なんですか?』
『お前、なんか膝濡れてね?』
笹木の指摘に、かぁっ顔が赤くなる芽衣。
『あーこれはさっき、沢渡さん──』
まさか笹木君に言うつもりなのか。
ビクッと体を揺らし、動揺した瞳を久我に向ける芽衣。そんな様子を横目に見た久我は、目を細めて笑う。
『──にもらったお茶、零しちゃって』
『何やってんだよ、お前。意外とおっちょこちょいだな。』
『…………』
『じゃ、行くわ! 休憩中にごめんね沢渡さん!』
久我、お前も早く戻って来いよ、と告げたと笹木が部屋を出ていく。扉が閉まったのを確認した久我が、振り返って芽衣を見る。
『バラされると思った?』
『……ッ』
久我が芽衣のスカートの中に手を入れ、そっとそこを撫でる。フッと笑いながら「さっきより濡れてる」と耳元で囁かれた芽衣は、ぎゅっと拳を握った。
『もうちょっとだけ、続きしよっか』
…………設定が妙に現実的で細かいな。
「────で、これなんですけど」
「うん、久我君はすごいね」
「?」
序盤の設定から、途中導入される笹木の無垢な質問に羞恥心を掻き立てられた表情描写まで、今日もバッチリ絶好調にキマっている久我の妄想に、芽衣は素直に感心していた。
◇ ◇ ◇
3週間前、飲み会の帰りに酔っ払った私を家まで送ってくれた久我和明。社内で噂のイケメンであり後輩である彼はこれまで、毎日毎日飽きもせず脳内で好き勝手に私を陵辱していた。てっきり、ただ性欲の捌け口として使われているだけだと思っていたんだけど……。玄関先で彼の心の奥に隠されていた好意を知ってしまった時、その爛れた脳内とは裏腹に、現実では優しい彼のギャップにうっかり絆されて、自ら誘う形で関係を持ってしまった。
目が覚めたら真ん前に久我の顔があった時は、内心かなりおったまげた。咄嗟に低血圧で寝ぼけているのを装い、なんとか風呂場まで逃げ込んできたわけだが……。
「…………よし」
芽衣は覚悟を決め、ガチャッと扉を開ける。部屋に入ると、こちらを向いた久我があっと口を開けるのが見えたが、サッと手に持ったタオルを押し付け、入れ替わるように脱衣所まで追いやった。
シャ──……
「…………」
風呂場から聞こえてくるシャワーの音がリアルで、じわじわと顔に熱が集まってきて収まらない。
使用済みのゴムは、私がシャワーを浴びている間に、久我がまとめてゴミ箱に捨ててくれたらしい。とりあえず、久我が風呂にいってる間に軽く部屋を片付けよう。
シーツは……もういいや、あとで。とりあえず布団被せとこ。
あ、あと下着下着!……ちょっと今更感はあるけど。
芽衣は窓際にかけてあった洗濯物をサッとクローゼットの中にしまった。
ふぅ、と一息ついたところで、カチャッと扉の開く音が聞こえた。
「!」
「沢渡さん」
毛先からポタッとこぼれ落ちた雫が、整った彼の顔を伝い胸元に落ちる。タオルを首にかけ、下だけを履いた状態で出てきた久我。昨日は玄関からもつれるようにベッドに移動したせいで、電気もつけず暗かったから気付かなかったが……。
意外と、しっかり鍛えられてる……。
そういえば、毎日アホみたいに見せられていた久我の妄想の中では、行為中、ヤツは脱いでおらず着衣プレイがほとんどであった。そのため、初めて久我の引き締まった上半身を目の当たりにした芽衣は、じわじわと顔に熱がともってきたのを感じて、スッと顔をそむけた。
その反応を見た久我は、ぱちりと瞬きをした後、少し間をおいて口を開いた。
「部屋着かわいいね」
「……あり、がとう」
《あ──もっかいしたくなってきた》
(えっ)
思わず身構えた芽衣であったが、しかし、特に何かされるわけでもなく、とりあえずここにと勧めたベッドまで久我は歩いてきた。
「沢渡さんって……セフレとかいるんですか?」
「え……いない、けど」
「そっか……付き合ってる人も?」
「うん」
なんでセフレを先に聞いた?
