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第五章 妖怪攫い事件
第二十五話 迷子
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「あ、あれ……?」
道を進むにつれて、賑っていた人々の飛び交う声が聞こえなくなった。
沙希は一度足を止め、周囲を見渡す。
「ここ、どこ……?」
いつの間にか並んでいた店や人通りもない場所に来てしまった。
賑やかだった場所が今では無音の場所に足がついていた。
その場所で沙希の心臓の音だけが聞こえる。
「……と、取り敢えず落ち着こう」
誰もいない心細さに涙が出るのをグッと堪え、沙希は大きく深呼吸をする。
そして、整理した頭の中であることを思い出した。
「そうだ……。南雲さん、茶屋で凛さんと待ち合わせしているって言ってた」
唯一の手掛かりを思い出し、茶屋を探そうと、顔を左右に向ける。
けど、茶屋と書かれた看板の店はどこにもなかった。
「人に聞いてみるしかないか……」
人と言っても、この世界は妖怪しか存在しない。
陽向は人間に害を出す妖怪はいないとは言っていたが、そうとは限らない。
人間の沙希には、リスクを冒す可能性がある。
「…………」
茶屋の場所がわからない以上、誰かに聞くしか他ない。
沙希は茶屋の場所を知るため人を探すのであった。
✿ ✿ ✿
歩いて行くと、左右に小さな古民家が並んだ狭い路地に辿り着いた。
「誰もいないのかな……」
荒廃している民家に人の気配はなく、物音すら聞こえない。
昼間なのに、民家の屋根で影を作って薄暗かった。
見渡す限り人が住む環境ではないことを沙希は理解した。
生温い風が沙希の肌を撫でる。
(何かヤバいところに来ちゃったかも……)
沙希は一か八か一つ民家に足を止め、正面に向かって大きく息を吸い込んだ。
「すみませ――ん! 誰かいませんか――!?」
叫んだ声は民家に反響するが、返事がくる様子はない。
しばらくして誰かが出て来ることがないとわかると、沙希は項垂れる。
「よぉ、そこの姉ちゃん」
次に行こうと一歩前進すると、背後から声を掛けられた。
「……!」
沙希は驚いて振り返ると、見るからにガラの悪そうな二十代くらいの青年が三人立っていた。
見た目からして狒々という妖怪だ。
「こんな危ない場所で一人ぃ?」
目的の人がいたものの、不敵な笑みを浮かべるリーダー格そうな男に、沙希はこの三人に関わってはいけないと身の危険を感じた。
「どっから来たの、君?」
「一人なら俺らと遊ぼうぜ!」
取り巻きの二人はケタケタ笑いながら沙希を取り囲んでいた。
「え、遠慮します!」
沙希は引き攣った顔で人当たりの笑みを浮かべると、くるりと男性三人に背を向けて走り出した。
「あ、逃げちゃった。鬼ごっこっスかね?」
「じゃあ、捕まえようぜ!」
三人の狒々は楽しげに笑い、沙希が通った場所を走り出した。
✿ ✿ ✿
「逃げ足速ぇ~、どこにもいないな。なぁ、いっくん、あの女人間だったよな。しかも陰陽師!」
「異界に行き来できる人間は陰陽師くらいだからな。今日の俺らはついてるな」
「人間を脅かして追い掛けるのすげぇ久々っス! オレ、逃げる獲物を追い掛けるの大好き!」
「まだ近くにいるかもな」
狒々たちがそんな話をしながら通り過ぎると、すぐ傍で廃墟の陰に身を隠していた沙希が顔を出した。
(危なかったぁ……何か私……危険区域に入っちゃった……?)
『陰陽師を狙う妖怪もいるから注意しろよ』と異界に行く前、念を押すように言われた風夜の言葉が過る。
まさかこんな場所で身を持って知ることになるとは思いもしなかった。
(とにかく……タイミングを見計らって、早くここを抜け……――)
「はい、捕まえたー」
その時、沙希の背後から誰かの腕が伸び、肩に回った。
「⁉︎」
沙希の体は強く引っ張られ、身動きが取れなくなった。
首だけ動かすと、さっきまで自分の目の前を取り過ぎたはずの狒々の三人がいた。
「俺らから逃げられるとでも思ったのかなぁ」
「お嬢ちゃん、鬼ごっこで背後は気をつけないと」
ケタケタと笑う狒々の三人に、沙希は顔を青ざめる。
(に、逃げないと!)
