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第1話 探索者協会

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「オラッ! 阿久津! そんなへっぴり腰じゃゴブリンを倒せねえぞ! 」

「は、はい! う、うおおおおらぁっ! 」

「よしっ! 次っ! 川井! 」

「はい……」

「声が小さい! お前はグラウンド5周してこいっ! 次っ! 二瓶! 」

「はい! やああああ! 」

「目を瞑るんじゃねえ! その場で腕立て伏せ50! 」

「は、はい! 」

  くそっ! 好き放題やりやがって。いつから俺は軍隊に入ったってんだ。

  俺は今、大島にある探索者協会の新規探索者教育訓練施設で訓練を受けている。
  1週間前に厚生労働省の役人と警察官に囲まれ、バッグ一つ持ってパトカーに乗せられ新宿まで連れていかれた。そしてパトカーが止まった先にあったのは探索者協会本部ビルだった。
  そこには俺と同じように着の身着のまま連れてこられたニートたちがたくさんいて、身体検査の後に強制的に入会手続きをさせられていた。もちろん俺も身体検査をして入会させられた。
  そしてそのまま警察の護送車で港まで運ばれ、他の地域のニートと共に船に乗せられた。
  なるようになれと諦めた俺は、適当な場所で雑魚寝をして大島に着くまで眠った。ずっと泣いてるやつがいて気分は最悪だった。

  大島に着いてからはまた護送車に乗せられ、刑務所ばりにバリケードで囲まれているこの訓練施設に運び込まれた。そして二段ベッドのある100人部屋に押し込まれ、まるで軍隊のような生活を強いられている。

  あの日パトカーで護送されている途中にニート雇用法についてスマホで調べたが、やはりダンジョンでの強制労働は本当だった。掲示板なども見たが、どこも阿鼻叫喚の書き込みで溢れていた。今年に入って就職活動をしたやつも容赦なく連れていかれたそうだ。

  当初誰もこんな法案が通るわけないとタカをくくっていたようで、法案が通った時にはもう諦めて国が指定した仕事をするしかないと覚悟を決めていたらしい。それなのに今になって阿鼻叫喚なのは、ダンジョンでの資源採集を生業とする探索者協会で働かされることが直前になって決まったからだ。

  この探索者協会というのは自衛隊では人手が足りず、国が民間人にダンジョンを探索させるために1年前に作った組織だ。当初は一攫千金を狙って多くの人が入会しダンジョンに挑んだが、銃の所持を許されない日本では無理があった。浅い階層で多くの犠牲者が出てたった数ヶ月で入会する者は途絶えた。

  こういった組織は海外ではそれなりに上手くいってるらしいが、それは銃が使えて最初のランクを得るためのハードルが低いからだ。
  日本でもダンジョン内のみ銃の所持を許可する法案が出たらしいけど、何かあった時の責任を誰も取りたがらず審議中のままだ。
  最近になって唯一ダンジョンに隣接されている探索者協会支店に保管するのを条件に、刀剣類の所持が許された。それにより多少入会者は増えたらしいが、相変わらずの死亡率なうえに浅い階層ではたいして稼げないことから万年人手不足なのは変わらないようだ。

  今回のニート雇用法の法案通過は、どの掲示板でもこれは経済界の策略だったと言っている。ダンジョン内の資源は経済界が喉から手が出るほど欲しがっているからな。
  法案を通す時にはどの仕事をさせるかは具体的に言わず、国民の支持だけ得ていざ施行する時に探索者協会で働かせると決める。政治家と役人がやりそうな事だ。
  野党や人権団体が後から文句を言っても、今回対象となった1万人をこの不景気の最中雇える企業などない。準公務員扱いにして国の仕事をさせたとしても、税金の無駄遣いだと国民の反発を受けるだろう。

  法律が先に決まってしまったんだ。法治国家として法を遵守しなければならない。だからマスコミも人権団体もこのニート狩りを黙認し、何事も無かったかのようにしている。
  そう、俺たちニートは国に捨てられたんだ。死亡率のあまりの高さに誰も入会しなくなった、探索者協会という役人の天下り組織の維持のためにダンジョンに廃棄されるんだ。

  そういえば若者があまりに大人の言うことを聞かないのを理由にとんでもない法律を作り、抽選で選んだ高校の1クラスをどっかの無人島に強制的に連れて行ってクラスメイト同士で殺し合いをさせる映画があったな。
 
  まさにこの世界はそんな世界だよな。殺し合いをする相手は魔物だけど。
  半年生き延びれば解放されるけど。
  探索者協会へ入会して半年後の生存率は40%だけど。

「阿久津! なにをボサッとしてんだ! その場で腕立て伏せ50回! 」

「は、はい! 」

  くそっ! とにかく今はダンジョンで生き延びるために戦う術を身に付けるしかない。
  これでも学生時代は中距離走をやってたんだ。けど社会人生活とニート生活で体力が落ちててキツイ!
  でも俺は死にたくない。ネット小説の続きも見たいしアニメの続きも見たい。えっちなお店にもまた行きたいし、いつか可愛い子と結婚したい。とにかく体力だ。体力を取り戻さないといざという時に逃げ切れない。

