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第1章
第32話 ELセンサー
しおりを挟むエルサリオン王国の情報局長を名乗るダークエルフのルンミール子爵と、その副官らしき大人の色気をムンムン出しまくってる超絶ナイスバディのフィロテスたちをマジックテントに案内した。
それから家の中に入っても驚く2人と護衛たちをリビングに案内し、テーブルを挟みお互いが4人掛けのソファに座り向かい合った。護衛にも別のソファを勧めたけど、ルンミールたちの背後に立っている。相変わらずダークエルフは真面目だよな。
ああ、もちろん俺の正面にはミニスカフィロテスが座っている。そして目の前には白い逆三角形の布が見える。狙い通りだ。
そしてカレンがコーヒーを2人に配ったところで、俺はアガルタに住む人種を聞いてみた。
それによるとやはりアガルタにはエルフも獣人もドワーフも、それに巨人族もいるそうだ。エルフとダークエルフは一つの王国でエルフが国王に収まっているらしく、そのほかは種族ごとに国があるらしい。
エルフとダークエルフが同じ国にいるなんて信じられなかったけど、アルガルータと違ってなんとかうまくやってるみたいだ。
エルフは魔導回路技術、ダークエルフは医療技術、ドワーフは加工技術、巨人族は狩猟や酪農に農業を得意としているそうで、一番数の多い獣人はそれらの仕事の下請けや戦闘を得意としているようだ。
何から何までアルガルータとそっくりだと思ったよ。特にダークエルフの薬剤開発技術にはお世話になっていたからな。夜とか。
そしてアガルタの歴史の話になった時に、俺はその長さに驚いた。
「1万5千年も!? 」
「はい。ダグル……地上ではインセクトイドと呼称されている異星人に、私たちの世界が発見されなかったのが大きいですね」
「あ~なんか世界中に特殊なホールがあるんだっけ? 無人機突入させてもすぐ音信が途絶えたって聞いたな」
かなり前に南極のデカイ霧のかかった穴に無人機を突入させたって記事があったけど、何もわからなかったって書いてあったのを覚えている。
「かなりの量のエーテルをまとっていないと、異次元のどこかに飛ばされてしまいますから」
「なにそれ怖い……」
日本にもUFOが現れるから高尾山や東北地方の山にあると思うんだけど、そんな危険なもんなのかよ。そりゃいくらインセクトイドでも、強い個体じゃなきゃ地下世界に行くのは厳しいか?
「しかしダグルねえ……確か『殺戮せし者』だったかな? 」
「なっ!? 古代語がわかるのですか!? 」
「え? 古代語なの? いや、わかるけど? エルサリオンて国名も『強きエルフ』て意味だろ? 俺は別の世界でエルフやダークエルフたちと一緒に、インセクトイドみたいな奴らと戦ってたからな」
俺がダグルの言葉の意味を口にすると、ルンミールはその理知的な目が台無しになるほど見開き、フィロテスは手を口に当てて驚いて開いた口を隠していた。
アルガルータでは公用語だったんだけどな。やっぱりアルガルータのエルフたちは、アガルタから俺みたいに転移させられた者たちだったっぽいな。
「へ、並行世界におられたんですか!? 」
「うーん……それは俺も考えだんだけど、俺とカレンのいた世界は月が2つあったんだよね。だから異世界だと思う。地下世界に月が無ければだけど」
並行世界なら同じ地球なはずだしな。
「まさか異世界に同族が……ええ、アガルタに月はありません」
「もしかして並行世界とか異世界とか行ける? 」
俺はルンミールが並行世界と口にしたり、異世界と聞いてあっさりその可能性を信じたことからもしかしてと聞いてみた。
「はい、理論上行くことは可能です。ですがどのような世界に繋がるのかはわかりません。そしてかなり大掛かりな装置を使いますので、戻ってくることもできません」
「マジか……まあ確かにそれじゃあ戻ってくることは難しいよな」
召喚魔法で異世界へってわけじゃないもんな。
「はい。アガルタはホールで地上と繋がっていますので特殊な例ですね」
「え? アガルタって異世界なの!? 」
地球の地下じゃないのかよ!
「異世界というよりも亜空間ですね。明るく擬似太陽の呼べる物体もあります。これは神が創り出した物と我々は信じています」
「亜空間にそれに太陽って……まあそれなら色々納得できるけど」
太陽が無いのに人間と似た生物が地下で1万年以上も繁栄しないもんな。でも地下に太陽って……
やべえ、超行ってみたい!
