『刻の輪廻で君を守る』

ぜのん

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05章『喧騒下のアブダクテッドな天使様』〈転〉

05章-05

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***05-05-10

 翌日、俺とレイチェルは前日に決めていた通り、憲兵隊本部に来ていた。

 中は慌ただしく、様々な人が駆け足で行き来している。2日目のオフィエル祭の警備ってだけではないのだろう。恐らくは今回の誘拐事件も関係しているのか。

 そんな中、知った顔を見つけ、声をかける。

「ユリウス少尉!」
「ん、……お前か。どうしてこんな所に!?」

 ……『お前』呼ばわりされる仲ではないと思うんだがな。

 ユリウスは隣のレイチェルにも目を向け眉を顰める。

「ちょっとこっちに……」

 俺たち2人は彼に引っ張られ、とある一室に押し込まれる。

 広くは無いがそれなりの机とテーブルにソファ。だが、周囲に無造作に置かれた鞘付きの剣や盾、鎧の一部が誰の部屋かをよく表している。執務室、の筈なんだろうがどうも汗臭さが漂う。

「サファナ判事、気持ちはわかるが今はこちらも時間に余裕が無いんです。また報告は後に」
「いや、話があるのは俺だ。レイチェルにはついてきてもらってるだけだ」
「何?」

 ユリウスは胡乱げに俺を見つめる。

「お前がオレに?」

 ……また『お前』って言うんかい。

 まぁ、そんなことを気にしている場合では無い。

「率直に聞こう。あの後、自分の担当——大通りを見張っていた部下達に確認した筈だな。『路地から大通りを、港へ向かう馬車がいなかったか』と」

 俺は単刀直入に切り込んだ。

「…………」
「更に聞いたはずだな? 『その馬車には酒樽が積まれて無かったか』とも」

 沈黙は答えを雄弁に語っていた。

 大通りは祭りで大勢の人だかりだった。だが、馬車や伝令馬など荷物の往来用にごく一部だけは人が入らない様に交通整理されていたのだ。

 そう、憲兵隊によって。

 ユリウスは、大きくため息をついて頭を振りかぶる。

「……今、自分の第12番憲兵隊を海外派遣させてくれないか交渉中だ。うまく行けば蒸気機関車を使って……」
「いや、許可は降りない」

⭐︎⭐︎⭐︎
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