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第1章

第75話 新型パワードスーツ

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「おお~、真っ白だな。それにデカイ」

 俺は目の前でダンゴムシ型のインセクトイドの甲殻に肉薄し、次々と切り裂いていく白い機体を見て率直な感想を口にした。

 この白い機体は、先月からEC連隊に配備された新型パワードスーツ『シム』だ。俺はこのシムによるお披露目会兼演習に招待され、小長谷と恋人たちと共ににVIPルーム席から観覧してた。

「ああ、サク改の後継機であるシムは全長7メートルある。技術的な問題でEアーマーより大きくなってしまったが、操作性も火力もこれまでとは比にならないほど向上している。これもワタルのおかげだ」

「お前らがアガルタの戦士レベルまで成長した結果だ。ご褒美みたいなもんだよ」

 日本政府は俺の口添えでアガルタから新しい技術と装備を得ることができ、こうして新型のパワードスーツの生産にこぎ着けたのは確かだ。けど、アガルタの戦士レベルのエーテルがなければ、そもそもこのシムは使いこなせない。そこまでエーテル保有量を上げたのは小長谷たちが頑張ったからだ。

 そうそう、この新型のデザインなんだけど、サクⅡとシムで散々揉めたあと国民によるネット投票にて僅差でシムに決まったんだ。俺はサクⅡに投票したんだけどな。連邦のファンの方が多いとはな……残念だ。

「航がアガルタに言ってくれなければ、これ程の装備を輸入する事はできなかったさ。おかげで部下の生存率が上がった。指揮官としてこれほど嬉しい事はない」

「まあせいぜいトップが代わって技術を流出させない事だな。今の総理は大丈夫だろうが、未来はわかんねえからな」

 インセクトイドの第三次侵攻後、日本政府は大国の圧力に負けず小長谷たちEC連隊をなんとか守り切った。最初は戦後処理で世界中に派遣して酷使していたが、俺がキレてからは外務省の人事を一新し本当の友好国以外には派遣しなくなった。当然そこにはアメリカは入っていない。

 でも政権が変わるかアホがトップになれば、国際協力の名の下に小長谷たちを使い潰したり、アガルタから禁止されている技術の漏洩をするかもしれない。アジア系のスパイがだいぶ減ったとはいえ、まだまだスパイ大国であることは変わらないからな。金と女に弱すぎるんだよな政治家って生き物はさ。

「ワタルが気に入らないといえばトップはすぐに変わるから心配するな」

「なんだよ。まるで俺が陰の権力者みたいな言い方じゃねえか。やめろよ、俺はいち日本国民なんだから」

「アガルタの全軍を動員できる勇者がいち日本国民とはな。日本も偉くなったものだな」

「それはあいつらが勝手に言ってるだけだ。動員する気はねえよ……って、カレン? どこに行くつもりだ? 」

俺が小長谷と話していると、後ろに座っていたカレンとアリエルがエーテルを抑えながら立ち上がった。俺はそれを不審に思い、カレンへと声をかけた。

「ん……ちょっと戦ってくる」

「私もシムの機動力を確かめようと」

「やめろって。そこでおとなしくしとけ。二人が乱入して全部倒したら演習が台無しになるだろ。世界中に生中継されてんだぞ」

 ここにいる世界各国の来賓はどうでもいいが、期待の新型機を全滅させでもしたら今ごろ目をキラキラさせてテレビを見てる子供たちが泣き出すかもしれない。

「甘い……真の力を引き出してこそのお披露目」

「使えないものを使えるように喧伝するのは、国民への裏切りだと思うのです」

「お前らが相手したら使えるもんも使えなくなるんだよ! 戦いたいだけのくせにごまかすな。いいからおとなしく座ってろ」

「……バレた」

「残念です……ですが、こ……恋人のワタル様のがそう言うなら従います」

「ったく、フィロテスもちゃんと見張っててくれよ」

 俺はつまらないって顔をして席に戻るカレンと、顔を真っ赤にしているアリエルにため息を吐き、後ろで笑っていたフィロテスにそういった。

 そうそう、アリエルなんだが……まあ恋人になった。

 押しかけ女房をしてきたあの日から毎日好き好き光線を発せられ、カレンを味方に付け夜のご奉仕にも乱入してきたら拒めるはずないよな。気持ちの整理ができたこともあって、同居して1年もかからずに手を出してしまった。

 それから1ヶ月ほど経った今は、あのプリ尻を叩きながらバックでするのに絶賛ドハマり中だ。ちなみに尻を叩いて欲しいといってるのはアリエルだからな? 誤解するなよ?

 アリエルはもちろんリーゼリットの代わりなんかじゃなく、ちゃんと一人の女性として好きだ。顔も性格も確かに似てるけど、一緒に住めばやっぱり別人なんだなって思うことが多々ある。リーゼリットは尻を叩いて欲しいなんて言わないしな。

 まあそんなこんなでここ一ヶ月ほど、アリエルは浮かれまくってる。その姿が可愛いくてつい甘くしちゃうんだけど、完全にカレン化してるのが問題だ。強そうなものを見ると試したくなるとこまで似ちまったんだよなぁ。

 トワたちはカレンに逆らえないから、フィロテスしか止める者がいないんだけど、フィロテスもアリエルには甘いんだよ。この中で一番年上のはずのアリエルが、末の妹みたいに二人に扱われている。それでいいのかアリエル……

「ふふふ、はい。すみませんワタルさん」

「ふぅ……助かったぞ航。しかし相変わらず大変だな」

「まあこれだけ綺麗な女の子に囲まれてんだ。このくらいはな」

「ははは、学生の頃にハーレムを築けたら死んでもいいと言っていたしな」

「あはは、確かに言ったな。そしてそれが現実になった。まあ死ぬとしたらベッドの上でだろうな」

 新型宇宙船と共に来たオートマタ20人も、もうすぐ口説き終わる。そうなったら秘薬をもってしても、俺の身体はいずれ限界を迎えるだろう。

 だがその時はその時だ。新しく来た20人は人族の金髪や赤髪。そしてケモミミやサキュバスなどあらゆる属性の美女たちばかりだ。しかも全員従順で素直だ。そんな女の子たちを口説きたいと思うのは当然だと思う。それで死ぬなら本望さ、俺は逝けるとこまで逝ってみせる!