  俺はあらゆる欲望を糧に訓練教官のいじめとも言えるシゴキに耐え、2週間に及ぶ座学と基礎体力訓練と武器訓練をやり遂げた。
  反抗しなかったのは、長年の社畜生活で植え付けられた奴隷根性がまだ残っていたからだろう。
  結果的にここではそれが正解だった。
  それは訓練が始まって1週間も経たないうちに、この施設から脱走しようと試みた者が多くいたことでわかった。ここは逃げ場のない島だ、そいつらは呆気なく全員捕まって訓練を強制終了させられた。そしてそのままどこかの地域のダンジョンに放り込まれたそうだ。体力も知識も武器の扱いも身に付いていない状態で……




***********



「阿久津ゴブリンがいったぞ! 」

「任せろ! シッ! 」

《 ギギキッ! 》

「よしっ! 浜田! 魔石の回収を頼む! 俺はそこの角で警戒してる」

「わかったよ阿久津さん」

  強制連行されてから3ヶ月が経過し、俺はいまパーティ仲間と共に千葉の初級ダンジョンと呼ばれるダンジョンに潜っている。
  初心者訓練課程を終えた俺たち新人探索者たちは、それぞれが指定された地域に割り振られた。
  俺は大島で同室だった数人の同期と一緒に、千葉の木更津市にあるダンジョンに配置された。
  ダンジョンが出現した時に政府は魔物が外に出てくる危険性を排除するために全てのダンジョンを壁で囲んだ。この壁は高さ5mほどあり、なかなかに分厚いコンクリートでできている。
  
  そして今回の法律施行のために壁内にはプレハブ造りの兵舎が設置されている。この兵舎には次々とニートが送られてきて、一時は600人がここで生活していた。
  そう、していたんだ。今では400人を切っているけどな。この宿舎では携帯の使用は不可だ。電話も設置されていない。つまり人が死んだことを外に伝える術がない。

  ダンジョンには12人のパーティで放り込まれるんだが、ベテランの付き添いなんてものはない。あったとしてもこの人数には対応しきれないだろう。自衛隊が協力してくれればいいが、あそこは別組織だ。そんなことはしてくれない。そしてこのダンジョンには一般の探索者は来ない。いるのは施設の職員兼監視役のDランク探索者たちだ。
  こいつらはめちゃくちゃ強い。なぜ強いかわかるかって? ここにきて最初の一ヶ月でゴブリンを殺すことや、仲間が次々と死んでいくのを前にして頭がおかしくなってさ、仲間と共に武器を手にここから逃げようとしたんだ。その時にあっという間に制圧されたよ。
  このランクってのは確認されているものでB+からF-まで各3段階づつあるらしいんだが、FとEじゃ大人と子供以上の力の差があるらしい。それなのに俺たちはDランクの人を相手に逃げようとしたわけだ。ボッコボコにされたよ。
  あとから聞いた話だけど、Dランクになると拳銃で撃たれても皮膚で弾が止まるらしい。人間卒業だな。
  
  そんなこともあり心を折られ、その後はただひたすら言われるがままに戦い続けた。
  せめてもの救いはまともな武器の支給があったことだな。支給だと思ってたら買取りだったけど。38万の6ヶ月払いのローン契約させられたけど。月の給料は命を懸けてノルマ達成して35万で、寮費と食費と税金引かれて15万だけど。

  もう昔働いていたブラック企業が超ホワイト企業に見えてきたよ。3ヶ月で200人死んでるんだぜ?
  なのにテレビじゃ一切報道されない。全国のダンジョンで同じような事になっているのにだ。
  半年後に子供が死んだことを知らされた遺族にどう説明するつもりなんだ? 行方不明で通すか? それか入会時の死んでも一切文句は言いませんとかふざけた内容の誓約書にサインしたのを盾に逃げ切るつもりか? いくらマスコミがグルでもSNSで広まるのは止められない。政権が吹っ飛ぶのは間違いない。俺が必ず吹っ飛ばしてやる。

 
「阿久津ナイスだ。運動神経がいい奴と組めてよかったぜ」

「俺も馬場さんがいて助かってますよ。それに魔力ってやつの使い方がわかってきましたからね」

  俺がこの千葉のダンジョンに来てから唯一の救いは、このニートらしからぬマッスル馬場と同じパーティになれた事だ。大剣を振り回すこの人の火力は凄い。俺は素早さを活かして剣でそのフォローをするだけでいい。ほかのメンバーたちも槍で牽制を上手くしてくれるから、ゴブリンが6匹出てきても対応できる。
  なによりゴブリンを前線で倒し続けたおかげで、魔力というものが俺にも備わったようだ。そのおかげで剣で斬りやすくなった。

