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第3章 ニートと帝国動乱

第56話 再会

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 帝都から帰ってきた翌日。

 朝方近くまで恋人たちとハッスルしていたこともあり、恋人たちと昼近くまで眠っていた。

 先に起きたティナに起こされてからはみんなでシャワーを浴び、昨夜恋人たちの身体に付けた汚れを落とした。と思ったらムラムラして風呂場でまた汚してしまった。そしてまた洗い流してスッキリしたあとは、みんなに着替えさせてもらいリビングでメレスたちと食事を一緒にとった。

 リビングに向かう途中。洗濯室でニーナが恍惚とした表情で俺の部屋のシーツの匂いを嗅いでいたのを見てしまったんだけど、俺はそれを見なかったことにした。どうもニーナはレミアに覗きのことを怒られてからは、匂いに興奮するようになったらしい。あの子本当にどうなっちゃうんだろうな。将来が心配だよ。

 食事を終えた後はそれぞれの持ち場に移動して、俺は宰相とラウラとマルスに連絡を取り帝国の状況を確認した。

 それによると予想通り一晩のうちに平民兵士によってロンドメル派閥貴族と、魔帝を裏切った貴族の大粛清が起こっていたよ。特に酷かったのは、ロンドメルの領内で起こった兵士の反乱だったようだ。そりゃ首謀者の兵士だからな。反乱なんて普通なら平民でも家族も連座で処刑されるほどの大罪だ。それが助かる可能性があるなら、それまで仕えていたロンドメルの一族を必死に探して殺すだろうな。さすが半分でも魔人の血が通ってるだけはあるよな。

 次に酷かったのは、魔帝の親戚のローエンシュラム侯爵家だったそうだ。これは俺も納得した。魔帝の一族なのに裏切り、ロンドメルについたあげくに俺相手に神風特攻をやらされたんだ。そりゃ怒り心頭だろう。もう魔帝の直系の子しか残らないんじゃないかね?

 そうそう、ラウラを裏切ったキシリアとかいう女侯爵も捕らえられた。なんでも配下の貴族たちに偽情報を流して、南アメリカで魔帝の息子と孫を相手に戦っていたらしい。予定ではすぐに壊滅させるはずだったらしいんだけど、魔帝の息子が討たれたあと孫がキレたらしく、兵をまとめてかなり粘ったらしいんだ。相当強かったらしい。

 そうこうしているうちに例の放送が強制的に流れて嘘がバレ、キシリアは速攻で拘束されたそうだ。俺はキシリアよりも魔帝の孫に興味が湧いて、ラウラにどんな男なのか聞いたんだ。そしたら昔の魔帝にそっくりだけどかなりのお馬鹿だと言ってた。俺はそれを聞いて綺麗さっぱり興味が無くなったよ。魔帝より馬鹿って相当だからな。関わらない方がいい。

 まあそんな感じで期限の今日の夜までは、まだ帝国各地で貴族狩りが行われるそうだ。それが終わったら魔帝とオズボードの派閥の奴らと、結果的に戦力の消耗の少なかったラウラが帝国各地の貴族領を歴訪して混乱を収拾していくらしい。そうして帝国本土の混乱を収めてから、ゆっくりと元地球国家の反乱を鎮圧していくそうだ。

 俺はその話を聞いて、2週間もしないうちに元の状態に戻りそうだなと思ったよ。だいたいアメリカや欧州の奴らは、なんで反乱が成功すると思ったんだろうな。ロンドメルが皇帝になったとしても勝てるわけないのにな。内乱が相当長引くとでも思ってたのかな。

 ひととおり情報を収集した俺は、もう大丈夫だろうと判断して避難していた住民を呼び戻すことにした。沖田にも連絡して、九州の領民たちにも避難施設から家に戻すように指示をした。その時に沖田がずっとデビルマスクを付けていたんだけど、補佐官兼恋人のエルフのエルミアに『余計ブサイクに見えるわよ』って無理やり剥ぎ取られて涙目になってた。なんだかんだとうまくやっているようだ。

 そして夕方になり、ギルロス……いや銀無だったか。銀無率いる真宵の谷忍軍と、ライガンたち親衛隊によってダンジョンと鹿児島の山地から住民が戻ってくる姿を眺めながら、俺は第二の家である温泉旅館へとティナたちと向かった。


