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第3章 ニートと帝国動乱

第14話 日課

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「ようこそ出雲さん。阿久津男爵軍は貴方を歓迎します」

「私のような老骨をお誘いいただき光栄です。男爵閣下 」

「俺は軍事のことには疎いですが、荒川大佐からの推薦です。貴方を全面的に信頼します。訓練課程を終え次第、第二飛空艦隊司令官に任命しますのでそのつもりでいてください。そしてこの阿久津領を守るため力を貸してください」

 俺は荒川さんがスカウトに成功した、海上自衛隊の艦隊司令官だったという初老の男性にそう告げた。

 荒川さんたちスカウト部隊を送り出してから1ヶ月ほど経ち、元航空自衛隊や海上自衛隊の指揮官クラスの人材が続々と桜島にやってきていた。俺はその都度軽く面接をした後に全ての人を採用し、家族を連れて来るように伝えた。その際に衣食住の全てを男爵家が保証すると言って支度金も渡した。

 そして今日。とうとう一番の大物である、海上自衛隊の知将と呼ばれていた出雲元海将補を迎え入れることに成功した。

 この人は自衛隊では有名な人らしく、白髪の目立つ50代後半の男性だ。軍人らしく鋭い目つきをしており、荒川さんが師と仰いでいる人でもあるらしい。なんでも昔陸海の自衛隊が海外派遣した際に知り合ったのだとか。

 そんな出雲さんも帝国に占領されてからは、海上自衛隊が解体され田舎で隠居生活をしていたそうだ。そこで生活に困っていた元部下たちの生活の面倒を見たりもしていたらしい。その話を聞いて情に厚い人物なんだなと俺は荒川さんに抱く印象と同じものを感じた。

 そんな人徳のある彼がうちにいるということが広まれば、さらに多くの優秀な元自衛官が集まることだろう。

 出雲さんの趣味は釣りとお酒らしく、特にお酒は大好物みたいだ。だがそれも生活に苦しくて安酒で気を紛らわせる日々だったらしい。

 まあこれで飛空艦隊は大丈夫だろう。あとはダンジョンでランクを上げて飛空艦の訓練を受けてもらうだけだ。そしてその後は司令官不在で名ばかりだった第二艦隊を任せようと思う。


「はい。海上自衛隊が解散し、職を失い露頭に迷っていた私と元部下。そしてその家族にまでも手を差し伸べていただいたこの御恩は、この命を懸けてお返しさせて頂きたいと思っております」

「うちは人手不足だったので気にしないでください。それに簡単に死なせたりなんてしませんよ。皆さんにはダンジョンで魔物を倒しランクを得てもらいます。そして指揮官には身体強化のスキルを優先的に取得してもらい、生存率を上げてもらいます。生きてなるべく長く領地のために尽くしてください」

「ダンジョンに……ですか? 魔物との戦闘経験はございませんが、ご期待に添えるよう尽力いたします」

「心配しなくても大丈夫ですよ。指揮官の方は、高ランクの者が倒した魔物にトドメを差すだけです。艦内での白兵戦など、剣を持って戦うのは若い方に任せます。指揮官の方には拳銃タイプの魔銃の訓練くらいですね。火薬式の銃と扱いはそう変わりませんから安心してください」

 さすがに剣を持ったことのない老人に魔物と戦えとかは言わないさ。指揮官には護身用に拳銃タイプの魔銃を持たせて、あとは若い兵に戦わせればいい。拳銃タイプの魔銃はライフルタイプの物より威力が弱いけど、帝国兵相手に牽制程度には使える。逃げるための時間くらいは稼げるはずだ。

