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第14話 治療の対価

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ーー 総督府執務室  総督秘書兼総督代理  水精霊の湖のエスティナ ーー




「そう……日本総督は司法を尊重し介入しないと? 」

「はい。小澤外交局長は平和的な解決を望むの一点張りでして……」

「司法ね……特別警察は日本総督府直属の組織なのによく言うわ。でもいいわ。これで日本総督府は敵に回ったと確定したわ」

「申し訳ありません。私の力不足でこのようなことに……」

「沖田さんのせいじゃないわよ。恐らく日本自治区内で得た魔石を日本総督府に流さないから、ギルドへの嫌がらせでしょうね。いえ……それだとまだ弱いわね……モンドレット子爵の指示の可能性もあるわね」

「恐らく……日本総督府に桜島を敵に回す度胸などありませんからね。子爵の後ろ盾が無ければこんなことできないでしょう」

  最近ギルド員たちが九州のダンジョンから出ると特別警察に因縁をつけられ、魔石やマジックアイテムを指紋などを検査するなどの理由で押収される事件が多発した。ギルド員たちは問題を起こさないよう我慢していたみたいだから拘束はされていないみたいだけど、女性ギルド員が身体を触られた時は一時一触即発になったみたいなのよね。

  特別警察というのは、ランク持ちである探索者を取り締まるために日本総督府が設立した組織。コウや鹿児島県知事や市長からその悪名は聞いていたけど、まさか桜島総督府が運営するギルドに手を出すとは思わなかったわ。

  桜島を一歩出れば日本自治区の法に従わないといけない。ギルド員たちがほかの日本の探索者や、一般人とトラブルを起こしたとしたなら何も言わないわ。でもなんの証拠もないのにダンジョン内で探索者から魔石を奪ったのだろうとか、酷い因縁をつけられて抵抗したら暴行されて押収されるなんて無茶苦茶よ。

  日本総督府にも大分県にある特別警察署にもクレームを入れたけど、法に則り適正な判断を行なっているの一点張り。日本総督府からの魔石譲渡の要求をことごとく突っぱねてきた事への嫌がらせかと思ったけど、沖田さんの言う通り上級ダンジョンを2つも攻略している私たちに、こんなことをする度胸があの総督府にあるとは思えないわ。

  さすがに桜島の領民を証拠無しで逮捕拘留する度胸は無いみたいだけど、それだってこれから先はどうなるかわからないわね。

「わかったわ。総督には私から報告しておきます。とりあえずギルド員には、最低3パーティで行動するようにさせるわ。沖田さんは日本総督府にはその旨を伝えて、もしもギルド員が多数負傷するようなら前政権の者たちと同じ末路を辿ることになると警告しておいてちょうだい。上級ダンジョンで得た貴重なアイテムを持って帝城に行く可能性も匂わせておいてね」

  さすがに15人もいれば絡みにくいでしょう。特別警察は基本3人行動らしいし。他領民相手に応援を呼んでまで絡もうとは思わないでしょう。念のため日本総督府には脅しをかけて、ギルド員には正当防衛に限り反撃を許せばいいわ。

「よろしいんですか? 日本自治区の立ち入りを禁止される可能性もありますよ? 」

「それは無いわ。ギルド員たちが各街に落としていく帝国通貨は日本も欲しいでしょうからね。それに万が一そうなったらなったで別に構わないわ。台湾にも東南アジアにもダンジョンはあるもの。帝国から飛空艇をレンタルして定期便を運行するわ。費用はかさむけど、総督はそんなこと気にしないのはわかってるでしょ? 」

  別にダンジョンは日本にしか無いわけじゃない。飛空艇さえ用意できればほかの自治領に行ける。中国はロンドメル公爵の管理だから避けた方がいいけどね。虐殺公に目を付けられたら今より面倒なことになるもの。

「確かに……わかりました。私も日本総督府には強気の姿勢で臨みます。桜島総督府が舐められないようにしないと、頑張っているギルド員たちに被害が出ますからね」

「ふふふ、そうよ。仲間のために戦う男性をエルフの女は評価するわ。エルミアに良いところを見せてあげて」

「え? あ……ははは。いや……その……はい。頑張ります。そ、それでは失礼します」

  ふふふ、真っ赤になっちゃって。顔はイマイチだけど沖田さんはかわいいわね。エルミアも貴方の気持ちには気付いているみたいだから、良いところ見せてあげてね。

  私は内心でそう応援しつつ、小走りで執務室を出て行く沖田さんを見送った。

  さて、問題は奪われた魔石とマジックアイテムね。
  マジックアイテムはダンジョン内の野営用の物ばかりだからそれほど高価な物はないけど、コウがこのまま黙っているはずがないわよね。とりあえず日本総督府は敵になったことを伝えて、被害に遭ったギルド員たちには補償してあげなきゃね。どうせ100倍になって魔石は返ってくるでしょうし。

