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第1章
第7話 月
しおりを挟む「やっぱり月が怪しいと思うんだけどなぁ……気付いてないはずないと思うんだけどなぁ」
「……この星には一つしかない 」
「そうだな。地球の確か4分1の大きさだったかな。日本では昔から月には兎がいるとか言われているんだよ」
「月に兎獣人いるの? 」
「あははは、違うよ。月のクレーターとかの模様が兎に見えるんだ。だからだよ。月には大気が無いから兎は生きられないよ」
「大気……確か空気……残念」
カレンは残念そうにしつつも、俺のPCに映し出される月をじっと見ている。
どの辺が兎に見えるのか探しているようだ。遠くから見ないとわからないんだけどな。
まあこの間一緒に横浜に遊びに行った時に買った、部屋着のトレーナーの隙間からノーブラの乳が見えるからそのままにしておくか。チラリと見える乳ってなんでこんなに興奮するんだろうな。
しかし日本に戻って来てから2週間ほど経ったけど、インセクトイドや地底人に関しては相変わらずわからないことだらけだ。まあ忙しくてあんまり調べらなかったってのもあるけど。ああそうだ。ひとつだけ人類を助け接触してきた地底人が、エルサリオンという国の人だということだけはわかった。
人と言ったのは、アメリカのお偉いさんが地底人は人類と見た目がそう変わらないと発言したからだ。確かにあの四肢の部分だけロボットみたいなのに乗っていたのは、人にしか見えなかったからな。しかし地下で太陽の光が届かないのに、人と変わらない姿なんてな。もしかしたら地下に太陽みたいなもんでもあるのかね?
しかし本当に忙しかったな。
婆ちゃんと俺の捜索願いを取り下げるために一緒に警察に行って、当時一緒にスキーに行った平沢 清人《 きよと》と小長谷 恒人《こながや つねひと》に連絡した。そしたらアイツら飛んできたよ。10年振りの再会にもうお互い泣きまくりでわけわかんなかったな。カレンを紹介した途端に2人に首を絞められたけど。
そのあとカレンには別室にマジックテントを張ってそこにいてもらった。平沢たちがチラチラ見てるし帽子を被ったままだしな。カレンはこういう時空気が読める子だからおとなしくマジックテントに入っていった。ほんといい女だよ。
それから平沢と小長谷と色々と積もる話をした。
10年前のあの日。俺たちはナンパ目的でスノボをしに栃木のスキー場まで行った。
しかし俺たちは連戦連敗を重ね、心が折れかけていた。そんな時にスノボで滑りながら転んだ子を助け起こしてお近づきになり、その子の連れの子を紹介してもらおう作戦を考えついたんだ。
平沢はノリノリだったが、シャイな小長谷は1人でそんなことできる自信がないと言って腰が引けていた。そんな小長谷に童貞のままでいいのかって説得したりしたが、結局俺と平沢で二手に分かれて実行することになった。
そして俺はナイスバディな女の子をみつけ、転ばないかずっと後ろからお尻を眺めながら滑っていた。ところがいつのまにかコースを外れていたみたいで、少し目を離した隙にその女の子はいなくなっていたんだ。
戻るか女の子に危ないと伝えるか迷ったが、俺は先に行ったであろう女の子を追った。
しかしその女の子はどこにもおらず、スノボで滑った形跡もなかった。
俺は元来た道を戻って人を呼ぼうとして……道に迷ってしまった。
そして夜になり吹雪の中俺は彷徨い歩いた。体力的に限界だった。
そんな時に天の助けか、人が1人入れるくらいの大きさの入口の洞穴が見えた。中は吹雪でよく見えなかったが、真っ白だったことは覚えている。この大きさなら熊はいないだろうと俺は洞穴の中に入ったんだけど、突然全身を電気が駆け巡ったかのような痺れと激しい痛みを覚えて俺は気を失った。次に気が付いた時はアルガルータの森の中にいたってわけだ。
そんな話を平沢と小長谷にした。アルガルータのことは言わずに、どこか海外に攫われたってことにしたんだけどな。
でも平沢たちが言うには、あの日の夜は吹雪なんて無くて捜索隊が俺を一晩中探してくれてたらしい。そして俺以外に行方不明になった人間はいなかったそうだ。
俺はあれ?おかしいなと思ったけど、ずっと気になっていたあの女の子は無事にゲレンデに戻れたんだと知って長年気になっていたことがスッキリして吹雪のこととかどうでもよくなった。まあ7年、いや地球だと10年か。そんなに前のことだ、お互い記憶違いがあるのかもしれないしな。