「しかし異世界に同族がおり、古代語を話していたことには驚きました。そのうえセカイさんが我々の同族と共にダグルと戦っておられたとは……しかもこの世界に戻ってくることもできるなど……信じられないお話ですが、その圧倒的なエーテル量。高レベルのダグルを相当数倒さなければ身に付けることは不可能でしょう。そしてまるで魔法のような特殊な力……これらのことから信じざるを得ません」
「まあ戦ったのは魔物……そっちでいうところのダグルだけじゃないけどな。魔物との戦いを邪魔するエルフの貴族もかなり殺したし」
「エルフですか……彼らはプライドが高いので、人族に遅れをとることを嫌がる者がいたのやもしれません。私たちダークエルフも排他的な部分がありますので、エルフのことは言えないのですが……」
「まあね。人族は俺1人だけだったからな。エルフからしたら強くなっていく俺が面白くなかったんだろう。ダークエルフはまあ、確かに排他的だったけどな。一度懐に入れば付き合いやすい奴らだったよ」
ダークエルフは良くも悪くも無関心だ。ただ、一度懐に入るとめちゃくちゃ親切にしてくれる。ぶっきら棒というか、無口だけどそっと手助けしてくれる感じだな。そして何より勇敢だ。たった1人で最後まで家族を守るために戦ったカレンの父親のように……
「それは耳が痛いですね。しかし人族は1人といいますと……」
「気付いてんだろ? 同じ国でうまくやっているみたいだから差別があるかわからないけど、もしも眉の一つでもしかめたらただでは済まさないからな? 」
俺はフィロテスとルンミール、そしてその背後に立つ護衛たちを睨みながらそう警告した。
「そ、そういった者がいるのは確かですが、我々はそのような差別的思考は持ち合わせていません。皆もそうだな? 」
「「「ハッ! 」」
「んふっ……ワタルは私を愛しすぎてる……私は大丈夫」
「ちげーよ。俺は差別する奴が嫌いなだけだ。いいから帽子を取ってその綺麗な髪と可愛い耳を見せてやれ」
「ん……正体を明かす時がきた」
カレンはそう言って帽子に手を掛けた。
カレンがちょっとふざけている理由はわかってる。アルガルータではあれだけ世界のために戦ったのに、最後までエルフとダークエルフからは差別的な目で見られていた。エルフ種でカレンをそういう目で見なかったのは王家の奴らくらいだ。
まあそれだって俺が片っ端からシバキ倒しているのを見て、協力を得られなくなったらマズイと思ったからに過ぎない。ああ、王女のリーゼリットは違ったな。あの子は天然だし、カレンとよく話してたしな。
俺がそんなことを思い出しながらルンミールたちを睨み威嚇をしていると、隣でカレンが帽子を取りそのエルフよりは短く人族よりは長い耳を皆にさらした。
「やはり……ではカレンさんは異世界のエルフとダークエルフのハーフ」
「ああ、エルフとダークエルフの良い部分を合わせた、エルフ種の完成体だな。カレンはあんたらより遥かに強い。それが証明だ」
俺は眉ひとつ動かさなかったルンミールたちに満足しつつも、ハーフエルフの能力の高さを伝えた。
隣でカレンの『んふっ』という鼻息が聞こえてくるが無視だ。
「し、失礼しました。確かにおっしゃる通りです。保有するエーテル量は我々では到達し得ないほどのレベルです。ミックスエルフにこれほどのポテンシャルがあったとは……国の者たちに教えてやりたいものです」
「相対しただけでそこまでエーテル量がわかるのか? 隠蔽してるんだけどな」
「はい。戦闘時に我が国の戦闘機より遠隔測定させていただきました」
「え? そんなのがあるの!? すげーな! 」
相手のエーテル量がわかるまでになるのにかなり訓練したんだけどな。魔導技術であっさり作っちゃうんだもんな。
「はい。これは小型化した物ですが、相対した者の体表に流れるエーテルから総エーテル保有量を測ることができます」
「なっ!? スカ○ター!? 」
俺はルンミールがジャケットの内側から取り出した物を見て、思わず驚きの声をあげてしまった。
それが白く片側だけの小さめのヘッドホンに、緑色のレンズが取り付けてある形をしていたからだ。それはまるで某アニメの戦闘力を測る装置のようだった。
こ、これは測りたい……自分の戦闘……いや、エーテル力……じゃなくて、 エーテル保有量を知りたい。