「じゃあ俺と付き合いませんか?」
「!」
ベッドに腰を下ろしながら、膝の上で指を組んでジッとこっちを見て告げた久我。その顔は真剣で、加えて社内で騒がれるほどのイケメンである。そんな彼から告白をされれば、きっと誰もが顔を赤らめて動揺しながらオーケーしてしまう事だろう。
だが……!
『こんなんで、よくそんな事言えたな』
『う、んぁ……っだ、だめ』
『ここは、俺の事大好きって言って離さないけど?』
ベッドの上で両手をまとめてタオルで縛られ、拘束された芽衣。何度も抽挿をされグチャグチャと音を立てている肉唇を親指で広げるように掴まれ、わざとゆっくりとしたストロークで腰を打たれる。ゾクゾクとするその感覚に敏感に反応した芽衣を見て、はっと笑った久我はもう片方の手を口の中に押し込んで、逃げ回る舌を指の間で何度も挟む。
『はっ、あっ……む、んっぁ』
『こっちの口も、ここみたいに素直ならいいのに』
……こ、告白しながら脳内で、断られた.verのエグイ「じゃあ体から落とす」イメージ映像流さないでもらえるかな……!!?
『早く言えよ、じゃないとずっとこのままだぞ』
『ン、んぅっうっんぁっ』
『まぁ、それでも俺はいいけど』
え。
し、しないよね……??
「…………うん」
「!……よかった。」
あ、消えた。……よかった。
脳内に流された、今までで一番ドキツイ陵辱映像に気圧されて頷いてしまったけど……。
「俺、去年から沢渡さんのこと好きだったんです」
頬を少し赤らめて照れ臭そうにそう言った久我を見ている私は、今どんな顔をしているのだろう。
◇ ◇ ◇
そして今。
芽衣は休憩室で久我にされた業務の質問に答えながら、脳内に直接流されている陵辱映像を見て考える。
……おかしい。
仮にも恋人同士になったのに、どうしてその相手を脳内で陵辱し続けるんだこの男は。
「沢渡さん、これは」
「うん、それはね」
久我の持つタブレットを覗き込みながら、指でササッと操作して説明する。
…………まぁ、答えは分かってるけど。
「わかった?」
「はい、ありがとうございます」
《あ──上顎責めながら、下もガクガク揺さぶりてぇ》
(…………)
ニコッといい笑顔を向けながら、心の声は性的な欲望があふれ出ている久我を前に、芽衣も同じように表面上は笑顔を向けている。
……おそらく彼は、ソフトSMが好きなんだろう。
しかし久我は、あれからも脳内では酷い扱いで私を辱めるくせに、実際にそういった行為をしてきたことは一度もない。何度か体を重ねても初めて部屋を訪れた日と同様、まさかあんなドSな事を考えているとは思わせない仕草と気遣いで、とても優しくしてくれている。
「ン……ッ」
「……」
説明を聞き終えた久我が休憩室を出ていく前に、振り返って触れるだけの軽いキスをした。唇を離す時にちゅっと音を立てた久我を見上げれば、口元をゆるめ優しく微笑まれる。
「ごめん、一回だけ。人いなかったから」
《ビックリしてる。かわいい、あ──このままめちゃくちゃに抱きたい》
「…………」
そして、最近では4、5回に一回はドロドロに甘やかされながら、気持ちいいところばかり何度も責められてイかされ続ける、快楽地獄のような妄想も挿入されるようになっていた。
「沢渡ちゃん~来週末、開いてる?」
「ええっと……はい、大丈夫です」
「よかった~九州に出張、一緒に行ってくれるか?」
小休憩から戻った芽衣の元へ、部長が出張の話を持ち掛けてきた。
どうやら一緒に行くはずだった別の社員が、急用で休むことになり、行けなくなってしまったようだ。
「え~~」
「頼むわー!な、帰り旨いとこ連れてってやるから!」
「わかりました!がんばります!」
「……現金だねぇ」
部長とのやり取りを横で見ていた由香が口をはさみ、あははっと三人で笑い合っていた時、ビビビッと背筋が伸びるような刺激を感じた芽衣。振り返ると少し離れた所、自身の席でカタカタとキーボードを叩いている久我が目に入る。こちらに視線を向けていないが、しっかりと会話は聞こえていたらしい。今、芽衣の脳内には入社以来お世話になっている、親子ほど年が離れた部長に厭らしく責められ始めた自分の映像が流れ込んできたのだ。
「…………ッ」
入社以来、一度も部長からこんな劣情を向けられたことはない。
故に犯人は一人しかいないのだ。
やめろ!!!! マジで!やめろ!!!
