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第一話 平常
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授業の終わりを知らせるチャイムが校内に鳴り響く。
毎度の号令の挨拶を終えると、生徒たちは短い休み時間をそれぞれ自由に過ごしている。
グループで楽しくお喋りをしたり、中では次の授業の準備をする生徒や仮眠を取る生徒もいた。
その中で、最後尾の席で一人スマホを夢中で操作している女子生徒がいた。
彼女の名前は、天野結羽。
十七歳。
高校二年生。
艶やかな黒髪のショートボブに、色白で整った顔立ち。
制服着てもわかるくらい華奢な身体をしている。
(いいところまで終わっちゃったんだよね……)
結羽は特定のグループに所属せず、一人でいることが多かった。
決して浮いているわけではなく、男女問わず会話をしたりする。
会話といっても、話し掛けられたら普通に受け答えするだけで、用がある時以外自分から話し掛けることはほとんどない。
要するに結羽は人に興味がなかったのだ。
結羽はどちらかというと、一人の時間を過ごしたいタイプだった。
でも、彼女にとって一人でいることは苦ではなく、気が楽だしいいか、と感じている。
(んー……このアイテムどこで使うんだろう……)
結羽は最近脱出ゲームアプリにハマっている。
謎解きも好きだが、結羽はその中で繰り広がる物語に興味を惹かれたのだ。
元々読書好きな結羽は、現実とかけ離れた世界に浸るのが好きで、今やっているゲームも同じ感覚で操作していた。
(あ! わかった!)
結羽は手に入れたアイテム同士を組み合わせ、頑丈に閉ざされた扉を開けることに成功した。
(よし!)
できればこの喜びを全身で表現したい結羽だが、人がいる教室でやるのは抵抗がある。
結羽は満足感を胸に秘めつつ、次のステージに進もうとする。
「よお、天野!」
突然、軽薄な声が聞こえ、結羽はゲームを操作していた指が止まる。
隣を見ると、一人の男子生徒が冷笑を浮かべ、結羽を見下ろしていた。
「…………」
平穏な高校生活を送っている中、結羽は一つだけ悩んでいることがあった。
結羽に絡んでいる男子生徒の名前は八代綾樹。
アッシュグレーのヘアスタイルに目鼻立ちが整った顔立ち。
結羽とは真反対の性格で、いつもクラスメイトと騒いでいる派手なグループの一員だ。
「なあに、見てんだ?」
「……別に何だっていいでしょ」
冷たく言い放った結羽は、綾樹を無視してスマホに視線を戻す。
再びゲームの操作を開始した時、結羽の手からスマホが消えた。
「見せろよ」
「あ!」
綾樹は結羽のスマホをひったくると、映し出された画面を見る。
「うわっ、何これ? ホラーゲーム?」
「返して!」
結羽は席から立ち上がり、スマホを取り返そうとする。
だが、綾樹はスマホを高く持ち上げて身を翻す。
「こんなの好きとか、お前オカルトマニアかよ」
「そこまでじゃない!」
結羽は背伸びしてスマホに手を伸ばすが、身長的に届くことができなかった。
その姿に、綾樹はニヤニヤと見下ろしていた。
この光景をクラスメイトたちは、「またやってるよ……」「天野さん、可哀想……」と遠巻きに見ている。
クラスメイトたちが言う通り、結羽は毎日のように綾樹から嫌がらせを受けていた。
しかし、結羽はこの状況が高校一年の時から続いている。
最初の頃は、後ろから突き飛ばされて反応を面白がられたり、テストの点でマウントを取ってきたりした。
結羽は反抗や言い返したりはしたが、それでもやめない綾樹との口論に疲弊し、諦めの感情を抱いた。
進級して同じクラスになってからも、綾樹は結羽に対する態度は変わっていなかった。