「変わらないな。俺は千夏だけでいいがな。お前と清人は昔から本当に女好きのままだな」

「ヒラキヨもモテモテらしいな。インセクトイドと泣きながら戦った甲斐があったみたいだな」 

 平沢がエーテル保有量を上げて会社でもっといい顔したいって言うから、インドネシアに連れて行って教練用の二人乗りのサクに小長谷と一緒に乗せた。そして延々とインセクトイドの残党狩りさせたんだよな。まあ怖い怖い死ぬ死ぬうるさかった。でもそのおかげでエーテルも増えて、会社ではインセクトイドの甲殻の加工で大活躍しているみたいだ。

 あそこの会社はシムの装甲を作っているからな。ちなみにシムはカブトムシ型のインセクトイドの甲殻を使っている。俺が政府に売ったやつだ。エーテルを大量に流さないと元の硬度はないけど、それでもこれまで使っていた装甲よりも硬くて軽いし、何よりエーテルの通りが良い。

 さらにそこへアガルタから他国に絶対に渡さないことを条件に特別に輸入した、エーテルタンクとエーテル銃。そして俺がやった魔砲を装備している。もうレベル1や2のインセクトイドがいくらやって来ようと苦戦することはないだろう。

 他にも蟻型の甲殻を加工した物でパワードスーツを作り、発展途上国に輸出するらしい。政府の補助金が入るから確実に儲けられるんだ、やらないはずがないよな。

「アイツの場合はそのうち刺されそうだがな。日本人の女相手に何股もかけるとは正気とは思えん」

「まあ再生の魔結晶を埋め込んでるから死にはしないだろう。さて、演習も終わったみたいだな。またカレンがウズウズしだす前に帰るとするか」

 俺はそういって席を立ち、後ろで話しているカレンたちへ目配せをした。

「あ~航から会場の皆に一言をもらえるように言われてたんだがな」

「そんなの俺が受けると思うか? 」

「ククク……いや? 」

「だろ? もう1佐なんだし、お前に文句言ってくる奴も少ないだろ」

 1佐って確か昔の階級で言うところの大佐だったはずだ。しかも世界で唯一エーテルを扱える軍の指揮官であり、俺の友人だ。無理強いする奴なんかいないだろ。

「ははは、どこにでも老害はいるもんだ。まあ適当に言い訳しておくさ。もう迎えは来てるのか? 」

「ああ、すぐ上にな。次に会うのは来月に部隊の女の子たちを別荘に招待する時だな」

「千夏も楽しみにしてた。しかし場所をなぜ教えてくれないんだ? 政府にどこに行くか知らせないといけないんだが……」

「直前になったら教えるさ。まだまだ日本にスパイがたくさんいるからな」

 小長谷たちがアガルタの俺の別荘に行くと知ったら、世界中がパニックになるだろうからな。ひっそりと連れていかないとな。みんなが驚く顔を見るのが楽しみだ。

「なんとも嫌な予感がしてきたぞ……」

「気のせいだろ、きっとみんな喜ぶさ。それじゃまたな」

 俺はそう言って小長谷に手をあげブースを出た。そしてカレンたちと一緒に演習場の上空へ向かって飛んだ。

 すると姿を隠していた大型の宇宙船が現れ、ハッチを開けて俺たちを迎え入れた。


「ご主人様お帰りでやす」

 《

「ただいまトワにみんな。留守番ご苦労さん」

 艦橋に着くとトワとメイドのみんなが迎え入れてくれた。俺はみんなに挨拶を返した後、一番前に立つトワを抱きしめて軽くキスをした。

「気安くキスをするなでやす」

「ハイハイ。それじゃあレイコ出発してくれ。今日は月の別荘に行こう」

 俺は恥ずかしがるトワに手を振り、艦長席に座っているレイコに月の別荘に向かうように言った。

 月の別荘は三ヶ月前くらいにエルサリオンが建ててくれた物だ。

 当然戦場がある裏ではなく、地球から見える表の方に建っている。この別荘は基地と同じく、小型の重力装置とエーテルフィールドで地球と同じように生活できる。ベッドの上でみんなで月から地球を眺めるのもまた最高でさ、こうして月に一度は行ってる。

 それから俺たちは月に行き数日過ごして日本に戻り、今度はアガルタの別荘に行ったりして楽しく過ごした。

 その後数年のうちにレベル3以上のダグルの中規模の侵攻が幾度かあったが、その度にアリエルの元親衛隊を狩り出したり、アガルタの協力のもとに開発した宇宙用シムに乗った小長谷たちを月で戦わせたりして撃退していった。

 そしてあっという間に5年の月日が流れていった。



※※※※※※※※※※

いつもありがとうございます。

いよいよ次話で最終回となります。
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