◇ ◇ ◇
「あちゃー……」
息を切らしながら、なんとかたどり着いた空港。
ディスプレイに表示されている文字を見て、部長が情けない声を漏らした。二人が乗るはずだった帰りの便が、強風で欠航になっている。
新幹線かバスで帰れないかと考えてみたが、結局、時間が遅いこともあり、予定の帰宅を遅らせてもう一泊していくことになった。
「とりあえずあっちには朝連絡入れるとして、今日はどっかホテルとるか」
「部長、さっきので私のスマホは死にました」
「え⁉ マジィ……?」
ここへ来る前、どこぞの観光客の団体様の波に押された芽衣。雨の影響もあり、持っていたスマホをスルッと濡れた手から抜け落としてしまった。運悪く角から落ちた先が結構な深さの水たまりで、すぐさま拾い上げたのだが、画面に小さいヒビが入っていたので危ない気はしていたのだが……。案の定、空港に着いた頃にはスマホを取り出して操作をしても、うんともすんとも言わなくなっていた。
「じゃあ俺から皆に、沢渡ちゃんに用事があったら俺にかけるように言っとくわ」
「ありがとうございます……」
沢渡ちゃんの機種だとあっち戻ってからじゃないと修理できんだろ?と言われ項垂れながらうなずく。部長がとってくれたホテルにチェックインした芽衣は、バタン、とベッドの上に倒れ込んだ。
風呂入って着替えなきゃ……。
いつもの癖でスマホを取ろうとして、はっと気づく。
「そうだった、使えないんだった」
ぼそりとつぶやいた言葉が、室内に飲み込まれる。
スマホが当たり前にある現代を生きる者として、それが急に使えなくなると、こんなにも手持無沙汰で寂しく感じるものなのか。
芽衣は室内に置かれていたリモコンを手に取り、テレビをつける。
……久我くん、何か送ってくれてたかな。
「お帰りなさい~。大変でしたね」
「ただいま……本当、大変だった」
「スマホどんまい」
予定より二日遅れて出張から戻ってきた芽衣は、部署に入った途端かけられた言葉に、ぐったりした様子で答えた。
「あ、お土産休憩室置いといたんで、皆さん召し上がってください」
「おーありがと~」
結局、飛行機の予約の関係で翌日も便がとれず、それを会社に伝えれば「だったらいっそ、もう一泊して遊んでおいでよ!特別休暇~飛行機はこっちで取っておくから~」という気前の良すぎるサイコーな社長の一言で、さらに一泊、しかも晴天の下で観光をして帰ってきた芽衣と部長。これもすべて部長が社長と十年来の友人であるおかげだ!と芽衣は部長の目の前で手を合わせて拝んでいた。
「沢渡さん」
「!」
後ろから名を呼ばれて、振り返った芽衣は久我と目が合った。
久しぶりの久我の顔にちょっとドキッとする。
「おかえりなさい、出張お疲れ様でした」
「久我くん……ありがと」
「新店舗の視察どうでした?」
ニコッとした表情で問い掛けてきた久我に、芽衣も嬉しくなって笑顔で答える。
「いい感じだったよ。窓も大きくて見晴らしもいいし、綺麗だっ……たよ」
芽衣の言葉は途中、不自然に詰まった。
そう、お察し……久我の心の映像が流れ込んできたからだ。