結羽は彼のことが大嫌いだった。
「早く取ってみろよ~」
「……っ」
結羽は悔しさで涙が出るのをぐっと堪え、スマホを取り返そうと手を伸ばす。
――絶対こいつに泣き顔なんか見せたくない。
見せたら相手の思うつぼになってしまうからだ。
「いい加減返してやれよ」
スマホの奪還を繰り返していると、不意に綾樹の手から結羽のスマホが消えた。
綾樹は驚いて振り返ると、そこには呆れる表情を浮かべる男子生徒がいた。
「……篠崎」
つまらなそうに男子生徒の名前を呟く綾樹。
篠崎冬真。
結羽と綾樹の同級生である人物だ。
くせっ毛のある黒髪に、凍てつくような鋭い目。
クールで怖そうな印象を与えるが、ルックスに反して男女問わず優しくクラスメイトから好かれている。
「天野さん、困ってんだろ」
「痛ってぇ……」
冬真は綾樹の後頭部に平手チョップをかましてから、結羽の方へ歩み寄る。
「はいよ」
「あ、ありがとう……」
そこで、休み時間の終了のチャイムが鳴り響いた。
クラスメイトたちは一斉にそれぞれ自分の席に戻って行く。
「チッ……」
綾樹は舌打ちして、自分の席に戻って行く。
「ホント……あいつ懲りないな」
「あ、篠崎くん……」
「ん?」
「その、ありがとう……いつも助けてくれて……」
「いえいえ」
そう言って、冬真は自分の席に戻って行く。
続いて結羽も自分の席につく。
「…………」
結羽は斜め前に座る冬真の横顔をそっと盗み見る。
(今日もかっこいいな……)
他人に興味はない結羽だが、年相応に異性に惹かれたりする。
冬真は結羽の数少ない話し相手でもあり、度々嫌がらせをする綾樹を止めに入ったりしている。
そのきっかけがあってか、結羽は自然と冬真に心を開き、気づけば彼に対し恋愛感情を抱いていた。
でも、結羽は自分に自信がなく、積極的なアプローチができなかった。
(告白したら……きっと迷惑になるよね。それに……)
恋愛や付き合うというのが、結羽にはよくわからなかった。
一般的に考えたら、手を繋いだりデートをしたりする。
そして、お互いを信頼し合い、それ以上のことも発展するだろう。
(やっぱり怖いな……)
その羞恥と恐怖もあるせいか、結羽はずっと片想いのまま秘めておこうと思うのだった。
◇ ◇ ◇
午前の授業が終わり、昼休みが始まる。
生徒たちは解放感で身体を伸ばした後、それぞれ昼食の支度をする。
グループで机をくっつけてお弁当を食べ、または食堂で昼食を取る生徒もいる。
その中で結羽はお弁当が入った小さな手提げ袋を片手に教室を後にした。
◇ ◇ ◇
階段を上り、辿り着いた場所は屋上だ。
本来屋上は立ち入り禁止のはずだが、当たり前のように開いていた。
結羽が入学して間もない頃、好奇心で訪れた屋上が施錠されていないことを知り、いつもこの場所で昼食を取っている。
扉を開けると、春の温かい風が結羽の頬を撫でる。
上を見上げれば、澄んだ青空が広がっており、下がコンクリートのせいか太陽の照り返しが強い。
「日差し強いな……」
そう呟きながら、結羽は慣れた足取りで扉の向こうを回ると、丁度日陰になっている角のスペースがある。
結羽は隅に座ると、膝の上で母親お手製のお弁当の蓋を開ける。
「あ、唐揚げ入ってる。ラッキー!」
結羽は上機嫌で唐揚げを箸で摘み、口を大きく開けてかぶりつく。
衣のサクッとした食感と柔らかい肉の味が口いっぱいに広がり、結羽の頬が自然と綻ぶ。
「さてと……」
結羽は一旦食事をする手を止め、制服のポケットからスマホとワイヤレスイヤホンを取り出す。
スマホの画面に音楽アプリを開き、ワイヤレスイヤホンを耳に取り付ける。
そして、最近お気に入りの音楽を再生し、それを聴きながら食事を再開する。
ゲーム以外にも、結羽が一人の時間を楽しむ一つであった。