 ♢♢♢♢♢


「それじゃあやるよ? 」

「ええ、お願い……」

「頼むぜコウ」

「お願いしますですコウさん」

「うん。絶対に成功させてみせるよ」

 俺は恋人たちが手を合わせて祈っている姿を横目に聖剣を取り出した。そして目の前に横たわる、黒髪の20代半ばほどのエルフのような美しい女性。カーラの遺体を見つめた。

 頼む。まだこの世にいてくれよ……

 そして聖剣をカーラに向けてスキルを放った。

『死者蘇生』

 俺がスキルを発動すると身体から魔力がどっと抜けていき、カーラの遺体の上に魔法陣が現れた。その際に魔力以外の何かが抜けていった気がしたが、魔法陣が光をカーラにあてたところでそんなことはどうでもよくなって俺はスキルが成功するかを見届けた。

 やがて魔法陣が放った光が消えていき、次の瞬間

「あっ、魔力よ! 」

「やった! 成功……したんだよな!? 」

「心臓の鼓動が聞こえますです! 」

「コウさん。カーラさんは生き返ったのですよね? 」

「ああ、スキルは成功したよ。カーラさん、カーラさん、起きてくれ」

 俺はカーラから感じる魔力の質が、間違いなく俺の記憶にある魔力と同じであることから、オリビアにスキルは成功したと答えた。そしてはやる気持ちを抑えながらカーラの肩を揺すった。

「ん……う……ん……あ、貴方は……コウ? それにリズ……私は眠っていた……の? いえ……私は死んだ……はず……」

「覚えてた……よかった……よかった……」

 俺はカーラが俺を覚えていてくれたことで、間違いなくあの時のカーラが蘇生したのだと思えて感極まった。

「カーラァァァ! やった! 生き返った! カーラが生き返った! 」

「ううっ、カーラさん……よかったですぅ」

「カーラ、貴女は一度死んで生き返ったの。貴女が守っていた宝物庫にあったスキルでね」

「え? スキル? 生き……返った? リッチエンペラーの私が? あっ! ここは……ダンジョンではない? 」

「ああ、ここは俺たちの別宅だ。ダンジョンの中じゃない。カーラさんは一度死にまた生き返った。それによりダンジョンの呪いから解放されたんだよ」

 俺は身を起こしリズとシーナにしがみつかれながら軽く混乱しているカーラに、もう呪いから解放されたのだと伝えた。

 カーラは俺の言葉にしばらく目を見開いたまま固まったあと

「うそ……あ……ああ……神よ……ありがとうございます……神よ……」

 両手を胸に当て頭を下げ、神に感謝の祈りを捧げていた。

「カーラさん。勝手に生き返らせてごめん。でも俺たちはカーラさんとまた会いたかったんだ。辛い人生を歩んできたカーラさんに、生まれ変わって幸せになって欲しかったんだ。あんなダンジョンに操られたまま死ぬなんて認めたくなかったんだ」

「コウ……貴方はどこまでも優しいのね。私は一度死んでるとあれほど言ったのに……でも、ううん。謝る必要なんて無いわ。私ね、少し未練があったの。フフッ、死ぬ前に貴方たちと話したせいね。もっと話していたかったって、来世でコウたちに出会えますようにってあの時そう神に祈りながら眠ったの。だから謝る必要なんて無いわ。ありがとうコウ。また優しい貴方たちに会えて嬉しいわ」

 カーラはリズとシーナの頭を優しく撫でながら、俺たちにそう言って微笑んだ。

「ガァァラァァ! よがっだ……いぎがえっで……よがっだ」

「カーラさん……兎がいっぱいお話ししますです。いじりたがってた魔道具もいっぱい持ってきますです」

「フフッ、ありがとうシーナ。もうリズ、そんなに泣かないで。私も涙が……え? 涙? 」

「ん? どうしたのカーラさん? 」

 俺はカーラが号泣しているリズを困ったように見つつも、自分の頬を流れる涙に驚いている姿が不思議に思えた。

「なぜ涙が……コウ、私はリッチエンペラーだったの。知能のある死体だったのよ。涙がでるなんてありえないの」

「あ……確かに……でも心臓の鼓動が……え? 心臓!? 」

 俺はカーラに言われてやっとおかしいことに気づいた。見た目は肌が少し白すぎるくらいの人族にしか見えず、ダンジョンで普通に話していたから気づかなかった。そうだよ、彼女はリッチなんだ。上位種とはいえ死体に魂を宿らせた存在だ。心臓があるはずがないし、涙を流せるのもおかしい。