窓に押し付けるように後ろから体を密着させた久我に、パンパンと上に突き上げられるように腰を打たれている芽衣。腕は頭の後ろに重ねて黒い拘束具をつけられ、片足の裏腿を掴まれて腰を振られる。スカートは思い切り上にずらされて、露出させられた下半身が久我のリズムに合わせて、窓に押しつけられる。グチュグチュと卑猥な音を漏らしながら久我の男根が出たり入ったりしている結合部が、丸見えになっている。
『あ、今あの人こっち見たね』
『うっ、あぁっ……や、やだぁ』
『っは、嘘ばっか。ここ、こんなに泣いて喜んでるのに』
久我は自身の熱棒と繋がっている場所に、這わせた指を一本ぬぷっと入れる。
『うぁっ、あっん、あ』
『聞こえる?これ、グチュグチュいってるの、全部沢渡さんのだよ』
まるで、腰の上に座らせてるかのように窓に挟んで押さえつけ、下から何度も小刻みに突き上げる久我。
『あーすごい、中締め付けてる』
『うぁっ、やぁ、あっ』
『イくとこ、みんなに見てもらおっか』
『や、やだっ……ぁあっ』
抱えなおすため脚を持つ手に力を入れられ、二度突き上げられて体が宙に浮く。
『あっん、あっ、んぁっあっ』
『ほら、イけよっ知らねぇ奴に見られながらイけッ』
『う、っんぁあぁあっ』
後ろから窓に押さえつけられながら、下から久我の熱棒に激しく突き上げられ、声を上げる。芽衣が膣内を痙攣させ達した後を追うように、小さく声を漏らした久我が中に熱い欲をぶち撒ける。イッた後も数回下から押し上げるように久我は腰を押し付ける。全ての熱を出し切った久我が、ズルッと自身を引き抜くと、繋がっていた場所からピシャッと噴き出た二人の愛液が窓にかかった。
激しすぎる刺激に、支えられていた手を失った芽衣は、だらんとその場に倒れこんだ。
『あーあ、綺麗な窓汚しちゃったね』
お、おわぁ…………。
久我くん……怒ってる? もしかして機嫌悪い?
今までとは比較にならないほど激しく一方的な行為を直接脳に叩きつけられた芽衣は、思わず思考を停止した。はっと気づいた時には、いつのまにか部署に入ってきた部長と久我が話している。話をしながらこちらを見た久我と目が合った。ニコッと笑った久我に、私も笑い返す。
大丈夫かな? 顔ひきつってないかな、私。
「そんで結局、昨日は天気も良かったし、沢渡ちゃんと一緒に観光地見て回ってきたわ~。あ、俺からのお土産も一緒に置いといてもらったから食ってな~」
「へ──……そうだったんですね、ありがとうございます」
「…………ッッ」
少しトーンが下がった気がする久我の声を聴いた途端、脳に流れていた陵辱映像が、別の映像に切り替わった。
ベッドに膝立ちで上半身はうつ伏せに倒され、ヘッドパイプにネクタイで両手首を拘束され繋がれている芽衣。
『彼氏がいるのに』
『んぅ……あッ』
『部長にしっぽ振った、悪いここ』
グチュグチュ、と厭らしく肉のぶつかり合う音を立てながら揺れる芽衣の双丘が、久我の手のひらでパチンッと叩かれた。
『いっあぁっ、やっ、やぁっ……』
『っ、そんな締め付けんなよ』
くっ、と苦しそうに眉をひそめた久我が、皮肉をこめた目で笑う。
『喜ばれたらお仕置きにならないじゃん』
この男、真っ昼間から勝手に妄想で人を浮気させて、お仕置きプレイしてやがる……
「……?どうしたんですか?」
「…………」
ど、どうしたもこうしたもあるか!自分の脳内にきけ!