沙希は取り巻きの男の腕を振り解こうとするが、恰幅の良い男の力に敵うはずなかった。
(ど、どうしよう……これ完全にヤバイよ……)
助けを呼ぼうにも、近くに人がいる気配はない。
沙希は恐怖で身が畏縮してしまい、声が思うように出なかった。
「ん? いっくん。この娘大人しくなったぜ」
「怖くて声が出ないんじゃないっスか」
「そんなに怯えなくてもいいのに」
リーダー格な男は、まじまじと俯いている沙希の顔を覗き込む。
「お、近くで見たら可愛い顔じゃん。ラッキー!」
男の血走った目に、沙希の背筋に悪寒が走る。
これから男が何をするのかわからない恐怖に体が震え、沙希の目に涙が浮かぶ。
(……っ!)
男の手が沙希の細い肩に触れた時だった――。
「うわぁ!」
突如、沙希の周りに突風が巻き起こった。
その拍子に沙希から男の手が離れる。
風が止むと今度はバサバサッ! と羽ばたく音が沙希の耳に響いた。
「ん……?」
風圧で目を閉じていた沙希は、ゆっくりと瞼を上げる。
視界に映ったのは艶やかな大きな黒い翼だった。
一瞬鳥かと思ったが、鳥にしては妙に大きい黒い翼が沙希を護るように広げていた。
「ハァ……またあなたたちですか……」
今度は別の声が耳に入った。
沙希は目を凝らして見ると、黒い翼と同じように、艶やかな長い黒髪を後ろで束ね、伝説の通り山伏装束に身を纏った烏天狗の女性が立っていた。
年は沙希より五つ上くらいだ。
「ヤ、ヤベェ……警部部隊だ」
先ほどとは打って変わって、男三人の目の色は怯えていた。
「この間も下界で嫌がる女性を無理に異界へ連れて行こうとしていましたよね」
彼女は鋭い眼光でリーダー格な男を見据える。
「あの時、もう二度としないと言いましたのに……懲りてなかったんですか」
「ち、違います! この娘が困っていたので声を掛けただけです!」
リーダー格な男の発言に、彼女は沙希を一瞥すると口を開く。
「どう見ても嫌がっているようにしか見えませんけどね……」
最後のドスの利いた低い声に、一人の取り巻きの男が震える手でリーダー格な男の肩に触れる。
「い、いっくん……ひとまず逃げましょうよ」
「そうっスよ……このまま処罰とか御免っス……」
「そ、そうだな……し、失礼しました!」
取り巻きの二人に同意すると、男三人は情けない声を上げて逃げ出した。
男三人の背中が小さくなり、やがて見えなくなる。
「危ないところでしたね。お怪我はありませんか?」
彼女は丁寧口調で沙希に安否を確認する。
「あ、はい。大丈夫です……」
突然現れた救世主に沙希の胸は安堵で広がる。
「よかった。こういう場所は、ああいう輩がたまにいるので気をつけてください」
「は、はい……」
風に靡く艶やかな黒髪が神秘的に見える。
スラリとした長い手足に、目鼻立ちがすっきりした綺麗で整った顔立ち。
女の子の沙希でも見惚れてしまうほどの美女だった。
「あの……失礼ですが、もしかして、沙希さん……ですか?」
瞬く彼女の問いに、沙希は目を見開く。
「そうですけど……何で私の名前……あ、あの! もしかして、凛さんですか?」
「はい。やっぱり、沙希さんでしたか。祐介からあなたのことを伺っています。でも、何故沙希さんがこんなところに?」
「実は……」
✿ ✿ ✿
沙希は事の顚末を凛に話しながら、竹林道を歩いていた。
話していくうちに、すっかり打ち解けて仲良くなった。
「そうでしたか」
「風夜に注意されたばかりなのに……後で南雲さんたちに謝らないとな……」
「きっと風夜も心配していますね」
「どうかな……風夜が心配するっていうのはあまり想像できません」
「あれ? 凛ちゃん」
反対の道から凛を呼ぶ声がする。
振り返ると、山吹色のセミロングで忍び装束に身を纏った、沙希と同い年くらいの猫又の女の子がいた。
「和葉さん」
