134 / 146
06章『喧騒下のアブダクテッドな天使様』〈結〉
06章-13
しおりを挟む神殺しのテュルファング。
手にした者にチカラと引き換えに絶望の呪いを与える漆黒の剣。
これを腰に差して、わたしはギャバナのライト王子のもとへと向かう。
お願いして呪染対策チームを派遣してもらった手前、最低限の説明責任は果たしておこうと考えての行動。あとお世話になった以上は、きちんとお礼を言っておかなければね。
わたしは基本的にちゃんとしたえらい人には媚びへつらこともじさない女。
だから菓子折りを持っての表敬訪問。
「……話はだいたいわかった。そいつの所有権も認めよう。というかそんな物騒な品を置いて行かれてもこちらとしては迷惑だしな」ライト王子は言った。「それにしても健康スキルに思わぬ使い道が発覚したな。呪いの影響をまるで受けないのだから、そっち系統のアイテムを使い放題じゃないか」
呪いの武器、呪いの鎧、呪いの仮面、呪いの指輪、呪いのネックレスなどなど、各種呪いのアイテム。
この手の品々は高性能な反面、使用者に多大なリスクを負わせる。
だいたい調子がいいのは初めだけ。最終的には、とーっても悲惨な結末が待っているのがお約束。
しかしわたしであればリスクを負うことなく、全身を呪いグッズでコーディネートしたところで、心おきなく使用できるというわけさ。
はははは、ちっともうれしくないや。わたしはもっと普通のおしゃれの方がいい。
「とはいえ剣なんて扱えるのか? 撃つ殴る蹴る漁るが専門のおまえに」
せっかくの名刀も素人が握れば、その辺の木の枝とかわらない。
だからこそのライト王子のこの言葉。
そしてわたしの場合、剣は完全に門外漢。それは自分自身が重々承知をしている。
「そのへんのことも踏まえて、ちゃんと戦い方は考えてあるよ」
敵とテュルファングを手にして対峙。
カンカンカンとしばらく打ち合えば、相手も「あれ? 剣はやたらと立派だけど、こいつ、へっぽこ剣士だぞ」と気がつく。
頃合いを見計らってうっかり剣を手放すわたし。あわてて拾おうとするも自分のつま先にてこつんとカーリング。大事な相棒が敵の方へと向かい「あぁ、しまった!」
足下に転がってきた得物を見た敵。
「へっへっへっ、とんだマヌケめ」
これ幸いと武器を奪おうとする。
だがそれこそが恐ろしいトラップ。
なにせ神殺しの剣には手にした途端に発動する呪いがあるのだから。
うっかり手をのばしたが最後、すかさず人生坂をごろごろと転げ落ちていく。バッドエンドに向かって一直線。
……といったような使い道を得得と説明したら、ライト王子は「なんてイヤらしい戦法なんだ」「戦うことになる相手が気の毒すぎる」と顔をしかめる。
「でもそれだけ悲惨な目にあったら、逆に自棄になって暴れたりしないか」
辛すぎて人生に悲観。絶望のあまりキレて凶行に走ることを懸念するライト王子。
その心配はごもっともながら、やはり問題なし。
なぜなら暴れたくとも腰がぎっくり状態にて、まともに動けやしないからだ。うっかり剣を手にリキもうならば、とたんにお尻の爆弾が破裂する。
なによりウツウツした気分のせいでやる気が出ない。「もう、なんか、どうでもいいや」と投げやりになり無気力にて万年床でグッタリ。そして枕元の抜け毛の多さに恐れおののく。
うん。改めて口に出して説明してみると、じつにヒドイ話だな。なんという負のスパイラル。
神殺しの呪い、おそるべし。
「もういい、わかった。だからとりあえずソイツをこっちに近づけんな」
「心配しなくてもだいじょうぶだよ。テュルファングにはわたしの許可ナシには呪いを発動しないようにと、よーく言い含めてあるから」
呪いの使用制限。
それこそわたしが神殺しのテュルファングに課した降伏の条件。
ちなみにルーシーが課した条件は研究協力。
なにせいろいろと問題がある剣ではあるものの、激レア素材の神鋼造りであることにはちがいない。青い目のお人形さんは貴重なサンプルとしておおいに役立てるつもりのようだ。「べつにきさまが生きてようが死んでようがワタシはどちらでもかまわない」とルーシーに言われて、テュルファングが「ひぃぃ」と悲鳴をあげる。これにより序列が完全に確定した。
彼の加入によって飛躍する魔導科学。
リンネ組はますますの発展を遂げることであろう。
そんなことをぽわぽわ妄想していたら、ライト王子がある提案を口にする。
「それはともかくとして、なんならウチが所蔵している呪いの品を見てみるか? 気に入ったのがあったら適当に持っていってかまわんぞ。保管していても百害あって邪魔なだけだし。有効利用できる者がいるのならば、そいつが活かすべきであろう」
タダでいいぞとか、めずらしく太っ腹なこと仰る王子さま。
これさいわいと面倒なお荷物をわたしに押しつける気だ。
だがみんなにとっては邪魔な品でもわたしにとってはそうではないので、ここはお言葉に甘えてみることにした。
ギャバナの王城敷地内、隔離された区画にある半地下の倉っぽい建物。
ここがいわくつきの呪いの品を集めた専用の倉庫。
ライト王子の好意? によってここに足を運んだわたしとルーシー。
陽炎のごとくゆらめく妖気。建物全体に何重にも呪染対策がみっちり施されているという話だが、わたしの目にはむしろ建物自体が収蔵品の影響を受けて、呪われてしまっているかのように映る。