◇ ◇ ◇
「……久我くん、これ」
「なんですか?」
昼休み、昼食を買いにコンビニに行ったところで、中から出てきた久我と鉢合わせた。丁度良かった、と芽衣はバッグの中から小さな紙袋を久我に渡した。
「久我くんに、お土産」
「……俺だけ?」
「うん、皆の分のお菓子は休憩室に置いてあるから、そっちも食べてね」
嬉しそうな顔をして、お礼を言った久我。
お土産を手渡した瞬間、出張から帰ってきてからずっと脳を犯し続けていた、あの凶悪な映像が消えた事に芽衣はホッと一息をついた。
……ふぅ。
「あの、沢渡さん」
「ん……?」
「今日、うち来ませんか?」
「え」
お、お仕置き、する気じゃない、よね……?
浮気、してないよ……。
思わず背筋を伸ばした芽衣。
「五日も沢渡さんに会えなかったし……ダメですか?」
「…………ッ」
……かわいい。
脳内陵辱映像生成マシーンのくせに、今日だってずっと酷い妄想を繰り広げていたくせに。現実ではそれらを一切感じさせない、押し殺したような健気さを見せられる。
「……行く」
こうしてまた絆されるように、流されるように、芽衣はコクリと頷いたのであった。
(一応、ショーツ二枚買ってこ……)
◇ ◇ ◇
退社後、時間差で駐車場の久我の車まで向かう芽衣。
スマホが壊れたままだったため、連絡手段がなかったとハッと気づいた芽衣が、通路で久我とすれ違った際、耳元でボソッと駐車場所を囁かれた時は何か悪いことをしているような気分になって、無駄にドキドキしてしまった。
「そうなんだ……それでスマホダメにしちゃったんですね」
ハンドルを握り、視線は前方に向けたまま、既読つかないからあれ~って思ってました。という久我に「ごめんね」と謝る。
やっぱり何か送ってくれてたんだ。
「明日、修理にもってかないと」
「こっからだと駅前が近いですね。明日一緒に行きましょう」
「……うん」
「丁度休みでよかったですね」
赤信号で止まり、こちらをみてニコッと笑って言った久我。
あぁ……心の声さえ聞こえなければ、最高に理想の彼氏なんだろうなぁ……。
表面と内面のコントラストがすごい!
爽やかな笑顔を向ける久我を見ながら、芽衣は懸命にその奥に見える映像から目を反らしていた。
家につき、扉を開けた久我に続いて中に入る。
「お邪魔します」
「どーぞ、適当に座ってて」
冷蔵庫を開けた久我が問い掛ける。
「何か飲みます?」
「うん」
「んと、あ、お茶切らしてた。牛乳かカルピスしかない」
どっちも白いな
「沢渡さんカルピス飲める?」
「うん」
一人暮らしの成人男性の冷蔵庫の中に、牛乳かカルピスしかないとかある?
「…………」
久我の部屋に入った芽衣は、さりげなく周りを見渡した後、ふっと傍のベッドに顔を向ける。ヘッド部分がパイプになってる。これは……。
久我の妄想の中で、私が何度も腕を括り付けられたやつ……!