凛は彼女の名を発した。
名前を知っているということは、凛の知り合いなのだろう。
「凛ちゃん、その子は?」
「あ、彼女は祐介の後輩の沙希さんです。これから、和葉さんの茶屋に向かうところなんです」
「そうなんだ。じゃあ、この子も陰陽師なのね」
言葉からして、和葉という名の少女は祐介と面識があるようだ。
「初めまして、私は西山沙希」
沙希が会釈すると、和葉も笑みを浮かべて自己紹介をする。
「あたしは猫又の和葉。この近くの茶屋で働いているの。よろしくね」
「こちらこそよろしく」
「そうだ! うちでお勧めの和菓子食べてってよ。サービスしとくよ」
「いいの!? 嬉しいな」
和葉の雰囲気は気さくで明るそうに見えるが、表情はどこか曇っているように見えた。
「……和葉さん、もしかして下界に行かれたのですか?」
和葉の表情を見て、凛は疑問を投げ掛ける。
「うん……」
「心配なのはわかりますが……この件に関しては、こちらで任せてください」
「ありがとう……でも、こんな状況だと気が気じゃないの」
「……?」
凛と和葉の会話の内容が掴めなく、沙希は首を傾げた時だった。
「あ! お嬢いた!」
前方から陽向がこちらに向かって走って来るのが見えた。
彼の背後の先には、後に続く風夜と祐介の姿もあった。
「皆!」
「お嬢、よかったぁ~! 急にいなくなるんだもん」
「西山さん!」
追いついた祐介は、沙希の前で足を止める。
「南雲さん、心配掛けてすみません……」
「いや、無事でよかった」
「……ったく、言ったそばから迷子になるとか……」
祐介と陽向とは反対に、風夜は呆れ口を叩いた。
「ごめん……」
全くその通りだと言い返す言葉がなく、沙希は謝罪する。
「そう言えば、何でお嬢はリッちゃんとカズハちゃんと一緒にいるの?」
陽向は疑問な面持ちで問い掛ける。
陽向が和葉のことを知っているということは、知り合いだと判明した。
「あ……さっき、私が妖怪に絡まれたところを凛さんが助けてくれたの」
経緯を説明すると、陽向は吃驚した顔をする。
「え! 絡まれた!? ごめん……おれが異界に連れて行こうって言ったばっかりに……」
「そんな! 私がはぐれちゃったから、陽向君は何も悪くないよ!」
申し訳なさそうに眉を下げる陽向に、沙希はあわあわと首を横に振る。
「ホント……凛丸がいなかったらどうなってたんだか……」
風夜は呆れ顔で溜め息を吐く。
「そうだよね……ん? あれ?」
沙希は風夜の発言を思い返す。
「風夜。今、凛さんのこと何て呼んだの?」
「『凛丸』って、呼んだけど」
「り、凛丸? 『凛』じゃなくて?」
「ああ。あの二人はああ呼んでいるみたいだけど、本名は『凛丸』だ」
「……?」
美人な顔に不釣り合いな名前を疑問に思っていると、沙希の表情を察した風夜が口を開く。
「あいつ、男だぞ」
――間。
「え? えぇー!! お、男!?」
風夜の発した言葉を理解した途端、沙希は思わず凛の顔を凝視してしまう。
(そ、そう言えば、女性にしては、ハスキーボイスだよね……)
吃驚する沙希に、風夜は小声でそっと耳打ちする。
「な、驚いただろ?」
風夜がびっくりするって言ったのは、このことなのだと沙希は納得する。
現に沙希は驚いているのだから。
「う、うん……」
沙希と風夜のやり取りを見て、凛丸の眉が八の字になる。
「やっぱり女性だと思われましたか……」
「す、すみません! あまりにも綺麗すぎるというか、中性的で……!」
「ふふっ、気にしないでください。この外見だし、よく間違われるんです」
慌てて謝罪する沙希に、お茶目な笑みを浮かべる凛丸。
(おう……なんて眩しい笑顔)
男性だとわかっていても、彼が浮かべている笑顔が天使に見えてしまう。
道を進むにつれて、賑っていた人々の飛び交う声が聞こえなくなった。