「そこまでお気遣いいただけるとは……恐縮です」

「気にしないでください。良い指揮官が長生きすれば、その分兵の消耗も抑えられますから。さて、では荒川大佐。出雲さんとそのご家族を宿舎へ案内してください」

「はっ!  失礼します!  」

 俺は剣で魔物と戦わなくていいと聞いたからか、どこかほっとした様子の出雲さんを、その後ろで控えていた荒川さんに案内するよう指示した。

 荒川さんは俺に返事をした後に出雲さんを連れ、自衛隊式の敬礼をしてから執務室を退出していった。

「よし。一番欲しかった第二艦隊司令官が手に入ったな。フォースター、訓練の方は頼むぞ。海上の船に乗っていた人だ。色々と勝手が違うと思うからな」

 俺はずっと隣で話を聞いていたフォースターへ顔を向けそう指示をした。

「ハッ!  最短で使えるように致しましょう」

「帝国が静かな今の内に頼む」

 フォースターがハマールのとこの豚伯爵から仕入れた情報では、どうもロンドメルが派閥を問わず色々な貴族と交流を図っていて怪しい動きをしているようなんだ。

 この間のセレスティナの行動に対しての詫びも必要以上の物だったしな。

 あの後どうもセレスティナは平民に落とされた挙句に、隷属の首輪を嵌められてどこかの貴族に贈られたらしい。確かにムカつく女だったけど、自分の姪に対してそこまでするのかよとも思った。カストロ侯爵の詫び状には、それだけロンドメルが俺との友好を第一に考えているとか書いてあったけど、俺はなんともいえない後味の悪さを感じていた。

 そのうえ結構な数のダンジョン産のマジックアイテムやスキル書。それに武器や防具まで送ってきた。アイテムには身体強化のスキル書に、低級とはいえ護りの指輪が大量にあった。これは軍を編成中のうちにとって正直言ってありがたかった。さすがダンジョンの多い中国と、ロシアの半分近くを管理しているだけはあるわな。まあここまで誠意を見せられれば、俺も今回の件は無かったことするしかなかったけどな。ロンドメルは本当にうちと友好関係を結びたいようだ。

 でもロンドメルのこの対応に、フォースターとオリビアは無茶苦茶驚いていた。二人は姪を拒絶され格下の貴族に謝罪すら求められて顔を潰されたロンドメルは、俺との友好を諦めて敵対するか逆ギレして宣戦布告をしてくるかのどちらかと思っていたらしい。それだけロンドメルはプライドが高く、そのうえ短気で苛烈な男で有名なんだそうだ。

 そんな男がカストロを通してとはいえ素直に詫びてきて、さらに賠償金代わりに貴重なダンジョン産のマジックアイテムを送ってきた。フォースターとオリビアは驚きとともに、これは裏に何かあると考えたみたいだ。

 恐らくここ最近ロンドメルやその派閥の貴族が、マルスやハマールの派閥の貴族に急接近している事と関係があるだろうと。もしかしたらクーデターを計画しているのではないかって。だから俺にそれを邪魔されたくなくて懐柔しようとしているのではないかと言っていた。

 俺は魔帝とロンドメルの仲が悪いのは聞いていたから、なら好きにさせておけばいいと思っていた。魔帝にはマルスとハマールの二人の公爵が付いてる。そう簡単には負けないだろう。というか返り討ちにあうと思う。

 懸念があるとすれば、帝国が混乱している時に地球の元国家群が動き出す可能性があることだ。でもそれもすぐに鎮圧されるのがオチだ。さすがにどの貴族も管理地をもぬけの空にして戦争したりしないだろうしな。

 魔帝はロンドメルを潰したがっていたし喜んでんじゃないのかね? 

 しかしほんと殺伐とした国だよな。さすが魔族の国だわ。そんな脳筋どもとは関わらないに越したことはないな。

 まあそれでも俺たちが強引に巻き込まれる可能性も無いとは言えない。だから軍の編成と訓練は極力短い期間で済ませたい。

「ハッ! 私にお任せください。必ずや精強な軍に仕上げてみせましょう」

「期待している。今日は忙しいのに朝から悪かったな。もう戻っていいぞ」

 俺はフォースターの頼もしい返答に頷き、仕事に戻るように言った。

「ハッ! 失礼します! 」

「ふう……あっ、もうこんな時間か! やばっ! 」

 俺は執務室を出て行くフォースターを見送ったあと、時計を見てから慌てて真新しい地球の携帯を取り出し画面を確認した。

「うっ……メール58件」

 携帯のディスプレイには大量のメールの通帳が表示されており、俺は一気に気が重くなっていくのを感じていた。

 そして恐る恐るメールの受信画面を開くと、そこには『奴隷ラウラ♡』という送信者名がズラリと並んでいた。

 そう、この携帯はハマールから送られてきた物だ。ご丁寧に電話帳を弄れないようにロックがしてあって名前を変えることもできない。

 なぜ俺がハマールから送られてきた電話を捨てずに持っているかというと、不本意ながらハマールを奴隷にしたあの日以来、毎日電話してくるハマールに俺は電話を掛けるのを禁止する命令をしたんだ。するとハマールはそれなら毎日ここへ来ると言い出したので、俺は冗談じゃないとハマールと口論になった。

