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第1章

第63話 製作依頼

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「う~ん……やっぱEアーマーは駄目かぁ」

「ミスリルは足りているが武器がな。特にカレン殿の魔銃並に威力のあるエーテル銃は、魔鉄が大量になきゃあ造れん。ミスリルじゃあの強力な魔法に耐えられんからな」

「だよなぁ。Eアーマーに乗って戦闘力が落ちたんじゃ意味ねえしな。やっぱ巨人族と同じ鎧型にするしかないか。あーあ、せっかくガンドムに乗れると思ったんだけどなぁ」



 アガルタの聖地から戻った俺たちは北海道に移動し、そこで旅館を貸し切りにして宿泊することにした。

 そして2週間ほど昼は観光をして、夜は朝まで爛れた生活をしてを繰り返していた。

 そんな時にジオが俺たちに連絡を取ってきた。どうやら大統領の命令で俺のとの繋ぎ役にな任命されたらしい。それならとちょうど頼みたい事もあったので、旅館まで来てもらった。

 そして今日は朝からその頼みごとである、月で戦う装備の製作の依頼の話をしていたところだ。

 俺はオールミスリルのガンドムを作る気満々だったんだけど、機動力と攻撃力の大幅な低下にと色々問題が出てきてどうやら諦めざるを得ないようだ。

 やっぱり巨人族が身に付けている、鎧型のパワードスーツにするしか無さそうだ。なんだかなぁ。

「ん、動きやすいのがいい。Eアーマーは大きすぎる」

「私も飛翔の魔結晶を融合していただいたうえに、ライフル式の魔銃をお貸しいただけたのでEアーマーでなくとよ戦えます」

「そりゃそうなんだけどさぁ。体長4mはあるEアーマーの中で、2mほどの鎧型のパワードスーツを身に付けて戦うのか。Eアーマーと同じくらいの背丈の巨人族なら目立たないけど、俺たち浮きまくりだな」

 巨人族は背中にアルミナスドライヴとスラスターを背負い、それで飛行してナックルを嵌めた拳を使って格闘戦でダグルと戦う。この辺はギランと同じだ。獣人もEアーマーに乗りながら剣や槍を持って接近戦で戦う。それに対して俺たちの場合は、Iドライヴは必要ないから殆ど全身鎧を着て戦っている状態と変わらなくなる。まあ戦場で浮きまくるだろうな。

「ん、それは今さら」

「ふふっ、そうですよね。生身で宇宙艦隊を全滅させているんですから」

「私も欲しいでやす。ご主人様が月に行くなら一緒に行くでやす」

「お? トワがそんなこと言うなんて珍しいな。とうとう俺に惚れたか? 」

 俺に付いてきたいだなんて、とうとうデレたか。俺の魅力はヤンデレないプログラムを凌駕したようだ。

「勘違いするなでやす。月の基地にいる戦士たちは、死と隣り合わせの生活の影響で性に乱れてやす。ご主人様が浮気しないように監視するためでやす。これはカレン様が望まれてることでやす」

「んふっ、トワはわかってる……いい子」

「そっちかよ……てか性に乱れてるって本当なの? 」

 俺はガッカリしつつも初めて聞いた情報に胸が高鳴るのを抑え、平静を装ってフィロテスとジオに確認した。

「あ……その……エルフとダークエルフはそのようなことはないのですが……」

「うむ。確かに月帰りの女戦士たちは妊娠している率が高いな。特に獣人たちはお盛んのようじゃ。まあ本能じゃろうな」

「な、なるほどな。種を残そうとする本能か。それなら仕方ないよな。うん、仕方ない」

 マジか! ドワっ子はロリ過ぎるから好みじゃないけど、獣人の女の子たちが盛ってるなんてサイコーだろ! やべっ! 早く月に行きたくなってきた! 大至急ジオに装備を作ってもらわなきゃ!

「トワ……真面目な顔をして頷いてる時のワタルは高確率でえっちなことを考えている……覚えておく」

「はいカレン様。しっかり監視……いえ、そんな気が起きないよう月でも毎日搾り取りやす」

「ちょっ! 違うって! 生物の本能のことを考えてたんだって! 」

「ワタルは想像を絶するほどえっち……一瞬の油断もできない……ハニートラップにまた引っ掛かる」

「ぐっ……そ、そんなことは……ない……と思う」

「ガハハハ! 勇者様も魔王を共に倒した伴侶殿には弱いと見える。あの最後の時に身を挺して庇うほどじゃからな。惚れた弱みというやつじゃな」

「んふっ……ジオはわかってる……ワタルは私の虜」

「はあ!? ちげーし! ていうか俺はもう勇者じゃねえから! 月に行くのはフィロテスのエーテル保有量を上げるためだしっ! 」

「そうは言ってももう国中。いや、アガルタ中にワタル殿が儂らの祖先を救った勇者様であることは広まっておる。精霊神殿で起こった奇跡は、全国民が知ることになった。儂らはワタル殿とカレン殿を勇者と大英雄の一人であるハイエルフとして認めておる。まあエルフたちは相当なショックを受けておるがな。自業自得じゃ」

