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第1章
最終話 世界を救えなかった勇者の世界を救う物語
しおりを挟む「ワタル……磨きにくい……ちゃんと口開ける」
「ん……あーん」
俺はカレンに怒られて口を大きく開けた。
「アナタ。はい上着です」
「うい」
次にフィロテスが後ろから上着を着せてくれた。
「あなた様。勇者の鎧の用意ができました♪ 」
するとアリエルがリビングからやってきて嬉しそうに俺に報告してきた。
「ありがほ」
「ご主人様。いい加減歯くらい一人で磨きやがれってんです」
「……ワタル口ゆすぐ」
「ガラガラガラ……ぺっ! 仕方ないだろカレンがやりたがるんだから。だいたい俺がトイレに行く度にタオル持って待ってるトワがそれ言うか?」
「ご主人様が手をしっかり拭かないからでやす……ばっちいでやす」
「ハイハイ、ていうかいつまでご主人様呼ばわりしてんだよ。結婚して1年経つんだぞ?」
「ご、ご主人様はご主人様でやす」
「顔真っ赤にしてかわいい嫁だな」
「う、うるさいでやす! とっとと支度しやがれです! 」
うーん、青い髪を振り乱して可愛いな。リカやモモたちのおかげか、表情も豊かになったし。
「ワタル……次はおしっこ? ついでに戦いの前に抜いておく? 」
「抜かねえよ! これから決戦だってのになに言ってんだよ! 」
ったく、カレンは相変わらずだな。
朝から俺は月の屋敷で妻たちと出撃の準備をしている。
この月で最後にダグルとの大規模な戦いがあった5年前。まあアリエルとの仲が急接近するキッカケとなったあの戦い以降。
ダグルは1年毎に月と地球に攻め寄せてきた。攻め寄せてくる数は前回と比べればずっと少ない。しかしやって来るダグルは段々と高レベルになっていき、アガルタの奴らで倒せないのが来る度に救援要請が俺に来るんだ。そのため俺は新婚生活を幾度となく邪魔されてる。
カレンとの新婚旅行中にやってきた時は、カレンがぶち切れて大変だった。ほぼ一人で大騎士級数体を倒してたよ。まあその後は仕切り直しで、アガルタ一周の新婚旅行を楽しんだんだけどな。
でも新婚旅行中はカレンが今なら子供ができそうな気がするって言って、どこにいても求めてきてもうお互いパンツを履くのをやめたくらいだ。俺も毎日秘薬を飲んでたよ。カレン一人なのに……
そうそう、カレンとフィロテス。そしてトワとアリエルとは結婚したんだ。
カレンとはもう結婚3年目で、フィロテスとは2年目。トワとアリエルとは1年目だ。
もちろんプロポーズは3年前にカレンから順に全員に俺がした。式を間を空けて別々にあげたから、日にちがずれているだけだ。
プロポーズした時はさ、カレンはずっと待ってたって泣きながら喜んでくれた。俺は待たせてごめんなって言って抱きしめたよ。
フィロテスは私なんかで本当にいいんですかって不安がってた。フィロテスじゃなきゃ嫌なんだって言ったら、それはもう嬉しそうな顔を見せてくれたよ。その日の夜のフィロテスはすごかった。サキュバスかと思ったよ。
トワには最初断られた。子供を作れないからって。だから俺は二人でオートマタを作ろうって、それが俺たちの子供だって。それなら問題ないだろ結婚しようって言ったら、黙って頷いて俺の胸に顔を埋めながら嬉しいって言ってくれた。当然その日の夜は、トワは俺の上で好き好き言いながら搾り取ってた。秘薬なしじゃ俺はとっくに死んでたと思う。
アリエルはプロポーズしたらその場で気絶した。あまりの嬉しさに顔を真っ赤にしてテンパって、返事もしないままそのままパタンって。