  恐らくランクが俺に付いたんだと思う。
  おれもとうとうランク無しからF-ランクになったという事だろう。
  確かランクは座学で聞いた感じだと体力、魔力、力、器用さ、素早さの5項目にそれぞれにランクが付くんだったな。
  これは鑑定のスキルを持っている人じゃないとわからないんだよな。

  海外ではランクのわかるアイテムが発見されたらしいけど、日本にはない。当然こんなところに鑑定のスキルを持った人間は来ないから、俺たちは感覚で付いたか付いてないか判断するしかない。
  銃があればすぐランクは付くらしいが、自衛隊以外は使えないから一般人はこのランクが付くまでに死ぬ確率が高い。だから日本は他国よりランク所持者が少ないんだ。

  人が死にやすければ誰も探索者にならない。そうなると才能があるやつが出てくる確率も低くなる。だからニート狩りをして無理やり戦わせる。そしてそのニートの中から才能がありそうな奴を正式にスカウトする。俺たちにもきたよスカウト。俺たちをボコったDランク探索者の奴らが偉そうに勧誘してきた。ボロクソ言って全員断ったけどな。そしてまたボコボコにされたけどな。アイツらいつかぶっ殺す!

「俺はその魔力ってものの扱いがイマイチなんだよな。まあそれでもあと3ヶ月だ。必ず生きてここを出て世間にこの現実を広めてやろうな」

「ええ、死んでいったやつらの為にも必ず」

「そうだな……よしっ、ほかのパーティも降りてきたし俺たちは4階まで降りるか。ゴブリンの数は増えるがさっさと魔石のノルマを達成して帰りたいしな」

「そうですね……まあ大丈夫でしょう。浜田~魔石は全部取れたか? 」

「取れました~」

「なら行くか。俺と阿久津が先頭で浜田と三村は後方警戒な」

「ええ、行きましょう」

  地下5階までは通常のゴブリンしか出ない。6階からは弓や魔法を撃ってくるゴブリンが出るらしい。一般の探索者もニート探索者もたいていがこいつらにやられる。念のため盾をいくつか持ってきているが、6階には降りるつもりはない。

  だけど俺たち同様4階まで降りてくるニート探索者が増えてきた。このままだといずれ獲物不足で俺たちは5階に、そして6階へと足を踏み入れなきゃならなくなる。
  ちきしょう……ノルマなんて課しやがって。ノルマを達成しないと給料が減るだけじゃなく、就業した日数にカウントしないだと? 週5日朝から晩までこの危険なダンジョンに潜ってるのに? 怪我で休んだら就業日数が延長されるのに? 
  くそッ! 半年で解放する気ねえじゃねえか! これじゃあ奴隷だ! いつか覚えてろよ! 



***********



「え? 九州? 」

「ああ、協会からの命令で自衛隊の後方支援のために優秀な探索者を行かせるらしい」

「き、九州で自衛隊が絡むのなら、もしかしてこの間テレビでやってた突然現れた巨大なあのダンジョンに入るってことじゃないですか? 」

「そうみたいだ。解放まであと1ヶ月って時にツイてないな。けど今回の支援が無事に終われば解放してもらえるそうだ。それがせめてもの救いか」

「いやいやいや……明らかにゴブリンや緑狼や角兎が出るようなダンジョンじゃないでしょ。見た目からして上級ダンジョンなのは間違いないですって。俺たちは初級ダンジョンのしかも6階までしか到達してないんですよ? 」

  この2ヶ月でパーティメンバーが4人死んだ。その穴埋めがやっとできたところなのに、いくら後方支援でもそんな未知のダンジョンなんかに入りたくねえよ。

「それは支店長にも言ったさ。ただ俺たちは後方支援に徹するだけでいいと。護衛に探索者協会からCランク探索者を派遣するし、奥に行くのは自衛隊だけだ。俺たちは自衛隊の最後尾を無線中継機を設置しながら付いて行くだけだから危険はないと押し切られた」

「ついていくだけって……はぁ~、決定事項なんですよね? 」

「ああ、俺たちに断る権利がないからな」

「うちからはどれくらいパーティが? 」

「俺たちを入れて5パーティだ。6階で狩りをしているやつら全員だな」

「失敗したなぁ。目立ったのが仇になったか」

  ノルマを全部こなしているパーティばかりだ。協会にこの選任に悪意すら感じる。
  俺たちを生かして社会復帰させるつもりがないとすら思える。

「ああ、とにかく危なくなったら逃げるしかない。牽制用の油を大量に持って行こう」

「くそっ! なんとか生き残って解放されてやる! 必ずいつか復讐してやるからな! 」

「ああ、今回一緒に行く奴らも同じ気持ちの仲間だ。外に出て声をあげて、必ず俺たちをこんな目にあわせた政治家と役人、そして探索者協会の奴らに復讐しよう」

「ええ、必ず社会的制裁を喰らわせてやりますよ」


  この時の俺たちは知らなかった。
  この施設の至る所に盗聴器が設置されていることを。
  この時の俺たちは知らなかった。
  探索者協会にとって都合悪い俺たちを、協会はハナから解放する気がなかったことを。




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