『刻の輪廻で君を守る』

ぜのん

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05章『喧騒下のアブダクテッドな天使様』〈転〉

05章-06

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***05-06-09

「貴様ッ! 何故わかるッ!」

 ……次は『貴様』呼ばわりかよ。

 だが——これだけ、切羽詰まってる——俺への呼び方が昨日の『君』から余裕がなくなって『お前』、そして『貴様』になるってことはコイツも本当に必死なのだ。リアンを、あの娘を救いたい、と。


 その思い、そこが俺とコイツが折り合えるポイントになる筈。


「何故なら……今回の案件には恐らく、上層部も絡んでいるからだ」
「なん、だと……」

 ユリウスは衝撃を受けた顔でよろめく。

「そんな訳が……」
「まず、あの空き家に馬車を搬送用に仕込んでいた。あの高価な専用馬車を、だ」

 馬車というのは相当に高価なものだ。特に馬が。それほど高価なものを逃走用に予め用意できた——この時点で既に大掛かりな組織的関与が無ければ難しいだろう。

「…………」
「更に、馬車には港までの専用ルートが作られていた。憲兵隊のお守りつきでな。普段、こんなことはしてない。あくまで人が多いお祭りの期間だけだ——だが、それを使えることを把握し利用した」

 ユリウスは苦々しげに俺を睨みつける。……だが、決して俺の言葉を遮ろうとはしなかった。恐らくは、コイツも……

「変装した憲兵達は各所に配置されて見張っていた。だが、あれだけド派手だったピエロや黒マントは大広場での最初のショー以外、その居場所を確認されていない。違うか?」

 無言でユリウスは頷く。

 そもそもが疑問だったのだ。あの空中浮遊のための仕掛け。あれを施す為には多少は時間が掛かるはず。それが最低2ヶ所、恐らくは今回使用したポイント以外、他にも幾つかのポイントで罠のように仕掛けていた筈だ。俺たちが引っかかったのは事前に仕掛けられたポイントの内の1つに過ぎない筈。

 それだけ無数の仕掛けを憲兵隊の見張りに知られずに施すのは例え協力者がもっといたとしてもそれだけで見つからずに仕掛けるのは無理だ。だが、その見張りの配置が事前に分かっていたのなら、

「……内通者、か」

 ユリウスも感じてはいたのだろう。自身でその単語を吐き出す。

「ユークリッド少尉。……以前に私たちも、もしかしたら、と話したことがあったと思うわ——もしも、だけど。恐ろしいことだけど、この町の上層部が実はこのことを知っていたのだとしたら……」

 そう。憲兵隊の動きは筒抜けだ。

 ダンッ

 突然、ユリウスは固く握りしめた拳をそのテーブルに叩きつけた。

「……お前は、それを知って、オレにどうしろと……」
「俺のすることは一つだ。リアンを取り戻す。何があっても守る」

⭐︎⭐︎⭐︎
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