98 / 146
04章『喧騒下のアブダクテッドな天使様』〈承〉
04章-12
しおりを挟む麗夜たちと戦った公園、家族の思い出があった公園。
そこから作戦は始まった。
「僕の能力で遠くから見守るってことでいいんだよね」
「あぁ、マリーの奴には傷ついてるフリをしてもらう事になってる」
事前に幹部達へと正確な場所を伝え、数十分が経過していた。
亮人たちの影から無線機代わりのマリーのコウモリが顔を出し、周りの様子を伺っていた。
深夜の東京。
公園の修理は追いつかず、遊具は壊れたままの状態。
公園を照らすのは月夜の光だけ。
物陰に隠れるようにマリーは蹲っているような素振りを続ける。
空を見上げる亮人は小さく息を吐く。
白く靄が掛かるように飛んでいく白い息は次第に霧散し、消えていく。
体に羽織っているコートは皮膚を刺すような冷たい空気から身を守る。
袖から出る手へと伸ばされた礼火の小さな手に自然と握られる。
「寒いね……」
「そうだね」
見上げた空、その光景はこれから戦うとは思えない程に綺麗なものだった。
『これから戦うと思うと緊張するわね』
『シャーリーもドキドキしてきたよ』
「みんなで帰るからね」
「『『うん』』」
四人で空を見上げている、静かな時間は終わる。
「来たっ!!」
守護の視線の先、建物の屋上を駆けるように黒いマントの三人組がマリーのいる公園へと飛んでいく。
「俺らの出番はまだ後だ……今はマリーを信じて、後をつけるぞ」
亮人ら五人は麗夜の後についていく。
黒いマントの三人組が向かっていく方向へ。
♂ × ?
『お父様……必ず助けますわ』
静寂の中で口にする言葉は暖かくも、一瞬にして消え去る。
深夜の寒空の下、数十分の中で考え、思い出していた過去。
初めは残酷で哀しむしかなかった記憶。誰も信じられなかった十年間は心が常に冷たいような感覚があった。
城から投げ出された時の父親の表情。優しく微笑みかけた姿を鮮明に思い出すと目尻から一滴に涙が頬を伝っていく。
大きく呼吸を吸い、大粒の涙を拭うマリーは亮人たちが待機している方向へと視線を向ける。ただ、振り向いた時の表情は悲しげなものではなく、力強く不安を感じさせないものに変化していた。
『今日で終わらせますわ……』
胸の前で握り込まれる拳から流れる血は地面を濡らす。
「来たっ!!」
耳元から聞こえる守護の言葉に顔を上げる。
『やっと来ましたわね…………』
手のひらから滴る血は一瞬にして止まり、傷も瞬時に治る。
『お父様を返してもらいますわ……』
街灯もない公園の中、マリーの足元に広がる闇は形を持つように揺らめく。
足を引きずるような動作をしながら、歩く度に地面の影は水面のように波紋を広げていく。
物音が一切しない公園の中、それは唐突に始まる。
一瞬にしてマリーの横に現れた巨漢の男はマリーへ一振りの拳を入れた。
『ガッハっ!!』
予想以上の衝撃と共にマリーの体は地面を数回バウンドし、壁へとヒビを入れるほどに衝突する。
連続するように一瞬にして距離を詰めてくる巨漢は再び、マリーの顔面へと拳を叩き込む。
恐ろしい程の速度と威力に辛うじて避けたマリーは自分の影の中へと逃げ込み、一度距離を離した。
視線の先、マリーがいた壁はたった一振りの拳によって粉砕されていた。
「中々……すばしっこいな」
首の骨を鳴らす巨漢は大きく深呼吸をし、動きを止める。
『何を……休んでるんですの』
「……………………」
フードで見えない巨漢の表情。だが、息一つとして乱していない様子はマリーが想定していた以上のものであった。
