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自覚するには少し早すぎて
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「ナディア、今日もお疲れ様!また明日もよろしく!」
「はい!今日もお疲れ様でした!それではお先に失礼します!」
(今日は少し早い時間に終わったし、あの場所に行きましょう)
ナディアと呼ばれた少女がやってきたのはもう何年も使われていない一軒家だった。
「パトリス、今日もいますか?」
周りを気にしつつドアを開けながらナディアは声をかける。
「パトリス?パトリスー」
「…あんたまた来たの?」
2,3度呼びかけた後、少し奥のほうから少し低い声が聞こえてきた。だが、人の気配があったのは声のみで奥には誰の姿も見えていない。
「あ、パトリス!今日もお邪魔してます」
「そんな頻繁に、てか何度来られても迷惑なんだけど。いい加減ここに来るのやめてくれない?」
「んー、そうはいってもここは私の小さいころからのお気に入りの場所なので…」
「…はぁ。勝手にしたら」
「ふふ。ではお言葉に甘えさせていただきます」
ナディアにはパトリスと呼ばれた青年の姿は見えない。いや、誰も彼の姿を見ることはできない。パトリスは俗にいう透明人間という存在なのだ。
「ここに来る途中でクッキーを買ったのでよかったら一緒に食べませんか?」
「いらない。そこ座っていいから食べたらさっさと帰って」
「そうですか…。でも食べたくなったらいつでも言ってくださいね!」
「………はぁぁ」
ナディアがパトリスが出会ったのはちょうどひと月前だ。仕事で失敗をしてしまい、落ち込んだ自分を慰めたく一軒家に向かっていた。小さい頃は秘密基地感覚で訪れていたこの場所も今のナディアにとっては憩いの場であった。その日も少しだけ滞在してから家に帰るつもりだった。だが、その日の落ち込み様は酷く、動きたくない、何も考えたくないという気持ちでいっぱいになっていた。そんな状況で一歩動いたからか、何かにつまずいて派手に転びかけたところを助けたのがパトリスだった。
「何もない空間に支えられているってわかったときはビックリしました」
「それはこっちの台詞。いきなり俺のほうに倒れてこられても迷惑しかなかったんだから」
「それはすみませんでした…でも、助けてくれてありがとうございます」
声が聞こえる場所を見つめ、微笑みながらナディアは答える。その方向から小さなため息が聞こえた。
「…別にこっちは助けたつもりなんてみじんもないからお礼言われても困る」
「そうだとしてもパトリスのおかげで私は転ばずに済みましたから」
「……あんたさ」
コツコツとパトリスがいるのであろう場所から足音が聞こえてきたかと思うとナディアの近くでぴたりと止んだ。
「前から気になってたんだけど、あんた俺に対して警戒心とかないわけ?」
「警戒心、ですか?どうして…」
「…本当にわかっていないようだから言ってあげるけど」
一歩、ナディアに近づく音がする。
「仮にも男と二人きりになるってことに危機感持ったほうがいいってこと。しかも、相手の姿が見えないとなると余計達悪いよ?だってさ…」
「っ…!?」
突然ナディアの下顎に何かが触れたかと思えばそのまま目線が少し上になる。向かされた方から小さく吐息が聞こえてきた。
「…ほら。ろくに抵抗もできないだろ?」
「……!」
「このままあんたのこと好きなように…それこそ嫌がるような酷いことだってできちゃうんだよ、俺は」
吐息が、近づく。多分彼の顔が目の前に迫っている。
パトリスの言っていることは確かに間違ってはいない。男性と、ましてや見えない相手と二人きりになるなんて警戒心を抱くべき状況化もしれない。だが、それでも。
「…パ、パトリスはそんなことしないと思います」
「……は?」
「パトリスが本当にそんな人なら、出会ったその日に…その、酷いことをしていたと思う、から」
多少言葉を詰まらせながらもまっすぐ見つめながらナディアははっきりと答えた。
「…………」
「…………」
お互い何も言わないまま沈黙の時間だけが流れていく。そんな空気に耐えられなくなったのか、ナディアは勢いよく椅子から立ち上がり。
「き、今日は帰りますね!また今度来ます!!」
「えっ…ちょ」
「それじゃあまた!!」
そのまま後ろを振り返らずにドアを開けて出て行った。
「はぁっ…び、びっくりした…!」
家に帰宅後、さっきの出来事を思い出していたナディアの顔が真っ赤になった。
「次パトリスに会うときどんな顔をすれば…どうしよう」
考えれば考えるほどさっきの光景が強く脳裏によぎる。心臓の鼓動も落ち着きを取り戻してくれない。
(こんなにもドキドキしているのは私だけでしょうか…)
そして自分はどうしてこんなにドキドキしているのだろうか。
悩んだナディアは、しばらくパトリスに会いに行けなくなるのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中途半端なところで終わってすみません…