  日本総督府も馬鹿よね。上級ダンジョンを私たちが攻略したことを知ってるはずなのに、前政権の二の舞になるとは考えなかったのかしら? 身近にいる日本を占領した子爵の方が怖いってことなのかしらね。これは子爵ともいずれ揉めそうね。



  
「ただいま~。ごめんティナ、遅くなっちゃった」

「お帰りなさいコウ。いま沖田さんから報告があったところよ」

  私が特別警察への対応を考えていると、コウが総督府へと戻ってきた。
  コウが少し疲れた表情で執務室の応接ソファーに座るのを見て、私はコーヒーを用意しながら沖田さんからの報告を伝えた。
 
  随分と気怠そうね。今朝ここで私とシタあとにギルド本部に行って、そこでリズにも搾り取られたのかしら? これはコーヒーに精力剤入れておいた方がいいわね。そうしないと今晩はシーナだから怒られてしまうわ。

「そうか。オリビアからおととい聞いていた通りだな。モンドレットの野郎は帝国で相当恥をかいたそうだ。管理する領地の上級ダンジョンを三等国民に攻略された無能だってさ。まあその通りなんだけど、逆恨みするだろうってオリビアが言ってた」

「そんなことが……オリビアが言うなら間違いないわね。本来なら上級ダンジョンは管理している貴族か、その配下の者が攻略すべきものだし。冒険者だって上級ダンジョンを攻略したら手に入れた魔石を貴族に渡して、叙勲した際はその領地の貴族の寄子になることを強制されるわ。それを被支配者側の国民に攻略されたら恥どころではないわね」

  私はコウの前にコーヒーを置き、隣に座りながらオリビアの情報の補足をした。

「冒険者でもそうなのか。そりゃ相当恥をかかせたな。まあ最初からアイツは敵だからどう思われようがいいけどな。ティナたちをコビールに売った野郎だ。日本自治区の管理貴族じゃなきゃとっくに殺してたんだけどな」

「ふふふ、ありがとうコウ。でもあんな小者はどうでもいいわ。だって私たちは今すごく幸せですもの」

  こっちから手を出せないし、あっちも帝国政府管理の土地には手を出せない状態じゃどうしようないわ。日本総督府と揉めても口は挟まないでしょうしね。安全な場所から裏で日本総督府を動かして嫌がらせをするつもりなんでしょう。暗殺をさせる可能性だってあるわ。ほんと嫌な男よね。

  でもいいの。そんな小者なんかのことよりも、今すごく幸せなんだもの。
  今まで接点の無かったダークエルフの友達がたくさんできたし、戦闘以外の仕事も充実している。獣人たちは騒がしいし毎日どこかしらで喧嘩ばかりしてるけど、みんな楽しそうで見ていて飽きないわ。子供たちも毎日ヘトヘトになるまで遊びまわって、お腹いっぱいご飯を食べてぐっすり眠っている。

  こんな光景が見れる日がくるなんて……これも全部コウのおかげ。私の愛するただ一人の男性であるコウの功績。

「ティナ……」

「あ……んっ……駄目よ……またコウがノリが悪かったってシーナに怒られちゃうわ」

  コウは私を抱き寄せてキスをしながら太ももに手を這わせてきた。
  私はシーナへの言い訳のために形だけの抵抗をする。

  ふふふ、精力剤の効果が出てきたみたい。やっぱりコーヒーに混ぜると効果が出るのが早いわね。

「大丈夫だよ。今日は鞭の日だからシーナは満足してくれる。だから……な? 」

「あんっ……んふっ……もう……仕方ないわね……ここでする? それとも……」

コンコン  

「あ……誰か来たみたい……」

  私のブラウスの中に手を入れてくるコウを受け入れようとしたところ、執務室のドアをノックする音が聞こえた。

  もうっ! いいところだったのに!

