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第1章
第30話 既知との遭遇
しおりを挟む「エルサリオン王国が俺たちに会いたいって? 」
桜島にやってきて、カレンと教官ゴッコをして楽しんだ翌朝。
公安から渡された防諜機能満載の特殊携帯に、小長谷から連絡があった。そこで聞かされたのは、エルサリオン王国が俺に会いたいといっているということだった。俺はそれを聞き、やっぱり日本政府を使ってきたかと思っていた。
米国を使って俺たちの確保に失敗してからは、UFOが俺たちの周りをちょろちょろすることが無くなっていたが、そう簡単に自分たちの脅威となる存在を放置などできないだろうとは考えていた。
俺が日本政府と接触したことを知り、今度は日本を使って接触をしようとしてくるだろうとも。
《そうみたいだ。先方は航の指定した場所でいいと言っている。ただ、あまり人目のつかない場所を希望している。なにせパワードスーツに乗っている時以外は、今まで一度もその姿を現したことがないからな。よほど独特な姿なのだろう》
「ああ、鼻から上が隠れてて見えなかったな。色々な肌の色や体型をした者がいるくらいしかわかんなかったな」
インセクトイドによる第三次侵攻時に、海外へ救援に行った地下世界の者たちの映像を見る限りでは、黄色人種ぽい肌の色にズングリした体型で髭を生やした者や、やたら筋肉質なガタイのよい者。白い肌や、日本に来た褐色肌のナイスバディっぽい者など多種多様な種類の地底人がいるように思えた。
《部隊でも絶対にバイザーの下は美形だと言っている者や、グレイのように目が異常に大きいに違いないと言っている者で意見が分かれてるよ》
「あはは、グレイみたいだったらショックだな。しかし米国の件もあるしな。これまでの行動から、俺たちに敵意があるかどうかは五分五分だからな。どうすっかな」
米国にはエルサリオンの別勢力が勝手に依頼したと言ってはいたが、今回もそうではないという保証はない。
《米国の件か。噂ではアガルタは米国への支援を停止したと聞く。航の確保に失敗したからそうした可能性もあるが、航を警戒しているということは間違いないだろう》
「ふーん……まあUFOはもちろんだけど、動画で見た限りあの馬鹿デカイコマみたいな母艦や潜水艦みたいな戦艦に関しては、俺とカレンの敵じゃないと思う。パワードスーツなんかは論外だしな」
動画で見た限りでは、アガルタの兵器はどれも魔力砲だ。属性付きは一つもなかった。バリアみたいなのも魔力による物だろう。ならばいくら威力があろうと、俺とカレンの結界の敵じゃない。パワードスーツに関しても同じだ。あんなパイロットが剥き出しの物なんて、パイロットを守ってるっぽい薄っすらと張ってるバリアを剥がせばイーグルより楽に狩れる。
インセクトイドと戦ってるから魔結晶とか持ってると思ったが、あの程度のエーテル文明なら脅威にはならない。
《あの巨大な宇宙船もか……俺も多少はエーテルを扱えるようになったが、とてもじゃないが戦いたいとは思えないがな》
「一緒にUFOくらいは狩れるようにそのうちパワーアップさせてやるよ。次のインセクトイドの侵攻を楽しみにしていてくれ」
《滅多なことを言うな。とても楽しみには思えん。それに鍛えてくれることはありがたいが、雑な航のことだ。インセクトイドの群の中に放り込まれる未来しか見えないんだが…… 》
「正解! 大丈夫だ。フォローはする。トップガンになれるぞ」
《うっ……やっぱりな。地獄を見せられそうだ。インセクトイドにはもう来ないで欲しいと心から願ってるよ。それよりどうだ? 会ってみるか? 米国の件もあるし断ってもいい。うちとしては航に伝えただけで義理を果たしたことになるから、こっちは気にしなくていい》
「うーん、そうだな……」
俺たちを無力化する未知の道具を持っているようには思えないしな。そんなのがあればインセクトイドに使ってるはずだ。恐らく本当に魔力による攻撃手段しかないんだと思う。
何かあってもカレンと2人なら切り抜けられるだろうし……褐色の地底人はナイスバディだったしな。気になると言えば気になる。
でも会っても特にメリットが無いんだよな。
「ワタル……」
「ん? ああそっか……わかった。桜島で会うと伝えてくれ。火山の近くなら人がいない。細かい場所の選定は任せるから、明日の夜にそこに来るよう伝えてくれ」
俺がどうするか悩んでいると、横で聞き耳を立てていたカレンが俺の服を引っ張ってきたのでカレンに目を向けた。
するとカレンはマジックポーチから魔銃を取り出して俺に見せた。