沙希は一度足を止め、周囲を見渡す。
「ここ、どこ……?」
いつの間にか並んでいた店や人通りもない場所に来てしまった。
賑やかだった場所が今では無音の場所に足がついていた。
その場所で沙希の心臓の音だけが聞こえる。
「……と、取り敢えず落ち着こう」
誰もいない心細さに涙が出るのをグッと堪え、沙希は大きく深呼吸をする。
そして、整理した頭の中であることを思い出した。
「そうだ……。南雲さん、茶屋で凛さんと待ち合わせしているって言ってた」
唯一の手掛かりを思い出し、茶屋を探そうと、顔を左右に向ける。
けど、茶屋と書かれた看板の店はどこにもなかった。
「人に聞いてみるしかないか……」
人と言っても、この世界は妖怪しか存在しない。
陽向は人間に害を出す妖怪はいないとは言っていたが、そうとは限らない。
人間の沙希には、リスクを冒す可能性がある。
「…………」
茶屋の場所がわからない以上、誰かに聞くしか他ない。
沙希は茶屋の場所を知るため人を探すのであった。
✿ ✿ ✿
歩いて行くと、左右に小さな古民家が並んだ狭い路地に辿り着いた。
「誰もいないのかな……」
荒廃している民家に人の気配はなく、物音すら聞こえない。
昼間なのに、民家の屋根で影を作って薄暗かった。
見渡す限り人が住む環境ではないことを沙希は理解した。
生温い風が沙希の肌を撫でる。
(何かヤバいところに来ちゃったかも……)
沙希は一か八か一つ民家に足を止め、正面に向かって大きく息を吸い込んだ。
「すみませ――ん! 誰かいませんか――!?」
叫んだ声は民家に反響するが、返事がくる様子はない。
しばらくして誰かが出て来ることがないとわかると、沙希は項垂れる。
「よぉ、そこの姉ちゃん」
次に行こうと一歩前進すると、背後から声を掛けられた。
「……!」
沙希は驚いて振り返ると、見るからにガラの悪そうな二十代くらいの青年が三人立っていた。
見た目からして狒々という妖怪だ。
「こんな危ない場所で一人ぃ?」
目的の人がいたものの、不敵な笑みを浮かべるリーダー格そうな男に、沙希はこの三人に関わってはいけないと身の危険を感じた。
「どっから来たの、君?」
「一人なら俺らと遊ぼうぜ!」
取り巻きの二人はケタケタ笑いながら沙希を取り囲んでいた。
「え、遠慮します!」
沙希は引き攣った顔で人当たりの笑みを浮かべると、くるりと男性三人に背を向けて走り出した。
「あ、逃げちゃった。鬼ごっこっスかね?」
「じゃあ、捕まえようぜ!」
三人の狒々は楽しげに笑い、沙希が通った場所を走り出した。
✿ ✿ ✿
「逃げ足速ぇ~、どこにもいないな。なぁ、いっくん、あの女人間だったよな。しかも陰陽師!」
「異界に行き来できる人間は陰陽師くらいだからな。今日の俺らはついてるな」
「人間を脅かして追い掛けるのすげぇ久々っス! オレ、逃げる獲物を追い掛けるの大好き!」
「まだ近くにいるかもな」
狒々たちがそんな話をしながら通り過ぎると、すぐ傍で廃墟の陰に身を隠していた沙希が顔を出した。
(危なかったぁ……何か私……危険区域に入っちゃった……?)
『陰陽師を狙う妖怪もいるから注意しろよ』と異界に行く前、念を押すように言われた風夜の言葉が過る。
まさかこんな場所で身を持って知ることになるとは思いもしなかった。
(とにかく……タイミングを見計らって、早くここを抜け……――)
「はい、捕まえたー」
その時、沙希の背後から誰かの腕が伸び、肩に回った。
「⁉︎」
沙希の体は強く引っ張られ、身動きが取れなくなった。
首だけ動かすと、さっきまで自分の目の前を取り過ぎたはずの狒々の三人がいた。
「俺らから逃げられるとでも思ったのかなぁ」
「お嬢ちゃん、鬼ごっこで背後は気をつけないと」
ケタケタと笑う狒々の三人に、沙希は顔を青ざめる。
(に、逃げないと!)
