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第1章
第37話 地下世界
しおりを挟む「お? いよいよ地下世界に突入か? 」
トワにムラムラした俺をカレンが巧みな口撃でスッキリさせてくれたあと、このフラーラという名のUFOの高度が下がっていくのを感じた。
俺とカレンはソファーから立ち上がり窓の外を見てみると、都市部からだいぶ離れた山脈地帯に向けてフラーラが降下していくのが見えた。
「有名な山? 」
「東北地方なのは間違いないと思うけど、どこの山かはわかんないな」
そして山脈がどんどん近付いてくると、突然機体全体がエーテルにより包まれた。
エーテルリアクターを通さないエーテルは無色なので目に見えないが、俺たちにはかなりの量のエーテルが機体から放出されているのがわかった。
「あ~そうだった。確かエーテルをまとわないで亜空間ホールに突入するとどっかに飛ばされるんだっけ? でも思ってたよりもたいした量じゃないな」
亜空間に突っ込むのだからもっと濃厚なエーテルを放出するかと思えば、実際はそれほどでもないように感じた。
これなら例のカマキリ型のインセクトイドでも通れてしまうんじゃないか?
「私たちでもよゆー」
「確かにな。酸素があるかわからないけど、大きめの結界でその辺は確保して突っ込めばいけそうだな」
これなら地下世界で何かあっても戻ってこれそうだ。
俺は地上へと自力で戻れることができる方法がわかり少し安心した。
まあでもなるほどな。アガルタの連中がカマキリ型を倒せる魔結晶に飛びついたのもこれで頷ける。
自分たちの世界に侵入できる個体が現れたならそりゃ焦るよな。古代人も相当な犠牲を払って侵入を防いだらしいし。
俺たちが生身でもアガルタに行けるんじゃね? と考えていると、フラーラは火山ぽい山の火口へと一直線に向かっていった。
しかし窓から見える火口は、今にも噴火するんじゃないかというほど白い煙に包まれていた。
「おいおい、なんか白い煙が見えるぞ? まさか火口に溶岩とかないだろうな? マジであそこに突っ込む気か? 」
「ご主人様。うろたえるなでやがります。あれは亜空間ホールです」
「え? あれが!? 」
「そうでやがります。あの山は数千年前に、ホールの偽装のために人工的に作ったものでやがります」
「マジか……てことは高尾山の周りの山もってことか? いや、あんなデカイホールを隠すなら山しかないんだろうけどさ……」
あんな高い山を人工的に作ったって、しかも数千年前にって……現代までよくバレなかったよな。その辺もうまく偽装してんのかね。
そしてフラーラはなんの躊躇いもなく火口へと身を投じた。
その瞬間窓の外は真っ白になり、まるで機体が止まっているかのように俺の身体から飛行している感覚が消えていった。
やがて出口だろうか? 遠くにより一層白く輝く光が見えてきて、それはどんどん大きくなっていきフラーラはその大きな光の中へと飛び込んでいった。
「うおっ! 眩しい! 」
俺はその光に目がくらみ、窓の外から顔を背け目をつぶった。
そしてまぶた越しに光が弱まっていくのを感じた俺は、目をゆっくりと開け窓の外に再び視線を戻した。
「海……に……大陸……」
「おお~」
俺とカレンは眼下に広がる海と、巨大な大陸の存在に驚きを隠せなかった。
フィロテスから事前に聞いていたけど、聞くと見るとじゃ大違いだ。確かこの大陸は北アメリカ大陸と同じくらいの大きさだとか言ってたっけ? しかし海は青いし波もたってる。雲もあるし白いけど太陽みたいなのもある。
ここは本当に地下世界なのか?