俺はそれで察して地底人と会うことを決め、その旨を小長谷に伝えた。
なぜ会うことにしたかというと、カレンがエーテルの増幅装置を欲しがっているのがわかったからだ。エーテル増幅装置があれば魔銃のエネルギーである、エーテルそのものの結晶であるエーテル結晶の消費を抑えることができる。
そして魔銃の威力も上がる。魔銃の素材は俺の剣と同じ超希少金属の魔鉄だ。たとえ今の3倍の威力になったとしても銃身は耐えられるさ。
《いいのか? 俺に気を使ってないか? 》
「大丈夫だ。こっちもエルサリオンに聞きたいことというか、欲しいものがあるんだ。その交渉をしたくなった」
魔物の魔結晶の一つでも見せれば、増幅装置をくれそうな気がするしな。
《そうか、わかった。俺も同行する。彼らが航たちに危害を加えるようなことは無いとは思うが、万が一の時は身体を張ってでも航とカレンさんを逃してみせるから安心してくれ》
「ばっか、俺とカレンを舐めすぎだ。もしもそんなことがあれば、UFOを奪ってそのままアガルタに行って暴れてくるから小長谷たちは邪魔するな 」
俺とカレンでどうにもできない相手を、小長谷がどうにかできるわけないだろうに。気持ちは嬉しいけど、とっとと逃げてくれた方がこっちも遠慮なく抵抗できる。
《航なら本当にやりそうで怖いな。万が一無いことを祈るほかないな》
「何があっても余裕さ。結界を張って行くしな。んじゃ明日の夜待ってるよ」
《わかった。レンジャー部隊を編成して行く》
「お前が逃げるために使え。じゃあな」
俺は心配症な親友との電話を切ってため息を吐いた。
「いい友達……」
「ん? ああ、まあな。そろそろ足の裏にでも、身体強化と再生の魔結晶を融合してやるかな」
足の裏なら身体検査やらに引っ掛からないだろうしな。身体に馴染むまでに時間が掛かるから、そろそろやってやった方がいいかもな。
「ん……それがいい」
「それにしても地底人か。あの水着みたいな女型の顔はどんなんだろうな」
男は首までびっちり覆った白のウエットスーツみたいな姿なのに、女は逆に胸の谷間まで見えるほどの水着のようなパイロットスーツを着てたからな。期待しちゃうよな。
「目が三つある? 」
「うっ……ギリ許容範囲かな。六つとかなら無理だな」
蜘蛛みたいな複眼だったら会話ができるか不安だ。蜘蛛苦手なんだよ。
「明日が楽しみ……このワタルP38を改良できる」
「その名前はやめろ。あれは冗談で付けた名前だ。魔銃でいいんだよ魔銃で」
ノリで言ったつまらない冗談を、ずっと言われ続けるのは堪える。
「私は気に入ってる。ワタルの名前が付いた銃。ワタルが私を守るために作ってくれた銃。命の次に大事」
「……せめてW-P38とかにしてくれ。それと昨日はその銃を使って悪かったな……」
そんなに大事にしてる銃を、昨日の教官ごっこでカレンの中に後ろから突っ込んじまったんだよな。当然エーテル結晶は抜いてだけど。
「いい……ワタルが入ってきたから……よかった」
「……今度は俺が新兵役をやるよ。カレンが女教官でいい」
俺は全てを受け入れてくれるカレンへの罪悪感から、罪滅ぼしのためにそう言った。言ってしまった。
「んふっ……わかった」
「ふ、普通のな? 普通のだからな? 」
カレンが一瞬口もとを緩ませ、妖しい目をしたことに俺は怖気づきカレンに普通の教官ごっこであることを言い聞かせた。
「まかせて。優しくする」
「エロく頼むよ。エロくな」
俺はそう言って自衛隊の戦闘服に着替えたのだった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
翌日の夜。
昨晩は朝までカレンの教練を受け、女教官最高とか思いつつ昼過ぎまでカレンと裸で抱き合って眠った。
途中危なく変なもの突っ込まれそうになったけど、なんとか手錠を壊して回避した。ロープの時のようにはいかんのだよ。
それからは俺を籠絡してみろとカレンに言って、動画で勉強しパワーアップしたカレンに身も心も屈服せざるを得なかった。俺の暴れん棒の上にしゃがみ、やらしい腰の動きをしつつ舌を出して俺にキスをせがむカレンはエロかった。ただひたすらエロかった。
起きてからは今度は普通にもう一度エッチしてから、ダラダラと夕方までカレンと温泉に入ったり、念のため装備を点検したりして過ごした。そして20時を過ぎた頃。小長谷から連絡があり、宿の外へと俺とカレンは出て小長谷を待っていた。
エルサリオンの人と会うとはいえ、俺は黒の長袖のYシャツジーンズ姿で、カレンはベージュのチュニックのワンピースにジーンズとニット帽と結構ラフな格好をしている。
