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第1章
第68話 大侵攻
しおりを挟む「きゃぁぁぁぁ! ご主人様ぁぁ! 止めて止めてぇぇぇ! 」
「オ、オイ! ゴシュジンサマ! 落ちる! 落ちるって! 」
「あっはははは! しっかり掴まってろよルリ! リカ! 」
俺は飛翔の魔結晶にエーテルを流し、ルリとリカを乗せたバナナボートを加速させた。
ボートは海面上を盛大な水飛沫を上げながら爆走し、最後はビーチへと乗り上げ止まった。
「き、機能停止するかと思ったわ……なんで恐怖の感情がプログラムにあるのよ……技師たちはロクなことしないわね……」
「ハァハァハァ……ふ、ふざけんなよゴシュジンサマ! 落ちるとこだったんだぞ! 」
「ははは、大丈夫だって。こっそり結界を張ってたからさ。どうだ? なかなかのスリルを味わえただろ? これが怖いって感情なんだ」
俺は顔面蒼白なルリと、涙目で怒っているリカに笑いながらそう言った。
オーストラリア西端のパースの街から船で2時間の場所にある、このロットネスト島に来て2週間。
俺たちはオーストラリア政府の懇意により貸し切ってもらった、島の北東にあるこのプライベートビーチで毎日楽しく過ごしていた。
プライベートビーチには高級ホテルもあり、そこのスイートルームで俺たちは寝泊まりしている。まあ俺たち9人しか泊まっていないのに、従業員がやたら多いんだけどな。恐らくオーストラリア政府から派遣された職員なんだろう。歩き方が一般人じゃないんだよな。公安の人もほかの部屋にちゃっかりいるし……まあいいんだけどさ。
でもさすが高級ホテルなだけあって、毎日の生活には不自由していない。むしろルリたちが家事など何もやることが無くて戸惑っている。モモとヨウコだけは毎日俺へのご奉仕で大忙しだけど。
ヨウコと沖にある無人島での浮気設定のえっちは楽しかったな。口では嫌がってるのに身体はノリノリでさ、横で縛られて放置プレイしているモモの前でたっぷりとあのムチムチボディを堪能したよ。
夜はカレンとフィロテスとトワを愛で、昼はモモとヨウコと楽しんでる。もう毎日秘薬を飲んでるよ。なくなる心配がないっていいよな。
そんで今はルリとリカを口説くために海で遊んでいるというわけだ。
カレンとフィロテスは、トワを連れてホテルでエステとネイルの真っ最中だ。モモとヨウコは自然公園に隠した宇宙船の定期点検に行っている。
レイコはというと、ビーチのパラソルの下でカクテルを片手にくつろいでる。また身に着けている黒い水着が露出が多くてさ、日焼け止めオイルを塗ってあげたかったんだけど、日焼けしない皮膚だと言われたよ。エルフの技師はマジで空気読めねえよな。
しかしレイコの身体はエロい……なんとかして口説きたい。
普通に話して結構楽しんでもらってるんだけどな。そうそう、レイコは宇宙での訓練で俺の能力を見せてからは、ドSな行為はしなくなったよ。到底敵わないとトワにこぼしていたそうだ。それからは割と面倒見の良いお姉さんて印象だ。二人でよく話すし、お? いけるか? と思う時もあるんだけどうまくかわされるんだよな。その割にはいつも露出の多いエロい服を着て、目の前をうろつくもんだから生殺し状態だ。
そんな難易度の高いレイコと違い、ルリとリカとは日を重ねる毎に仲良くなっている。彼女たちも家事や宇宙船の整備などやることがなくて暇しているというのもあり、俺が誘うと楽しそうに付いてくる。
今日も三人で海で遊んでいて、ピンクと青のビキニ姿の二人とイベントをこなしているところだ。
二人は俺がプレゼントした時計や、イヤリング。そしてネックレスを身につけている。そう、恋愛ゲームと同じく二人にはプレゼントしまくった。そしてこの海で長い時間を過ごすことで、好感度パラメーターは急上昇しているはずだ。
ああ、もちろんカレンたちにもプレゼントはしているよ。しなかったらどんな目にあうかわからないし。
