タッタラ子爵家の奇妙な結婚事情

れん

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子爵令嬢と公爵の政略結婚

寄り親と寄り子

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「お前の学園内での数々の悪行―――」
「あれは誰だ?」

 絶好調で殿下が叫んでいるのを眺めながら、婚約者が尋ねます。さすがに殿下やその婚約者である御令嬢を公爵であるこの人が知らない。と言うわけはないので、尋ねているのは殿下の後ろにいる少女でしょう。

「確か、男爵令嬢の、アーニャ・カルディ嬢ですわね。カルディ男爵家は、キャメル伯爵家が寄り親だったはずです」

 たしかそこの次男が同期だったはず。と、視線だけで会場内を探すと、あぁいました。真っ青になって立ちすくんでいるのでよくわかります。その近くには彼の婚約者令嬢とご家族が憤怒の表情を浮かべています。
 
 貴族とは言ってもすべてを王家が管理しているわけではありません。多くは寄り親や寄り子と言って血縁関係や場所的なもので上位貴族が下位貴族をまとめて管理、面倒を見ている形になります。
 
 他の家ともめた時に寄り親に仲裁を依頼したり、もめた相手が上位貴族の場合は寄り親経由で何とかしてもらったりするのが普通です。
 
 税は直接国へと納めますが、寄り子が納められない分を寄り親に補填を求められることもありますので、結構うるさく口出ししてくるケースもありそうです。寄り親と子の関係は様々で、そのようにうるさく口出してくるがフォローも手厚い場合、口出しもフォローも何もない場合、口は出すがフォローはないなど、本当にそれぞれですわね。
 
 それ以外にも就職先の斡旋や嫁ぎ先や嫁や婿の貰い手の紹介なども親にしてもらうこともありますし、逆に親から薦められることもあるので、この辺りはお互いに持ちつ持たれつというものでしょう。
 
 あまりにも親からの搾取が酷い場合などは国から指導が入るそうですが、そこまでいったケースはほとんどない。と言うところだそうです。我が子爵家は寄り親との関係は良好かつ正常なものですわ。
 まぁ、公爵家の後妻の話も寄り親から打診と言う名のほぼ命令でしたが。

「あの様子では何も知らなかったのでは?」

 囁くように言うと、婚約者が頷きます。殿下の話の趣旨は要するに彼の婚約者である御令嬢が、殿下の後ろにいる男爵令嬢へと暴言や暴行をしたという話で、それを咎めているようです。
 
 ですが先ほども説明した通り、普通はそう言った場合はまずは自身の両親、そこから寄り親、そこでもダメならさらに親の親へと話が持ち込まれます。まぁ大抵はどこかで「お前が我慢しろ」と言われて終わるんですが、普通はそうする物なんです。それが貴族のメンツってものなんです。
 
 王族からしてもそんな下々の些細ないさかいをいちいち王家にまで持ち込まれても困るだけですので、基本的には王家は下位貴族の諍いに直接口を出すことはないのです。お互いがお互いの領分を侵さない。それがこの国の秩序です。
 
 ところが現在、男爵令嬢の問題に王族である殿下が口を出されています。これはかの家の矜持を踏みにじる行いであり、越権行為でもあります。
 
 そりゃ、憤怒の表情も浮かべるというものでしょう。そしてそれはキャメル伯爵だけではなくその親の…………キャメル伯爵家の寄り親って、今まさに殿下に責められている御令嬢の家だったはず。
 
 私がそれを呟くと、婚約者が深い深いため息をつきました。私の声が聞こえていたらしい周囲へもそのため息は伝わります。
 殿下、二重の意味でやらかしています。いえ、まぁ、だからこそ「茶番劇」なんでしょうが。それでもどうしましょうか。

「それでは皆様、卒業式に花を添える素晴らしい公演を演じてくださった殿下とその婚約者に盛大な拍手を!!」

 そうこうしているうちに、学園長が強引にまとめましたわ。パラパラとおざなりの拍手が上がる。まぁ、見世物としても一流とはいいがたいものでしたものね。

 思わずこの前見た劇の方がよかった。と呟いた私に、婚約者が今度新しい劇に連れて行ってくれると約束してくださいました。
 そうこうしているうちに殿下たちは退場され、改めて式が始まります。

「失礼、アーゴン公爵とその婚約者様」

 そこに静かに声がかけられます。なんだろうと視線だけ向けると、とてもお世話になったダンス講師が立っておりました。
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