 俺は何がどうなっているのか知るために、カーラに断って彼女を鑑定した。

 その結果……



 カーラ・アルケリス

 種族:めい

 体力:S

 魔力:SS

 力:S

 素早さ:S

 器用さ:S+

 取得魔法: 古代錬金魔法・古代火炎魔法・古代重力魔法

 種族スキル: 死者操術・不死

 備考:  失われた古代王国の大魔導師の魂を継承




 なっ!? 冥族? カーラさんの種族が冥族になってる……

 なんだ? なぜ種族が? もしかして身体はダンジョンが作った物だからか? 魔法はそのままだけど、スキルは即死系や闇系のスキルが無くなってる。リッチエンペラーってのはダンジョンだけの種族ってこと? ダンジョンを出たら別の種族になるってことか……よくわかんないな。

 それにしても死者操術ってなんだ? 字面的にネクロマンサー的なスキルか? それに不死? こっちはヴァンパイア的な感じか? てかこれって無敵じゃね?

「どうしたのよコウ、そんな驚いた顔をして」

「あ、ああ。カーラさんの種族が冥族ってのになっててさ……」

「ええ!? リッチエンペラーじゃなくて? 」

「グスッ……なんだ? 冥族って? 」

「初めて聞きますです」

「私も知りませんね……」

「冥族……確か魔界に住む少数種族だと書かれている文献を見たことがあるわ。確かその姿は人族に酷似していて、身体は不死で死者を操る能力があると言われているわ」

「そうなんだ。種族スキルに死者操術と不死がある。ランクは魔力がSSでそれ以外はSに落ちているけど、これは蘇生した時のペナルティだと思う。ああ、魔法はそのままだ」

 魔界の種族ということは魔族って事か。しかしオリジナルの冥族ってどんな容姿なんだろうな。やっぱカーラみたいに美人なのか? 気になるな。いや、死ななきゃ行けない魔界なんか行く気はないけど。

「マジか! 不死であのやべえ魔法ってのが使えて死体も操れるのかよ! 最強じゃねえか! 」

 リズは心なしか嬉しそうだ。恐らくゾンビ軍団を作ることをまだ諦めていないんだろう。

「ですです! あ、でも魔石を狙われたらどうなるんです? 」

「……魔石の場所を移動できるわね……変な感じね……でも錬金魔法が残っているならなんでもいいわ。どうせもともと死んでるんですもの。もう死なないなら飽きるほど研究ができるわね。フフッ、神様のサービスかしら? 」

「ま、前向きね。カーラがいいならいいんだけど」

「一瞬ライムーン伯爵とカーラさんが被ったわ。研究者ってみんなこんな感じなのかしら? 」

「ライムーン伯爵って変人で有名な人でしょ? 変な喋り方をするって聞いたわ。そんな人とカーラを一緒にしたらかわいそうよ」

「それもそうよね。きっと気のせいね」

「まあ謎は解けたということで。カーラさんはカーラさんだし、種族なんて関係ないさ。とりあえずカーラさん、魔素は大丈夫そう? 少し息苦しいとか感じない? 」

 魔族なら魔素がないと死んでしまうからな。低ランクのオークと違って、高ランクの魔族ならそれなりの魔素が必要なはずだ。魔人が大丈夫だから問題は無いと思うし、今も苦しそうに見えないけど死ぬ時に俺たちを気づかって笑って逝ったくらいだからな。ちゃんと聞いておかないと。

「ええ、ここはダンジョンより少し薄いくらいだし、この身体だと濃く感じるくらいよ。チキュウだったかしら? ずいぶん魔素が濃いのね」

「まあ古代ダンジョンを2つ攻略したしね。うん、苦しくないならいいんだ。それじゃあしばらくこの旅館に住んでよ。その間に本宅にカーラさんの部屋と研究室を作るからさ」

 西塔はメレスたちが住んでるからな。悪魔城の間取りを変えて、カーラの部屋と研究室を作らないと。

「ありがとうコウ。でもまだ研究室は必要ないわ。不死なら研究なんていつでもできるもの。それよりも私は強力な魔法が使える。恩返しもしたいし、リズたちと一緒にダンジョンの攻略を手伝うわ」

「気持ちだけ受け取っておくよ。俺たちは別にカーラさんを戦闘要員として蘇生させたわけじゃないし。さっきも言ったけど、カーラさんには大変だった前世でできなかったことを思いっきりして欲しいと思ったから蘇生したんだ。第三の人生は国やダンジョンに縛られることなく、自由に生きて欲しいんだ。ただそれだけなんだよ。だから無理に戦うことも必要ないし、作りたくない物は作らなくていい。生まれ変わった一人の女性として幸せになって欲しいんだ。ただそれだけなんだよ」

