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第1章

第64話 王女の未来

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 ーー  エルサリオン王国  王城  アリエル・エルサリオン  ーー




「ブランメルが自殺? 」

「はい。あの放送のあと、自ら命を経ちました。遺書にはもう耐えられないとだけ書かれてあったそうです」

「そう……」

 私は侍女の言葉に手に持っていたカップをテーブルに戻し、目を瞑り仲間だったブランメルの冥福を祈った。

 こうなると思っていた。あの人一倍エルフであることを誇りに思っていたブランメルが、あのような姿にされ耐えられるとは思っていなかった。それでもブランメルを始め元親衛隊の者たちは、いつかエルサリオンに戻れることを信じ耐えてくれると願っていた。

 でもあの放送を見た時に、私はブランメルは耐えられないと思った。

 そう、1ヶ月前にお父様が精霊神殿で経験されたという、精霊神様の記憶の映像が全国に流された。いえ、その場にいた各国の代表も後を追うように別視点の映像を流したことから、全世界に流されたのでしょう。

 ショックだった。まさかあのセカイ殿が神話の勇者で、カレン殿が大英雄の名もなきエルフだっただなんて……

 映像では地上の人族並みに無力だった彼とカレン殿が、多くの悲しみと苦難を乗り越え強くなっていく姿が映し出されていた。それは私が経験したことなど足元にも及ばないほどの激しい戦いの日々だった。

 彼は優しくそして誰よりも勇敢だった。どんな時でも子供を最優先で守り、明らかに自分よりも強い敵にも臆することなく戦いを挑んでいった。そしてその全てに傷つきながらも勝利していた。

 映像の中の私たちの祖先のエルフもダークエルフも強かった。恐らくあの時代の一般の兵士相手でも、私では敵わないと思わされるほどに。

 そして最後の魔王との決戦。異常なまでの強さの魔王に対して激闘の末、彼とカレン殿は勝利した。しかしその後、新たな魔王が乗る複数の宇宙船を前に、彼はカレン殿に愛していると伝えその身を盾にして守ろうとした。

 その姿は私が思い描いていた、強くて優しくて勇敢で愛する人のために命を懸ける勇者様そのものの姿だった。

 それはとても素敵で……けれど、私はその映像を泣きながら見ていた。エルフの罪と、知らなかったこととはいえ自分の侵した罪を思い出して……

 神話は現実にあったことだった。そしてその時の勇者様が時を超え地上に現れ、それがセカイ殿だった。さらには初代王がハーフエルフだった。それは私をこれでもかと打ちのめした。

 私たちはとんでもないことをしてしまった。エルフの罪にさらに罪を重ねるようなことをしてしまった。憧れ、私がなろうとしていた勇者様に剣を向けてしまった。私たちを、世界を救ってくれた勇者様に対して……

 映像が終わると、お父様は歴史を歪めたこその責任を取り退位すると宣言した。そしてお兄様が即位し、クーサリオン公爵家から二人のダークエルフを妻に迎え、今後王にはハーフエルフ。いえ、ハイエルフが即位すると宣言した。それが勇者様と、精霊神の使徒である聖母様の意思であるからだと。

 その日からしばらく国中が混乱した。

 世界中からエルサリオン王家とエルフは叩かれた。当然よね。歴史を歪め、世界の救世主である勇者様に剣を向け、この国で産まれたハイエルフを差別し国にいられなくなるようにしてきたのだから。1万年以上世界をリードしてきたエルフは、一夜にして世界中から侮蔑の対象となった。

 そして私はお父様とお母様。そして王に即位したお兄様に3ヶ月振りに会った。そこでお兄様からはクーサリオン公爵家の一族の男性と結婚するように命じられた。もう相手は決まっているそうだ。私は拒否などできなかった。いえ、そんな権利すら私にはもう無い。お父様とお兄様と一緒に王家の罪を償わなければならない罪人なのだから。

 それでもせめてセカイ殿に。いえ、勇者様とカレン様に謝罪する機会を願った。しかしそれも叶わなかった。これ以上勇者様に対して少しの波風も立てることはできないと。もしも万が一何かあれば、エルフとダークエルフがアガルタにいられなくなると。

 私はただただお父様たちに頭を下げ謝ることしかできなかった。そんな私をお母様が抱きしめ、一緒に泣いてくれたことが救いだった。

 それから1ヶ月が経っても世界中からの非難の声は止まなかった。そしてブランメルの父であるギルミア公爵が、自ら六元老の地位から退き伯爵に降格されるよう貴族院に申し出た。

 彼が地上の国と結託し、結果的に勇者様の家族を人質にして勇者様を捕縛しようとしたということと、次男のブランメルが大英雄であるカレン様を侮辱し、あまつさえ剣を向けたことが外部に漏れたことが原因だった。

