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第1章
第39話 練金
しおりを挟む俺とカレンが増幅装置の入ったケースの中身をニコニコして見ていると、斜め向かいに座っているドワーフの男が口を開いた。
「自分で取り付ける? 映像でしか見てないが、そこの女性が持つエーテル銃のようなものにか? 」
「ああ、特殊な金属でできた物だからな」
俺は眉を寄せしかめっ面のドワーフにそう答えた。
確かこのドワーフはジオとか言ったっけ? まあ俺たちの武器に取り付けるためにここにいるのに、必要ないと言われれば不愉快にもなるか。
「特殊な金属? 悪いが儂は地上人の知る金属は全て扱える。他の惑星にある金属ですらだ。その増幅装置に使われている、エーテルを密閉させることのできる特殊な金属も儂らが造った。儂らドワーフに扱えぬ金属など無い」
「宇宙は広いからな。まあドワーフには口で言っても無駄か。ならこれは扱えるか? 」
俺はそう言って腰のマジックポーチに手を入れて20cmほどの長さの魔鉄のインゴットを取り出し、ジオへテーブルの上を滑らせて渡した。
「むっ!? なんだ? この青白い光を放っているのは……ま、まさか! まさかまさかこれは!? 」
「ん? 知ってるのか? この世界には無いと聞いてたんだけどな」
俺は薄っすらと青白い光を放っている魔鉄のインゴットを手に持ち、椅子から立ち上がり頭上に掲げて仰ぎ見ているジオにそう言った。
フィロテスは見たことがないと言ってたんだけど、もしかしてこの世界にもあるのか?
「まさか魔法鉄……デ、データベースアクセス! やはり……流れるように通るエーテル……この硬度と軽さ……これは魔法鉄で間違いない! こ、これをどこで! いったいどこで手に入れたのだ! 」
「こことは違う世界だよ。聞いているとは思うが、俺は異世界からの帰還者だ。そこはここよりも遥かに濃い濃度のエーテルに満ちていた世界だった。その世界の地下深くで稀に採掘される金属がそれだ。俺は魔物。アンタらでいうところのダグルとの戦いのために、その鉱石を世界中から託された。まあ結果は魔物に負け世界を救えなかったけどな」
俺は突然興奮して大声で叫ぶジオに淡々と説明した。
ルンミールが俺とカレンが異世界からの帰還者であることを、王と高位の貴族とここの研究員には説明したと言ってたけど半信半疑だったんだろうな。
「異世界……聞いてはいたがまさか本当に……いや、魔結晶と呼ばれる石に異常なエーテル保有量。それに国宝の戦斧に使われている魔法鉄まで……本当に異世界から帰還したのならば説明つく……」
国宝の戦斧? どういうことだ? 昔は魔鉄が採掘されてたとかか? まあミスリルがあるなら可能性は0じゃないとは思うけど……相当エーテルの濃い鉱床じゃないと見つからないんだけどな。
ん~……どっかの惑星で偶然ってのもあるか。なんで魔鉄ができるのかは俺も知らないし、そういう事もあるんだろう。
「まあそういう事だ。その魔鉄で俺の剣とカレンの魔銃は造られている。ジオだったな。アンタに魔鉄を加工する技術があるなら任せてもいいがどうなんだ? 」
「そ、そんなに大量の魔鉄を!? い、いや俺には扱えない。その技法は遠い昔に失われている」
「まあ肝心の魔鉄がなきゃ伝承できないだろうな。俺も少しは知っているが、横で見てただけだからな」
俺の剣とカレンの魔銃を造るときに見ていただけだからな。そんな複雑な工程じゃなかったけど、加工する時に結構なエーテルを使うんだよな。その量のエーテルをこのジオを持ってないから、どうしたって無理だけどな。
「なっ!? 魔法鉄の加工技法を知っているのか!? お、教えてくれ! どんな報酬でも支払う! 魔法鉄を扱えるようになれば、国宝の戦斧を蘇らせることができる! これは我らの悲願なのだ! 」