 そしてその結果。泣きだしたハマールに負けて毎朝俺が電話をすることと、月に最低一度は会うことを約束させられてしまった。仕方なかったんだ。あのハマールが泣くなんて想像すらしていなかったからつい……

 それからここ一週間、俺は毎朝ハマールに電話をすることになった。そしてたまに朝が忙しくて電話をするのを忘れると、こうしてメールで怒涛の催促をしてくるんだ。これを無視し続けると横須賀から飛んで来そうなので早く電話をしないといけない。

 魔帝は魔帝でしょっ中電話してきてメレスメレスとうるさいし、ハマールには定期的に電話しないといけない。俺はもう文明の利器のない世界に行きたいよ。

 俺はメール画面を開き、『命令はまだですか? 』とか、『早く命令を』とか、『放置プレイですか? それならそういった命令を』とか書かれているメールをひと通り流し読みしてから、ハマールへ電話を掛けた。

 すると呼び出し音が聞こえる前に、ハマールの興奮した声が俺の耳に入ってきた。

 《ご主人様ぁぁぁぁぁぁ! ラウラはお待ちしておりましたぁぁぁ!》

 《わ、悪い。軍の面接をしていた》

 くっ……相変わらず濃い……

 《ハァハァハァ……放置するなど酷いです……もう少しで達してしまうところでした。スカートがもうびしょびしょです。さあ! ご命令を! 今日は何をすればよろしいのですか? 昨日のご命令通りお尻に猫の尻尾を挿したままです。トイレ以外ではずっと付けてます。早く次のご命令を! 》

 《あ、ああ……じゃあそれは付けたままで。周りにバレないようにな? 今日はそれプラス言葉の語尾に「ニャ」と付けて話すようにしろ》

 マジかよ……一晩中付けてたのかよ。痔にならないのかな………

 俺は夜になったら外していいと言ったのに、未だに大人のおもちゃである猫の尻尾を尻に付けているハマールに次の命令を伝えた。

 《そ、それは……部下の手前ご勘弁願えませんか? 》

 《なんだ? 嫌なのか? そうか……えっと……お前は誰のモノだ? 》

 《あっ……くふっ……ハァハァハァ……ご主人様のモノです! 》

 《なら言う通りにしろ……えっと……弱いお前が悪い。弱いお前はどんなことでも俺に従わなければならない。そうだろ? 》

 俺はなるべく傲岸不遜な言い方になるよう意識してハマールにそう言った。

 ちなみにこれは俺が考えたセリフじゃない。ハマールが送ってきたセリフ集に、こういう時はこう言って欲しいと書かれていたんだ。行動と思考がシーナそっくりだよ。ドMってみんな同じことを考えるのな。

 《あくっ……ハァハァハァ……私は弱い……だからご主人様に支配されて……私が弱いから…… チキュウの人族にこの私が……ハァハァハァ……堪らないわこの無力感……んくっ……ハァハァ……し、従います……ニャ》

 《よ、よし。なら明日俺が電話するまでずっとそうしていろ。尻尾は夜に外していいからな? あとなるべく可愛く言うようにしろ。命令だ》

 《は、はいニャ♪  うっ……この屈辱感……た、堪らないニャ♪ 》

 《う~ん……まあいいか。ちゃんと言うことを聞いていたらちゃんと来週会ってやる。そしてそこで更なる無力感を味合わせてやる。だからおとなしくしておけよ? 》

 《は、はいニャ! ご主人様に会って調教して頂けるのを楽しみにしておりますニャ♪  》

 《じゃあ俺は仕事に戻る。ちゃんと言えたかシュヴァインの豚に確認するからな? じゃあまた明日な》

 《わ、わかりましたニャ♪  》



「くそっ……なんで俺がこんなことを……」

 俺は電話を切ったあと机に突っ伏し、どうしてこうなったと過去の自分の行いを悔やんでいた。

 あの時受け入れるとか言わなければ……電話越しに泣かれた時に毎朝電話すると約束しなければ……

 いや、今さら嘆いても仕方ない。もうこれは仕事だと思うしかない。心を無にしてこなせばいい。電話でならシーナとのプレイよりはダメージが少ない。笑顔でトゲ付きの鞭で叩いてくださいと言われるよりはマシだ。


 コンコン

 ガチャッ

「あら? どうしたのよコウ? 具合悪いの? 」

「ああ、ティナか……なんでもないよ。仕事はひと段落ついたの? 」

 俺が机に突っ伏していると、執務室にティナがやってきた。俺は心配している様子のティナになんでもないと言って、ソファーに移動しながら家令の仕事がひと段落したのかと尋ねた。