「はあ~……この魔力はオリビアだな。頼んでいた件の報告だと思う。仕方ない……後でしよう」

「飛空戦艦の件ね。うふふ、後でいっぱいシテあげるから我慢しててね」

  オリビアなら仕方ないわね。あの子は休まずずっと帝国と桜島を行き来してるものね。
  ほんとに優秀な子で助かってるわ。リズとシーナとも打ち解けたし、高位貴族の令嬢でもああいう子がいるのね。少し見方が変わったわ。

  年も確か48と私より10ほど上だけど、彼女4等級の停滞の指輪をしているから、見た目も人族の20歳かそこらなのよね。コウが今度3等級の停滞の指輪をプレゼントするとか言ってたから、今回の話がまとまればご褒美にあげてもいいかもしれないわね。4等級ですら高位貴族の令嬢でも手に入れ難いのに、高位貴族の当主しか持ってない3等級の停滞の指輪をプレゼントされたら相当喜ぶでしょうね。

  ふふふ、初めてできた帝国人のお友達だもの。オリビアには長生きして欲しいわ。
  でも人って本当に変わろうと思えば変わるものね。それがたとえ魔人でも心の持ちようなのね。

「いらっしゃいオリビア」

「失礼します。帝国政府との交渉が進展しましたのでご報告に上がりました」

  私がドアを開けてオリビアを招き入れると、オリビアは私にありがとうと小声で言って執務室に入りコウへ挨拶した。

  あら? 随分と暗い顔ね。いつもはコウの前では笑顔でリラックスしてるのに。あ、でもスカートのお尻に下着の線が出てないわ。コウにプレゼントされたTバックのショーツを身に付けてるわね。オリビアはTバック持ってなかったから間違いないわね。

  それにしても大きくて上向きの見事なお尻ね……コウが下着の線が出ていてもったいないって言って、下着をプレゼントしたのもうなずけるわ。シーナのお尻も大きいけど、あの子のは柔らかすぎるのよね。オリビアみたいに大きいのにキュッと締まったお尻は羨ましいわ。

  魔人の女性はホラーって言っていたコウも、オリビアだけには心を許してるのよね。コウは過ちを犯しても、それをしっかり反省して信頼回復のために努力している人に弱いから。オリビアは相当な努力をしたから、一気にコウのお気に入りになったのよね。キツくて堅い性格だけど、根は素直で優しい子だからそれも納得だわ。

「オリビアいつもありがとう。立ってないでソファーに座って話そう。疲れてるのか? 顔色が悪いぞ? 祝福の指輪は身に付けてるか? ポーション飲むか? 」

「い、いえ……このままで結構です」

  ほらね? コウは気に入った人には甘々なのよね。でもほんと様子がおかしいわね。いつもなら嬉しそうにソファーに座るのに。

「どうしたのよオリビア……様子が変よ? 」

「そうだよ、いったいどうしたんだ? 軍務省への飛空戦艦と飛空艇の買い付けがうまくいかなかったとかか? それなら気にする必要ないぞ? ダメもとで言ったことだしな」

  さすがに飛空戦艦だけではなく、教練する人材まで貸して欲しいというのは無理よねとコウと話していたもの。帝国も私たちを警戒しているようだし、あまり期待していなかったのよね。だからほかの貴族にバレないよう、兵器市場の調査という形で連絡所に依頼したのよね。

「いえ、飛空戦艦の件はリヒテンラウド宰相に間に入っていただけまして、条件付きですが話がまとまりました。陛下の依頼を受ければ無償で飛空戦艦3隻と飛空空母1隻、戦闘機50機に高速飛空艇5隻。そのうえ教練用の人材も無期限で貸与していただけるそうです」

「…………」

「…………」

  オリビアの報告を聞いた私とコウは、静かにお互い目を合わせた後に眉をひそめあった。
  それはそうよ。飛空戦艦1隻と飛空艇3隻の購入を希望していたのに、その遥か上をいく数と飛空空母や戦闘機まで無償でくれるなんて……どう考えてもその依頼は普通の依頼じゃないわ。なによりその依頼主が……

「魔帝の依頼か……」

「ロクなことじゃなさそうね……」

「そうだな。断ろう」

「そうしましょう。きっと古代ダンジョンを攻略してこいとか、そこで手に入れたマジックアイテムを寄越せとかそんな依頼よ」

  陛下は2等級の停滞の指輪を欲しがっていたわ。きっとそれを取りに行かせる気よ。でもそれは駄目。コウが持っている2等級の停滞の指輪は2つ。私と同じ時を生きるにはコウとリズとシーナの分として3つ必要。そして何かあった時のためにもう一つは欲しいわ。つまりあと2つ必要。【冥】の古代ダンジョンに2等級の停滞の指輪がいくつあるかはわからない。けど【魔】の古代ダンジョンで運良く2つあったから、2つと見ておいた方がいいわ。

  それなのにそんな依頼を受けたら1つしか残らなくなる。古代ダンジョンがどれくらいで再攻略可能になるかわからない以上、陛下に渡すことはできないわ。陛下も2等級の停滞の指輪の効力が切れたとはいえ、3等級を嵌めているという話だしあと2~300年は生きるわ。ええ、それだけ生きれば十分でしょう。その頃にはたとえ暴君が次の皇帝になろうと、私たちは余裕で対応できるようになっているし。

「ええ!? そ、その……依頼の内容を少し教えてもらいましたので、それだけでも聞いてください」

「依頼ねえ……まあ聞くだけなら。オリビアが頑張ってくれたしな」

「そうね。ごめんねオリビア。陛下の依頼と聞くとロクなことじゃなさそうで……」

「いいのよエスティナ。気持ちはわかるわ……それでアクツさん。依頼の内容ですが、どうやら皇家の方の長期治療の依頼らしいのです。その……ラージヒールのことはもう知られておりますので……」

「治療? まあラージヒールはさすがに気付かない方がおかしいからいいけど、でもだからこそ長期で治療? 」

「ラージヒールがあればどんな怪我でも治るのに……かなり進行が早くて臓器を破壊するような病気かしら? 」

  ラージヒールならば欠損した腕だろうと内臓だろうと元に戻るわ。頭だけは無理だけど、心臓もスキルを放つ速さや技能次第では即修復され動き出す。ラージヒールで治せないのは病気だけ。別名エリクサーと呼ばれる1等級ポーションがあればどんな病気も治るけど、それは【時】の古代ダンジョンにしか存在しないと言われているわ。

  もしも身体を破壊し続ける病気なら、古代ダンジョンを攻略してエリクサーを手に入れてこいと言うはず。それを言わずラージヒールで長期治療? わけがわからないわ。

「古代ダンジョンの攻略は断られるだろうから、ラージヒールで定期的に治療させるってとこか? 」

「そうね……それならなんとか納得できるわね。オリビア? その治療はどれくらいの頻度で必要なの? 期間は? 」

「それが月に一度か二度程度ということしか……期間は未定です。ただ、とても大切な方のようで、なんとか了承して欲しいと。その……父からもハマーン公爵様からもお願いされました」

「宰相と2公爵から? それは相当な重要人物だな……うーん……月に二度かぁ。めんどくさいな」

「ダンジョンに長期潜れなくなるものね。ちょっと難しいわね」

  今後総督府とギルドが軌道に乗って人が育てば、古代ダンジョンの攻略も予定しているから治療期間がわからない治療は無理ね。

「……アクツさん。これは内密にということなのですが、治療するお方は若い女性だそうです。私も初めて知ったのですが、特異体質のようで神石を持たないそうです。そして薄く青白い美しく長い髪を持ち、透き通るような白い肌でとても儚い印象を受ける絶世の美女だそうです。陛下が目に入れても痛くないほど可愛がっているらしく、男性とも一度もお付き合いしたことがないとか」

「受けよう! 」

「え? コウ!? 」

  即答!? 

「ティナ。深窓の令嬢ともいえる若い女性がだ。ラージヒールが定期的に必要なほどの難病で苦しんでいるんだ。そんな残酷な人生を送らせていいのか? 俺には彼女を治療できる力がある。ならばやるべきだと思うんだ」

「……神石がないのと絶世の美女だからでしょ」

  ほんとにこの人はもう……美人と聞いたら見境がないんだから。
  それでも私たちが嫌がるようなことはしないから安心しているけど、今回はどう考えても私たちの生活の足かせになりそうなのよね。

「ち、違うよ。人助けだよ。そ、それに魔帝に貸しが作れるし! 今後魔帝に対する俺たちのカードになると思うんだ」

「いいわよ別に。コウが美人に目がないのは知ってるわ。それでも私たちを第一に愛してくれてるから心配なんかしてないわよ。確かに陛下に対してのカードになるけど、今後行動が制限されることになるわ。期間がわからないし安易に受けられないわよ。その女性には悪いけど私は反対よ」