あの妄想、私の家じゃないと思ったら自分の家のベッドだったのか。まさか、あぁいうプレイをするためにこのタイプのベッドを買ったんじゃ……。
「? なんかあった?」
戻ってきた久我に、ベッドを凝視していたところを見られてしまった。
「ううん、なんでもない」
「……そう?」
マグカップを持った久我が近づいてきて、芽衣のすぐ横に座った。肩が触れるように軽く体を押される。
「芽衣さん、今ここ見てやらしいこと考えてた?」
「……っな」
「ふは、考えてたんだ」
考えてたんじゃない!強制的に思い出させられてただけ!と言いたいのに、妄想の中の光景を伝える事はできず、また急に名前で呼ばれたせいで、驚いて不自然に動揺してしまった。
「いーよ、しよっか」
そう言った久我は持っていたマグカップをテーブルに置いて、横からすくい上げるようにして芽衣の唇を塞いだ。下唇を軽く吸いながら、うっすらと目を開けた久我が、熱のこもった瞳で芽衣を捕らえる。一度離れては角度を変え、何度も口づけられた芽衣の息は次第に荒くなる。
雨のように降り続ける久我のキスを受け入れながら、そのままベッドの上へと持ち上げられるようにして押し倒された。
◇ ◇ ◇
「ンッ、……ぁんっあ」
クチュクチュと音を漏らしながら、芽衣の蜜壺が久我の指を飲み込む。
《芽衣さんはすぐ濡れるな》
(……誰と比べてんだ)
《キスだけでこんな感じてくれてるんだ》
(…………)
それは久我のキスがエロいからだ。そう言い返したいけど、言えない。
実際に与えられている快感とは別に、脳内でも意図していない久我の言葉に責められ、芽衣はビクビクといつも以上に体を反応させていた。
「……芽衣さん、いい?」
《えっろ……》
脳内とは対照的に、優しい久我の問いにコクッと頷く。
膣内をほぐしていた久我の指が抜かれ、熱く反り立った久我の男棒がヌプッとゆっくりと挿入される。
「ん……っあ」
「声、我慢しないで」
《だらしなく喘げよ》
ゆっくりと根元まで埋め込んだ後、雁首まで引き出されては、また埋め込まれる。ヌチャヌチャと音を立てながら繰り返される律動が、次第に速度を上げていく。
「んっあっ、あ……あっ」
「……はぁ、……ッ芽衣さん」
《気持ちいいって言え》
「んっ、あぁっ、き、もちい……っ」
「……ん、俺も」
《……かわいい》
久我が肩を掴んでいた芽衣の腕を取り、手のひらを合わせるようにして指を絡め、ぎゅっと握った。
「……っはぁ、芽衣さん……好き」
「うっ……んぁっ」
《……芽衣さんは、まだ俺の事、好きじゃないのかな》
「あっ、あぁっん、あっあ」
「……っ」
《嫌い、じゃないよなオッケーしたんだし》
久我は快感に喘ぐ芽衣を上からジッと見下ろしながら、ゆっくりとしたストロークで腰を動かす。
《ここはこんなにぐずぐずで喜んでるし》
《あー、早く俺の事好きになって》
《そしたらもっと、いっぱい愛して……》
《もっと、激しくするのに》
「……~~ッ」
脳内に直接流されている、いつものドキツメの陵辱映像を感じながら、それとは別に聞こえてきた久我の心の声に、芽衣はビクビクと体を震わせて達してしまった。
こいつ……っ
初めて家に来た時、胸で押しつぶしてしまった直後に見せられた妄想の時も思ったけど……
なんで同時に、こんな色んな事考えられるの……ッ!
「……ッは、芽衣さん、俺がイくまでっもうちょっと、頑張れる?」
「ふっ……んっう、うんっ」
芽衣がイったのを確認しつつ、こういった気遣いの言葉をくれる久我。
「ン、……んぁっあ」
「っふ……、は……ぁ」
昼間、会社で見た久我の妄想を思い出す。
いつもよりも、かなり過激で強引だった内容。
それでも現実の久我は、今、いつもと変わらない態度で腰を打ってる。
こんなにかっこよくて、優しくて……余裕のある彼を見ていたら、心の声なんて聞こえなかったら、自分の事をこんな思ってくれてるなんて知らなかったら、きっと、不安で不安で仕方なかったと思う。
別の男の人と泊まり掛けの出張に、連絡ができない状況が重なって、今日ずっと平気な顔をしていた久我が、本当は心の奥で不安に思って、嫉妬もしてくれていたんだと思ったら、たまらなく胸の奥がぎゅっと痛くなった。
「んっ……あっあぁ、んっ」
「…………っは」
《どうしたんだろ、今日凄い濡れてる》