「ええ。宰相が帝国銀行の出張所を手配してくれることになったから、あとは銀行に任せるわ。軍の新兵たちの口座も作り終えたし、あとは人事と家計の仕事くらいかしら? 」

「全部任せちゃって悪いね。感謝しているよ」

 俺はそう言って隣に腰掛けたティナの肩を抱き寄せ、額に軽くキスをした。

「ふふっ、いいのよ。アイナたちも手伝ってくれてるし、なにより私が好きでやってるんだから。コウの役に立ててるのが嬉しいの」

「ありがとう。ああそうだ。ティナの欲しがっていたイタリア自治区のフェアガモの新作の靴なんだけど、発売前に手に入りそうなんだ。しかもなんとティナ用にオーダーメイドで作ってくれるってさ」

「きゃー! ホントに!? コウ大好き! ありがとう! 」

「おっと! ははは、欧州はマルスが管理しているからね。頼んだら手配してくれたんだ」

 俺は大喜びで抱きついてきたティナの背中を撫でながら、マルスグッジョブと心の中で褒め称えた。

 こんなに喜んでくれるなんてな。マルスに頼んだ甲斐があったな。今度オリビアの住むこの城を、奥さんと見学しに来たいというのを了承するだけで動いてくれたしな。マルスは数少ないマトモな上位貴族だし、魔帝と違って盗聴器を仕掛けたりしないだろうから安心だ。やっぱマルスが皇帝になるべきだと思うんだよ俺。早く死なねえかなあのクソジジイ。

「うふふ、コウは私たちのことをいつも気にしてくれてるわよね。リズが欲しがっていたあの小型グライダーのホークだったかしら? あれも結構苦労して手に入れたって聞いたわ。私のフェアガモの靴もネットを見てた時にこの靴いいなって呟いただけなのに、マルス公爵に頼んでまで買ってくれるなんて」

「好きな子の喜ぶ顔を見たいからね。ティナやリズたちが嬉しそうにしていると、幸せな気持ちになれるんだ。だから俺のためでもあるかな? 」

 シーナがネットで何かを探している時は見ないようにしているけどな。鼻息荒くして見てる時点で何を欲しがってるかわかるし、シーナは買うのを躊躇わないから俺がプレゼントする隙なんてない。シーナには普通の女の子になって欲しいから、清楚な服を買ってあげてるよ。せめて見た目だけでもって……下着は履いてないけど。

「コウ……それは私たちも同じよ? コウが喜ぶことはなんだってしてあげたいもの。ふふっ、今夜は私の日だから期待しててね? 買ったばかりのあの衣装を着てあげる♡」

「ホントに!? これは今夜が楽しみだなぁ」

 やった! きっとこの間見せてくれたチャイナドレスだ! ハマールが着ていたのを見て、いいなって思ってたらティナが買ってきたんだよね。扇も買ったみたいだし、今夜は楽しくなりそうだ!

「ふふふ、オリビアも一緒に買ったのよ? コウが好きな衣装だって言ったら、欲しいって言うからヨコハマまで一緒に買いにいったの。明日はオリビアが着ると思うわ。可愛がってあげてね? 」

「え? オリビアも!? 」

 オリビアがとチャイナドレスかぁ。チャイナドレスを着たオリビアの尻を後ろから眺めるのもいいなぁ。

「ふふふ、そんなに嬉しそうにして、ここも硬くしちゃって……コウはホントにえっちなんだから。まだお昼なのにそんな状態で夜まで我慢できるの? 」

「いや、できそうもないな。ティナが鎮めてくれよ」

 隣で色っぽい目を向け俺の股間を撫でるティナに、元気になった悪魔棒を鎮めてもらえるように頼んだ。

「うふっ♪  いいわ。最近忙しくてオフィスでシテなかったからドキドキするわね」

「そういうのが好きなんだろ? 」

 俺はズボンとパンツを脱ぎながら、横でブラウスのボタンを外しているティナにそう言った。

「そうかも……私もコウのこと言えないわね」

「じゃあえっちなカップルということで」

「ふふふ、そうね……んっ……」

 俺はブラウスを脱いだティナのブラに手を掛けて外しながら、キスをしてそのままソファーへ押し倒した。

そしてお互い大事な部分を舐めあったあと、ソファーの上で激しく愛し合ったのだった。



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