(今度テスト明けにカラオケ行こうかな……この曲歌ってみたいし)
結羽は普段無口だが、たまに大声を出したい時がある。
特にテスト期間でピリピリした時や漠然とした進路のことなど。
テスト期間が明けると、結羽は自分へのご褒美兼ストレス発散でよくカラオケに訪れている。
「~♪」
結羽はテスト明けに行う娯楽を想像し、サビが流れたところでノリノリに鼻歌を歌う。
屋上には誰もいなく、自分の鼻歌など聞いていない。
――そう思っていた。
「お、天野じゃん」
「……⁉︎」
次の曲を再生しようとした時、聞き覚えのある声が聞こえ、結羽は驚いて顔を上げる。
そこには、ニヤニヤと笑みを浮かべる綾樹がいた。
「誰もいないと思ったら鼻歌聞こえたからさ、不審者かと思ったぜ」
「……!」
鼻歌を聞かれた。
それを知って、結羽の頬に熱を帯びる。
「いつもここで食ってんの? あ、お前ぼっちだもんな!」
嘲笑する綾樹を見て、結羽は今までのテンションが一気に下がってしまった。
「……何でいるのよ」
結羽は耳からワイヤレスイヤホンを取り外し、ケースにしまう。
「一人で昼飯食いたい気分だったから何となく屋上に来たんだよ」
あーあ……と綾樹はわざとらしく溜め息を吐く。
「貸切だと思ってたのに、天野がいるとかマジ最悪だわ」
「……あっそ」
綾樹の言葉にカチンときた結羽。
結羽は膝の上に乗せていたお弁当に蓋をし、素早く手提げ袋に入れて立ち上がった。
「ん? どこに行くんだ?」
「どこだっていいでしょ。これで一人の昼食取れるじゃない」
結羽はキッと綾樹を睨みつける。
「ていうか……一人の時間を楽しんでいたところにアンタが来るとか、こっちの方が最悪なんだけど」
「……は?」
結羽の放った言葉に、綾樹の声が低くなる。
その声に周りが凍てつくような雰囲気に変わる。
(あ……これ、ヤバいかも……)
感情的になって言い返してしまい、まさかこんな反応が返ってくるとは思ってもみなかった結羽。
綾樹の目を見れば、明らかに怒気を帯びていた。
今にも掴み掛かってきそうな気がし、結羽は一目散に踵を返して屋上を後にした。
「おい、待てよッ!」
背後から追い掛けて来る足音がする。
結羽は階段を駆け下り、綾樹の視界が届かないように逃げるのだった。
毎度の号令の挨拶を終えると、生徒たちは短い休み時間をそれぞれ自由に過ごしている。
グループで楽しくお喋りをしたり、中では次の授業の準備をする生徒や仮眠を取る生徒もいた。
その中で、最後尾の席で一人スマホを夢中で操作している女子生徒がいた。
彼女の名前は、天野結羽。
十七歳。
高校二年生。
艶やかな黒髪のショートボブに、色白で整った顔立ち。
制服着てもわかるくらい華奢な身体をしている。
(いいところまで終わっちゃったんだよね……)
結羽は特定のグループに所属せず、一人でいることが多かった。
決して浮いているわけではなく、男女問わず会話をしたりする。
会話といっても、話し掛けられたら普通に受け答えするだけで、用がある時以外自分から話し掛けることはほとんどない。
要するに結羽は人に興味がなかったのだ。
結羽はどちらかというと、一人の時間を過ごしたいタイプだった。
でも、彼女にとって一人でいることは苦ではなく、気が楽だしいいか、と感じている。
(んー……このアイテムどこで使うんだろう……)
結羽は最近脱出ゲームアプリにハマっている。
謎解きも好きだが、結羽はその中で繰り広がる物語に興味を惹かれたのだ。
元々読書好きな結羽は、現実とかけ離れた世界に浸るのが好きで、今やっているゲームも同じ感覚で操作していた。
(あ! わかった!)
結羽は手に入れたアイテム同士を組み合わせ、頑丈に閉ざされた扉を開けることに成功した。
(よし!)