トワは相変わらずセンスがないでやすねとか言いながらも、毎日身につけてる。ほんと可愛いよな。
「別に恐怖の感情なんてあたしたちには必要ねんだよ。なんであるんだよくそっ! 」
「ホントよ。こんなのダグルとの戦いに必要ないわ。判断が鈍るだけよ」
「人間なんだから必要だよ。それに悪いことばかりじゃないさ」
「は? なんでだよ。こんなの邪魔な感情だろ? 」
「一見そう思えるけど、恐怖を感じることでもう一つ感情が芽生えるんだ」
「もう一つの感情? んなのプログラムにあったかなぁ? 」
「あるさ。その感情の名前は『勇気』というんだ」
「勇気ぃ? 」
「恐怖を感じないとその感情は知ることができないの? 」
「そうだよ。怖くて逃げたくなった時に、仲間を、愛する人を守るために勇気が芽生えるんだ。勇気が芽生えれば恐怖なんて感じなくなる。どんなに傷ついても、もう立ち上がれないと思っても勇気があれば立ち上がれるんだ」
彼女たちのプログラムには人間と同じ感情が組み込まれている。けれどそれを引き出す方法は知らない。だから俺はトワにしたように、ひとつひとつ彼女たちに教えている。
「強制的に機能停止して、二度と起動しなくなるのは怖い。こんなに怖い感情を克服する勇気……本当に私のプログラムにあるのかな……」
「勇気か……かっけぇな……ん? 勇者っておんなじ字だよな? 関係あるのか? 」
「まあね。俺は世界一勇気ある者と認められたからな。だから勇者と呼ばれてるんだ。まあ、昔の話だよ」
「世界一勇気がある者……勇者……スゲー! ゴシュジンサマってエロイだけかと思ってたけどすげえんだな! 」
「ちょ、ちょっとだけ見直したわ。えっちなだけじゃないのね……」
「あはは、こんな俺でもやる時はやるさ。ああそうだ。俺が勇者と呼ばれていた時の映像があるけど見てみる? 勇気がどういうものかわかると思うよ」
「見る見る! あたしも勇気を覚えて勇者になりたい! 」
「まあ参考にはなるかも。 見てあげてもいいわよ」
「なら部屋に戻ろうか」
俺は二人の腰に手を回し部屋へと戻った。
よしっ! 恐怖を感じさせて勇気の凄さを教える作戦成功だ!
これであの映像を見せれば、俺への見方がまた変わるはず。
決める……このバカンス中に俺は二人を落としてみせる!
♢♢♢♢♢
「うそ……ご主人様すごすぎる……」
「うぅっ……ゴシュジンサマってこんなに辛い経験をしてきたのかよ……あたしらより軟弱な身体だったのに、あんな化物と戦い続けてきたなんて……」
「あの頃は生き残ることに必死だったからね。それに俺ががんばれたのはカレンがいたおかげだよ。カレンを守りたいと思ったから勇気を出せたんだ」
エーテル投影機により、目の前に映し出された精霊の記憶を見終わり驚愕している二人に対し、俺はなるべく儚くみえる笑みを浮かべながらそう言った。
「確かにドラゴンとの戦いでは何度もカレン様の危機を救ってたわね……」
「最後の決戦ではとんでもない質量のエーテルの塊から、身体を張ってカレン様を守っていた。どうあがいても二人とも死ぬような攻撃だってのに」
「惚れた女を最後まで守りたかっただけさ。もちろんトワが同じめにあったとしても、俺は同じ行動を取るよ」
「オートマタなのに? 」
「そんなの関係ないよ。俺はトワが好きだしね。もちろんルリとリカのこともね」
「ばっ! ま、またそんなこと言って! だ、騙されないんだからね! 」
「そ、そうだぜ! で、でもあたしたちが機能停止しそうになったらよ? どうする? 」
「もちろんこの命を懸けて守るさ」
「そ、そっか……」
リカは顔を真っ赤にしてうつむいた。
よしよし、効いてる効いてる。デレるまであと少しだな。
しかしトワよりも表情が豊富だな。さすがフィロテスがあり得ないと言っていたほどの素材を使って作られた、最上級のオートマタなだけはあるな。学習能力もかなり高いし。それでも夜のテクニックはトワがダントツだけどな。