「いえ、これはELセンサー。正式名称をエーテルレベルセンサーと言います。これを耳にはめエーテルを流すと起動し、相対する者のエーテル保有量を測定することができます」
「隠蔽を解くからさ。ちょっと俺を測ってくれない? 自分の保有量を知りたいわ」
「は、はい! 測らせていただきます! その……より正確に測るために接触式の物があるのですが、そちらの方が良いかと思います」
「そんなのもあるのか。ならそれで測るよ」
俺はなぜか落ち着きのないルンミールにそう言って、その測定器を用意されるのを待った。
「で、では! フィロテス、持ってきているな? 」
「は、はい! バッグにあります! 」
フィロテスは焦った様子で護衛に預けていたバッグから、手のひらサイズのグレーの金属板と透明な板を取り出し2つをL字のように接続し俺の前に置いた。
「黒鉄とミスリルの合金か。エーテルを通しやすい方がいいもんな。納得だ。これに手を置いてエーテルを流せばいいのか? 」
「はい。エーテルを少量流すとそちらのクリスタルに数値が表示されます」
「そっか、ならやってみるか」
俺はそう言って板の上に手を置いてエーテルを流した。
ブンッ
するとクリスタルが反応し、何やら測定しているような低い音が聞こえてきた。
ブンッ
『460000』『レベル10』
「なんだ53万じゃ無かったか……残念。まあでも目標ができたな。目指せ戦闘力53万! 」
「ワタル……私もやる」
「あいよ。カレンはどんくらいかな? 」
俺が画面を見ながら新たな目標を見つけていると、隣に座るカレンがやりたがったのでレベルセンサーを渡した。
カレンは俺から装置を受け取りテーブルに置き、エーテルを流し始めた。
横顔が楽しそうだ。
ブンッ
『280000』『レベル9』
「んふっ……ワタルの半分より多かった……」
「だいたい半分くらいだと思ってたけどもう少しあったんだな」
俺の方が多いのは仕方ない。カレンより2年長く戦っているし、雑魚以外は俺は接近戦が主体だ。遠距離主体のカレンより倒した魔物の近くにいるから、その分エーテルを吸収しやすい。それでも龍を倒す寸前などはカレンに近くに来るように言っていた。その甲斐あって俺の半分くらいにまでは増やせたと思ってたんだが、予想より多かったみたいだ。
「ワタルと一緒に戦った結果……数字に出るの嬉しい」
「ははっ、そうだな。となるとアルガルータにいたエルフ最強の戦士とかは6万くらいか。そっちのエルフはどんくら……どうした? んな青ざめた顔をして……」
俺がアガルタの戦士のエーテル保有量を聞こうとカレンからルンミールたちに視線を移すと、ルンミールと護衛たちは青ざめフィロテスの足は大きく震えていた。おかげで魅惑の三角ゾーンの面積が広がっり、俺はフィロテスの股間をガン見することになってしまった。
「い、いえ……予想していたよりもその……多かったもので……まさか魔王級を遥かに上回るとは……」
「魔王級ってもしかしてインセクトイドの強さの目安か? 確かに俺たちが倒した魔王は俺と同じくらいエーテル保有量があったな 」
多分魔王を倒してかなりエーテル保有量は増えたから、倒す前は同じくらいだったと思う。
「魔王は吸収があったから苦戦した」
「そうだったな。あの特殊能力は厄介だったな。それに重力魔法も……よく勝てたよな」
かなりギリギリの戦いだった。仲間もみんな失ったしな。
「ま、魔王級と戦われたのですか!? それも勝利したと!? 」
「俺たちだけじゃない。獣人にドワーフ、巨人の仲間と共に倒したんだ。みんな死んじまったけどな」
「なんと……エ、エルフは……エルフは魔王との戦いにはいなかったのでしょうか? 」
「一緒に何度かチームを組んだんだけどな。カレンのこともあって俺たちと相性が悪くてさ、だから連携もあまりな……あっさり死んでったな」
エルフたちは独断が多かった。エルフの中から選抜された強い奴らだったから、俺の言葉もカレンの言葉も聞かなかった。あまりに早死にするからチームを組むのをやめたんだよな。エルフの数も減ってたし。
「そ、そうですか……残念です」
「まあ別世界の話さ。それよりエルサリオンの婚姻制度なんだけど…… 」
俺はここで一番聞きたかったことをルンミールに尋ねることにした。
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