「まさかあの映像を全国民に流すとはな。せめて俺があの世界に現れたシーンはカットして欲しかった……」

 そう、あの精霊神殿での出来事を王たちは全て映像として記録していた。なんでも網膜に映った映像をそのまま自動で録画できる機能があるらしい。んでフィロテスから聞いた話では、エルサリオン王が真っ先に国民にその映像を公開したそうだ。

 映像を見たエルフとダークエルフは、そりゃあもうパニックになったらしい。今まで神話やおとぎ話だと思っていたことが実際に起こっていたうえに、王国の建国時の歴史が嘘っぱちだった訳だからな。

 そして勇者と共にいた大英雄の一人がエルフではなく、今まで自分たちが差別して国から追い出してきたハーフエルフであり、しかもその存在は彼らが崇める聖母が認めたハイエルフという新しい種族だった。トドメに聖母の子もハイエルフで初代の王だったとなりゃあ、もうショックなんてもんじゃないだろうな。

 信じたくなかったんだろう。嘘だと騒ぐ者も多くいたそうだが、獣王とドワーフと巨人族の代表が真実であることを認めた。さらにエルサリオン王が歴史を修正するためと退位を表明して皇太子に王位を譲り、新しき王はクーサリオン公爵家の長女と次女を正室と側室に迎えると表明した。ダークエルフの女性二人を嫁にしたということだ。

 そして今後は聖母と初代王の意思を受け継ぎ、ハイエルフが国を治めることに決めたらしい。今後の後継者の嫁もエルフとダークエルフを交互に迎えるそうだ。その中でハイエルフの象徴である白髪の子を王または女王にするらしい。

 そこまでされて疑う者などいない。しかも映像は聖地の精霊神殿で撮られた物だ。これ以上疑えばエルフであることも否定することになる。全てが真実だと知ったエルサリオン王国の国民は、そのあとずっとお通夜状態だったらしい。

 王家から何か言われたのか、アガルタのエーテル通信放送局等のメディアなんかは、失われた歴史とかいって連日特集を組んで放送しているようだ。そこでハイエルフがどれほど優秀なのか必死に訴えているらしい。まあ次の王になるんだからな。今のうちから持ち上げておかないとまずいよな。

 でもそんな番組を今まで差別されてきたハーフエルフたちが観たらなんて思うかね? 鼻で笑うんじゃないか? そもそもエルサリオン王国にハーフエルフはもういないからな。みんな巨人族や獣人のところに移り住んでいるし、これからどうすんだろうな。

 まあ過去の王の過ちの責任を取り、今の王が退位までする必要はないとは思ったけど一応誠意は伝わった。あとはこれからエルサリオンがハーフエルフをどう扱うかを見守るつもりだ。国外に出て行ったハーフエルフたちが国に戻るようになれば合格かな。将来的には王がハーフエルフなら、二度と差別されることはなくなるだろう。リーゼリットが望んでいた国にそれでやっと戻れるな。

「ふむ。マモノに追われ逃げ回っていた場面のことか。戦った経験のない者が、武器も持たない状態で異形の者に追われれば死に物狂いで逃げるのは当然じゃ。何も恥ずかしいことではない」

「そ、そうだよな」

 あれ? 漏らしたのはカットされてる? バレてない? 勇者の名誉のためにその辺は気をつけてくれたか? 何億もの人の前で晒し者にしたと俺が怒るかもしれないしな。

「ん、それよりデザイン考える……私はドレスアーマーがいい」

「ドレスアーマーか……うん、いいな。可愛いのを作ってもらおう。ジオ、ミスリルは結構あるから渡しておく。デザインは考えたら送るから、採寸は女性のドワーフを寄こしてくれ。あとこれは前払いだ……『融合』 」

 俺はミスリルのインゴットが入ったマジックバッグをテーブルに置き、そのあとジオの手を掴み手の甲に用意しておいた圧縮済みの錬金の魔結晶を融合した。

「ぬおっ!? 儂の手に宝石が!? ま、まさかこれは……」

「ルンミールから聞いてるぞ。あれからずっと月でダグルと戦ってエーテル保有量を上げてたんだろ? まだちょっと足りないがまあ使えるだろう。あとこれは魔鉄の錬成法だ。俺が覚えてる限りのだけどな。錬金の魔結晶を使いこなせるようになったら試してみてくれ」

「お……おお……この茶色の宝石が錬金の魔結晶……これがあれば儂も融合と変形と圧縮を……それに錬成法まで……これを習得すれば儂が……儂が魔鉄の錬成を……大英雄ガンゾ様の戦斧を……」