「ある意味、そういうことなのでしょう」
「?」
「呪いを弾き返す呪い。呪いを封じる呪い。方向性がちがうだけで、中味は同じようなものですから」
ルーシーの説明に「うーん」と首をかしげつつも、わたしは建物の扉の取っ手を掴む。
横にスライドする大扉。けっこうな重さにて、おもわず「うんとこどっこいしょ」と言ってしまった。
建物内部には薄っすらと表面にホコリが積もったショーケースが整然と並んでおり、中には短剣、長剣、指輪に冠、ネックレスや髪飾りなどのアクセサリー類に、宝石がごてごて付いたベルトやら小物入れなどがずらり。
壁沿いのケースには鎧や鎖帷子、ドレスに調度品などの比較的大きな品が陳列されてある。
どいつもこいつもいわくありげのドヤ顔にて、じつに堂々たる呪われっぷり。
すべての品にはご丁寧にも説明書きが添えられてある。これはありがたい。
「はてさて、なにか使えそうな品はあるかなぁ。えーと、この短剣はモテるけどどこまでいってもいいひと止まりか。こっちの髪飾りはダイエット効果が期待できるけれども背中に毛がわさわさにて耳毛も生えてくると、なんか処理がたいへんそう」
「絶交のイヤリングなんてものもありますよ、リンネさま。なんでも異性にモテモテだけれども同性から蛇蝎のごとく嫌われるみたいです。女同士の友情か男との愛情か、これはとてもデリケートなところをついてきますね」
主従にて目を皿のようにして品物を物色すること三時間。
ろくでもないエピソード満載なグッズの数々。その中から最終的にわたしが選んだのは、細いチェーンにてネックレスのように首から下げられる指輪。
なんら装飾が施されていないシンプルな造りの銀製品。
これは、身につけていると金運がちょっぴりアップするかわりに、恋愛運がダダ下がりするというシロモノ。大人しそうな見た目に反して、愛と金の二択を迫るとか地味にえぐい。
何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。
いささか交換レートに首を傾げるものの、対価を支払うという観点は至極真っ当なような気もする呪法の世界。
とはいえ、やたらと恋愛運を犠牲にする品が多いような気がするのだけれども……。
「いつの世も色恋絡みの悩みは尽きないということなのでしょう。もっとも身近にて強烈な呪力が発生しやすい案件ですので」とルーシーさん。
青い目のお人形さんから、ためになるようなならないような、そんなお話を拝聴しつつ倉庫漁りは終了。
最後にライト王子に挨拶してから引き上げるかと、城内の廊下をトテトテ歩いていたら、前方の床にて何やらキラリと光るものを発見!
すかさず近寄ってみたらコインが落ちてたよ。さっそく呪いのアイテムの効果発動。なんてこったい、すごい効き目じゃないか。これさえあれば一生、小銭に不自由しないですむぞ。
拾ったコインを手に、「うひょー」と浮かれるわたしを尻目にルーシーがぷつぷつつぶやく。
「コイン一枚拾得するのに支払う対価。推定にておおよそ恋愛運十。ちなみに最大値百ですので交換レートとしては、かなりのぼったくり」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

雑貨屋リコリスの日常記録
猫餅
ファンタジー
長い旅行を終えて、四百年ぶりに自宅のある島へと帰宅した伊織。しかし、そこには見知らぬ学園があった。更には不審者として拘束されかけ──そんな一日を乗り越えて、伊織は学園内に自分の店舗を構えることとなった。
雑貨屋リコリス。
学園に元々ある購買部の店舗や、魔術都市の店とは異なる品揃えで客を出迎える。……のだが、異世界の青年が現れ、彼の保護者となることになったのだ。
更にもう一人の青年も店員として、伊織のパーティメンバーとして加わり、雑貨屋リコリスは賑わいを増して行く。
雑貨屋の店主・伊織と、異世界から転移して来た青年・獅童憂、雪豹の獣人アレクセイ・ヴィクロフの、賑やかで穏やかな日常のお話。
小説家になろう様、カクヨム様に先行投稿しております。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

医魔のアスクレピオス ~不遇職【薬剤師】はS級パーティを追放されても薬の力で成り上がります~
山外大河
ファンタジー
薬剤師レイン・クロウリーは薬剤師の役割が賢者の下位互換だとパーティリーダーのジーンに判断され、新任の賢者と入れ替わる形でSランクの冒険者パーティを追放される。
そうして途方に暮れるレインの前に現れたのは、治癒魔術を司る賢者ですら解毒できない不治の毒に苦しむ冒険者の少女。
だが、レインの薬学には彼女を救う答えがあった。
そしてレインは自分を慕ってパーティから抜けて来た弓使いの少女、アヤと共に彼女を救うために行動を開始する。
一方、レインを追放したジーンは、転落していく事になる。
レインの薬剤師としての力が、賢者の魔術の下位互換ではないという現実を突きつけられながら。
カクヨム・小説家になろうでも掲載しています。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる