『刻の輪廻で君を守る』

ぜのん

文字の大きさ
上 下
101 / 146
04章『喧騒下のアブダクテッドな天使様』〈承〉

04章-15

しおりを挟む
***04-15-06

 もう陽はほとんど地平線に落ちようとしていた。

 周囲の空き家の出入り口は例の袋小路にはなく、グルッと回らなければならない。その数も距離もかなりのものだが、ワイヤーの落ちていた位置から、その全てを探すのではなく、大体のあたりはつけていた。

 その内の一軒の家に立ち入る。

 壁も天井も、ほぼ崩れ落ちており、夕暮れ時の空が下から良く見える。

 何やら調理場らしき竈などの跡にボロボロのカウンター、へし折れたテーブルの数々。椅子の残骸らしきものが転がっている。

「……ここは10年前までは小さな酒場だったそうだ。夫婦で切り盛りしていたそうだが、どんどん経営が傾き10年前に夜逃げして以来、ここはこのまま、らしい」

 なぜか俺たちに付いてくるユリウスが解説してくれる。

 流石、役所の資料にもアクセスし放題なだけあって見ただけじゃ分かりっこないことまで教えてくれて、ありがとーですよ、クソ。

「? 少尉が教えてくれたのになんで不機嫌になるのよ、アッシュ?」

 いや、別に。

 関係ないのに俺らについてくるのが気に入らないとかそんな理由では……

「……リアンの捜索はどうなってるんだよ」
「言ったろう? 憲兵隊の内部情報は言えんと」

 俺らは関係者だぞ。ったく。

 奥にあった崩れかけのドアをくぐる。

 そこにあったのは、これまた同じくボロボロに崩れ果てた酒樽の数々。

「蔵、だったのね……」

 ごく僅かに無事な酒樽もあり、蓋を開けるも当然、中身は何も無い。

 10年前、だからなぁ。

 壁も天井も崩れ落ちつつあり、蔵であることを示すのはこれら酒樽の残骸ぐらい。

 その更に奥の扉を開けて出る。

「庭、かしら……」

 そこはちょっとした広場だった。レイチェルの言うように庭だったのだろうが、雑草が伸び放題に伸びている。

 ここにも幾つか酒樽の残骸が放置されており、どうもこの庭のある勝手口からも蔵に酒樽を運べる構造になっていたらしい。

 ほぼ陽は落ちきっており、俺たちの影が長く伸びていた。

 と、そこに別の憲兵が走ってくる。

⭐︎⭐︎⭐︎
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...