できればこの喜びを全身で表現したい結羽だが、人がいる教室でやるのは抵抗がある。
結羽は満足感を胸に秘めつつ、次のステージに進もうとする。
「よお、天野!」
突然、軽薄な声が聞こえ、結羽はゲームを操作していた指が止まる。
隣を見ると、一人の男子生徒が冷笑を浮かべ、結羽を見下ろしていた。
「…………」
平穏な高校生活を送っている中、結羽は一つだけ悩んでいることがあった。
結羽に絡んでいる男子生徒の名前は八代綾樹。
アッシュグレーのヘアスタイルに目鼻立ちが整った顔立ち。
結羽とは真反対の性格で、いつもクラスメイトと騒いでいる派手なグループの一員だ。
「なあに、見てんだ?」
「……別に何だっていいでしょ」
冷たく言い放った結羽は、綾樹を無視してスマホに視線を戻す。
再びゲームの操作を開始した時、結羽の手からスマホが消えた。
「見せろよ」
「あ!」
綾樹は結羽のスマホをひったくると、映し出された画面を見る。
「うわっ、何これ? ホラーゲーム?」
「返して!」
結羽は席から立ち上がり、スマホを取り返そうとする。
だが、綾樹はスマホを高く持ち上げて身を翻す。
「こんなの好きとか、お前オカルトマニアかよ」
「そこまでじゃない!」
結羽は背伸びしてスマホに手を伸ばすが、身長的に届くことができなかった。
その姿に、綾樹はニヤニヤと見下ろしていた。
この光景をクラスメイトたちは、「またやってるよ……」「天野さん、可哀想……」と遠巻きに見ている。
クラスメイトたちが言う通り、結羽は毎日のように綾樹から嫌がらせを受けていた。
しかし、結羽はこの状況が高校一年の時から続いている。
最初の頃は、後ろから突き飛ばされて反応を面白がられたり、テストの点でマウントを取ってきたりした。
結羽は反抗や言い返したりはしたが、それでもやめない綾樹との口論に疲弊し、諦めの感情を抱いた。
進級して同じクラスになってからも、綾樹は結羽に対する態度は変わっていなかった。
結羽は彼のことが大嫌いだった。
「早く取ってみろよ~」
「……っ」
結羽は悔しさで涙が出るのをぐっと堪え、スマホを取り返そうと手を伸ばす。
――絶対こいつに泣き顔なんか見せたくない。
見せたら相手の思うつぼになってしまうからだ。
「いい加減返してやれよ」
スマホの奪還を繰り返していると、不意に綾樹の手から結羽のスマホが消えた。
綾樹は驚いて振り返ると、そこには呆れる表情を浮かべる男子生徒がいた。
「……篠崎」
つまらなそうに男子生徒の名前を呟く綾樹。
篠崎冬真。
結羽と綾樹の同級生である人物だ。
くせっ毛のある黒髪に、凍てつくような鋭い目。
クールで怖そうな印象を与えるが、ルックスに反して男女問わず優しくクラスメイトから好かれている。
「天野さん、困ってんだろ」
「痛ってぇ……」
冬真は綾樹の後頭部に平手チョップをかましてから、結羽の方へ歩み寄る。
「はいよ」
「あ、ありがとう……」
そこで、休み時間の終了のチャイムが鳴り響いた。
クラスメイトたちは一斉にそれぞれ自分の席に戻って行く。
「チッ……」
綾樹は舌打ちして、自分の席に戻って行く。
「ホント……あいつ懲りないな」
「あ、篠崎くん……」
「ん?」
「その、ありがとう……いつも助けてくれて……」
「いえいえ」
そう言って、冬真は自分の席に戻って行く。
続いて結羽も自分の席につく。
「…………」
結羽は斜め前に座る冬真の横顔をそっと盗み見る。
(今日もかっこいいな……)
他人に興味はない結羽だが、年相応に異性に惹かれたりする。
冬真は結羽の数少ない話し相手でもあり、度々嫌がらせをする綾樹を止めに入ったりしている。
そのきっかけがあってか、結羽は自然と冬真に心を開き、気づけば彼に対し恋愛感情を抱いていた。
でも、結羽は自分に自信がなく、積極的なアプローチができなかった。
(告白したら……きっと迷惑になるよね。それに……)
恋愛や付き合うというのが、結羽にはよくわからなかった。
一般的に考えたら、手を繋いだりデートをしたりする。
そして、お互いを信頼し合い、それ以上のことも発展するだろう。