でも容量の問題なのか、この子たちはその辺のプログラムは削られているみたいだ。それはまあいい。俺が教えてやるしな。手取り足取り腰取りね。
「ば、ばっかじゃないの! オートマタなんかに命を懸けるなんて! 私たちは壊れても直せばいいだけ。でも人間は直らないんでしょ? それなのに命を懸けるとか馬鹿じゃないの? 」
「直るからって、好きな子が傷つくのを平気で見ているような男にはなりたくないんだ。それに記憶回路が傷ついたら、もうルリであってルリじゃなくなるだろ? そんなの嫌なんだ」
せっかく苦労してここまで好感度を上げたってのにリセットとか勘弁して欲しい。
「あ……あ、ありが……と」
「さて、そろそろ着替えようかな。その前にシャワーを浴びたいんだけど、背中流してくれる? トワみたいにさ」
俺は恥ずかしそうにうつむくルリを見て今だ! と思い、言外にトワと同じように胸で洗ってもらえるように頼んだ。
「トワ様のようにって……む、胸だけなら……そんなに大きくないけど……」
「し、仕方ねえな。いいぜ? その代わり目隠ししてもらうかんな! 」
「ああいいよ。嬉しいなぁ。二人にずっと洗ってもらいたかったんだよなぁ」
よっしゃ! ミッションクリア! ここまで来ればあと一押しで二人は落ちる!
いやぁこの一ヶ月半がんばった。やっと……やっとこの二人とも……
俺はさっそく二人を脱衣場に連れて行き、恥ずかしがる二人の服を脱がせようとした。
しかしその時、エステ中のはずのフィロテスからエーテル通信が届いた。
俺はいいところだったのにと思いつつも、インターフェースにエーテルを流し応答した。
「フィロテス、何かあったのか? 」
《ワタルさん! いまエルサリオン王国がチキュウ各国政府へ向け警告を発しました。それによりますとダグルが、ものすごい数のダグルが月に向かっているとのことです。その数から月で押さえるのは難しく、このチキュウに多くのダグルが上陸する可能性があるそうです 》
「ええ!? もうかよ! 」
俺はフィロテスの言葉に耳を疑った。
確かに精霊により見せられたあの映像の最後には、火星に多くのダグルがいた。
しかし母船の数から大侵攻はもっと後だと思っていた。そして事前にその動きをアガルタが察知するだろうとも。それが前兆もなく、いきなり大侵攻してくるなんて予想していなかった。
《どうも最近になって火星に大集結をしていたようです。元老会議でワタルさんの力を借りることも検討されたようですが、償いが終わっていないうちに頼ることはできないとクーサリイオン公爵と王が却下したそうです》
「それで情報が回ってこなかったのか。まあ月に行ってくれとか言われても断るしな。でもそれだってもう少し早く教えて欲しかったけどな。それで? ダグルはどれくらいで地球に到達しそうなんだ? 」
《2日といったところです。月にてエルサリオン軍のみで編成された決死隊が囮となり時間を稼ぎますので、チキュウには時間差で上陸するのが救いといえば救いですね》
「決死隊か……なんだ、エルサリオンにも骨のある奴がいるじゃないか」
他国の兵を帰し、エルサリオン軍だけ残るとはな。気位ばかり高い軟弱者ばかりってわけでもないということか。
《はい。駐留している5千の兵全員が志願してくれました。皆あの映像を見て、ご先祖様に恥ずかしくないエルフになりたいと思ったようです。とても、とても勇敢な者たちです》
「そうか……やるじゃないか。よし、横須賀に戻ろう。日本を守る準備をしないと」
月で抑えきれないほどの数だ。日本にも10体以上は来ると思っておいた方がいいだろう。上陸する前に落としてまわらないとな。その後は隣の大陸からやってくる飛行型のダグルの迎撃戦だ。アガルタの軍は地上で一番大きな次元の穴がある、南極を守りながら戦うだろうからアテにはできないだろう。こりゃ忙しくなるな。
《はいっ! カレンさんとトワと戻ります》
「ああ、それじゃああとで」
俺はそう言ってフィロテスとの通信を終え、ルリとリカにレイカを呼ぶように頼んだ。