シーツの上に広げた芽衣の手のひらを、絡めた指ごとベッドに縫い付けるようにして、覆いかぶさる形で腰を打っていた久我が、芽衣を見て考えている。
《感度もいいし、膣内ひくひくして気持ちい。数日空いたからかな》
久我の心の声の通り、もうシーツの色が変わるほど濡らしている芽衣の秘部からは、久我の熱棒を埋め込まれるたび愛液が溢れ出ている。
《芽衣さん結構、淫乱だからなぁ》
(…………)
今、浸っていたのに。
久我の心の声にむかっとした芽衣は、ギュッと中に力を入れる。
「……ッく」
急に自身を締められて声を漏らした久我を、下から満足げに見上げる。
「……ッ、……こ、のっ」
「わっ、うぁっあっ……あぁっ、ふふ」
目が合った久我が、眉をひそめながら笑って大げさに腰を振る。感じる所を狙って突かれた芽衣が甘い声を上げるが、久我の反応がかわいくて小さく笑い声を漏らした。
「芽衣さんのっえっちなここに、搾り取られるかと思った」
「……んっんあっ……ふっ」
脳内よりもずいぶん優しい言葉で責められて、また声を漏らしてしまった。
二人の甘い吐息と共に、ギシギシと軋むベッドの音と水音の混じった互いの肌がぶつかる音が室内に響いていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。もはや朝と言っていいのかわからない時間に目が覚めた芽衣は、壊れたスマホを修理するために久我の運転でショップへと向かった。その後は、「なんかお腹すいたね」と言った久我に連れられて遅めのランチをして、それから近くのお店をプラプラ見て回った。
……なんか、デートになってる。
いつも大体、仕事帰りに私の家に久我が一緒に帰って……という事が多かったから、こうやって昼間に二人で出掛けるのは初めてかもしれない。
結局、夕方遅くまでデートを楽しんだ二人。ちょっと疲れたんで家で休憩してきましょう、と言った久我に頷いた芽衣は、また彼の家まで戻ってきていた。
あ……そういえばメッセージ確認してなかった。
バックアップから復元できたアプリを起動し、未読メッセージを確認する。んー取り立てて急ぎの用事は何もなかったな、と画面をスクロールしながらほっとする芽衣。やがて、久我の名前のところでピタリと指を止めた。
「…………」
出張先で見られなくなってしまったが、久我が送ってくれていたというメッセージを開く。
『沢渡さんもう寝た?』
『新店舗はどうでしたか』
『【このメッセージは削除されました】』
『今日はゆっくり休んで、早く帰ってきてくださいね』
『おやすみなさい』
最後に付けられた、かわいいおやすみスタンプ。じわじわと胸が暖かくなる。
そして、ちょっと気になる【このメッセージは削除されました】。
いったい何を送ったんだ。
聞きたい。
聞きたいけど、もし部長とのアレコレに関係したものだったら、またあのエグイ妄想映像を脳に流されるかもしれない。
っく……。
「芽衣さん?」
「あっえ!うん!なに?」
それは嫌だ、と瞳を閉じう~んと悩んでいた芽衣は、突然名前を呼ばれビクリと体を揺らした。不自然に動揺してしまったせいで、久我は頭を傾けている。
「?どうしたの」
「あ、あれなんだろって」
「アレ……?」
芽衣が指さした方を見て、あぁ、と言った久我は、棚に置かれていたそれを手に取って芽衣に渡す。
「なに?」
「開けていーよ」
手渡されたのは、可愛いファンキーなキャラクターが描かれている小さな缶。
パカッと開けると、中にもこれまたファンキーなイラストが描かれたものが入っていた。
「……?なにこれ」
「ゴム」
「…………」
予想外の答えが返ってきたことに、芽衣はピタリと固まった。
「今日の夜はコレ使う?」
頬杖をついて、ジッと芽衣の目を見つめて言った久我。
じわじわと顔が熱くなっていく。
《あ、エロい事考えてる》
「……ッ」
考えさせるようなこと言ったのは、お前だろ!
なんやかんやで結局、二日連続で久我の家にお泊りする事になった芽衣。
奇しくも、あの時ショーツを二枚買っておいたのが幸いしたのであった。
なんか
なんか私がすごいえっち好きだと思われてるみたいで解せない!!
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