 当然私も非難された。恐らく私の婚姻など誰も祝ってくれないだろう。民に祝福されることなく結婚し、ハイエルフを産み屋敷でひっそりと死んでいく。それが私の未来だ。

 それでもいい。私がしたことの責任なのだから。しかしブランメルたちは私のせいであのような姿にされ、月の最前線で戦わされている。確かに差別をした彼らにも非はある。それでもあの時私がセカイ殿に会おうとしなければ何も起こらなかった。だから彼らだけでも助けたかった。

 しかしブランメルは死んでしまった。

 自分の変わり果てた姿を見る周囲の目と、廃嫡されたとはいえ自分のせいで没落の一途を辿ろうとしている実家への罪悪感に耐えられなかったのだろう。彼はエルフであることと、公爵家の生まれであることを誇りに生きてきたのだから。

「守れなかった……ほかの者たちも月で獣人やドワーフたちから責められているかもしれない。同じエルフからも責められていることも」

 これは王家と私の罪。庶民たちは関係ない。しかしそうはいってもほかの種族からすれば、エルフとダークエルフは恩を仇で返した種族という目で見られているはず。

 連携が大切な対ダグルとの戦いで、周囲の助けを得られなければ早死にするのは目に見えている。できるなら王妹として私が月に行き、彼らへの非難をこの身に浴びたい。非難されるべきは王家の者なのだから。でも私はこの王宮から出ることができない。

「姫様……」

「彼らを死地に追いやった私に、こんなこと言う資格はないわね。ごめんなさいラーシアにみんな」

 私は結婚を受け入れたことで戻してもらった、幼い頃からの専属の侍女たちにそう言って詫びた。

 彼女たちが戻ってきてくれたことにより、外の様子が詳しく知ることができるようになったのに私は泣き言ばかり。

「おいたわしや姫様……下女にフィロテスと繋がりがある者がおります。その者を通じてなんとか勇者様のお怒りを鎮めてもらえるようお願いしてみます」

「そう……下女に……是非お願いするわ。でも私に対してではなく、月にいる皆に対しての許しをお願いして。私は許しを乞うこともしてはいけないの。だから……」

「姫様……承知致しました」

 外の情報を収集する役目の下女にフィロテスの知り合いがいたなんて……情報局繋がりで知り合ったのかもしれないわね。それならせめて月にいる皆のためになんとか勇者様のお怒りを鎮めて欲しい。

 私はもうどうなってもいい。

 幼い頃からあんなに憧れ、絵本や小説に演劇や映画を全て観て読んで自らなりたいと思った勇者。

 その本物の勇者様に剣を向け、差別されながらもエルフを救ってくれた大英雄のカレン様を侮辱した。

 私はそのことを一生後悔し民に謝罪し続け、ハイエルフを産む人生を送ることしかできないのだから。

 申し訳ありませんでした勇者ワタル様。

 大英雄カレン様。どうか恩知らずな私たちをお許しください。

 どうか……どうか………




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「ククク……エルサリオン王国の情報局員を捕らえられるとは運がいい。さて、ダークエルフの女よ。知っている情報を洗いざらい吐いてもらおうか」

 俺は鎖により両腕を拘束され、目の前に吊るされているダークエルフの女のミニスカートをまくり上げながら女の耳元でそう囁いた。

「私に触るな! 誰が貴様なぞに話すものか!  」

「ククク……威勢の良い女だ。しかしどこまでその威勢を維持できるかな? おい! 女の服を脱がせ! 」

 俺はスカートの中を覗き込んだことによりズレた頭巾を元に戻しながら、同じように頭から頭巾を被っている手下二人にダークエルフの服を脱がすように命令した。

「了解……」

「承知しましたでやす」

「よせっ! やめろ! この身体を見ていいのは一人だけだ! 」

「ほほう……それは恋人か? ククク……そうか。それは楽しみだ」

「な、何をするつもりだ! なぜズボンを脱ぐのだ! ハッ!? ま、まさか私を陵辱するつもりか! クッ! 殺せ! 貴様なぞにこの身体を好きにさせてたまるか! 」

「いいぞ……いい……フィロテス最……ゴホン! その恐怖に染まった顔がそそるな。おお……なんと美しい身体だ。その紫のレースの下着は似合っているな。ふむ、Tバックか。大きな尻をしている。最高だ愛している」