亜空間だとは聞いている。海も大陸も森も山もあるとも……けどここまで地上とそっくりなんて……
ふとフラーラの進行方向と逆の方向を見ると、そこには大きな白いホールが空中に浮かんでおり、そのホールの周囲を複数のUFOが囲むように滞空していた。
恐らく出入りを監視している者たちなんだろう。
俺はそれらから視線を戻し、再び高度1万メートル以上はありそうな位置から雲の切れ間に見える海と大陸を見つめていた。
そしてフラーラは大陸の北にあるという、エルサリオン王国へと向かっているのだろう。徐々に高度を下げながら大陸へと向かっていった。
それから5分ほど飛行しただろうか? フラーラは海から大陸にたどり着き、やがて深い森が眼下を埋め尽くした。しかしその森の上空をしばらく飛行していると、いきなり森の中央に未来都市のような建物が無数に建ち並んでいるのが遠くに見えた。
俺は千里眼の魔結晶を発動させて見てみると、都市の周囲にはかなりの幅の人工河川が流れており、都市の中心地に細長い四角錐。ピラミッドを長細くしたような白くひときわ高い建物が建っていた。そしてその周囲を中央の建物よりは低いが、無数の先の尖ったビルが建ち並んでいた。
さらにそのビルの間を縫うように、空中に透明な丸い管のような物が通っていた。
その管の中には小さなUFOらしき物がひっきりなしに飛んでいるのが見え、俺は恐らくこの管がエルサリオンの道路なのだろうと思った。
「まさに未来都市だな。しかし見事に白一色だな。高潔なエルフらしいっちゃエルフらしいか」
「美味しいものある? 」
「ん? ああ、フィロテスの話を聞いた限りじゃ、エルサリオンではあんまり期待できなさそうだな。菜食主義者が多いんだと。獣人の国が多彩な料理があるらしい。人口も2億以上いるらしいから期待できそうだよな。行けたら行ってみたいな」
「行く」
「安全を確認できたらな。でもこの世界は旅行のしがいがあるよな。ハーレムも合法だし、是非定住の道を探したい」
「ワタルはまた現実を知ることになる」
「お前が主犯だけどな」
「私がいなかったらワタルは貴族に取り込まれてた」
「うぐっ……またそれを持ち出すのかよ」
一度ハニートラップに引っ掛かりそうになっただけなのに延々と……
「何度もあった……ワタルが気付いてないだけ」
「え? ど、どの子だよ! 」
「フッ……」
「ちょっ、おい! 」
「ワタル何か鳴ってる」
「 ぐっ…… 」
「来客でやがります」
俺がカレンの意味深な言葉に動揺していると、部屋に短い電子音が連続で鳴り響いた。
それにトワが反応して入口のドアのところへと歩いていった。
俺はモヤモヤしたが、絶対カレンが俺をからかってるだけだと自分に言い聞かせソファーへと座った。
そしてドアがスライドして開くと、そこにはフィロテスが立っていた。
「ワタルさん。間もなく王国兵器局へと到着致しますのでご支度をお願いします」
「わかった。俺たちはいつでも降りれるよ。しかし外を見たけどフィロテスの言ってた通りで驚いたよ」
「ふふっ、私の故郷をワタルさんに見てもらえて嬉しいです。自然に囲まれた美しい国なんです」
「そうだね。地上と違って緑が多くて、自然と共存しているように思えた。科学もここまで発展すれば地上もこうなるのかもな。いや、無理か……とっとのほかの星に行きそうだな」
そんで宇宙でも人が増えすぎてそのうちスペースコロニーなんか作って、地球と宇宙に行った人たちの間で戦争が起こると思う。自然と共存なんて期待しても無駄だろうな。
「私たちも何度も宇宙に出ようと考えましたが、私たち高エーテル体の種族はダグルに見つかりやすいので……種の存続のための緊急避難用の惑星はありますが、ここほど安全ではありませんから」
「なるほどな。確かに奴らはエーテル量の多い者を優先して襲うからな。ダグルさえいなきゃ今頃は銀河を支配しててもおかしくないほどの文明なのにな」
あの森とともに生きるエルフが銀河の支配者とか、もう笑うしかないけどな。
「ふふっ、そうかもしれませんね。あ、到着したようです。ご案内致しますので付いてきてください。カレンさんは申し訳ございませんが帽子の方をお願いいたします」
「ん、わかった」
「んじゃ新兵器を作りにいくかね」
とっとと増幅装置を受け取って、差別のない獣人の国や巨人族の国に行ってみたいな。
カレンの気にいる美味いものがあればいいんだけどな。
俺はそんな事を考えながら、カレンとトワを連れフィロテスの尻に付いていきフラーラから降りるのだった。
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