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第1章
第19話 情報局
しおりを挟むーー エルサリオン王国 情報局 局長 レンウェ・ルンミール子爵 ーー
「高エーテル体の2人は今どこにいる? 」
「地上からの情報では、潜伏した場所から移動を繰り返し現在はアサヒカワの街にいるようです」
「そうか。しかしエーテルを完全に抑え込むことができるとは厄介な……我々が地上人の動きからでしかその存在を把握でないとはな」
エーテル量をあそこまで完全に抑えることができるなど異常だ。歴戦の暗殺者ですらあそこまでの技量はなかった。
「ですがいつまであの高エーテル体。恐らく異星人が地上人に成りすましているのでょうが、彼らの存在の詳細を元老院へ隠すのですか? 軍務局と外交局が地上人を使い早急に確保し、あの銃と不可思議な能力の秘密を解明すべきと騒いでいます。このままでは元老院に知られるのも時間の問題かと思われます」
「あの銃と男性体の能力か……そうだな。フィロテス、君には正確な数値を教えていなかったな。彼らのエーテル保有量だが、男性体は15万E|《エーテル》、女性体は7万Eだ」
「なっ!? じゅ、15万!? 」
「そうだ。しかもこれは遠距離から小型戦闘機で、身体にまとっているエーテル量を測定した数値だ。実際にエーテル測定器で、体内のエーテル保有量を測定したならばもっと多いだろう」
恐らく30万Eは超えるだろうな。青ざめて今にも卒倒しそうなこの美しき部下にはとてもではないが言えないが……
高等情報員である彼女にでさえ、これまで正体不明の高エーテル体としか伝えていなかった。恐らく彼女の中では多くても我々の倍くらいだと思っていたのだろう。だが実際に表に出ているエーテル量だけでも歴戦の戦士の数倍もある。そのうえ生身で空を飛び高速で移動し、未知の能力を扱うとなれば、彼女はその脅威度を正確に理解できただろう。
未知の能力。
彼女は知らないだろうが、高エーテル体が発現させた超常現象は、遥か昔にダグル……地上ではインセクトイドと呼んでいるようだが、奴ら敵性異星人が使ったと伝えられている超常現象と似ている。そしてお伽話に出てくる魔法のようでもあった。その威力は我々が扱う、エーテルを魔力へ変換して放つ魔砲を遥かに凌ぐ。
推定30万Eを超えるエーテル保有者が操る魔法。
そんな物の存在を知れば元老院はパニックとなるだろう。その存在は確認できていないが、ランクだけは存在するレベル10のダグス以上だ。レベル8のダグスが現れれば我々は滅ぶと言われているのに、もしもその存在が明るみに出れば……しかも一緒にいる女性体も恐らくレベル8はあると思われる。
元老院の高位貴族どもは、こぞってここから16光年離れた星へ移住をするだろうな。しかしあの星には逃げ場がない。我々のような高エーテル体が多く移住すれば、いずれダグルに見つかるだろう。そうなれば滅ぶしかなくなる。
「きょ……局長……どうすれば……そのような存在に我々はどう対処すればよいのでしょうか……」
「情報の収集だ。ニホンからは詳細な情報が送られてきている。それによるとあのエーテル体はニホンに溶け込んでいるように見える。見た目も男性体はニホンの民ソックリだ。そして先日のダグルの侵攻時にニホンを守る動きをし、我々を見ても攻撃をしてこなかった。今は触れずにその存在を監視し、彼らの情報を収集することが先決だ。いいか? 今の段階での接触は危険だ。無闇に刺激し敵対してはならない。もしも敵対すれば我々はたった2人により滅ぶだろう」
「ほ……滅ぶ……しょ、承知しました。接触はせず監視に留めます」
ニホンは我々に協力的だ。我が国の建国以来、あの島に住む者たちに我々は大きな興味を抱いてきた。そして千年前に月へと向かう途中に宇宙船が故障をし、ニホンへ不時着した際に乗っていた王家の者が助けられた。
地上人に最低限ダグルと戦える技術を供与することが議会で決まった際も、真っ先にニホンは決まった。王による鶴の一声だったらしい。他国も揉めることなくスムーズにこれは決定した。
驚くことにあのケチなハンザリオン共和国の者たちが、エーテルの通りは悪いが、軽くて熱に強く硬いアダマンタイト鉱石の合金を提供もするべきだと言い出したほどだ。それほど我々アガルタの住人はあの国を気に掛けている。
そういったことからニホンは問題視していない。彼らは温厚で善人が多い。しかし地上はそうではない国の方が多い。
心配なのは外交局の者たちだな。情報局と外交局はその種族構成柄古代より仲が悪い。奴らは地上で一番影響力のあるアメリカを利用して独自の情報を得ている。余計なことをしなければいいが……
「いずれ接触の機会も訪れるだろう。今は彼らがなぜニホンにいるのか、なぜあの時ダグルと戦ったのかを探ることが先決にな……ん? 」
私は話している途中に、耳に取り付けているインターフェースへ緊急通信が来たことに気付き、少量のエーテルを流しインターフェースを起動した。すると目の前に映像が映し出され、そこには外交局を探らせていた一等情報官が神妙な顔をして立っていた。
「どうかしたか? 外交局に何か動きが? 」
《 ハッ! 外交局がどうやらアメリカへ高エーテル体の確保を依頼したようです。それにより、ニホンにいるアメリカの情報機関が高エーテル体へと接触をした模様です 》
「なんだと! 我々に無断で勝手に動いたのか! それに既に接触した後だと? なぜもっと早く気付かなかった! 」
私は危惧していたことが現実となり、しかも既に接触をした後だということに目の前が一瞬暗くなった。
《 申し訳ございません。外交局は我々を警戒していたようで、まんまと出し抜かれました。現在戦闘機により追尾中です 》
