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第二章 迫り来る影
第四話 試練の空間
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「ルールは簡単。沙希は下校時刻を過ぎた学校に閉じ込められてしまった。さて、この状況をどう切り抜けられるのか!」
クロは楽しげに実況するが、沙希は拍子抜けした顔になる。
「要は学校から出ればいいってこと?」
「そういうこと。それじゃあ――」
クロがパンッ! と両手を鳴らすと、薄闇だった廊下に電気が点灯され、辺りが明るく照らされていく。
「それでは、健闘を祈る!」
「……わかった」
これをクリアしなければ、どのみち出られない。
沙希は廊下を進み、慣れた足取りで歩いて行く。
角を曲がると階段が現れる。
沙希は迷うことなく二階から一階へと階段を下りて行く。
やがて、一階に到着すると、学年ごとに立ち並んだ下駄箱が見えた。
「着いちゃった……」
沙希は下駄箱を通り過ぎ、目的の昇降口の扉に手を掛けた。
「あれ?」
沙希は取手を回すが、扉は鍵が掛かっていないはずなのにびくともしないのだ。
「え、どうなっているの?」
沙希は体当たりしたり、ガチャガチャと取手を回しても扉の開く気配はなかった。
「あー、ごめんごめん。言い忘れてた」
「うわっ!」
唐突に傍からクロが現れ、沙希は吃驚する。
「この扉はね、御札を貼らないと出られない仕組みになっているんだ」
「御札?」
「うん。探索できる場所は、沙希の教室、保健室、体育館、職員室だよ。人間が暇潰しに遊ぶ脱出ゲームみたいで楽しそうでしょ!」
「いや、リアルに閉じ込められている状況で楽しめるわけないでしょ……」
「もう! シリアスに考えないでよ。御札を見つければ出られるんだから。それじゃあ、頑張ってねぇ!」
クロは手を振ると、その場から消えた。
「御札ね……」
沙希は御札を探すため、ここから近い保健室に行こうと考えた。
「待てよ」
沙希は廊下の窓に目がいく。
もしかしたら、昇降口からじゃなくても出られるのではないかと思い、窓の縁に手を掛ける。
「……ダメか」
しかし、その期待はあっさりと裏切られた。
窓は昇降口と同じく、まるで謎の力が掛かっているみたいでびくとも動かないのだ。
沙希は溜め息を吐き、諦めて保健室に足を踏み入れた。
✿ ✿ ✿
保健室に入ると、独特な薬品の匂いが鼻を突く。
「よし……」
沙希は早速、御札の探索を開始する。
ベッドの周辺、テーブルの下など保健室の隅から隅まで探すが、御札らしき物は見つからなかった。
「ん?」
沙希は応急手当て用の薬と包帯などが入っている戸棚を開けると、保健室には不似合いな古びた小さな木箱を見つけた。
「この中に御札が入っているとか……」
そう思い、沙希は蓋を開けようとするが、鍵が掛かっているのか開かなかった。
「鍵を探すしかないな……あれ?」
沙希は箱を観察すると、あることに気がついた。
その箱は錠に鍵を差し込むタイプではなく、蓋にできている窪みの形と一致するパズルが鍵となる特殊な物だったのだ。
「窪みは三つ……保健室は隅から隅まで探したから鍵はなかったんだよね」
それなら、探索できる沙希の教室、職員室、体育館のどこかにあるはずだ。
沙希は箱を手に保健室を後にした。
✿ ✿ ✿
沙希は保健室からすぐ近くにある職員室へ向かった。
「し、失礼します……」
緊張な面持ちで、沙希は職員室の扉を横に滑らせる。
誰もいないとはいえ、生徒にとって職員室という場所は入りづらい。
沙希は早速、鍵の捜索を開始する。
「んー、先生の机の引き出しを勝手に開けるのは……」
沙希の学校に似せた空間とはいえ、教員の机を勝手に開けるのは抵抗を覚える。