(やっぱり怖いな……)
その羞恥と恐怖もあるせいか、結羽はずっと片想いのまま秘めておこうと思うのだった。
◇ ◇ ◇
午前の授業が終わり、昼休みが始まる。
生徒たちは解放感で身体を伸ばした後、それぞれ昼食の支度をする。
グループで机をくっつけてお弁当を食べ、または食堂で昼食を取る生徒もいる。
その中で結羽はお弁当が入った小さな手提げ袋を片手に教室を後にした。
◇ ◇ ◇
階段を上り、辿り着いた場所は屋上だ。
本来屋上は立ち入り禁止のはずだが、当たり前のように開いていた。
結羽が入学して間もない頃、好奇心で訪れた屋上が施錠されていないことを知り、いつもこの場所で昼食を取っている。
扉を開けると、春の温かい風が結羽の頬を撫でる。
上を見上げれば、澄んだ青空が広がっており、下がコンクリートのせいか太陽の照り返しが強い。
「日差し強いな……」
そう呟きながら、結羽は慣れた足取りで扉の向こうを回ると、丁度日陰になっている角のスペースがある。
結羽は隅に座ると、膝の上で母親お手製のお弁当の蓋を開ける。
「あ、唐揚げ入ってる。ラッキー!」
結羽は上機嫌で唐揚げを箸で摘み、口を大きく開けてかぶりつく。
衣のサクッとした食感と柔らかい肉の味が口いっぱいに広がり、結羽の頬が自然と綻ぶ。
「さてと……」
結羽は一旦食事をする手を止め、制服のポケットからスマホとワイヤレスイヤホンを取り出す。
スマホの画面に音楽アプリを開き、ワイヤレスイヤホンを耳に取り付ける。
そして、最近お気に入りの音楽を再生し、それを聴きながら食事を再開する。
ゲーム以外にも、結羽が一人の時間を楽しむ一つであった。
(今度テスト明けにカラオケ行こうかな……この曲歌ってみたいし)
結羽は普段無口だが、たまに大声を出したい時がある。
特にテスト期間でピリピリした時や漠然とした進路のことなど。
テスト期間が明けると、結羽は自分へのご褒美兼ストレス発散でよくカラオケに訪れている。
「~♪」
結羽はテスト明けに行う娯楽を想像し、サビが流れたところでノリノリに鼻歌を歌う。
屋上には誰もいなく、自分の鼻歌など聞いていない。
――そう思っていた。
「お、天野じゃん」
「……⁉︎」
次の曲を再生しようとした時、聞き覚えのある声が聞こえ、結羽は驚いて顔を上げる。
そこには、ニヤニヤと笑みを浮かべる綾樹がいた。
「誰もいないと思ったら鼻歌聞こえたからさ、不審者かと思ったぜ」
「……!」
鼻歌を聞かれた。
それを知って、結羽の頬に熱を帯びる。
「いつもここで食ってんの? あ、お前ぼっちだもんな!」
嘲笑する綾樹を見て、結羽は今までのテンションが一気に下がってしまった。
「……何でいるのよ」
結羽は耳からワイヤレスイヤホンを取り外し、ケースにしまう。
「一人で昼飯食いたい気分だったから何となく屋上に来たんだよ」
あーあ……と綾樹はわざとらしく溜め息を吐く。
「貸切だと思ってたのに、天野がいるとかマジ最悪だわ」
「……あっそ」
綾樹の言葉にカチンときた結羽。
結羽は膝の上に乗せていたお弁当に蓋をし、素早く手提げ袋に入れて立ち上がった。
「ん? どこに行くんだ?」
「どこだっていいでしょ。これで一人の昼食取れるじゃない」
結羽はキッと綾樹を睨みつける。
「ていうか……一人の時間を楽しんでいたところにアンタが来るとか、こっちの方が最悪なんだけど」
「……は?」
結羽の放った言葉に、綾樹の声が低くなる。
その声に周りが凍てつくような雰囲気に変わる。
(あ……これ、ヤバいかも……)
感情的になって言い返してしまい、まさかこんな反応が返ってくるとは思ってもみなかった結羽。
綾樹の目を見れば、明らかに怒気を帯びていた。
今にも掴み掛かってきそうな気がし、結羽は一目散に踵を返して屋上を後にした。
「おい、待てよッ!」
背後から追い掛けて来る足音がする。
結羽は階段を駆け下り、綾樹の視界が届かないように逃げるのだった。
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