そして行方不明になった俺を、2人ともずっと探してくれていた。クラスメイトに声を掛けて、先生と一緒に栃木のスキー場でビラ配りまでしてくれてた。高校を卒業して大学に行っても、冬になると爺ちゃんと婆ちゃんと一緒に4人で寒い中、あのスキー場で俺を見た人がいないかずっと探してくれてた。人を雇ったりもしたらしい。スキー場の周りに俺の顔写真付きの貼り紙もいっぱいしたそうだ。でも爺ちゃんが死んでからは張りつめてたものが切れたみたいで、2人とも諦めていたそうだ。
もう申し訳なくてさ。俺は色々言えないような目にあって、命からがら逃げてきたと2人に言って謝ったよ。だからクラスメイトにSNSでしか知らせられないって、巻き込んだら申し訳ないからって。
そしたら2人は『そうか、大変だったんだな。その鍛えあげられた身体を見れば察しはつく』と言って深くは聞いてこなかった。俺はテロ組織にいたとか思われてないか不安だったけど黙ってたよ。7年もアルガルータで戦っていたから確かに細マッチョにはなってるけどさ。着痩せするから脱いだらもっと驚かれそうだ。いや男の前で脱がないけど。
でも小長谷も俺よりかなりガタイ良くなってて、俺より肉付きがいいせいか高校の時とは大違いの精悍な顔付きをしている。身長も俺より確か5cmくらい高かったから180くらいある。まるでラガーマンみたいだ。
んでラグビーでもやってたの? って聞いたらなんと自衛隊にいるらしいんだ。俺は興奮してサクに乗りたいって言ったら、笑いながら体験搭乗会の時に呼ぶと言ってくれてた。それになんか3尉とかいう階級らしい。よくわかんなかったから偉いの? って聞いたら、昔で言うところの少尉って言われて幹部じゃん! ってびっくりしたよ。これはサクに乗せてもらえそうだと期待しちゃったよ。
まあ自衛隊も例の蟻型インセクトイドを北海道で命懸けで探索しているらしい。心配する俺に小長谷はそんな危ない部隊にはいないと笑っていた。相変わらず嘘の下手なやつだ。多分前線によく行く部隊なんだろうなと思ったけど何も言わなかった。言いたくなさそうだしな。
ネットでは殉職者も昔に比べたらかなり多いと書いてあった。でも、インセクトイドから日本を守るためと、サクに乗りたい子たちが自衛隊にこぞって志願しているらしい。ただせっかくサク狙いで入っても、サクは千機程度しかないみたいだから狭き門だよな。
平沢も平沢で六菱のグループ会社に勤めてるらしくてさ、サクを売ってくれと言ったら笑いながら断られたよ。グループ会社なだけで、うちの会社はサクは取り扱ってないって。そもそも民間に売れないよって。まあそりゃそうか。
それよりサクはやっぱりアレだよな? って2人に聞いたら、やっぱりガンドムを意識したそうだ。ちゃんと作者の了承は得てるっていうか、作者がノリノリだったそうだ。こりゃ30m級のサクができる日も近いなと思ったよ。
それからは迷惑を掛けるからという俺に、気にすんなって困ったことがあれば連絡しろって言われて朝まで家で飲んで過ごした。まあ2人とも中学からの付き合いだ。そう言うとは思っていたよ。だからこそ迷惑掛けたくないんだけどな。
そして2人と別れて俺は翌日から身分証の発行をしてもらいに役所に行って、時間は掛かったけどなんとか保険証やらなんやら発行してもらった。
そしたら婆ちゃんから連絡あって、爺ちゃんの遺産の一部を振り込んだって連絡が来てさ、口座を見たら700万くらいあってびっくりしたよ。半分でこれ?ってさ。別に金持ちの家でもないし、爺ちゃん結構質素な生活してたのにさ。それに相続税取られたのにそんなに残るもんなのかと聞いたら、爺ちゃんは結構株とか持ってたらしい。
それを全部換金して俺を探すための費用に充てて、残ったお金から相続税やらこの家の維持費やらなんやら引いたお金と、俺を見つけた人や有力な情報を持ってきた人に払うための懸賞金を解除したお金の半分がこれらしい。
爺ちゃん本当にごめんな。
俺は爺ちゃんが俺を本当に大事に想ってくれていたことに、感謝と申し訳なさで胸が締め付けられる思いだった。俺がいなくなったことで、爺ちゃんにずっと心配掛けさせてしまった。俺は爺ちゃんの墓でひたすら謝ったよ。
700万を貰うのは金の装飾品とかいっぱい持ってるのに申し訳ないなと思ったけど、爺ちゃんが遺してくれたものだし無職だしありがたく使わせてもらうことにした。でも150万は爺ちゃんの墓というか先祖の墓だけど、古くなっていたから新しくするために使っちゃった。爺ちゃんはそんなもんに使うなとか言いそうだけどさ、せめてこれくらいはさせてくれよな。しかし墓石って高えな……
その後も婆ちゃんは2日に1回は来てくれてさ、カレンに地球の料理を教えてた。カレンも俺が好きなものと聞くと、一生懸命まだ拙い日本語で婆ちゃんに聞いてた。婆ちゃんにはその度に、あの航をこんなに好きになってくれる子がいるなんてってしみじみと言われたよ。ほっとけ!