「ふぅ……大丈夫。ここは本当の学校じゃないんだし」
沙希はそう自分に言い聞かせ、教員の一人一人の机の引き出しを開けていく。
✿ ✿ ✿
「あ、あった!」
手当たり次第探した結果、引き出しから箱の窪みと一致する赤い宝玉を見つけた。
「後二つ。次は……体育館に行こう」
沙希は宝玉を制服のポケットに入れ、職員室を後にした。
体育館は今いる場所から渡り廊下を真っ直ぐ進んだ先にある。
そこに鍵があることを願いながら、沙希は体育館に向かうのだった。
✿ ✿ ✿
体育館に到着し、沙希は重い鉄扉を押し開ける。
だだっ広い室内を見て、沙希が最初に睨んだのは倉庫だった。
「どうか見つかりますように」
沙希は自分の直感を信じて、倉庫の扉を開けた。
倉庫の中は、卓球台や競技のボールなどが綺麗に整頓されていた。
だが、沙希はその中で気になる物を見つけた。
「ん……? 何これ?」
天井を見上げると、不自然にぶら下がっている五本の太いロープがあった。
その先端にはそれぞれ色のテープが巻かれており、いかにも仕掛けのような雰囲気を感じさせた。
「……よく時代劇で、引っ張ったら床が開いたりして」
そんな想像が浮かび、沙希はロープに触れるのを躊躇ってしまう。
でも、同時にロープのどれかを引っ張ることで、鍵が出てくるのではないかと思った。
「よし……」
沙希は意を決して、ロープの一つを握った。
そして、大きく息を吐いた後、勢いよく引いた。
「――っ!」
この先何が起こるのか不安が過り、沙希は目をぎゅっと瞑った。
しかし、いつまで経っても恐れていた想像は起きなかった。
「……?」
沙希はゆっくり瞼を上げる。
倉庫の中を見渡すが、特に変化は起きている様子はなかった。
「ハズレってこと?」
沙希はそう考え、端から順に次のロープを引いた。
恐怖と不安を抱きながらロープを引いていくが、五本とも最初の時と同じく何かが起こることはなかった。
「何も起きない……もしかして、ただの飾り?」
そう結論に至り、沙希はハァ……と拍子抜けする。
鍵がないならここには用はないと思い、倉庫の出入り口に向かう。
カサ……
「ん?」
倉庫を出ようとした時、沙希は足で何かを踏んだ。
視線を下に向けると、それは白い紙だった。
紙には文字が書かれてあり、気になった沙希は拾い上げてみた。
「何だろう」
紙に目を通すと、そこには『青→黄→紫』と短く書かれていた。
「!」
沙希はハッと閃いた顔をして、五本のロープの方へ振り返る。
もしかしてと思い、沙希は色に分けられたロープを紙に書かれた文字の通りに引いてみた。
すると――。
カラン……
天井からキラリと何かが落ちてきて、沙希の足元に転がってきた。
「やっぱり!」
沙希は嬉々して、足元に転がっている物を拾い上げる。
それは、箱の鍵となる青い宝玉だった。
「残りは一つ! 後探索してないのは、教室だけ!」
沙希は二つ目の宝玉をポケットに入れ、倉庫を出る。
教室に最後の鍵があることに確信を抱いた沙希は、急ぎ足で教室に向かうのだった。
✿ ✿ ✿
沙希の教室に到着する。
扉を開けると、等間隔に並んだ複数の机とそれに向かい合う教卓と黒板が視界に映る。
一歩、二歩と教室に足を踏み入れると、沙希はある物に目が留まる。
「あ、あれ?」
沙希は怪訝にロッカーの方へ向かった。
多数の教室のロッカーは扉のない木製の造りになっている。
だが、一つだけ……沙希のロッカーだけ扉が造られており、そこだけ歪さを際立たせていた。
「ダイヤル式になってる……暗証番号は三桁か」
沙希は適当に自分の誕生日に合わせてみるが、番号が合わず、扉は開かなかった。
「どこかにヒントはないかな……」
体育館の時みたいにヒントになる物を探そうと、沙希は黒板の方へ振り返る。
「え?」
沙希は目を疑った。
先ほどまで何もなかった黒板の一面に『時計、ベッド、ロープ=◯◯◯』のイラストが貼られていた。