エーテル保有量が10万超えになり、ダグル相手にカレンと無双してる子とはとてもじゃないけど思えないよな。まあ夜に仕切り直してちゃんと喜んでくれたけど。エルサリオンの前王と現王はアリエルとフィロテスの話を聞いて、国を挙げてのお祭りをしたらしい。身内だけならともかく、アリエルは王籍から外れたんじゃなかったのかよと思ったね。
エルフとの仲はまあ良好だ。この5年間現王が他国に移住したハイエルフたちの元へ直接足を運び、頭を下げて戻ってきてもらってたからな。貴族位を与えられた者も結構いるらしい。
現王はダークエルフの二人の嫁とも子供ができた。男の子と女の子だ。早々に男の子を後継者に指名したようだ。
こうしてエルフが約束を守った以上、過去のことはもう忘れることにした。当事者のカレンが全く気にしてないしな。
でも最近カレンとの子供はまだできませんかとか聞いて来るんだよ。なんだか嫌な予感がするから無視してるけど。
まあそんな感じで全員と一人づつゆっくり新婚旅行をして、それから幸せな夫婦生活を営んでいる。
その間もフィロテスとトワとアリエルを鍛えながら、アガルタの軍が強くなるのを待っていた。
フィロテスたちは決戦の時に置いて行かれたくないからって必死に訓練してたよ。愛されてるよな俺。
それからフィロテスたちの仕上がりと、アガルタの軍備と練度を見てもう大丈夫だろうと判断した俺は、いよいよ火星に逆侵攻して魔王級を討つことをアガルタに提案した。
そしてとうとうそれを実行する日となったわけだ。
アガルタは魔結晶を元にあれから更に技術を発展させた、魔結晶と増幅装置を使い今ではダグルの戦艦級でもアガルタの宇宙戦艦で撃ち落とせる。
Eアーマーも前線で戦う精鋭部隊の装備は、ほぼ魔結晶の武器に換装された。もうアルガルータの戦士より強力な力を持っている。それが1万機いる。
日本軍。ああ、自衛隊は日本軍に改名した。アメリカの基地も今じゃ日本には一つもない。アガルタの技術を得た日本は、紛れもなく地上世界では最強の国家になった。
シムも何度もモデルチェンジして、シムカスタムを得て今では地上も宇宙も両方で戦えるシェガンという緑色のパワードスーツが1000機稼働している。相変わらず全長10メートルと大きいが、この機体は初期のEアーマーに匹敵する能力がある。そのうえ魔銃と魔砲を装備しているから、レベル3のカマキリ相手でも3機いれば倒せる。アガルタの精鋭たちなら一対一で余裕で倒せるけどな。そこはもう装備の違いだから仕方ない。
火星での決戦に参加したがってたが、絶対死にそうだから却下した。月での迎撃戦だって重傷者を何人も出してるんだ。まだ早い。
それでも日本軍はどんどんエーテル使いが増え、旧式のシムカスタム乗りも2000機いる。もう国内にダグルが上陸してもアガルタの助けは必要ないだろう。
そんな強力なパワードスーツ部隊を持つ日本は、経済も軍事力もそして影響力もダグルがやって来る前のアメリカ以上だ。最初はアガルタの技術の研究と開発をしている科学者や施設がスパイに狙われたりしていたけど、ダグルが地球にやってきた時にそれを行った国家は後悔することになった。日本軍による救援が後回しになるからだ。
それ以降は研究施設やそこで働く科学者を狙うものはいなくなった。技術の漏洩も今のところはない。アガルタが監視しているってのもあるけど、国家反逆罪が適用されるからな。そんなことしたら一発で死刑だし。