油断してるつもりはなかったですけど…………ちょっとまずいかもしれませんわね。
胸を右手で押さえれば、肋骨が折れているのが分かる程だった。
「っつ!!」
「よそ見をしている暇はないですよ」
『っ!!』
耳元で囁かれた声と同時に、マリーの腕からは激痛が走る。
背中から翼を生やし、空へと逃げる。
視線を左手へと向ければ、爛れている皮膚がそこあった。まるで強酸で溶かされたかのように爛れた腕は痛々しい状態となっていた。
マリーの後ろに突如現れたガスマスクの男の腕は粘液が垂れるかのようにぶら下がっている。
「普通なら、これだけで踠き苦しむんですが…………いやはや、さすが貴族とでも言っておきますか、最後のヴァンパイア」
俯いていたガスマスクの男は勢いよくマリーへと視線を向ければ、液状の腕を勢いよく振り回し、液体を飛ばす。
散弾のように放たれた水滴を避けていくマリーだが、動かしていた翼は時間が止まったかのように動かなくなった。そして、マリーの体自体も空中で留まり続ける。
『なんで、動けないんですのっ!?』
驚愕が襲うと同時に動かない的となったマリーの体は細かい水滴が幾つも付着していき、皮膚を溶かしていく。
苦痛で歪む表情は声を押し殺す為に唇を噛み締める。
「空を飛べるのが貴方だけだと…………思わないでください」
箒に跨る女はマリーの首へと手を掛け、力を込める。
異常に細い女の腕に込められる力は見かけとは掛け離れた力がある。
『あんた達…………何なのよ』
「私たちは怪物たちを殺す者だよ」
「我々の悲願にお前が必要」
「だから、私たちは…………貴方を連れて行かないといけないの」
女は小さく何かを呟くと、巨漢がいる足元から鉄製の十字架が現れる。
身動きが取れないマリーは何かに固定されたように十字架へ磔はりつけられる。
巨漢は100kgを超えるであろう十字架を担げば、重さを感じさせない動きで走り去っていく。
三人は再び、静寂に包まれた闇夜の街へと消えていく。
ただ、マリーが不敵に笑っていることを知らずに。
そこから作戦は始まった。
「僕の能力で遠くから見守るってことでいいんだよね」
「あぁ、マリーの奴には傷ついてるフリをしてもらう事になってる」
事前に幹部達へと正確な場所を伝え、数十分が経過していた。
亮人たちの影から無線機代わりのマリーのコウモリが顔を出し、周りの様子を伺っていた。
深夜の東京。
公園の修理は追いつかず、遊具は壊れたままの状態。
公園を照らすのは月夜の光だけ。
物陰に隠れるようにマリーは蹲っているような素振りを続ける。
空を見上げる亮人は小さく息を吐く。
白く靄が掛かるように飛んでいく白い息は次第に霧散し、消えていく。
体に羽織っているコートは皮膚を刺すような冷たい空気から身を守る。
袖から出る手へと伸ばされた礼火の小さな手に自然と握られる。
「寒いね……」
「そうだね」
見上げた空、その光景はこれから戦うとは思えない程に綺麗なものだった。
『これから戦うと思うと緊張するわね』
『シャーリーもドキドキしてきたよ』
「みんなで帰るからね」
「『『うん』』」
四人で空を見上げている、静かな時間は終わる。
「来たっ!!」
守護の視線の先、建物の屋上を駆けるように黒いマントの三人組がマリーのいる公園へと飛んでいく。
「俺らの出番はまだ後だ……今はマリーを信じて、後をつけるぞ」
亮人ら五人は麗夜の後についていく。
黒いマントの三人組が向かっていく方向へ。
♂ × ?