見る限り、暗証番号のヒントだと言うことに一目瞭然だ。
「◯の中に、イラストに沿った数字が入るってことだよね……」
このイラストに当て嵌まる物がないか、沙希は思考を巡らす。
「語呂合わせじゃ……なさそうだよね。イラストからして、どれも学校の物を表している気がするんだよね」
そこで沙希は「あれ?」と自分の言葉に引っ掛かりを覚えた。
もう一度、イラストに視線を向ける。
沙希の頭の中で、探索に訪れた保健室や体育館が浮かび上がる。
「もしかして……イラストに書かれている数を表しているとか!」
それなら数字の答えを導くことができる。
沙希は壁に掛かっている時計を見上げる。
時計の秒針は動いておらず、七時に止まったままだった。
「七時に止まっているってことは……時計は『七』だ。それなら、ベッドは保健室しかないから……ベッドの数は二つ、『二』だ」
そして、沙希は体育館の倉庫で謎解きに使用したロープを思い出す。
「ロープの数は五本……答えは『五』だ! 暗証番号は『七二五』だ!」
沙希は再びロッカーの方に体を向け、導き出した答えをダイヤルに合わせる。
カチッと鍵の開く音がした。
「やった!」
扉を開けると、最後の鍵となる黄色の宝玉が置いてあった。
これで全ての鍵が揃った。
沙希は早速、見つけた箱と鍵を机に並べる。
窪みの色と宝玉の色に合わせて三つ嵌め込むと、カチャと鍵の開く音が聞こえた。
同時にパカッと蓋が開き、中から『開』と墨で書かれた古い御札が出てきた。
「よかったぁ……」
目的の御札が見つかってホッと胸を撫で下ろす沙希。
これで学校から出られると嬉々し、急いで教室を出たのだった。
✿ ✿ ✿
階段を降り、立ち並ぶ下駄箱が見える。
そこを通り、昇降口に到着する。
「よし……」
沙希は緊張な面持ちで御札を貼ると、あんなに開かなかった扉があっさりと開いたのだ。
「やったぁ!」
沙希は昇降口から一歩足を踏み出そうとした時、目の前に小さな影が立ち塞がった。
「見事だよ。沙希」
クロが姿を現し、沙希に称賛の言葉を口にする。
「おめでとう、沙希。クリアしたご褒美にプレゼントをあげる」
クロはそう言って、両手で抱えている葛籠を沙希に手渡す。
「開けてみて」
「わ、わかった……」
沙希は言われるまま葛籠の蓋の縁に手を添える。
中身はどんなのが入っているのか、内心ドキドキしながら、蓋を思い切り開ける。
「うわっ!」
蓋を開けた途端、葛籠の中身から白い閃光が放たれ、沙希の視界が真っ白に包まれた。
✿ ✿ ✿
「あれ……?」
瞼を上げると、視界に映ったのは見慣れたリビングだった。
「おかえり」
目の前には風夜がいた。
「へぇ。それが、お前の神器か」
「え? あ……」
下に視線を落とすと、沙希の両手に銀色の日本刀が握られていた。
「ねぇ、風夜。これって……」
「神器だ」
「神器……これが」
日本刀の刃がまるで鏡みたいに透き通っていて、柄は美しい装飾に施されていた。
何気なく刃に触れると、不意に沙希の耳に声が聞こえた。
『君は限られた選択肢の中で新たな選択肢を見つける力を持っている。導きを切り開くことができる君にこの神器を授ける』
それを告げられると、日本刀から聞こえてきた声が静かに止んでいく。
「わ!」
握っていた日本刀が光に包まれて粒子に分散して消える。
「え? 消えた」
戸惑いながら、日本刀を握っていた両手を見る。
「自分の意思で出せる。やってみろ」
「え、うん……わかった」
沙希は言われた通りに心の中で念じる。
「わ!」
すると、目の前に現れた光が日本刀に形状し、沙希の両手に握られる。
「すごっ……。消す時は?」
「それも自分の意思で自由自在に消せる」
風夜の言う通りに、今度は心の中で日本刀が消えるように唱えると、沙希の両手から日本刀が粒子に分散して消える。