そして少し待つと自衛隊のハマー型の車両2台が旅館の前に止まり、先頭車両の運転席から小長谷が降りてきた。
「ワタル、待たせたな 」
「んにゃ? そんな待ってないさ」
「そうか、レンジャー部隊は後から付いてくる。俺たちは先に向かおう。神谷さんも乗ってる」
「わかった。カレン行くぞ」
「ん……」
俺はカレンに腕を組まれ、小長谷の運転する車両の後部座席に乗り込んだ。
「瀬海さん。本当によかったんですか? 」
「ええ、こっちも交渉したいことがあるので、今回のことは願ったりですね」
俺は助手席から半身になってこちらに振り向き、心配そうに言う神谷さんにそう答えた。
「交渉ですか……」
「彼らの持つ兵器の一部の機構に興味があるんですよ。カレンの使う武器の改良に使えそうなんです」
「米軍施設を炎を包んだあの銃のですか!? あれ以上強力になる余地があると!? 」
「まあそうですね。改良してみないことにはわかりませんが」
カレンの魔銃の威力はあんなもんじゃないけどな。
「なんとも底が知れないといいましょうか、我が国としては頼もしい限りです」
「山道に入ります。少し道が悪くなりますので、しっかり掴まっていてください」
俺と神谷さんが話していると、運転席から小長谷から注意するようにと声が掛かった。それを聞いた神谷さんは前に向き直り、俺はカレンを抱きいて手摺りに掴まった。
そして30分ほど山道を走ったところで、火山を見上げるほど近い場所にある、かなりの広さのある土地にたどり着いた。
ここならUFOが着陸しても大丈夫そうだ。
それから少しして俺たちの後方に複数のトラックが止まり、中から40名ほどの自衛隊員たちが降りて小長谷の後方で整列していた。まあ神谷さんの護衛だな。
「お? 来たか」
俺は遠い雲の上にいつものUFOより大きなエーテル反応を感じた。
「わかるのか? 」
「小長谷も訓練すればわかるようになる。そうなればレーダーが必要なくなるさ」
「エーテルか……それはかなり有効だな」
そして少ししてからそのエーテル反応は真上にやってきて、俺たちの前へゆっくりと降下してきた。
そのUFOは盤型だが今まで見た全長30mほどの物よりもかなり大きく、軽くその5倍はありそうだった。
UFOはエーテルとは違う何かのエネルギーらしきもので機体全体を覆っており、それが白く発光していてすごく眩しかった。そして俺たちから50mほど離れた場所へと静かに着陸した。
こんなに間近で見るのは初めてだけど、映画とかに出てくるUFOそっくりだよな。いや逆か。このUFOを見て映画を作ったのか。
着陸を終えたUFOは白く発光していたのをやめ、通常の明かりを機内から漏らす程度の光を発するようになった。
眩しさが無くなったのでよく見てみると、UFOは横に直径で150mほどで高さも30mくらいはありそうに見えた。
そして少ししてUFOの下部分がプシュという音とともに開き、続いて階段が現れたと思ったらエスカレーターのように動き出した。
「カッコイイ……UFO欲しいな」
「ワタルと宇宙旅行したい」
「無重量でカレンとするのも魅力だな」
どんな感じなんだろう? うまく動けるかな? 計らずともアクロバティックなエッチになるのは確定だよな。
「んふっ……ワタルは私の身体の虜」
「うっ……ま、まあな」
それは否定できない。カレン身体とテクニックを知ってしまったら、もう一人で処理なんてできない。それに着替えがどこにあるのかもわからないし、飯の作り方も忘れた。寝る時もあの乳に包まれてないと寝つけなくなったし、カレンがいなくなったら一気に不潔で不健康になりそうだ。
「ワタル……来た」
「ああ、5人か。ずいぶんと少ないな」
俺がカレンのいない生活を想像して背筋を凍らせていると、UFOの入口に5つのエーテル反応が現れた。
なんか情報局長というお偉いさんが来るとは言ってたけど、護衛がずいぶん少ないな。敵意がないことを証明しているつもりなのかね?
そしてUFOの入口に5つの人影が現れ、俺とカレンはその人影へと視線をやった。
「お? 変なバイザーはしてないみ……なっ!? 」
「うそ……」
俺とカレンは現れた地底人の姿を見て絶句した。
彼らはグレーの髪に褐色の肌をしており、人間と変わらないが異常に整った顔立ちをしていた。
それだけなら想定はしていた。
しかし彼らは、笹の葉のような長く尖った耳をしていたんだ。
そう、そこにいたのは紛れもないダークエルフだった。
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