沙希は取り巻きの男の腕を振り解こうとするが、恰幅の良い男の力に敵うはずなかった。
(ど、どうしよう……これ完全にヤバイよ……)
助けを呼ぼうにも、近くに人がいる気配はない。
沙希は恐怖で身が畏縮してしまい、声が思うように出なかった。
「ん? いっくん。この娘大人しくなったぜ」
「怖くて声が出ないんじゃないっスか」
「そんなに怯えなくてもいいのに」
リーダー格な男は、まじまじと俯いている沙希の顔を覗き込む。
「お、近くで見たら可愛い顔じゃん。ラッキー!」
男の血走った目に、沙希の背筋に悪寒が走る。
これから男が何をするのかわからない恐怖に体が震え、沙希の目に涙が浮かぶ。
(……っ!)
男の手が沙希の細い肩に触れた時だった――。
「うわぁ!」
突如、沙希の周りに突風が巻き起こった。
その拍子に沙希から男の手が離れる。
風が止むと今度はバサバサッ! と羽ばたく音が沙希の耳に響いた。
「ん……?」
風圧で目を閉じていた沙希は、ゆっくりと瞼を上げる。
視界に映ったのは艶やかな大きな黒い翼だった。
一瞬鳥かと思ったが、鳥にしては妙に大きい黒い翼が沙希を護るように広げていた。
「ハァ……またあなたたちですか……」
今度は別の声が耳に入った。
沙希は目を凝らして見ると、黒い翼と同じように、艶やかな長い黒髪を後ろで束ね、伝説の通り山伏装束に身を纏った烏天狗の女性が立っていた。
年は沙希より五つ上くらいだ。
「ヤ、ヤベェ……警部部隊だ」
先ほどとは打って変わって、男三人の目の色は怯えていた。
「この間も下界で嫌がる女性を無理に異界へ連れて行こうとしていましたよね」
彼女は鋭い眼光でリーダー格な男を見据える。
「あの時、もう二度としないと言いましたのに……懲りてなかったんですか」
「ち、違います! この娘が困っていたので声を掛けただけです!」
リーダー格な男の発言に、彼女は沙希を一瞥すると口を開く。
「どう見ても嫌がっているようにしか見えませんけどね……」
最後のドスの利いた低い声に、一人の取り巻きの男が震える手でリーダー格な男の肩に触れる。
「い、いっくん……ひとまず逃げましょうよ」
「そうっスよ……このまま処罰とか御免っス……」
「そ、そうだな……し、失礼しました!」
取り巻きの二人に同意すると、男三人は情けない声を上げて逃げ出した。
男三人の背中が小さくなり、やがて見えなくなる。
「危ないところでしたね。お怪我はありませんか?」
彼女は丁寧口調で沙希に安否を確認する。
「あ、はい。大丈夫です……」
突然現れた救世主に沙希の胸は安堵で広がる。
「よかった。こういう場所は、ああいう輩がたまにいるので気をつけてください」
「は、はい……」
風に靡く艶やかな黒髪が神秘的に見える。
スラリとした長い手足に、目鼻立ちがすっきりした綺麗で整った顔立ち。
女の子の沙希でも見惚れてしまうほどの美女だった。
「あの……失礼ですが、もしかして、沙希さん……ですか?」
瞬く彼女の問いに、沙希は目を見開く。
「そうですけど……何で私の名前……あ、あの! もしかして、凛さんですか?」
「はい。やっぱり、沙希さんでしたか。祐介からあなたのことを伺っています。でも、何故沙希さんがこんなところに?」
「実は……」
✿ ✿ ✿
沙希は事の顚末を凛に話しながら、竹林道を歩いていた。
話していくうちに、すっかり打ち解けて仲良くなった。
「そうでしたか」
「風夜に注意されたばかりなのに……後で南雲さんたちに謝らないとな……」
「きっと風夜も心配していますね」
「どうかな……風夜が心配するっていうのはあまり想像できません」
「あれ? 凛ちゃん」
反対の道から凛を呼ぶ声がする。
振り返ると、山吹色のセミロングで忍び装束に身を纏った、沙希と同い年くらいの猫又の女の子がいた。
「和葉さん」
凛は彼女の名を発した。
名前を知っているということは、凛の知り合いなのだろう。
「凛ちゃん、その子は?」
「あ、彼女は祐介の後輩の沙希さんです。これから、和葉さんの茶屋に向かうところなんです」
「そうなんだ。じゃあ、この子も陰陽師なのね」
言葉からして、和葉という名の少女は祐介と面識があるようだ。
「初めまして、私は西山沙希」