一応続きます。
「はい!今日もお疲れ様でした!それではお先に失礼します!」
(今日は少し早い時間に終わったし、あの場所に行きましょう)
ナディアと呼ばれた少女がやってきたのはもう何年も使われていない一軒家だった。
「パトリス、今日もいますか?」
周りを気にしつつドアを開けながらナディアは声をかける。
「パトリス?パトリスー」
「…あんたまた来たの?」
2,3度呼びかけた後、少し奥のほうから少し低い声が聞こえてきた。だが、人の気配があったのは声のみで奥には誰の姿も見えていない。
「あ、パトリス!今日もお邪魔してます」
「そんな頻繁に、てか何度来られても迷惑なんだけど。いい加減ここに来るのやめてくれない?」
「んー、そうはいってもここは私の小さいころからのお気に入りの場所なので…」
「…はぁ。勝手にしたら」
「ふふ。ではお言葉に甘えさせていただきます」
ナディアにはパトリスと呼ばれた青年の姿は見えない。いや、誰も彼の姿を見ることはできない。パトリスは俗にいう透明人間という存在なのだ。
「ここに来る途中でクッキーを買ったのでよかったら一緒に食べませんか?」
「いらない。そこ座っていいから食べたらさっさと帰って」
「そうですか…。でも食べたくなったらいつでも言ってくださいね!」
「………はぁぁ」
ナディアがパトリスが出会ったのはちょうどひと月前だ。仕事で失敗をしてしまい、落ち込んだ自分を慰めたく一軒家に向かっていた。小さい頃は秘密基地感覚で訪れていたこの場所も今のナディアにとっては憩いの場であった。その日も少しだけ滞在してから家に帰るつもりだった。だが、その日の落ち込み様は酷く、動きたくない、何も考えたくないという気持ちでいっぱいになっていた。そんな状況で一歩動いたからか、何かにつまずいて派手に転びかけたところを助けたのがパトリスだった。
「何もない空間に支えられているってわかったときはビックリしました」
「それはこっちの台詞。いきなり俺のほうに倒れてこられても迷惑しかなかったんだから」
「それはすみませんでした…でも、助けてくれてありがとうございます」
声が聞こえる場所を見つめ、微笑みながらナディアは答える。その方向から小さなため息が聞こえた。
「…別にこっちは助けたつもりなんてみじんもないからお礼言われても困る」
「そうだとしてもパトリスのおかげで私は転ばずに済みましたから」
「……あんたさ」
コツコツとパトリスがいるのであろう場所から足音が聞こえてきたかと思うとナディアの近くでぴたりと止んだ。
「前から気になってたんだけど、あんた俺に対して警戒心とかないわけ?」
「警戒心、ですか?どうして…」
「…本当にわかっていないようだから言ってあげるけど」
一歩、ナディアに近づく音がする。
「仮にも男と二人きりになるってことに危機感持ったほうがいいってこと。しかも、相手の姿が見えないとなると余計達悪いよ?だってさ…」
「っ…!?」
突然ナディアの下顎に何かが触れたかと思えばそのまま目線が少し上になる。向かされた方から小さく吐息が聞こえてきた。
「…ほら。ろくに抵抗もできないだろ?」
「……!」
「このままあんたのこと好きなように…それこそ嫌がるような酷いことだってできちゃうんだよ、俺は」
吐息が、近づく。多分彼の顔が目の前に迫っている。
パトリスの言っていることは確かに間違ってはいない。男性と、ましてや見えない相手と二人きりになるなんて警戒心を抱くべき状況化もしれない。だが、それでも。
「…パ、パトリスはそんなことしないと思います」
「……は?」
「パトリスが本当にそんな人なら、出会ったその日に…その、酷いことをしていたと思う、から」
多少言葉を詰まらせながらもまっすぐ見つめながらナディアははっきりと答えた。
「…………」
「…………」
お互い何も言わないまま沈黙の時間だけが流れていく。そんな空気に耐えられなくなったのか、ナディアは勢いよく椅子から立ち上がり。
「き、今日は帰りますね!また今度来ます!!」
「えっ…ちょ」
「それじゃあまた!!」
そのまま後ろを振り返らずにドアを開けて出て行った。
「はぁっ…び、びっくりした…!」
家に帰宅後、さっきの出来事を思い出していたナディアの顔が真っ赤になった。
「次パトリスに会うときどんな顔をすれば…どうしよう」
考えれば考えるほどさっきの光景が強く脳裏によぎる。心臓の鼓動も落ち着きを取り戻してくれない。
(こんなにもドキドキしているのは私だけでしょうか…)
そして自分はどうしてこんなにドキドキしているのだろうか。
悩んだナディアは、しばらくパトリスに会いに行けなくなるのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中途半端なところで終わってすみません…
一応続きます。
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