『刻の輪廻で君を守る』

ぜのん

文字の大きさ
上 下
110 / 146
05章『喧騒下のアブダクテッドな天使様』〈転〉

05章-06

しおりを挟む
***05-06-09

「貴様ッ! 何故わかるッ!」

 ……次は『貴様』呼ばわりかよ。

 だが——これだけ、切羽詰まってる——俺への呼び方が昨日の『君』から余裕がなくなって『お前』、そして『貴様』になるってことはコイツも本当に必死なのだ。リアンを、あの娘を救いたい、と。


 その思い、そこが俺とコイツが折り合えるポイントになる筈。


「何故なら……今回の案件には恐らく、上層部も絡んでいるからだ」
「なん、だと……」

 ユリウスは衝撃を受けた顔でよろめく。

「そんな訳が……」
「まず、あの空き家に馬車を搬送用に仕込んでいた。あの高価な専用馬車を、だ」

 馬車というのは相当に高価なものだ。特に馬が。それほど高価なものを逃走用に予め用意できた——この時点で既に大掛かりな組織的関与が無ければ難しいだろう。

「…………」
「更に、馬車には港までの専用ルートが作られていた。憲兵隊のお守りつきでな。普段、こんなことはしてない。あくまで人が多いお祭りの期間だけだ——だが、それを使えることを把握し利用した」

 ユリウスは苦々しげに俺を睨みつける。……だが、決して俺の言葉を遮ろうとはしなかった。恐らくは、コイツも……

「変装した憲兵達は各所に配置されて見張っていた。だが、あれだけド派手だったピエロや黒マントは大広場での最初のショー以外、その居場所を確認されていない。違うか?」

 無言でユリウスは頷く。

 そもそもが疑問だったのだ。あの空中浮遊のための仕掛け。あれを施す為には多少は時間が掛かるはず。それが最低2ヶ所、恐らくは今回使用したポイント以外、他にも幾つかのポイントで罠のように仕掛けていた筈だ。俺たちが引っかかったのは事前に仕掛けられたポイントの内の1つに過ぎない筈。

 それだけ無数の仕掛けを憲兵隊の見張りに知られずに施すのは例え協力者がもっといたとしてもそれだけで見つからずに仕掛けるのは無理だ。だが、その見張りの配置が事前に分かっていたのなら、

「……内通者、か」

 ユリウスも感じてはいたのだろう。自身でその単語を吐き出す。

「ユークリッド少尉。……以前に私たちも、もしかしたら、と話したことがあったと思うわ——もしも、だけど。恐ろしいことだけど、この町の上層部が実はこのことを知っていたのだとしたら……」

 そう。憲兵隊の動きは筒抜けだ。

 ダンッ

 突然、ユリウスは固く握りしめた拳をそのテーブルに叩きつけた。

「……お前は、それを知って、オレにどうしろと……」
「俺のすることは一つだ。リアンを取り戻す。何があっても守る」

⭐︎⭐︎⭐︎
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

冤罪で断罪されたら、魔王の娘に生まれ変わりました〜今度はやりたい放題します

みおな
ファンタジー
 王国の公爵令嬢として、王太子殿下の婚約者として、私なりに頑張っていたつもりでした。  それなのに、聖女とやらに公爵令嬢の座も婚約者の座も奪われて、冤罪で処刑されました。  死んだはずの私が目覚めたのは・・・

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。

えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう 平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。 経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。 もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

処理中です...