クロは楽しげに実況するが、沙希は拍子抜けした顔になる。
「要は学校から出ればいいってこと?」
「そういうこと。それじゃあ――」
クロがパンッ! と両手を鳴らすと、薄闇だった廊下に電気が点灯され、辺りが明るく照らされていく。
「それでは、健闘を祈る!」
「……わかった」
これをクリアしなければ、どのみち出られない。
沙希は廊下を進み、慣れた足取りで歩いて行く。
角を曲がると階段が現れる。
沙希は迷うことなく二階から一階へと階段を下りて行く。
やがて、一階に到着すると、学年ごとに立ち並んだ下駄箱が見えた。
「着いちゃった……」
沙希は下駄箱を通り過ぎ、目的の昇降口の扉に手を掛けた。
「あれ?」
沙希は取手を回すが、扉は鍵が掛かっていないはずなのにびくともしないのだ。
「え、どうなっているの?」
沙希は体当たりしたり、ガチャガチャと取手を回しても扉の開く気配はなかった。
「あー、ごめんごめん。言い忘れてた」
「うわっ!」
唐突に傍からクロが現れ、沙希は吃驚する。
「この扉はね、御札を貼らないと出られない仕組みになっているんだ」
「御札?」
「うん。探索できる場所は、沙希の教室、保健室、体育館、職員室だよ。人間が暇潰しに遊ぶ脱出ゲームみたいで楽しそうでしょ!」
「いや、リアルに閉じ込められている状況で楽しめるわけないでしょ……」
「もう! シリアスに考えないでよ。御札を見つければ出られるんだから。それじゃあ、頑張ってねぇ!」
クロは手を振ると、その場から消えた。
「御札ね……」
沙希は御札を探すため、ここから近い保健室に行こうと考えた。
「待てよ」
沙希は廊下の窓に目がいく。
もしかしたら、昇降口からじゃなくても出られるのではないかと思い、窓の縁に手を掛ける。
「……ダメか」
しかし、その期待はあっさりと裏切られた。
窓は昇降口と同じく、まるで謎の力が掛かっているみたいでびくとも動かないのだ。
沙希は溜め息を吐き、諦めて保健室に足を踏み入れた。
✿ ✿ ✿
保健室に入ると、独特な薬品の匂いが鼻を突く。
「よし……」
沙希は早速、御札の探索を開始する。
ベッドの周辺、テーブルの下など保健室の隅から隅まで探すが、御札らしき物は見つからなかった。
「ん?」
沙希は応急手当て用の薬と包帯などが入っている戸棚を開けると、保健室には不似合いな古びた小さな木箱を見つけた。
「この中に御札が入っているとか……」
そう思い、沙希は蓋を開けようとするが、鍵が掛かっているのか開かなかった。
「鍵を探すしかないな……あれ?」
沙希は箱を観察すると、あることに気がついた。
その箱は錠に鍵を差し込むタイプではなく、蓋にできている窪みの形と一致するパズルが鍵となる特殊な物だったのだ。
「窪みは三つ……保健室は隅から隅まで探したから鍵はなかったんだよね」
それなら、探索できる沙希の教室、職員室、体育館のどこかにあるはずだ。
沙希は箱を手に保健室を後にした。
✿ ✿ ✿
沙希は保健室からすぐ近くにある職員室へ向かった。
「し、失礼します……」
緊張な面持ちで、沙希は職員室の扉を横に滑らせる。
誰もいないとはいえ、生徒にとって職員室という場所は入りづらい。
沙希は早速、鍵の捜索を開始する。
「んー、先生の机の引き出しを勝手に開けるのは……」
沙希の学校に似せた空間とはいえ、教員の机を勝手に開けるのは抵抗を覚える。
「ふぅ……大丈夫。ここは本当の学校じゃないんだし」
沙希はそう自分に言い聞かせ、教員の一人一人の机の引き出しを開けていく。
✿ ✿ ✿
「あ、あった!」
手当たり次第探した結果、引き出しから箱の窪みと一致する赤い宝玉を見つけた。
「後二つ。次は……体育館に行こう」
沙希は宝玉を制服のポケットに入れ、職員室を後にした。
体育館は今いる場所から渡り廊下を真っ直ぐ進んだ先にある。