そして公安に声を掛けてから、戻ってきたカレンたちとともに宇宙戦艦『リーゼ』へと乗り込み横須賀基地へと向かった。
―― エルサリオン王国 王城 中庭 アリエル・エルサリオン ――
「イシル卿。つまらなそうですね」
「いえ……そのようなことは……」
「そう……」
もう1時間も黙っているくせに何がそのようなことはよ。
あ~軟派なエルフの男より、寡黙なダークエルフがいいと思っていたあの時の自分を殴りたいわ。女に興味がなさ過ぎるのも問題よね。いえ、出生率は変わらないから興味はあるんでしょうね。積極性が無いだけなのよね。
でも何の話題も振ってこないなんて苦痛だわ。結婚したらこれが毎日続くとかどんな拷問よ。
会話が無いならEアーマーで模擬戦でもやりたいけど、未来の夫を負かしちゃったら問題よね。この人もそこそこやるみたいだけど、私は勇者様とカレナリエル様以外に負ける気がしないし。
はぁ……勇者様のお許しを得ることができて部屋からは出れるようになったけど、三日に一度はこのつまらない男とデートをしないといけないなんて苦痛だわ。
いまごろ親衛隊の皆は月で苦しい思いをしてるというのに……
駄目、考えちゃ駄目。私にはどうすることもできないんだから。
幸いフィロテスさんと親交のある侍女のおかげで、近々勇者様が月に視察に行っていただけることになってる。その時に皆はきっと許してもらえるはず。それまで私にできることは、皆の無事を祈ることだけ。
ごめんなさいみんな。どうか無事でいて。もう絶対に自らの命を絶とうとしないで。
「む? 私だ……なに!? とうとう動いたか……すぐに行く! 私のEアーマーを用意しておけ! 」
「Eアーマー? どうしたのイシル卿? 何か緊急事態でも? 」
私はエーテル通信が入ったのか、誰かと話しているイシル卿の言葉が気になり確認した。
「いえ……いや、これほどの事態だ、知られるのは時間の問題か。はい、アリエル様。どうやら火星から月へ、高レベルのダグルを含む大群が向かっているようです。我々には地上にて迎撃態勢を整えるよう、王より命令が下りました」
「月ではなく地上で? それほどの数が向かって来ているというの? 」
「はい。戦艦級及び巡洋艦級が50と母船級が200体はいるようです」
「そ、そんなに……つ、月の軍は!? みんな撤退したの!? 」
そんな……前回の侵攻の5倍以上の数が侵攻してきただなんて。
「いえ、月に駐留しております我々エルサリオン王国軍は、全員が決死隊として残りました」
「決死隊……」
ああ……ソルティス……マグワイア……みんな……まさか名誉回復のために死ぬ気なの?
「アリエル様。私はこれで失礼いたします」
「ええ……ご武運を……」
私は呆然としたまま。背を向け走って行くイシル卿を見送った。
それからしばらくして私は何事もなかったかのように城に戻り、お父様とお母様と夕食をとってから眠りについた。
そして深夜。
「大丈夫、抑えられてる」
私はベッドから起き上がり、エーテルを隠蔽しエーテル探知機に反応がないことを確認した。
謹慎中にずっと練習をしていたけど、全てを隠蔽するのは無理だった。私程度のエーテル量でさえこれほど苦労するのに、膨大なエーテル保有量がある勇者様やカレナリエル様は何でもないことのようにしていたわ。しかも表に出すエーテル量を微調整までしていた。本当にレベルが違いすぎる。
私はエーテルを隠蔽しながら、静かに着替え始めた。そして軍事用インターフェースを装着して、光学迷彩システムを起動し部屋を出た。
みんな……絶対に死なせたりはしないわ。私がみんなを助け出してみせる。
王城を抜け出した私は、暗闇に紛れながら地上に次々と出発していく宇宙船団のいる基地へと向かうのだった。
かつての親衛隊であり、友人でもあった仲間を救うために。
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