沙希が会釈すると、和葉も笑みを浮かべて自己紹介をする。
「あたしは猫又の和葉。この近くの茶屋で働いているの。よろしくね」
「こちらこそよろしく」
「そうだ! うちでお勧めの和菓子食べてってよ。サービスしとくよ」
「いいの!? 嬉しいな」
和葉の雰囲気は気さくで明るそうに見えるが、表情はどこか曇っているように見えた。
「……和葉さん、もしかして下界に行かれたのですか?」
和葉の表情を見て、凛は疑問を投げ掛ける。
「うん……」
「心配なのはわかりますが……この件に関しては、こちらで任せてください」
「ありがとう……でも、こんな状況だと気が気じゃないの」
「……?」
凛と和葉の会話の内容が掴めなく、沙希は首を傾げた時だった。
「あ! お嬢いた!」
前方から陽向がこちらに向かって走って来るのが見えた。
彼の背後の先には、後に続く風夜と祐介の姿もあった。
「皆!」
「お嬢、よかったぁ~! 急にいなくなるんだもん」
「西山さん!」
追いついた祐介は、沙希の前で足を止める。
「南雲さん、心配掛けてすみません……」
「いや、無事でよかった」
「……ったく、言ったそばから迷子になるとか……」
祐介と陽向とは反対に、風夜は呆れ口を叩いた。
「ごめん……」
全くその通りだと言い返す言葉がなく、沙希は謝罪する。
「そう言えば、何でお嬢はリッちゃんとカズハちゃんと一緒にいるの?」
陽向は疑問な面持ちで問い掛ける。
陽向が和葉のことを知っているということは、知り合いだと判明した。
「あ……さっき、私が妖怪に絡まれたところを凛さんが助けてくれたの」
経緯を説明すると、陽向は吃驚した顔をする。
「え! 絡まれた!? ごめん……おれが異界に連れて行こうって言ったばっかりに……」
「そんな! 私がはぐれちゃったから、陽向君は何も悪くないよ!」
申し訳なさそうに眉を下げる陽向に、沙希はあわあわと首を横に振る。
「ホント……凛丸がいなかったらどうなってたんだか……」
風夜は呆れ顔で溜め息を吐く。
「そうだよね……ん? あれ?」
沙希は風夜の発言を思い返す。
「風夜。今、凛さんのこと何て呼んだの?」
「『凛丸』って、呼んだけど」
「り、凛丸? 『凛』じゃなくて?」
「ああ。あの二人はああ呼んでいるみたいだけど、本名は『凛丸』だ」
「……?」
美人な顔に不釣り合いな名前を疑問に思っていると、沙希の表情を察した風夜が口を開く。
「あいつ、男だぞ」
――間。
「え? えぇー!! お、男!?」
風夜の発した言葉を理解した途端、沙希は思わず凛の顔を凝視してしまう。
(そ、そう言えば、女性にしては、ハスキーボイスだよね……)
吃驚する沙希に、風夜は小声でそっと耳打ちする。
「な、驚いただろ?」
風夜がびっくりするって言ったのは、このことなのだと沙希は納得する。
現に沙希は驚いているのだから。
「う、うん……」
沙希と風夜のやり取りを見て、凛丸の眉が八の字になる。
「やっぱり女性だと思われましたか……」
「す、すみません! あまりにも綺麗すぎるというか、中性的で……!」
「ふふっ、気にしないでください。この外見だし、よく間違われるんです」
慌てて謝罪する沙希に、お茶目な笑みを浮かべる凛丸。
(おう……なんて眩しい笑顔)
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※感想やコメントは受け付けることができません。
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言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
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私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
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書いてくださいね
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