 カーラは前世で世界を滅ぼすような兵器を作らされた。そしてそれにより自分も大切な家族もそして世界も滅んだ。それは相当な後悔があると思う。

 けどもう一度死んでるんだ。そして死してもなおダンジョンにその魂を利用され苦しめられてきたんだ。

 もういいだろ? もう好きにしたっていいだろ? 彼女は二度も死んだ。もう十分だろ。この三度目の生くらいは一人の女性として、何者にも縛られない自由な人生を歩んだって許されるはずだ。

「コウ……」

「そうよカーラ。ダンジョンなんて本当はコウ一人で攻略できるもの。私が離れたくないからついて行ってるだけなの。だから気にしなくていいの。好きにしていていいのよ」

「エスティナの言うとおりですよカーラさん。でも、それでも何かしたいと思うのでしたら、異世界の王国の政治や文化などを教えてください。帝国より遙かに進んだ文明に興味があるんです」

「エスティナ、オリビアも……ありがとう」

「そうだ! アレ作ってくれよ! 転移装置ってやつ! それを使って一緒に世界中を日帰り旅行しようぜ! 」

「兎は異世界の夜伽とか興味があるです! 激しいのとか特に! 」

「そ、その知識は私は経験があんまり……あっ、リズ。転移装置ね。それなら魔石とミスリル鉱石さえあれば作れるわ」

「マジか! やりぃ! 」

「むぅ……でしたら何か拷問や処刑の道具を教えてくださいです! 興味がありますです! 」

「ええ!? シーナってそういうことをするのが趣味なの? 人は見かけによらないのね……」

「カーラちげえよ、される方だよ。シーナは変態なんだ。こんなのがあたしの親友とかやんなっちまうぜ」

「ぶぅぅ! 兎は変態じゃないですぅ! コウさんの愛の強さを確かめたいだけですぅ! リズさんなんてコウさんに求められたらなんでもするじゃないですか! 昨日の夜だってコウさんに抱えられておトイレでするみたいに漏ら……」

 あ……始まった。

 俺は巻き込まれてカーラの前で恥をかかないよう、そっとティナの後ろに隠れた。

「ぎゃぁぁぁ! テメッ! シーナ! なに言ってんだよ! その口か! その口が悪いんだな! 切り裂いてやる! 」

「ふえぇぇ! コウさん以外に切られるのはお断りですぅ! カーラさん、重力魔法であのお漏らしリズさんを押し潰してくださいですぅ! 」

「え? え? 」

「なんだと変態ドM兎! カーラ! あいつだ! あの変態兎を押し潰してくれ! 大丈夫だ、気持ち悪い顔を浮かべながら悦ぶから! 」

「え? よ、悦ぶ? え? 」

「こらっ! 二人ともいい加減にしなさい! カーラが戸惑ってるわよ! 」

「でもシーナの野郎が……」

「リズさんが……」

「プッ……ククッ……あはははは! フフッ、本当に賑やかね……よかった……またみんなに会えて本当に……」

「カーラ……」

「カーラさん……」

「あはは、騒がしいだろ? いつもこんな感じなんだ。こんな俺たちでよければこれからもよろしくな。カーラさん」

 ティナが怒ったことで安全を確認できた俺は、そう言ってカーラに手を差し出した。

「フフフ、カーラでいいわコウ。ええ、こちらこそよろしく。異世界の勇敢でとても優しい人族のコウ。そしてエスティナ・リズ・シーナ・オリビア」

 カーラは微笑みながら俺の手を握った。

「ああ、よろしくなカーラ! 」

「よろしくですぅ」

「ふふふ、カーラよろしくね」

「よろしくお願いしますカーラさん」

 リズたちはカーラに応えるようによろしくと言いながら、俺とカーラの手に手を重ねた。

 そしてその後は夜までダンジョンでカーラと別れたあとのことや、この世界のことをみんなで楽しく話し合った。

 その時ふと、ある考えが脳裏をよぎった。

 もしかしたら、もしかしたらだけど。

 不幸な最期を遂げたカーラが、俺たちを攻撃しないよう耐えていた優しいカーラが、蘇生のスキルのあるあのダンジョンのボスとして召喚されたのは……

 攻略した者たちに生き返らせて、新たな人生を歩ませるためだったのかもしれない。

 いや、あの意地の悪いダンジョンがそんなことをするわけないか。

 結果論だな結果論。

 俺はそんなことを考えながら、楽しく話をしているカーラと恋人たちを眺めていたのだった。



 
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