『お父様……必ず助けますわ』
静寂の中で口にする言葉は暖かくも、一瞬にして消え去る。
深夜の寒空の下、数十分の中で考え、思い出していた過去。
初めは残酷で哀しむしかなかった記憶。誰も信じられなかった十年間は心が常に冷たいような感覚があった。
城から投げ出された時の父親の表情。優しく微笑みかけた姿を鮮明に思い出すと目尻から一滴に涙が頬を伝っていく。
大きく呼吸を吸い、大粒の涙を拭うマリーは亮人たちが待機している方向へと視線を向ける。ただ、振り向いた時の表情は悲しげなものではなく、力強く不安を感じさせないものに変化していた。
『今日で終わらせますわ……』
胸の前で握り込まれる拳から流れる血は地面を濡らす。
「来たっ!!」
耳元から聞こえる守護の言葉に顔を上げる。
『やっと来ましたわね…………』
手のひらから滴る血は一瞬にして止まり、傷も瞬時に治る。
『お父様を返してもらいますわ……』
街灯もない公園の中、マリーの足元に広がる闇は形を持つように揺らめく。
足を引きずるような動作をしながら、歩く度に地面の影は水面のように波紋を広げていく。
物音が一切しない公園の中、それは唐突に始まる。
一瞬にしてマリーの横に現れた巨漢の男はマリーへ一振りの拳を入れた。
『ガッハっ!!』
予想以上の衝撃と共にマリーの体は地面を数回バウンドし、壁へとヒビを入れるほどに衝突する。
連続するように一瞬にして距離を詰めてくる巨漢は再び、マリーの顔面へと拳を叩き込む。
恐ろしい程の速度と威力に辛うじて避けたマリーは自分の影の中へと逃げ込み、一度距離を離した。
視線の先、マリーがいた壁はたった一振りの拳によって粉砕されていた。
「中々……すばしっこいな」
首の骨を鳴らす巨漢は大きく深呼吸をし、動きを止める。
『何を……休んでるんですの』
「……………………」
フードで見えない巨漢の表情。だが、息一つとして乱していない様子はマリーが想定していた以上のものであった。
油断してるつもりはなかったですけど…………ちょっとまずいかもしれませんわね。
胸を右手で押さえれば、肋骨が折れているのが分かる程だった。
「っつ!!」
「よそ見をしている暇はないですよ」
『っ!!』
耳元で囁かれた声と同時に、マリーの腕からは激痛が走る。
背中から翼を生やし、空へと逃げる。
視線を左手へと向ければ、爛れている皮膚がそこあった。まるで強酸で溶かされたかのように爛れた腕は痛々しい状態となっていた。
マリーの後ろに突如現れたガスマスクの男の腕は粘液が垂れるかのようにぶら下がっている。
「普通なら、これだけで踠き苦しむんですが…………いやはや、さすが貴族とでも言っておきますか、最後のヴァンパイア」
俯いていたガスマスクの男は勢いよくマリーへと視線を向ければ、液状の腕を勢いよく振り回し、液体を飛ばす。
散弾のように放たれた水滴を避けていくマリーだが、動かしていた翼は時間が止まったかのように動かなくなった。そして、マリーの体自体も空中で留まり続ける。
『なんで、動けないんですのっ!?』
驚愕が襲うと同時に動かない的となったマリーの体は細かい水滴が幾つも付着していき、皮膚を溶かしていく。
苦痛で歪む表情は声を押し殺す為に唇を噛み締める。
「空を飛べるのが貴方だけだと…………思わないでください」
箒に跨る女はマリーの首へと手を掛け、力を込める。
異常に細い女の腕に込められる力は見かけとは掛け離れた力がある。
『あんた達…………何なのよ』
「私たちは怪物たちを殺す者だよ」
「我々の悲願にお前が必要」
「だから、私たちは…………貴方を連れて行かないといけないの」
女は小さく何かを呟くと、巨漢がいる足元から鉄製の十字架が現れる。
身動きが取れないマリーは何かに固定されたように十字架へ磔はりつけられる。
巨漢は100kgを超えるであろう十字架を担げば、重さを感じさせない動きで走り去っていく。
三人は再び、静寂に包まれた闇夜の街へと消えていく。
ただ、マリーが不敵に笑っていることを知らずに。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
【書籍化決定しました!】
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く異世界での日常を全力で楽しむ女子高生の物語。
暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移
龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。
え?助けた女の子が神様?
しかもその神様に俺が助けられたの?
助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって?
これが話に聞く異世界転移ってやつなの?
異世界生活……なんとか、なるのかなあ……?
なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン?
契約したらチート能力?
異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな?
ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない?
平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。
基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。
女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。
9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。
1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる