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第22話 帰宅

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「そろそろか……」

  俺は1階層にいる魔物をひと通り狩った後に、出口に繋がる通路の前で夜になるのを待っていた。
  マジックテントにあってティナたちの時計に時刻を合わせた懐中時計を見ると、夜の22時を回ろうとしていた。
  ティナたちはもう帝国に着いただろうか? 首輪は俺の錬金スキルで見た目だけはうまく修復しておいたし付いてた魔石の魔力も抜いておいたから、一度外したことはバレないとは思うが……
  一旦この日本の占領軍の子爵に預けられてから帝国に送られることになると思うと言っていたから、案外まだ日本にいるのかもしれないな。

「うっし! 行くか。念のためデビルマスクしていくか」

  俺は心配する気持ちを振り切り、とにかく外に出ないと何も始まらないと思い、空間収納の腕輪からジョークグッズ魔道具であるデビルマスクを取り出した。
  いざ見つかって鷹の目と暗視のコンボで顔を見られた時のために、少しでも顔を隠しておかないとな。

  俺は黒のシャツに黒の革ズボン、黒革のマントに黒のブーツ。黒の目と鼻を覆う仮面に耳の上から蝙蝠の翼が飛び出している自分の姿を見て、これで見つかったら問答無用で撃たれるなと思うのだった。
  なによりはめている指輪と腕輪を隠すために、両手には黒革のフィンガーレス手袋をして手首には包帯を巻いている。
  どこからどう見ても厨二病発症中である。

「闇に紛れるためにこの服を選んだけど……誰も見てないしまあいいや。行こう」

  俺は細かいことは気にせず探知を掛けながら出口へ向かって走っていった。

  そしてダンジョンの出口に出るとすぐに入口がライトアップされた。
  待ち構えていたのか!? 一瞬そう思ったが人の反応は山の下の方にしかない。
  恐らくセンサーに反応してライトが点くやつなんだろうと思い、すぐに飛翔して山の上にある木々に紛れ木の上に降りた。

  山の麓の方では人が動く気配がする。

  それにしても帝国人か? あの赤毛の女ほどじゃないが魔力の密度が濃い……

  俺は滅魔を2年近くほぼ毎日飽きるほど使い続けてきたので、魔力を人よりも感じやすくなっていた。恐らく吸収した魔力は全て一旦俺の身体を通るから、身体が様々な性質の魔力を覚えたんだと思う。
  探知のスキルは弱い魔力を飛ばしてその反射でレーダーのように敵を見つけるスキルだから、その反応の違いで魔物の区別だけではなく、その者の持つ魔力の質みたいなものもわかるようになっていた。

  これは探知をしていなくても、近くにいる人間が相手でもだいたいわかる。
  俺が感じた山の麓にいるであろう帝国の兵士の魔力反応は、ティナたちと比べ異質なものだった。

  魔力のある世界で進化した人間だからだろうか? しかしそれだと獣人やエルフとこれほどにも違いが出るのはおかしい。人間特有の変化なのだろうか?

  俺は気味の悪い反応に首を傾げたが、今はそれどころじゃないとすぐにゲートキーを取り出し木の枝に乗ったまま自宅を思い浮かべ空中にキーを挿し込んだ。
  そして無事キーを回すことができ、輝くゲートが現れた。

  俺はこの目立つゲートをさっさと通り抜け、2年近くいたこの桜島の地と別れたのだった。




「ただいま~。やっぱ真っ暗だな。街灯は点いてないのか。向かいの家は電気が点いてるっぽいから節電か?  」

  ゲートをくぐるとそこは自宅の玄関で、夜ということもあり真っ暗だった。
  自宅は自動引き落としにしていないのでとうに電気を止められてるのはわかっていたが、もう少し外の明かりで明るいと思っていた。
 うちは戸建で道路の街灯が近いこともあり、普段はここまで暗くないだけど街灯が点いてないため真っ暗だ。  
  玄関から見えるリビングの先には向かいの家の灯りが見えたので、恐らく節電かなにかだろう。

  占領されている国だしな。家庭に電気が通っているだけでもありがたいと思わないとだめか。

  とりあえず暗視のスキルを発動しているので行動に問題ないが、暗い自宅じゃ帰ってきた気分がしないので俺は空間収納の腕輪から魔導光球盤を取り出し魔力を通した。
  すると手のひらサイズの厚さ10cmほどの黒い盤から光球が飛び出し、リビングを明るく照らした。

  これはほぼどの骸も持っていたダンジョン探索には必須の照明の魔道具だ。
  結構明るくて移動をしても、この魔導光球盤と一定の距離を保って付いてくるので重宝している。
  ダンジョンは真っ暗ではないが、薄暗くそれほど先の方までは目視できない。
  暗視のスキルも魔力消費が少ないとはいえ、常時発動していると魔力回復速度が遅くなる。
  なので上位の冒険者は必ず持っているらしい。

  これはダンジョンのドロップ品としては、上級ダンジョンでちょこちょこ見つかるのでそこまで珍しいものではないらしい。俺も骸から頂いた物と宝箱に入っていた物などで50個ほど持っている。
  でも日本じゃレアアイテムだろうな。
  占領された国は、帝国に忠誠を誓った者以外は上級ダンジョンの立ち入りを禁止されているらしいからな。
  そりゃ力を付けられて反乱されたら堪らないだろう。地球の人口は60億、帝国は3億らしいしな。
  それでも各地で反乱はあるだろうにいったいどうやって統治しているのか……

  俺は歴史の授業で聞いた太平洋戦争の際の欧州諸国による占領政策を思い浮かべ、大量虐殺とかしてんだろうなと想像していた。
  嫌な気分にはなったが、でもそれは戦中戦後問わず幾度も各国で起こっていたことだ。少数民族の弾圧なんて毎日世界のどこか、いや隣国でも起こっていた。不当逮捕に収監。女性は毎日強姦されているなど、ネットやニュースでそのことは知っていた。嫌な気分になりながらも自分にはどうしようもない、関係ないと日本という安全な場所で見て見ぬ振りをしていた。

  俺たちがニート特別雇用法で連れて行かれたことも、世間からはそう思われていたんだろう。ニュースではダンジョンに入れられたなんて一言も報道していなかったけどな。法令が施行されました。終わりってだけだ。

  さすがに目の前で虐殺なんかあったらなんとかしようと思うし、自分の知り合いがそんな目にあおうものなら全力で阻止するよう動くだろう。でも世界のどこかで俺の知らない人たちが受けている仕打ちなら、可哀想だとは思うがどうしようもないし、俺には何もできない。今までと同じだ。

  俺はどうか日本で虐殺とか起こってませんようにと思いながら、明るくなった懐かしの我が家を見渡した。
  特に留守中に空き巣に入られた気配もなく、そのまま2階の自室へと向かった。

「おお~懐かしの俺の部屋……帰ってきたぞー! 俺は帰ってきた! 」

  俺は懐かしの部屋を見て込み上げてくる感情を抑えきれずベッドにダイブした。
  埃が舞った。

「ぐふっ……ゴホッ……あ~窓少し空いてたな。失敗したな。しかし電気が通ってないとパソコンも使えないか……どうやって情報を……駅前にインターネットカフェがあったな。いや、敗戦国なのにやってるか? 普通潰れるか……三井のとこ行くか」

  パソコンやスマホで情報を入手するのが当たり前だったので、俺は電気が通ってないと何もできないことをすっかり忘れていた。
  スマホは新宿で登録した際に探索者協会に没収されたままだし、持っていない。
  そもそもスマホが使えるかどうかもわからない。

  ここから高円寺の駅までは徒歩で20分、今の俺なら走っていけるから10分だが戦争に負けた国だ。相当不景気なはずだ。潰れてるだろうと思い、高校の時の友人の家に行くことにした。
  三井は気さくで頭のいい好青年だ。企業勤めをしていたが、実家の肉屋を継ぐために5年前から実家に戻ってきていて月に一度は一緒に飲みに行ったりしていた。
  三井には俺がニートなのは内緒にしてある。まあ気付かれてたとは思うけど、そういうのには触れてこないいい男なんだよ。エロいけど。

  ゲートキーは6時間置かないと再び使えないので、俺は徒歩で行くことにした。隣の駅だしここからは割と近い。走れば10分掛からなさそうだ。飛べばあっという間だけど、まさか飛ぶわけにはいかないしな。

  そう思いデビルマスクを外して玄関でブーツを再び履き、外に出ようとドア開けたらドアに挟んであったのであろう二つ折りにされた紙が落ちてきた。なんだろうと見てみると、三井からの置き手紙だった。

『心配してる。連絡してくれ』

  俺は少し胸が苦しくなってそのまま玄関の前でしばらく佇んでいた。

  両親も他界して兄弟もいない。親戚とはもう10年以上疎遠で、三井やほかの友人たちも突然俺が連絡取れなくなって心配してくれているとは思っていたけど、日本は戦争に負けて占領されたと聞いた時にそれどころじゃないだろうなとは思っていた。

  それでも家が近いとはいえこうして自宅まで来てくれた。ドアに挟んだってことは何度か帰って来てないか確認しにも来たのだろう。
  それがなんだか無性に嬉しかったんだ。

  俺はそのメモ書きのような手紙をズボンのポケットにしまい、三井の家へと走って向かった。

  会ったら異世界人のエロ本を複写させてやろう。

  そう思いながら。


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