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第3章 ニートと帝国動乱

第11話 情報

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 ーー テルミナ帝国 帝城 執務室 テルミナ帝国皇帝 ゼオルム・テルミナ ーー




「マルスよ。超魔導砲の生産はどうじゃ?  」

「はい。兵器省にて最終テストを来月に行い、それが問題無ければ生産工程に入ります。その後、飛空要塞及び帝都に配備される予定となっております」

「うむ。順調なようじゃの。元は魔王対策に開発したもんじゃが……まあよい。ロンドメル辺りがチョロチョロ動き回っておるからの。無駄にはならんじゃろ」

 魔王のあのスキルはどうにもならぬ。チキュウの技術を組み込み、超遠距離から魔力と物理の同時攻撃を行える兵器を作ったが奴には通用せぬじゃろう。

「結界のスキルに、視界外の物の魔力まで奪えるのはどうしようもありません。アクツ男爵は野心がないうえに、オリビアが籠絡に成功したようですし陛下に敵対することはないでしょう」

「フンっ!  気に入らぬ。余が手も足も出んのは気に入らぬ。魔王め……余のメレスを奪いおって!  オリビアが籠絡したと言うがそれは本当なのか?  本当ならメレスに手を出す元気があるのはおかしいじゃろ」

 オリビアが魔王を骨抜きにしているならば、メレスにちょっかい掛ける気力もなかったはずじゃ。

 良い関係を築いているとは聞いてはおったが、籠絡まではいっておらぬのではないか?

「なっ!?  オリビアを疑うのですか!  オリビアは役目を果たしました。アクツ男爵はとオリビアは同棲までしております。これは確実に籠絡したと言えます」

「う~む……本当に房中術を披露できる仲にまでなっとるのか?  あの堅いオリビアが本当にそこまで踏み込めたのか?  結婚まではなどと言ってキツイ顔で拒否しとるのではないのか?  」

「それは問題ごさいません。最近妙に色気が出てきておりましたので、妻がオリビアから聞き出しました。アクツ男爵はオリビアの房中術に陥落しております。それにオリビアはもう昔のオリビアではございません。よく笑い幸せそうな顔を見せるようになっております。まるで幼い頃のオリビアを見ているようで、妻とアクツ男爵の元へ送り出してよかったと話してございます」

「マルスよ……余にはオリビアが籠絡されているように聞こえるのじゃが?   」

「そ、そのようなことは……アクツ男爵は既に我々の意のままになる存在で……」

「本当にそうかの?  オリビアとその房中術に魔王が落ちておるなら、メレスに手を出す余裕など無いじゃろ。あそこにはエルフもおるのじゃぞ?  それに籠絡する側が幸せそうな顔をするというのはどうなんじゃ?  昔オズボードから余のところに送られてきた女は、得意げな顔をしておったぞ?  」

 どうもおかしい。オリビアを使って魔王を引き込もうとしたが、逆に取り込まれておるような気がする。エルフとオリビアの房中術があれば、普通の人族がほかの女なぞに目を向ける余裕などないはずじゃ。もしや手加減しておるのではなかろうか……

「む、娘の幸せな顔を見れるのは、親として嬉しい限りでございまして……」

「取り込まれておるのではないかっ!  帝国の情報が魔王に筒抜けになるじゃろうが!  」

 ごまかしおった!  マルスの奴めごまかしおったぞ!  魔王の動きを監視しあわよくばスキルの弱点を探らせ、敵対しないよう誘導する役目のオリビアが魔王側に付いてしまったではないか!

「そ、それは大丈夫でございます。アクツ男爵の事はしっかりと報告を受けております」

「なんじゃと?  余は聞いてないぞ?  どのような情報じゃ。申してみよ」

「そ、それは……アクツ男爵はオリビアの作ったクッキーが好きだそうで、毎回美味しいと言ってくれているそうです。そしていつもオリビアの体調が悪くないか心配してくれているようです。先日は二人で映画を見たそうで、悲劇的なラストシーンが流れた時にオリビアの胸で泣いていたようです。これらのことから非常に優しい青年であることがうかがい知れ、その能力も相まって嫁に出すには申し分ない相手だと妻と二人で……」

「惚気ではないかっ!  なぜマルスまで嬉しそうな顔をしておるのじゃ!  娘の結婚相手の性格を調べる親になっとるではないか!  そうじゃないじゃろ!  オリビアから得るべき情報はそういう情報じゃないじゃろ!  」