「工程を教えるのは構わないが、エーテル保有量が足らないな。そうだな……フィロテスくらいは必要かな? それくらいは最低ないと加工なんて無理だ。まずはそこからだな」
俺はその短い足でテーブルを回りこみ、迫ってくるジオにそう言って突き放した。
このドワーフはフィロテスの半分くらいのエーテル保有量しか無い。最低でもフィロテスと同じくらきはないと、加工中にエーテル切れを起こして魔鉄をダメにするだろう。
「い、1万5千Eもだと? 我が国の戦士ならば……いや、それでは技術的な問題が……うむむ……所長。しばらく休みをもらうぞ。儂は月へと行ってくる」
「なっ!? ジ、ジオ殿! 急に何を言うのですか! 公爵家のEスーツを製作中ではないのですか! それを放って行くなど許されませんよ」
「国から弟子を呼ぶ。止めるな、これは我らハンザリオン共和国の悲願なのだ」
「こ、困ります! 公爵家に納期が遅れることを説明するのは私なのですよ! 」
「あ~まあ連絡先を教えておくからエーテルが増えたら連絡してくれ。俺は地上にいるからいつでもいいぞ。それよりここで増幅装置を付ける約束だったよな? 早く取り付けてゆっくりしたいんだけど? 」
俺は相変わらず思い立ったが吉日を地でいくドワーフに苦笑しつつ、ケースから増幅装置を取り出して言い争う二人へとそう言った。
「むっ……そうだな。月でダグルを倒しすぐに連絡しよう。しかし先ほどの話ではセカイ殿自身は、この魔鉄を扱えないと聞こえたのだが? 」
「便利な魔結晶があるんだよ。とりあえずエーテル銃だっけ? それの機構を教えてくれよ。どの辺に取り付けるのが最適か理解しておきたいんだ」
「魔結晶で魔鉄を? 想像ができんな。ふむ……見ればわかるか。いいだろう。詳細な図面は見せられぬが、簡単な物ならば見せよう。儂の工房へ案内しよう」
「サンキュー。んじゃ、ルンミールにフィロテス。ちょっくら行ってくる。1時間くらいで作業を終わらせて戻ってくるから待っててくれ。人が多いと集中できないからさ。カレン行くぞ」
「え? は、はい……」
「ワ、ワタルさん? 」
俺はルンミールたちの何を言ってるの? という反応を無視して席を立ち、カレンを連れてジオの後をついて行った。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「ここが儂の工房じゃ。その辺に転がってる物には触れないようにな。怪我をしても知らんぞ」
「んな危ねえもん転がしておくなよ……しかし文明が発達しようがドワーフの工房は変わらないな」
俺が応接室を出てジオに案内された工房はジオの研究用の工房らしく、体育館ほどの広さの中央に大きな炉のような物が置かれている空間だった。
工房の壁を覆うほどの棚には様々な兵器っぽいものや、パワードスーツの部品らしきものが置かれており、足もとにはエーテル銃らしきものや地雷に似た物などが転がっていた。
俺とカレンはその中をジオに続いて縫うように歩いていき、炉の横にある作業机のところでジオに椅子を勧められ座った。
そしてジオが机の上に表示させた、拳銃タイプのエーテル銃内部の立体映像を見せてもらいその機構を説明してもらった。
まあ正直単純なものだった。命中補正装置やら収束装置に増幅装置などはとんでもないシロモノだけど、銃自体は俺でも作れる構造だった。
「なるほどね。この構造なら握りの上に仕込めばいいか。カレン、ちょっと握りの部分が長くなってもいいか? 」
「ん……問題ない」
「ならちゃっちゃとやるか。カレン魔銃を出してくれ」
俺は増幅装置を組み込むスペースを確保するために、魔銃の握りの部位を伸ばすことに決めカレンに魔銃を出すように言った。
「ん……」
「これが総魔法鉄のエーテル銃か……近くで見ると間違いないのがわかるが、このシリンダーはなんのためにあるのだ? 」
「そこに魔結晶を入れるんだよ。試し撃ちする時に見せてやるよ。さて、増幅装置と魔鉄のインゴットをここに置いてっと……よし、イメージはバッチリだ。やるぞ……『錬金』 」