そんなこんなで安いパソコンを買って自宅にネット回線を再度引いて、今日開通したので大きな画面で月の映像とか色々見てたわけだ。
そして調べれば調べるほど、やっぱり月にインセクトイドがいるとしか思えないんだよな。インセクトイドが地球に来たってことは、地球に近い火星と衛星である月を巣にしているはずなんだよ。実際アルガルータにやってくる魔物は2つの月からやってきていたしな。
そうであれば月の探査機から何か情報を得ていると思うんだ。
実際人類は50年前に月に降りたっているんだから、人はともかくバンバン月や火星に探査衛星を打ち上げていてもおかしくないはずだ。
ところがネットで調べてみると、この8年間で多くのロケットが打ち上げられている。しかしそのどれもが、インセクトイドを地球の軌道上で早期発見するためのものらしい。そんな中、中国が月の裏側に探査機を打ち上げて月の裏側の撮影に成功したようなんだ。でもどういうわけかその映像が公表されないんだ。その後その探査機がどうなったのかも正確な情報はわからない。
怪しい……
そもそも月自体が昔から色々おかしな天体だって言われているしな。
アポロ何号だったかが、宇宙船の一部を切り離して月面に落とした時に、たいした質量の物を落としたわけでもないのに、月全体が1時間以上振動したのが月に設置した振動計でわかったそうだ。それはまるで鐘のようだったと落とした人が言ってた。そのことから月の中は空洞だとか、実は宇宙人が造った宇宙船だとか言われたりしている。。
匿名掲示板やM-tubeなんかでは、月にインセクトイドがいるって多くの人が言っているのに、どういうわけかテレビではそんなこと一言も言わないし世界のどの国も口にしない。あの唯我独尊を地で行く中国やロシアですら何も言わないとかおかしすぎる。きっと何かを隠してると思うんだ。
そうそう、これは初めて知ったんだけど、月って地球の自転・公転と完全に同期して地球の周りを回ってるらしく、ずっと同じ面しか見せてないそうだ。月が実は奥に長い楕円形をしてたなんて知らなかったよ。
まあ地球も本当は丸くなくて歪な形をした星らしいんだけどね。海の水があるから丸く見えるだけらしいし。知らないままの方が良かったよ。ネットって残酷だわ。
しかし匿名掲示板の人たちの分析能力とか凄いわ。どうも古代遺跡なんかに人ほどの大きさの蟻やカマキリが描かれていることから、実は月はインセクトイドが造ったか改造したかしてそこを拠点に地球を餌場にしてんじゃないかとか言うんだよね。確かに言われてみれば納得だよな。過去滅びた文明はインセクトイドに滅ぼされてた可能性だって考えられる。
アルガルータもそうだったのかな……いや、人間はエルフや獣人たちと違って繁殖力が強いからかもしれないな。狩り尽くさないように定期的に収穫に来てる? こうは思いたくないけど、地球はインセクトイドの養殖場なのかもな。
「やべえな……調べれば調べるほど嫌な予感しかしない。もういいや。なるようになんだろ。なんたってUFOを作れる文明の地底人がいるんだしな。最悪地底人がなんとかすんだろ」
もしかしたら宇宙で既にインセクトイドの母船と戦ってたりしてな。
んで月を守ってたりしてな。だから月の情報が出てこないのかも。あり得るな。まあそんくらいの科学力があるなら地球は大丈夫だろ。エーテルも使えるみたいだしな。
最悪知り合いだけ連れてどこかの小島に逃げればいい。小さい島なら俺とカレンがいれば守りきれる。食糧も冷凍したトカゲのデカイのと、豚肉の味がする中鬼のが大量にあるしな。混乱に乗じて倉庫回りして、保存食なんかも集めれば地底人が勝つまでは生き残れそうだ。 勝つよな?
「……ワタルは戦いそう」
「え? やだよ。俺はもう一人で抱えきれないほどの人の命を預かるのは懲り懲りなんだ。インセクトイドが日本に来ようが、カレンと婆ちゃんと友達だけ守る。それ以上はもうゴメンだ。勇者すんのもうやめたんだ」
俺は俺に期待した人たちをみんな死なせた。何も守れなかった。逃がすための時間稼ぎすらできなかったお粗末さだ。俺には多くの人の命を預かるなんて無理だったんだ。それどころかカレンまで失うところだった。もうあんな思いをするのはゴメンだ。
俺は第一にカレンを、そして婆ちゃんと俺をずっと心配してくれた友達を守るためだけに戦う。人類が滅ぼうが俺のせいじゃない。俺がいたって滅ぶ時は滅ぶんだ。運命なんだよ。
「……そう」
「そうだよ」
「ワタル……」
「……なんだよ」
「お乳……吸う? 」
「……吸う」
俺は隣でカレンがトレーナーを捲し上げて出してきた乳に吸い付いた。
あーあ……せっかく帰って来たのになんでインセクトイドなんかいるんだよ。
この星も滅ぶのか……アルガルータと同じように……
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