  毎日あれだけ愛されれば、コウが私たちに黙って浮気するなんて思わないわ。ダークエルフたちの身体を使った御礼も断ってたし。ふふふ、コウはダークエルフの美女100人以上に毎日抱いていいと言われたのに、君たちはもうそんなことしなくていいんだ。もっと自分の身体を大切にして欲しいって言って断ったのよね。

  その時のコウはなぜか目から血が流れていて、唇や握っていた手のひらも血だらけだったけど。 
  でもそんな欲に負けず思いやり溢れる言葉を投げ掛けたもんだから、ダークエルフの子たちはコウを本気で好きになったみたい。エルフたちもコウを好きな子が増えたわ。もうみんなに羨ましがられて大変よ。エルフの追加枠はあるわよねとか、ダークエルフ枠なら新規だしあるわよねってしょっちゅう言われるのよ。だいたい枠ってなによ枠って。

  ふふふ、でもほんと素敵な男性よね。

「エスティナ、受けてくれたら飛空宮殿を下賜してもいいそうよ? 」

「ええ!? 飛空宮殿!? 皇家のあの空飛ぶ宮殿を!? 」

  飛空宮殿……一度だけ飛んでいるのを見たことがあるわ。飛空空母の倍はある全長1kmにも及ぶ船体に、絶対防御と呼ばれているほどの何重にも展開される魔力障壁。なによりも船の上にお城とも呼べるような白く輝く宮殿があり、宮殿内の設備は最新の魔道具で埋め尽くされていると聞いたわ。そんな皇家専用の飛空艇を私たちに……

  欲しい……夜空を飛びながらコウと宮殿のバルコニーで、ワインを片手に愛を語り合いたい。夜は豪華なベッドで愛し合って……いえ、そのまま夜空をバックにバルコニーで……お風呂もきっと相当なものでしょうね。飛空宮殿で世界中をコウを旅をして……ああ……なんてロマンチックなのかしら。

「ティナ? どうしたんだよ」

「ハッ!? オ、オリビア! 受けるわ! その依頼絶対に受けるわ! 」

「よかったわ。エスティナならそう言うと思っていたわ。私も乗せてね」

「ええもちろんよ! よく飛空宮殿を引き出してくれたわ! ああ……オリビアありがとう」

「え? え? 急にどうしたんだ? そんなに飛空宮殿てのはいい物なのか? 」

  コウが目を白黒させて驚いてるけど、コウだって実際に見たら大興奮するはずよ。

「凄くいい物よ。コウも見たら気にいるわ。もう治療期間なんてどうでもいいわね。難易度は高いけど、【時】の古代ダンジョンを攻略してエリクサーを手に入れて治しちゃえばいいのよ。そうすれば世界旅行にいつでも行けるわ」

「お、おう……ティナがそれでいいならいいけど」

「では依頼を受けることにしますね」

「ああ、苦しんでいる女性を放置なんてできないからな」

「ええ、受けてちょうだい。まずは症状の確認をしてそれから治療して、長く掛かるようなら古代ダンジョンね。ダンジョンに入っている間は2等級ポーションを渡しておけばいいわ。ギルドにはあまり必要ないものだし」

  2等級ポーションはコウが40本以上持ってるのよね。過去の戦士たちの遺品のマジックポバッグに入ってた物らしいけど、コウがラージヒールを使えるから私たちが万が一のために各5本持って残りは使う機会がないのよね。古代ダンジョン攻略中に3本くらい渡しておけばいいでしょう。

「よかったです。リヒテンラウド宰相に父にハマーン公爵様と、必ず受けてもらうように言われてましたので……それでその……もう一つ大切なご報告がありまして……」

「ん? まだあるのか? なんだろ? 」

「どうしたのよまた暗い顔になって。悪い報告かしら? 」

  入ってきた時より表情が柔らかくなったと思ったら、また暗い顔になったわね。
  最初暗かったのはこれが原因のようね。悪い報告だと嫌なのだけれど……

  でも今は私もコウも機嫌がいいからたいていの事は笑って流せるわ。
  だからそんなに気にしなくていいのよオリビア。貴女はほんとに真面目なんだから。

  さあ、早く言ってしまいなさいって。



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