俺は向かい側でカレンの魔銃の形状を見て首を傾げているジオの前に、魔銃と先ほどジオに見せて返してもらった魔鉄のインゴットを置いてスキルを発動した。
まずは銃身の根本の部分を変形させて……ここで増幅装置を融合っと……んでまた変形させてもとに戻してっと……よしっ! これなら照準が変わらないだろう。
俺はシリンダーの手前の部分に増幅装置を組み込み、エーテルを増幅して魔結晶に流れるように改造した。
「ん……いい感じ……ワタルP38改と名付ける? 」
「マジでやめろ……」
「あ……ああ……な、なんだ今のは……魔鉄が変形したぞ……増幅装置もまるで溶接されたように……」
「錬金の魔結晶だよ。魔結晶は攻撃以外の物もあるんだよ」
俺のいた世界じゃドワーフは適性があったから、結構使ってたけどな。そんなこと言ったらめんどくさいことになりそうだから言わないけど。
「そ、それも魔物とかいうダグルのような異星人から手に入れたというのか……もしかしたらダグルにも……」
「可能性はあるんじゃないか? まあカマキリなんかより強い個体だろうけどな」
キメラは騎士級の魔物だ。トカゲの頭と獅子のような胴体に、あらゆる死体をその身に融合する厄介な能力を持っている魔物だ。コイツらは灰にするか体内の魔結晶を取らないと何度でも復活してくる。俺の師匠も村もコイツにやられた。
レベル5のカマキリが多分準騎士級くらいだろうから、キメラはレベル6か。もしも現れたらここの住人じゃまだ勝てないだろうな。タフだからなぁキメラは。
「レベル5のダグルよりもか……しかしその力は儂ら物を作る者にとっては魅力だ」
「そりゃそうだろうな。どんな物質でもそれが生物でも、まるでそこにもともとあったかのように融合できるからな」
「生物までも……なるほど、融合か……エルフの技術と合わせれば儂にもできないことはないが……しかしもともとあったようには難しいな……」
「まあ腕を失ったら銃を融合してやるから、心配せずダグルを倒せばいいさ」
なんか昔の漫画でそんな主人公いたな。ちょっとやりたいかも。
「それでは鉄を打てなくなるではないか。四肢の欠損くらい一週間もあれば再生できるから世話にはならん」
「やっぱ再生治療とか発展してんのか。一週間で腕や足が生えてくるとかすげーな」
それなのに月で死亡率が高いとか、どんだけの数のインセクトイドと戦ってんだ? やっぱパワードスーツを壊されると逃げらんないからかね? 宇宙だもんな。生身じゃ宇宙服があっても飛べなきゃ無理か。
それからジオと時折話をしつつ二丁目のカレンの魔銃も改造し、最後に俺の魔鉄の剣の柄にも増幅装置を取り付けた。
ジオは鞘から出てきた魔鉄の剣を見て、そのあまりにも見事な出来に大興奮してたな。剣を打った者の腕をベタ褒めして、いずれ必ず自分もこれほどの傑作を打てるようになるとか意気込んでいた。
そんなこんなで剣にも増幅装置を取り付けた俺たちは、応接室で待つフィロテスのもとに戻りジオの証言で武器に取り付けを完了したことを告げた。
「もう取り付けたのですか!? これほど早く終わるとは……」
「単純な構造だからな。それより試射したいんだけど、外の試験場使ってもいいか? 」
俺は驚くルンミールに試射をしたい旨を伝えた。もうさ……カレンが横でずっと魔銃を持っててさ、撃ちたくてウズウズしてんのが伝わってくんだよ。
早く撃たせてやらないと機嫌が悪くなりそうだ。
「ええ、構いまいません。所長、的の準備をお願いします。先日映像で見ていただいたような現象が起こりますので、シールドも何重にも張ってください」
「おお……あの魔法のような現象を見れるのですね。すぐに用意させます」
「悪いね。それじゃあ外に出るか。カレン、もう少し我慢してろよ? 」
「んっ……早く撃ちたい」