 違うじゃろっ!  なにを言っておるのだマルスは!  駄目じゃ……これはマルス家ごと完全に取り込まれておる。このままでは帝国の情報が筒抜けじゃ。せめてオリビアの配属を見直さねばならぬ。

 しかし魔王から離れさせ過ぎるのも不安じゃ。奴は近くに帝国人を置かぬからのぅ。

 フォースターとかいう男は、リヒテンラウドが取り込めなかったと言っておったし……ぐぬぬぬ。

「へ、陛下。当然メレス様の情報も聞き出しています」

「なんじゃと!?  なぜそれを先に言わぬのじゃ!  それでメレスはどうしておるのじゃ?  余に会いたいと、ほーむしっくにかかっておるか?  」

 魔導人形に設置したカメラが早々に見つかってしまったからのぅ。魔王がメレスの部屋に忍び込まないように設置したものじゃのに、メレスにこっぴどく怒られたわ。

 仕方なかったのじゃ。リリアも雪華騎士たちも魔王を気に入っているようだと聞けば信用できぬ。うむ、余は悪くない。悪いのはスケベ魔王じゃ!

 しかしあれ以来魔導通信でもそっけないのは辛いのぅ。じゃが内心は余のもとに帰りたいはずじゃ。

 リリアもリヒテンには何も話してないと言うし、きっと相当落ち込んでおるに違いない。余を心配させたくなくて、リリアに口止めをしておるのじゃろう。

 メレスが望むのであれば、余がデビルキャッスルにしばらく滞在してやろうかのぅ。

「はい。毎日デビルキャッスルのゲームセンターで、太鼓のゲームを楽しくしているようです。夜は雪華騎士とエスティナたちと、ボーリングで楽しく遊んでいるようです」

「さ、寂しさを紛らわせておるのじゃろ……不憫よのぅ」

「いえ、それが夜はプールに露天風呂とアクツ男爵と一緒に入り楽しんでいるようです」

「な、なんじゃと!?  露天風呂じゃと!  」

 殺す!  今すぐ魔王を討伐に行く!

 余は椅子から立ち上がり、マジックポーチからオリハルコンの剣を取り出した。

「陛下。落ち着いてください。もちろん水着を着てです。裸ではありません。しかしそれがことのほか楽しいようでして、アルディス湖を出てよかったといつも口にしているようです」

「ば、馬鹿な……余のメレスが……帝国を出てよかったと?  余のもとを離れてよかったと申しておると言うのか?……よ、余のことは何か……何か言っておらぬのか?  」

「陛下のことですか?  ああ、例の監視カメラのことを怒っているようでして、許さないと言っていたとか」

「ぐふっ……」

 メレス……あれは仕方なかったのじゃ……余は悪くないのじゃ。

 くっ……マルスめ。ニヤニヤしおって……先ほどのオリビアの件の反撃のつもりか!

「陛下。もうお認めになられてはいかがでしょう?  メレス様はアクツ男爵のところにいた方が幸せなようです。それに今の帝国は危険過ぎます。それは陛下が一番よくわかってらっしゃることではないですか?  」

「メレスは余の側におる方が幸せに決まっておろう!  じゃが今はアルディス湖に戻らせるわけにはいかぬ。帝城も側室と愛人どもは信用できん。じゃから一時的に魔王のところに預けておるだけじゃ。それをあの魔王め調子に乗りおって!  余のメレスとぷーる?  露天風呂?  許せぬ……メレスの柔肌を目にするなぞあの目を潰してくれるわ!  」

「そしてまた帝城を抜けて戦いを挑むのですか?  無駄なことはおやめください。ロンドメルは以前にも増して活動的になっております。私の寄子やハマールの寄子へ調略を仕掛けているようです。陛下が単独で城を出るような事があれば、次は命を狙われることは間違いないでしょう」

「ククク……余がおとりになって魔王に潰させるのも面白いのぅ。しかし調略とは姑息な……カストロの本領発揮じゃのう」

 ロンドメルの小僧にそんな頭はない。先代も無かった。ロンドメル家はあのカストロの描いた絵に沿って動いておるだけよ。

「臣下の者の忠誠心に陰りが見えている今は、予期せぬ裏切りが起こる可能性もあります。ローエンシュラム家の者とも会っているという噂も聞こえてきております。まさかとは思いますが……」