 俺は好みの下着を身に付けている女の尻を撫で回した。

 すげーなこのショーツ。スケスケじゃねえか。

「あ……ありがとうございます。ワタルさんが喜んでくれると思っ……あっ、いや、よせ! 汚い手で触るな! 」

「ククク……上の口で嫌がっていても下の口はホレ? この通り悦んでいるようだぞ? 」

「んっ……そんなところ……クッ……やめ……そこはワタルさんの……ワタルさん……」

「ほう、恋人の名はワタルというのか。ならばまずは味見をしてから尋問をするとしようか。お前たち、このダークエルフの足を広げろ! 」

「了解……」

「承知しましたでやす」

「や、やめろ! この身体はワタルさんだけのもの! こ、こんな恥ずかしい格好……み、見るな! よせっ! 来るな! 」

「ククク……抵抗しても無駄だ。それ、もう少しで俺のものになる。媚薬をたっぷり塗ったコレで、ワタルなどという男の子とは忘れさせてやろう」

「ヒッ!? イ……イヤっ! ワタルさん以外はイヤッ! やめて! やめてーーー! ううっ……」

「え? フィロテス!? な、泣くなよ! カレンの台本通りだろ!? す、すぐ降ろすから! おいっ! カレン、トワ! フィロテスを早く! 」

 俺は急に泣き出したフィロテスに慌てて、カレンとトワに拘束を解くように言った。フルチンで。

「ん……フィロテスにはちょっとハードだったかも」

「ご主人様が気持ち悪い顔で近付いたからでやすね」

「オイッ! 気持ち悪い顔ってなんだよ! ちょっとノッただけだろ! 」 

 確かに最後は俺も興奮して我を忘れそうになったけど、気持ち悪い顔なんかしてないし! 多分。

「グスッ……ごめんなさいワタルさん。覆面の下がワタルさんだってわかってたんですけど、もしも本当にワタルさん以外の男にって考えたら怖くなってしまって……ワタルさん以外の男の人にされるのなんて死んでも嫌で……ううっ……」

「ごめんなフィロテス。こんなことしたくなかったんだけどさ。カレンが傑作ができたっていうから」

「マンネリ防止……ワタルもノリノリだった」

「ご主人様はこのSMセットまで用意してやる気満々でやした」

「そ、それは……」

 確かに傑作だった。エロ動画を見て作ったというカレンの台本にかこつけて、やってみたいプレイではあった。フィロテスも恥ずかしそうにしてたけど、俺が喜ぶならと合意してくれたし。

 だからマジックテントの家の一室を改造して、天井から鎖を吊り下げたりなんかした。そのほかあらゆる拘束具を変装してまで専門店で買ってきて、鞭にロウソクまで用意した。まあフィロテスを傷つけることなんてできないから使わなかったけど。

 でもフィロテスを泣かせたら駄目だ。

「遊びなのに本気にした私が悪いんです。ワタルさん、カレンさん。せっかくのプレイを台無しにしてごめんなさい」

「いい……フィロテスは頑張った……ワタルは興奮してた」

「いいんだよ。お互い気持ち良くならないと意味ないからさ。じゃあ凌辱ごっこはこれでおしまいな」

「ん……次はワタルの番」

「え? なにそれ? 聞いてないよ? 」

 俺がそういうとカレンとトワは薄っすらと笑い、フィロテスは目を逸らした。

「もう一つ台本がある……トワ、フィロテス」

「はい。カレン様。ご主人様、失礼しやす」

「ワタルさん失礼します」

「え? ちょ! 目隠し!? え? どこに連れて……」 

 俺はトワとフィロテスに目隠しをされ、そのままベッドがある方向に連れて行かれた。そしてベッドに押し倒され服を全て剥ぎ取られたあと、流れるように手錠で両腕と両足をベッドのフレームに拘束された。

 え? あれ? これってまさか……

「んふっ……ロウソクやってみたかった」

「わ、私は撮影係で……」

「ご奉仕するはずのメイドがご主人様を……これが背徳感……」

 俺はカレンとトワが口にした不穏な単語と、聞こえてくる鞭の音に背筋が凍りついた。

「手錠を外したら毎朝ワタルの嫌いなピーマン料理にする……おとなしくしてる」

「あ、朝までってまだ昼……ちょ、待っ! 熱ちぃっ! 」

「女王様とお呼びでやす! 」

「ぐっ……痛てぇ……ちょ、トワ! いきなり顔とか! 」

「次……ワタルの暴れん坊……」

「ぎゃー! そこはやめろ! ていうかフィロテスさっき撮影って! 撮るな! やめてくれ! ぎゃあぁぁ! 」

 その日。俺はMではないことを知るとともに、カレンとトワがドSだということを再確認した。

 そして俺が責められている間。隣で撮影していたフィロテスの興奮したような吐息が、俺の耳に聞こえてきていたような気がした。

 気のせいだよな? 




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