俺がおしっこを我慢している子供に言い聞かせるようにカレンに言うと、カレンは魔銃のトリガーに指をかけもう我慢できないという風にソワソワしていた。よく見ると魔銃のシリンダーには、既に魔結晶弾がセットされていた。
俺はカレンがドアを吹き飛ばさないかドキドキしながら、ルンミールたちと部屋を出たのだった。
そして小型UFOで最初に降りた広いグラウンドに到着すると、俺とカレンはグラウンドの中央で待ってるように言われそこへ向かった。ルンミールとフィロテス、そしてトワとジオたち研究所員はグラウンド横の1階建ての建物の中だ。
この建物はエーテルシールドというものが張っているらしく、試験した兵器の分析や記録などをする施設らしい。
俺はそれくらい想定済みだったので、特に気にすることもなく的が出てくるのをカレンと待っていた。
隠し玉はたくさんあるしな。
《これよりダグルを模した的を出現させますので、もう少々お待ち下さい》
「はいよー! ん? なにか来る? 」
俺が渡された耳栓みたいな通信機から聞こえてくる所長の声に答えていると、遠くから30ほどのエーテル反応がこちらへ向かってくるのに気付いた。
「『千里眼』……エーテルアーマー? 」
「こんなとこにか? 『千里眼』……おお~中央の機体は総ミスリル製じゃね? リッチだなぁ」
俺はエーテル反応のある位置をカレンとともに千里眼で確認した。
するとそこには白銀のEアーマーを先頭に、白いEアーマーの集団が空からこっちの方へと向かってくる姿が目に映った。
中央の機体は総ミスリル製に見え、操縦しているのは薄いレオタードのような物を着たエルフの女性のようだ。。
Cくらいかな。エルフにしては大きい方か。しかしあのレオタード。確かEスーツとかいうんだったか? 身体の線がクッキリ出てエロいな。肩からお腹辺りまでしか見えないけど股間はどうなってるだろう? 是非至近距離で見てみたい。
「こっちに来る? 」
「真っ直ぐ来るな。兵器省に用があんのかな? 今日は誰も来させないとか言ってたのにな」
俺は真っ直ぐこちらへと向かってくるEアーマーの集団に違和感を覚えていた。
「……敵かも」
「アメリカを動かした外交局の貴族とかかな? まあ攻撃してくる気配があったら撃ち落とすか」
懲りずに俺たちを確保しにきたのかもな。
「んふっ……的がきた」
「早まるなよ? 」
俺はカレンに早まらないように言いつつも、結界を張り直しいつでも魔法を放てるようにしていた。
《ワ、ワタルさん! 建物の中に入ってください! 王女と親衛隊です! 》
「はあ? 王女? 王女がなんでこんなとこに? 」
《恐らくワタルさん狙いです! 王女はワタルさんに大変な興味を持っていました。今日ワタルさんたちを招待することは極秘にしてたのに! と、とにかく建物の中に! 王女は私たちで対応します! 》
「あ~確かアガルタ最強の姫騎士とか呼ばれてる子だったな」
国民想いで子供に人気があるらしいが、結構なお転婆だとか言ってたな。そんな王女が俺に興味を持ってる?
まさか俺の戦闘映像を見て一目惚れしたとかか!?
これは是非お迎えせねば! そのまま俺のハーレムにもお迎えせねば!
「フィロテス。もう遅いようだ。肉眼で見えるほどまで近づいてきている。ここで俺が背を向ければ王女に対して失礼になるだろう。せっかく会いに来てくれたんだ。挨拶くらいはするよ」
《ワ、ワタルさん! 違うんです! そうじゃないんです! 失礼なのは王女の方で! 》
俺はえらく焦っているフィロテスに焼きもちかな? とか考えながら、もうすでに肉眼で見えるほどまで近づいていた王女の率いる集団を笑顔で出迎えようとしていた。
さて、どんな子かな~。いきなり会いたかったですとか抱きついてきたりして!
なんか地球に戻ってきてから女運が爆上がりしてる気がする。これは夢のハーレム実現は近いんじゃなかろうか。
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