「フンッ!  アインハルトか。頭も武力もそこそこあるが、まだまだケツの青い小僧じゃ。あんなもの恐るるに足らぬ」

 なにが血を汚すなじゃ!  あの小僧調子に乗りおって!  亡き兄に似て血統にうるさい男じゃ。

 余が誰と子を作ろうがそんなもの帝国には関係がない。次の皇帝を選ぶのはデルミナ神様じゃ。血だのなんだのにこだわる事が、無意味なことがわからぬのかあの小僧は。

 あの男は余が死ぬ前に始末せねばならぬな。でなければメレスが危険じゃ。最悪魔王のところにおれば安心……いや!  なにを言っておるのじゃ余は!  あのスケベ魔王にメレスを託すなどあり得ぬ!  メレスの婿は余より強くカッコイイ男ではければ釣り合わぬ。魔王はブサイクじゃから論外じゃ。

「いずれにしてもメレス様のことを公表して以来、貴族たちは動揺しております。アクツ男爵を保険としつつ、配下の貴族たちの手綱をしっかりと握っておく必要がございます」

「ふんっ!  余は後手に回るのは好かぬ。ロンドメルの魔導化学研究所への査察はどうなっておるのじゃ」

 拒否したのであればそれを口実に粛清してやろう。そうすれば何も心配することはない。

「意外なことにロンドメルは受け入れております。開発していた毒も、兵器省にて製造法の登録を終えております」

「受け入れおったか……わからぬ。奴はいったい何を考えておるのじゃ」

 のらりくらりと拒否すると思っておったが、全ての研究施設の査察を受け入れるとは……

 あの毒は強力じゃった。余ですら殺せたであろうあの毒を、その製造法とともにおとなしく差し出すとは予想外じゃ。

「陛下への忠誠心に偽りなしといったところなのでしょうが、ロンドメルに限ってそれはないでしょうね」

「あの野心の強い小僧がそんなわけがなかろう。しかしわからぬ。リヒテンに言って情報局の予算を増やし、管理地を探らせるか」

「それがよろしいかと。私の方でも密偵を送り探らせます」

「うむ。頼むぞ」

 ロンドメルのことじゃ。何かを隠しておるに違いない。それが何かわかった時には余がこの手で成敗してくれようぞ。




 ※※※※※※※※※※




「さあ着いたよメレス。この森の奥だ」

「え、ええ……」

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。コウが一緒なら警戒されることはないわ。それに長老はとても優しい人なの」

「わ、わかったわ。リリア、行きましょう」

「はい。メレス様」

「それじゃあティナ、案内を頼むよ」

 俺はエルフの森に入ることに緊張しているメレスの前にティナと立ち、森の奥へと足を踏み入れた。

 メレスとリリアの後ろからは、オルマと2人の雪華騎士がついてきている。


 今日は朝早くからメレスに水精霊の湖の里の長老を紹介するために、エルフの森へとやってきていた。

 メレスは昨晩から楽しみであり不安でもあるような様子で、ずっとソワソワしていた。

 自分がエルフから受け入れられるか不安なんだろう。エルフをよく知る俺とティナが大丈夫だと言っても、もしも拒絶されたらと不安なようだ。それでもここへ来たのは、亡き母の故郷を見てみたいという気持ちが強いからだと思う。

 こうして森の中をティナの案内で歩いている途中も、メレスはずっと雪の結晶のような白い髪飾りを弄っていて落ち着かない。

 まあリリアや雪華騎士がいるからか、森のあちこちからエルフの視線を感じるしね。

 俺は遠くからこちらを見ているエルフたちに、手を振りながら里へ続く道を歩いていった。

 30分ほど歩くと大きな湖にたどり着き、その湖沿いに増築して規模が大きくなったエルフの里が見えた。

 俺たちは里の入口の警備のエルフに挨拶をして、里の中央にある長老の家へと向かった。

 里には事前に帝国人を連れて行くことを伝えてあるから、警備のエルフに止められることなく入ることができた。

「着いたわ。長老には連絡してあるから中にいると思うわ。私が先に挨拶してくるから少し待っててね」

「ああ、頼むよティナ。メレス、大丈夫だから。今日は絶対良い日になるから」

 俺はティナが長老の家に入っていくのを見ながら、落ち着かない様子のメレスの手を握りしめた。

 こりゃ長老が祖父だと事前に教えなくて正解だったな。教えてたらこんなもんじゃなかっただろうな。

「光……ええ、私は大丈夫よ」

「コウ!  いいわよ~」

「じゃあ行こうか」

「い、行くわ」

 ティナの呼び声が聞こえた俺たちは、長老の家へと向かうのだった。
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