「ああ、多分国にあるガンゾの戦斧はサブの武器だと思う。魔鉄を使ってはいるけど、ミスリルの混ざり物だ。まあ見た目じゃわからないけどな。前にガンゾが形見として国に残したって言ってたんだ。主武器は……カレン。返してやってくれ」

 俺は涙を流して感激しているジオに、ガンゾが肌身離さず持っていた戦斧をカレンに渡すように言った。

 するとカレンは頷き、マジックポーチから魔鉄製の戦斧を取り出しジオの前に置いた。それは青白い光を薄っすらと放っており、持ち手の部分から刃先までよく磨かれていた。

「ん……綺麗にしておいた」

「こ……これがガンゾ様の戦斧……なんと凄まじい戦いの傷の数じゃ……まさしく戦士の戦斧……これを本当に儂らに? 」

「ん……子孫に返す」

「あ、ありがとう……国の者たちも喜ぶ……これまで儂ら庶民はガンゾ様が神話の時代の大英雄だと思っていたんじゃ。それが今回のことで実在していたことを知った。その大英雄様の主武器を惜しげもなく譲ってもらえるとは……この礼は国に必ずさせる。儂らドワーフ族の名にかけて必ずじゃ」

「別にいらねえよ。持つべき人たちに返しただけだ。魔導砲は勝手にガンゾの意志を継いで使わせてもらっているが、戦斧は俺たちが持ってても使い道ねえしな。ああ、あと聖地の墓にガンゾの酒樽が置いてあるから、酒を入れてやってくれ。大の酒好きだったからな」

 連装魔導砲は強力過ぎてアガルタの人間には渡せない。魔結晶を抜けば使われることはないけど、ガンゾはあれで魔物をたくさん倒しがっていたからな。トワに持たせて使ってやった方がガンゾも喜ぶだろう。

「ワタル殿……ああ、酒を欠かさないよう大統領にしっかり言っておこう……よしっ! 勇者様一行の装備は儂に任せてくれ! どんな物でも作ってみせるぞ! ハンザリオン共和国の技術を全て詰め込んだ最高傑作を作ってみせよう! 」

「ははは、まあ頼むよ。ならそのマジックバッグはやる。これから資材の受け渡しとかに使うかもしれないしな」

 俺は先ほどミスリルを入れて渡した、3等級の空間拡張の魔結晶を取り付けたマジックバッグを今後の取引のためにジオにやることにした。

「こ、こんな貴重な物をいいのか!? 」

「3等級だから別にそこまで貴重じゃない。10m四方の収納空間しかないからな。それがあればパワードスーツの受け渡しも楽だし使ってくれ」

「じゅ、10m四方じゃと!? この小さなバッグが……今日はなんという日じゃ……うおっ! 戦斧が本当に入りおった! 」

「バッグの間口も空間拡張されてるからな。バッグよりデカイものでも入るんだよ。さて、んじゃデザインを決めたら送るからよろしくな」

「わかった! 儂はこれで失礼する。急いで大統領に報告せねばならんからな! ではワタル殿! またいつでも呼んでくれ! 」

 ジオはそう言って慌ただしく部屋を出て行った。そしてまだ昼だってのに旅館の前にUFOを呼んで飛んで帰った。

 あの馬鹿野郎……来る時に何のために山奥に着陸させたと思ってんだよ。

 恐らく頭の中は錬金の魔結晶を早く使いたいことでいっぱいなんだろう。ドワーフはいつだってそうだったな。作りたい物を見つけると周りが見えなくなるんだった。すっかり忘れてたわ。

「……ドワーフはみんな同じ」

「ははは、だな」

 ったく、北欧のヴァイキングですって旅館の人たちに言おうとしたのにもう無理だろこれ。地上の人間はエルフとダークエルフの存在しか知らないってのによ。こりゃすぐに画像が流出してドワーフの存在もバレるな。

 はぁ……また秋葉原辺りの人種が騒がしくなりそうだ。しばらくテレビをつけるのはやめとこ。

「まあいっか。それよりそろそろ昼だし港に飯食いに行こうか」

「海鮮丼食べる……良いタコも探す」

「またかよ。毎日食ってる気がするな」

「ふふふ、私も海鮮丼好きです」

「そりゃあ俺も好きだけど限度があるよ。まあいいか……トワも早く準備して行くぞ」

「仕方ないでやすね。ご主人様がアワビを見て興奮しないよう見張らないといけやせんからね」

「しねえよ! どこの中坊だよ! 」

「ワタルは私のアワビが大好き」

「カレンまで昼間っから何言ってんだよ! 」

「わ、私の……ア……アワ……ビは」

「フィロテスは無理して付き合わなくていいからな!? この二人に染まらないでくれよな! もういいから早く着替えてくれ! 」

 俺は顔を真っ赤にしてカレンとトワの下ネタに参加しようとするフィロテスを止め、みんなを外出用の服に着替えさせるのだった。

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