「外交局の奴らめ勝手なことを……」
確かアメリカは強引な国と聞いた。高エーテル体を刺激しなければいいが……なにより我々が関与していると知られ、敵対でもされたら目も当てられない。万が一アメリカが刺激した場合、できる限り我々は関与していないことを伝えなければ……
私は連絡してきた部下に今後の動きを指示をした。そしてフィロテスを連れ外交局へと抗議をするために部屋を後にするのだった。
ーー 霞ヶ関 首相官邸 内閣総理大臣 佐藤 義人 ーー
「米国が接触を? 」
《 はい。一足遅かったようです。旭川で監視していた者からの報告ですと、瀬海氏は米国の情報機関の者たちと接触し戦闘となり、圧倒的な力量差を見せ制圧したそうです。しかしその後、なぜか彼らの車に乗り郊外へと移動したとのことです 》
「その場を去らずに同行を? ……瀬海氏の大叔母となる方は無事なのですか? 」
接触してきた者と戦闘になり、それに勝利したにも関わらず付いていくとなると人質を取られた可能性が高い。私は彼に一番近い親族の安否を確認した。
《 はい。米国のエージェントがウロウロしていますが、万全の態勢で警護を行なっております 》
「では……もしや友人関係ですか? 」
《 恐らく平沢氏が拉致された可能性があります。同行している小長谷3尉が昨日から連絡が取れないと言っていました。現在監視及び警護を担当していた警視庁に確認中です 》
「そうですか……もしも拉致されていたのなるとまずいですね」
自分より強い相手に対しその身内を人質を取り、思い通りにすることは使い古された手法だが効果的だ。それゆえに警戒していたのだが……
瀬海氏の人となりは学生時代の同級生から聞き込みをし、非常に情に厚い人物であることがわかっている。それゆえ近しい親族と学生時代に仲が良かったと思われる人たちには、遠くから監視と警護を付けていた。
その中で平沢氏は特に重要視していたのだが、しかしそれでも守ることができなかった。警護対象を見失ってから1日経つというのに報告が無い事から、これは警察の中に米国の協力者がいるとしか思えないな。管轄とはいえ、東京で多くの外国人と接触する機会の多い警視庁にやらせたのは失策だったか……
それにしてもまさかこんなに早く米国が接触するとは……我が国でさえ彼らが救世主だと特定したばかりだというのに……いや、情報をリークした者がいるのだろう。これも警視庁が関与していると見るべきであろうな。
《 現在車両を追跡しています。恐らく途中でヘリに乗り換える可能性がありますので、防衛省へ追跡の指示をお願いできませんでしょうか? 私も千歳の自衛隊基地へと向かいます 》
「わかりました。防衛省へは連絡を入れておきます。わたしも外務省と平沢氏の件で高等警察に依頼し警察を追及してもらい、米国の目的を探らせます。神谷君は連絡があるまで千歳基地で待機していてください」
《 承知しました。では失礼します 》
「お願いします」
私はそう言って電話を切った。
また高等警察の者たちが忙しくなりそうだ。
高等警察庁は国民からの要望で、中国と韓国など外国勢力の走狗となった高級職に就く者を主として捜査するために新設した独立警察だ。その長官は警察庁の中から、国民により投票で選ばれる。その権限は強く、現役の大臣でさえも不正を働けば起訴される。
そんな強い権限を持つ彼らだが、戦時中の特高警察のようになり暴走させないよう公安により相互監視をしており、民間機関による監視もある。
高等警察の存在のおかげで、高級職に就く者の不正は激減した。より強い権力を持つ者には刑罰を重くするよう法改正したことも影響しているのだろう。現状ではうまく機能していると言えよう。
今回の件が明るみに出れば、国民の要望により米国と繋がっていた者たちが捜査対象となるだろう。ネットによる国民の嘆願書が一定数集まれば高等警察は動かねばならなくなる。日本を二度も見捨て国民を拉致し、救世主を日本から連れ出そうというのだ。国民の米国に対する反感はもう抑えることはできないだろう。
まずは米国の目的を探らねばならないな。アガルタの指示ではないことを願うが……
それは考えにくいな。瀬海氏が滞在する我が国を無視して、米国だけに指示をするのは不自然だ。
ならば瀬海氏の能力を我が物としようとする米国の独断と見た方がいい。
あの国ならやるだろうな。それほどインセクトイドによる第三次侵攻で、米国のみならず各国は準備をしていたにもかかわらず多くの人的被害を出した。
あの圧倒的な力の秘密が少しでもわかれば、インセクトイドに対抗できるようになると思うのは自然な流れだろう。それは他国も同様だ。その中で我が国と米国がいち早く瀬海氏が救世主だと特定した。そして米国が真っ先に動いた。今回の米国の動きから、他国も瀬海氏があの時の救世主であることを確信しただろう。
だが米国が瀬海氏を取り込めるかは未知数だ。人質を取ったとしても、彼らの力はあまりにも強すぎる。人類が滅びを覚悟したインセクトイドを、一瞬で殲滅できる力を持つ彼らを脅迫し言うことを聞かせることが本当にできるのであろうか?
もしも彼が友人を見捨てた時、米国は滅ぶ可能性があることを考慮しているのだろうか?
……していないだろうな。それだけ米国の大統領は焦っている。次の選挙での再選は現状ではほぼ絶望的だ。
馬鹿なことをしてくれたものだ。
なによりも、我々が米国より先に瀬海氏に接触できなかったことが悔やまれるな。
私は米国に対しての恨み節と、あと半日遅ければ我が国が接触できたことを悔やみつつ防衛省と高等警察へと連絡をするのだった。
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