そこに鍵があることを願いながら、沙希は体育館に向かうのだった。
✿ ✿ ✿
体育館に到着し、沙希は重い鉄扉を押し開ける。
だだっ広い室内を見て、沙希が最初に睨んだのは倉庫だった。
「どうか見つかりますように」
沙希は自分の直感を信じて、倉庫の扉を開けた。
倉庫の中は、卓球台や競技のボールなどが綺麗に整頓されていた。
だが、沙希はその中で気になる物を見つけた。
「ん……? 何これ?」
天井を見上げると、不自然にぶら下がっている五本の太いロープがあった。
その先端にはそれぞれ色のテープが巻かれており、いかにも仕掛けのような雰囲気を感じさせた。
「……よく時代劇で、引っ張ったら床が開いたりして」
そんな想像が浮かび、沙希はロープに触れるのを躊躇ってしまう。
でも、同時にロープのどれかを引っ張ることで、鍵が出てくるのではないかと思った。
「よし……」
沙希は意を決して、ロープの一つを握った。
そして、大きく息を吐いた後、勢いよく引いた。
「――っ!」
この先何が起こるのか不安が過り、沙希は目をぎゅっと瞑った。
しかし、いつまで経っても恐れていた想像は起きなかった。
「……?」
沙希はゆっくり瞼を上げる。
倉庫の中を見渡すが、特に変化は起きている様子はなかった。
「ハズレってこと?」
沙希はそう考え、端から順に次のロープを引いた。
恐怖と不安を抱きながらロープを引いていくが、五本とも最初の時と同じく何かが起こることはなかった。
「何も起きない……もしかして、ただの飾り?」
そう結論に至り、沙希はハァ……と拍子抜けする。
鍵がないならここには用はないと思い、倉庫の出入り口に向かう。
カサ……
「ん?」
倉庫を出ようとした時、沙希は足で何かを踏んだ。
視線を下に向けると、それは白い紙だった。
紙には文字が書かれてあり、気になった沙希は拾い上げてみた。
「何だろう」
紙に目を通すと、そこには『青→黄→紫』と短く書かれていた。
「!」
沙希はハッと閃いた顔をして、五本のロープの方へ振り返る。
もしかしてと思い、沙希は色に分けられたロープを紙に書かれた文字の通りに引いてみた。
すると――。
カラン……
天井からキラリと何かが落ちてきて、沙希の足元に転がってきた。
「やっぱり!」
沙希は嬉々して、足元に転がっている物を拾い上げる。
それは、箱の鍵となる青い宝玉だった。
「残りは一つ! 後探索してないのは、教室だけ!」
沙希は二つ目の宝玉をポケットに入れ、倉庫を出る。
教室に最後の鍵があることに確信を抱いた沙希は、急ぎ足で教室に向かうのだった。
✿ ✿ ✿
沙希の教室に到着する。
扉を開けると、等間隔に並んだ複数の机とそれに向かい合う教卓と黒板が視界に映る。
一歩、二歩と教室に足を踏み入れると、沙希はある物に目が留まる。
「あ、あれ?」
沙希は怪訝にロッカーの方へ向かった。
多数の教室のロッカーは扉のない木製の造りになっている。
だが、一つだけ……沙希のロッカーだけ扉が造られており、そこだけ歪さを際立たせていた。
「ダイヤル式になってる……暗証番号は三桁か」
沙希は適当に自分の誕生日に合わせてみるが、番号が合わず、扉は開かなかった。
「どこかにヒントはないかな……」
体育館の時みたいにヒントになる物を探そうと、沙希は黒板の方へ振り返る。
「え?」
沙希は目を疑った。
先ほどまで何もなかった黒板の一面に『時計、ベッド、ロープ=◯◯◯』のイラストが貼られていた。
見る限り、暗証番号のヒントだと言うことに一目瞭然だ。
「◯の中に、イラストに沿った数字が入るってことだよね……」
このイラストに当て嵌まる物がないか、沙希は思考を巡らす。
「語呂合わせじゃ……なさそうだよね。イラストからして、どれも学校の物を表している気がするんだよね」