一方アメリカなどはどうしているかというと、流石は大国だ。平身低頭で日本との関係を改善し、日本が加工したダグルの甲殻をどこよりも多く手に入れることに成功した。そして独自の技術でシムクラスのパワードスーツを作り出した。まあエーテル使いもいないし技術もないから、戦闘力は小長谷の部隊が乗るシムより遥かに劣る。連続稼働時間も少なくなったしな。
けどレベル1や2のダグルに、国内をもう好きにさせないほどの戦闘力は得ている。彼らが改良したレールガンは結構強力でさ、数を揃えて一斉にぶっ放すって戦術でダグルの群れを薙ぎ払ってたよ。そんな機体がアメリカだけで1万機はありそうだ。
まあそんだけいてもカマキリ一匹に手も足も出ないんだけどな。そういう面でどの国も日本に依存している。
だから今回俺が率いるアガルタ連合軍による、火星への魔王討伐作戦に大喜びしてるよ。あいつらダグルがいなくなったら絶対戦争するぜ? 賭けてもいい。
「あなた、腕を上げてください」
「ああ」
「あなた様、脚甲をつけますね」
「ほい」
俺はフィロテスとアリエルによって、次々と青く輝くパワードスーツを身につけていった。
このパワードスーツと妻たちのドレスアーマーは改良に改良を重ね、持っている魔鉄も全て使って作った傑作だ。全員に1等級の結界と再生の魔結晶を融合してあるし、パワードスーツ自体も強力なエーテルシールドを展開する。それでも火星には酸素がないから、俺は鎧自体を最大限強化した。あのジオがもう勘弁してくれと泣きを入れても一切聞かず、鞭を打ちながら作らせたのが俺と妻たちのパワードスーツだ。
更に緊急時のカプセル式脱出装備も仕込んである。アーマーの一部に空間拡張の魔結晶を設置し、妻たちの身に危険が及んだ際にそこから自動的に出て来て彼女たちを強制的にカプセルに入れる。そして強力なエーテルシールドを展開しながらその場から自動で脱出し、中で予備のドレスアーマーに着替えるか近くの宇宙船に行くかを選ぶことができるんだ。
とにかく安全第一で作った代物だな。火星で戦うんだ、これでもまだ不安だ。だから俺の影空間空間には輸送型小型宇宙船も入っている。最悪の場合は俺がダグルを引きつけ、妻たちをこれに乗せて逃がす。まあ、そうなることはないだろうけどな。ダグルは数は多いけど、明らかに魔物より弱いから。
そんな強力なパワードスーツに着替えた俺は、妻たちの着替えも手伝い屋敷を出て月面裏の基地へと向かった。
「おお、勇者様。お待ちしておりました」
「待ってたぜ勇者様! 俺はもう朝から興奮しまくりでよ! 火照りを抑えるのについつい女房たちと朝から張り切っちまったぜ! 」
「相変わらず下品じゃのラルフ獣王は。勇者様。ワシもガンゾ様のこの戦斧で戦うぞ。ダグル共はワシらハンザリオンにお任せくだされ」
「グフフフフ、まさかギラン様のように勇者様と魔王退治に行くことになるとは。これほどの栄誉はない」
俺たちが基地に着くと、エルサリオン前王のリンドールとガユウ獣王国の獣王ラルフ。ハンザリオンの大統領であるアッサムに、巨人連合のバラム議長が完全装備で待ち構えていた。
「お前ら……来るなと言っただろ」
俺は満面の笑みの王や代表たちに頭を抱えた。
ダメだこいつら、アルガルータの王たちと行動が全く同じだ。
「いや、申し訳ございません勇者様。どうしてもご先祖様たちのあの姿が脳裏から離れず、気が付けば城を出ておりました」
「お父様……」
アリエルも困った顔をして父親を見ている。やってることが昔のアリエルと同じだもんな。リーゼリットの遺伝子強すぎじゃね?
「勇者様、あれだろ? 来るなよ来るなよってフリってやつだろ? ニホンのことは勉強したんだ。ちゃんと伝わったぜ! 」
「ちげえよ! フリじゃねえよ! お前獣王だろ! 国を放って魔王討伐に参加してんじゃねえよ! 」
俺はラルフのすっとぼけた言い訳に突っ込まざるを得なかった。
「大丈夫だって。俺がいなくても息子たちがいいる。それがダメなら強い奴が治める。問題ねえって」
「ワシも選挙でイヤイヤ選ばれただけじゃからな。代わりはいくらでもおる。しかしこの決戦だけは代わりの者には任せられん。ガンゾ様と同じように勇者様と共に戦えるのじゃからな」
「グフフフ、そうよ。これだけは譲れぬ」
「はぁ……魔王のいる母船には入らせねえぞ。お前らじゃ足手まといだ。自国の軍をまとめろ。それが聞けないならここで動けなくして置いていく。カレン」
「ん……アリエルのお母さんが心配してる」
カレンは俺の合図にコクリと頷き、魔銃を取り出してリンドールとラルフに銃口を向けた。
「しょ、承知しました。勇者様の花道を作ることに徹します」
「ちょ、カレナリエル様シャレになんねえって! わ、わかった! 魔王級の母船手前までにする! 中には入んねえって! 」
「ワ、ワシもそうする」
「ウ、ウム。邪魔はしないと約束しよう」
「ん……ならいい」
「死んで士気を下げんなよ? さて、んじゃ行くか」
俺は王たちにそう忠告し、妻たちを連れてレイコたちが待っている宇宙船に向かおうと歩き出した。
「勇者様。アガルタの精鋭たちが基地の外で整列しております。どうか一言お願いします」
しかしリンドールの背後にいたルンミールが、俺の前を塞ぎ逃してはくれなかった。
「うっ……忘れたことにしようと思ってたのに」
「士気に関わることですので。さあこちらに。奥様方も是非」
「ワタル……無駄なあがきはしない」
「ふふふ、昨日から嫌がってましたものね」
「往生際が悪いでやす」
「わかったわかった、やればいいんだろ」
くそっ! もう二度としないと思ってたのに。
俺はカレンとトワに両腕を拘束され、基地の最上階のバルコニーへと連れて行かれた。
バルコニーから出ると数百隻の戦艦に母船が月面上に滞空しており、地上には一万機のEアーマーと五千機の予備部隊。そして数十万人の彼らの後方支援部隊が整列していた。
俺はそれらを見た後ため息を吐きながらヘルムを被り、視線でエーテル通信機を起動させオープンチャンネルに設定した。
眼下ではアガルタ連合軍として招集された各国の精鋭たちが全員が、俺に視線を集中させている。
俺はそんな彼らの視線を感じ、昔を思い出すように語りかけた。
『アガルタ連合軍の精鋭たちよ。俺は1万5千年前。諸君らの故郷でこうして多くの戦士の前に立った。その戦士たちは諸君らの先祖だ。あの最後の決戦の日の彼らの戦いぶりは、諸君らもよく知っているだろう』
俺がそういうと連合軍の皆は全員が頷いた。
その目は決意に満ちたものもあれば、不安や恐れを抱いているものもあった。
当然だ。月とは違って重力装置も酸素もない。その上これまで戦ったダグルより、遥かに強い個体が待ち構えているんだからな。
『諸君らの先祖は勇敢に戦った。各王が先頭となり、どれほど強大な敵を前にしても一歩も引くことなく戦った。腕が喰われようが足が焼かれようが、彼らは魔物に噛みつきながらもその侵攻を止めた。そのおかげで俺は魔王城にたどり着くことができた。そして魔王を倒すことに成功した。しかしその直後に新たな魔王の乗る船により俺はあの星から消えることになった』
あの時、もう少し時間があれば。俺が魔王から奪った能力を融合する時間とエーテルがあれば……
『確かに種の絶滅は免れた。彼らが時間を稼いだおかげで、彼らの家族は精霊神の力で地球の地下世界に転移し生き残ることはできた。俺も精霊神の力で生き残り、時を超えて故郷へと帰ってきた。俺は……俺は1万5千年前に諸君らの先祖と約束したんだ。必ず魔王を倒してこの星から魔物を一掃すると。彼らはそれを信じ逝った。俺を信じて喜んで死んでいったんだ』
なのに俺は……
『でも俺は守れなかった。勇者だなんだと言われても、俺は戦友の命も故郷も何も守れなかったんだ
』
《勇者様! そんなことはありません! 命を! 命を繋いでいただきました! 》