そこで沙希は「あれ?」と自分の言葉に引っ掛かりを覚えた。
もう一度、イラストに視線を向ける。
沙希の頭の中で、探索に訪れた保健室や体育館が浮かび上がる。
「もしかして……イラストに書かれている数を表しているとか!」
それなら数字の答えを導くことができる。
沙希は壁に掛かっている時計を見上げる。
時計の秒針は動いておらず、七時に止まったままだった。
「七時に止まっているってことは……時計は『七』だ。それなら、ベッドは保健室しかないから……ベッドの数は二つ、『二』だ」
そして、沙希は体育館の倉庫で謎解きに使用したロープを思い出す。
「ロープの数は五本……答えは『五』だ! 暗証番号は『七二五』だ!」
沙希は再びロッカーの方に体を向け、導き出した答えをダイヤルに合わせる。
カチッと鍵の開く音がした。
「やった!」
扉を開けると、最後の鍵となる黄色の宝玉が置いてあった。
これで全ての鍵が揃った。
沙希は早速、見つけた箱と鍵を机に並べる。
窪みの色と宝玉の色に合わせて三つ嵌め込むと、カチャと鍵の開く音が聞こえた。
同時にパカッと蓋が開き、中から『開』と墨で書かれた古い御札が出てきた。
「よかったぁ……」
目的の御札が見つかってホッと胸を撫で下ろす沙希。
これで学校から出られると嬉々し、急いで教室を出たのだった。
✿ ✿ ✿
階段を降り、立ち並ぶ下駄箱が見える。
そこを通り、昇降口に到着する。
「よし……」
沙希は緊張な面持ちで御札を貼ると、あんなに開かなかった扉があっさりと開いたのだ。
「やったぁ!」
沙希は昇降口から一歩足を踏み出そうとした時、目の前に小さな影が立ち塞がった。
「見事だよ。沙希」
クロが姿を現し、沙希に称賛の言葉を口にする。
「おめでとう、沙希。クリアしたご褒美にプレゼントをあげる」
クロはそう言って、両手で抱えている葛籠を沙希に手渡す。
「開けてみて」
「わ、わかった……」
沙希は言われるまま葛籠の蓋の縁に手を添える。
中身はどんなのが入っているのか、内心ドキドキしながら、蓋を思い切り開ける。
「うわっ!」
蓋を開けた途端、葛籠の中身から白い閃光が放たれ、沙希の視界が真っ白に包まれた。
✿ ✿ ✿
「あれ……?」
瞼を上げると、視界に映ったのは見慣れたリビングだった。
「おかえり」
目の前には風夜がいた。
「へぇ。それが、お前の神器か」
「え? あ……」
下に視線を落とすと、沙希の両手に銀色の日本刀が握られていた。
「ねぇ、風夜。これって……」
「神器だ」
「神器……これが」
日本刀の刃がまるで鏡みたいに透き通っていて、柄は美しい装飾に施されていた。
何気なく刃に触れると、不意に沙希の耳に声が聞こえた。
『君は限られた選択肢の中で新たな選択肢を見つける力を持っている。導きを切り開くことができる君にこの神器を授ける』
それを告げられると、日本刀から聞こえてきた声が静かに止んでいく。
「わ!」
握っていた日本刀が光に包まれて粒子に分散して消える。
「え? 消えた」
戸惑いながら、日本刀を握っていた両手を見る。
「自分の意思で出せる。やってみろ」
「え、うん……わかった」
沙希は言われた通りに心の中で念じる。
「わ!」
すると、目の前に現れた光が日本刀に形状し、沙希の両手に握られる。
「すごっ……。消す時は?」
「それも自分の意思で自由自在に消せる」
風夜の言う通りに、今度は心の中で日本刀が消えるように唱えると、沙希の両手から日本刀が粒子に分散して消える。
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負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
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