《そうです! 我らが今ここにいるのは勇者様とご先祖様のおかげです! 》
《アガルタが我らの故郷です! ですからどうかご自分を責めないでください! 》
俺の言葉に連合軍の皆は首を横に振り、多くの者がたちがそんなことはないと言ってくれた。
『ありがとう……なら……皆に頼みがある。俺に戦友たちとの約束を果たさせてくれ。世界を救えなかった失格勇者に、俺にアガルタを救わせてくれ! そのための道を! 魔王へ続く道を、諸君らの先祖に代わり再び切り拓いてくれ! 』
救いきれなかった世界を、今度こそ俺は救ってみせる。
あの時救えなかった戦友たちの子孫と共に。
《《《オ……オオオオオ!! 》》》
《勇者様! 俺は勇者様と共にアガルタを救うために戦う! 》
《道は俺たちが切り拓きます! 魔王を討ってください! 》
《俺もだ! ご先祖さまがやり残したことを再び勇者様と共にやり遂げてみせる! 》
《アタイもやるよ! 大英雄ニキ様のように勇敢に戦ってみせるさ! 》
《オレもギラン様のように肉を切らせて骨を断ってくれる! 》
『ならば出陣だ! 俺は1万5千年前の約束を果たすために! 諸君たちはもう二度と故郷を失わないために! 自信を持て! 諸君らは先祖に負けないほどの力を得ている! 彼らと共に戦ってきた俺が保証する! たかが虫だ! そんなものを恐れるな! 諸君らは大英雄たちの末裔なのだから! 』
《《《オオオオオ!! 》》》
《《《勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 》》》
『全軍搭乗せよ! 宇宙艦隊は火星軌道上で待ち構える敵戦艦級を全て撃ち落とし、火星の陸地を砲撃! そしてEアーマー部隊を上陸させよ! 俺は真っ直ぐ魔王のところへ向かう! 追ってくるダグルを押し止めろ! いいか? 死ぬなよ? 魔王級が倒れるのは確定してんだ。生きて故郷に凱旋するぞ! 』
俺は通信機が壊れるほどの声援に腕を振って答え、宇宙船に搭乗し火星に向かうように指示をした。
俺の指示に皆は再び耳が割れんばかりの叫び声をあげたあと、流れるように宇宙船へと搭乗していった。
「ワタル……演説良かった」
「よせよ。まあそういうことだ。二度目の世界を救う戦いだ。今度こそ確実に救うぞ」
「ん……ワタルと一緒ならどこへでも行く」
「俺もカレンがいるなら魔王級が10匹いたって倒すさ」
「もうよゆー」
「ははっ、そうだな余裕だな」
俺はカレンと笑い合いながら、妻たちと新型宇宙戦艦リーゼへと乗り込むのだった。
世界を救えなかった俺の物語を終わらせるために。
—— それから2年後 ——
「リーゼリット、レオニール、ニキ、ガンゾ、ギラン。遅くなって悪かったな。色々予想外のことが起こってさ、まあ良いことばっかりだったんだけどな。嬉し忙しくてなかなかここに来れなかったんだ」
聖地の丘の上。リーゼとかつての仲間の墓に花を添え、俺はゆっくりと手を合わせ長い間来れなかったことを詫びた。
「火星のダグルは無事殲滅した。魔王級は特殊な能力を持っていて少し手こずったけど、まあ大したことなかったよ」
みんな聞いてくれよ。魔王級はでっかい蜘蛛だったんだ。複眼からめちゃくちゃ速くて強力な熱線を乱射してきたけど、あの悪魔みたいな魔王に比べればどうってことなかった。全部結界で防げたし。
ただあの蜘蛛はバカでかい母船の中で蜘蛛の巣をさ、これでもかってくらい大量に張って待っていたんだ。カレンとアリエルが魔銃で攻撃したんだけど、蜘蛛の糸はエーテルと魔結晶の能力を無効化する能力があったんだ。そのせいで彼女たちの攻撃は蜘蛛まで届かなかった。
なら剣で糸を切ろうとしたんだけど、弾力がある上に粘着力がハンパなくてさ。危うく剣を取られそうになったよ。
フィロテスもトワも頑張ったんだけどね。ダメだった。
じゃあもう母船から出るかってことで、蜘蛛の魔王をそのままにして出たんだ。
え? 魔王を倒さないで逃げたのかって?
違う違う。外に出て全力で母船ごと俺の重圧で押し潰したんだよね。いやぁ、流石にあの質量はキツかった。そしたら蜘蛛が慌てて出てきてさ、蜘蛛の糸を張る障害物が無くなったとこにノコノコとね。
そこからは俺の重力球と、鬱憤の溜まっていた妻たちのトリガーハッピーで蜂の巣よ。蜘蛛の巣を張ってたやつが蜂の巣になるとか笑えるだろ?
まあトワにはつまんないでやすとか言われたけどな。でもあの子は夜は俺にベッタリだからな。俺がこんなこといいな、あんなこといいなって言ったらなんでもすぐシテくれるんだよね。えっちの最中もずっと俺の耳元で愛してるって連呼してるし。ツンデレまくりよ。もう可愛くて仕方ない。
リーゼリットの子孫のアリエルともうまくやってるよ。性格もかなり柔らかくなったし、勝手なこともしなくなった。柔らかい雰囲気はリーゼリットに似てきたなって感じるよ。愛してるのはアリエルだけどな。
そういうわけでこの二年間は忙しくも幸せな日々を送ってたんだ。
「リトライって形になったけど約束は守ったぞ。レオニール、ニキ、ガンゾ、ギラン。お前たちの子孫が魔王を倒したぞ。しかも最小限の犠牲でだ。強かったぞみんな。だからもう安心して眠ってくれ。この第二の故郷はもう大丈夫だから」
「ワタル……」
「ご主人様」
俺がリーゼリットたちに2年分の報告していると、カレンとトワが丘を登ってやってきた。
「もういいのか? 」
「ん……お腹いっぱいになったみたい……ワタルの分のお乳残ってないかも」
「おい、やめろよレオニールたちの前で」
俺はカレンが片乳を出して絞る仕草をするのを見て止めさせた。
「安心するでやす。私も出るようにしたでやす。練乳味にしたでやすから、思う存分吸わせてやるでやす」
「マジか! そんなことできんのかよ! てか練乳とか甘すぎだよ! 糖尿病になっちまう! 」
吸いたい。トワとも赤ちゃんプレイしたい。
「そんなになるまで吸うでやすか? 困ったご主人様でやす」
「嬉しそうな顔をして言うな。ホントに可愛い女だな」
俺はトワの嬉しそうな表情が可愛くて、腰に手を回してキスをした。
もう人間と見分けつかないほど表情が豊富になったな。
「……また勝手にキスするなでやす」
「ははっ、わかったわかった」
「オギャーオギャー」
「あれ? これはご飯の合図だっけ? 和香《わか》はお腹いっぱいなんじゃなかったのか? 」
俺がトワと話している間。お墓に手を合わせていたカレンの胸もとで、お腹いっぱいになって眠っていたと思っていた和香が突然泣き出した。
「ん……違う……おしっこ……おしめ替えに行かないと」
「そうか、なら帰るか。フィロテスもアリエルも寂しがってるだろうしな」
「妊婦は情緒不安定……早く戻る」
「そうだな。側にいてやらないとな」
俺はそう言ってカレンの腰を抱き、丘の上から降りるのだった。
その時、視界に映った精霊神殿の上で、精霊がこちらを見て微笑んでいるのが見えた。
やっぱそうだよな。
人族とエルフの子供ができる確率は低い。百年は覚悟していたのに、こんなに早く子供ができるなんてな。しかもカレンだけじゃなくフィロテスとアリエルも身籠った。
精霊さんよ。ミッションクリアってことだよな?
あの時、あのスキー場で世界を救う役割を俺に与え、それを俺はクリアした。
子供はそのご褒美ってことなんだろ?
ありがとうな。愛する女性との子供は最高のご褒美だよ。
ありがとうな。俺をアルガルータに呼んでくれて。
世界を救えなかった勇者の世界を救う物語 完
※※※※※※※※※※
ご愛読ありがとうございました。
お読みいただいてくれる皆様のおかげで、書いてみたかった物語を最後まで書くことができました。
また次の作品でお会いできることを楽しみにしています。
芝乃桜
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23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
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***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
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面白かったです、お疲れ様でした、他作、新作楽しみにしてます
ありがとうございます。
新作は異世界転移物を今書いていますので、またこちらに転載しますね。
これは、光希じゃなく、光一タイプの主人公だね、考えがコロコロ変わるし女に振り回され過ぎ、ヒロインも蘭程魅力ないし、お気に入り数で結果出てる、これはダメ。
某シティーハンター的な主人公にしたかったのですが、なかなか難しかったです。
一応カクヨムとかだとずっとランキング入ってるんですが、なろうやアルファではボロボロですねw
でも書いてて楽しいので完結までやりきりますよ!