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間奏 00章『先んじるビタースウィートな初恋』
00章-12
しおりを挟む神殺しのテュルファング。
手にした者にチカラと引き換えに絶望の呪いを与える漆黒の剣。
これを腰に差して、わたしはギャバナのライト王子のもとへと向かう。
お願いして呪染対策チームを派遣してもらった手前、最低限の説明責任は果たしておこうと考えての行動。あとお世話になった以上は、きちんとお礼を言っておかなければね。
わたしは基本的にちゃんとしたえらい人には媚びへつらこともじさない女。
だから菓子折りを持っての表敬訪問。
「……話はだいたいわかった。そいつの所有権も認めよう。というかそんな物騒な品を置いて行かれてもこちらとしては迷惑だしな」ライト王子は言った。「それにしても健康スキルに思わぬ使い道が発覚したな。呪いの影響をまるで受けないのだから、そっち系統のアイテムを使い放題じゃないか」
呪いの武器、呪いの鎧、呪いの仮面、呪いの指輪、呪いのネックレスなどなど、各種呪いのアイテム。
この手の品々は高性能な反面、使用者に多大なリスクを負わせる。
だいたい調子がいいのは初めだけ。最終的には、とーっても悲惨な結末が待っているのがお約束。
しかしわたしであればリスクを負うことなく、全身を呪いグッズでコーディネートしたところで、心おきなく使用できるというわけさ。
はははは、ちっともうれしくないや。わたしはもっと普通のおしゃれの方がいい。
「とはいえ剣なんて扱えるのか? 撃つ殴る蹴る漁るが専門のおまえに」
せっかくの名刀も素人が握れば、その辺の木の枝とかわらない。
だからこそのライト王子のこの言葉。
そしてわたしの場合、剣は完全に門外漢。それは自分自身が重々承知をしている。
「そのへんのことも踏まえて、ちゃんと戦い方は考えてあるよ」
敵とテュルファングを手にして対峙。
カンカンカンとしばらく打ち合えば、相手も「あれ? 剣はやたらと立派だけど、こいつ、へっぽこ剣士だぞ」と気がつく。
頃合いを見計らってうっかり剣を手放すわたし。あわてて拾おうとするも自分のつま先にてこつんとカーリング。大事な相棒が敵の方へと向かい「あぁ、しまった!」
足下に転がってきた得物を見た敵。
「へっへっへっ、とんだマヌケめ」
これ幸いと武器を奪おうとする。
だがそれこそが恐ろしいトラップ。
なにせ神殺しの剣には手にした途端に発動する呪いがあるのだから。
うっかり手をのばしたが最後、すかさず人生坂をごろごろと転げ落ちていく。バッドエンドに向かって一直線。
……といったような使い道を得得と説明したら、ライト王子は「なんてイヤらしい戦法なんだ」「戦うことになる相手が気の毒すぎる」と顔をしかめる。
「でもそれだけ悲惨な目にあったら、逆に自棄になって暴れたりしないか」
辛すぎて人生に悲観。絶望のあまりキレて凶行に走ることを懸念するライト王子。
その心配はごもっともながら、やはり問題なし。
なぜなら暴れたくとも腰がぎっくり状態にて、まともに動けやしないからだ。うっかり剣を手にリキもうならば、とたんにお尻の爆弾が破裂する。
なによりウツウツした気分のせいでやる気が出ない。「もう、なんか、どうでもいいや」と投げやりになり無気力にて万年床でグッタリ。そして枕元の抜け毛の多さに恐れおののく。
うん。改めて口に出して説明してみると、じつにヒドイ話だな。なんという負のスパイラル。
神殺しの呪い、おそるべし。
「もういい、わかった。だからとりあえずソイツをこっちに近づけんな」
「心配しなくてもだいじょうぶだよ。テュルファングにはわたしの許可ナシには呪いを発動しないようにと、よーく言い含めてあるから」
呪いの使用制限。
それこそわたしが神殺しのテュルファングに課した降伏の条件。
ちなみにルーシーが課した条件は研究協力。
なにせいろいろと問題がある剣ではあるものの、激レア素材の神鋼造りであることにはちがいない。青い目のお人形さんは貴重なサンプルとしておおいに役立てるつもりのようだ。「べつにきさまが生きてようが死んでようがワタシはどちらでもかまわない」とルーシーに言われて、テュルファングが「ひぃぃ」と悲鳴をあげる。これにより序列が完全に確定した。
彼の加入によって飛躍する魔導科学。
リンネ組はますますの発展を遂げることであろう。
そんなことをぽわぽわ妄想していたら、ライト王子がある提案を口にする。
「それはともかくとして、なんならウチが所蔵している呪いの品を見てみるか? 気に入ったのがあったら適当に持っていってかまわんぞ。保管していても百害あって邪魔なだけだし。有効利用できる者がいるのならば、そいつが活かすべきであろう」
タダでいいぞとか、めずらしく太っ腹なこと仰る王子さま。
これさいわいと面倒なお荷物をわたしに押しつける気だ。
だがみんなにとっては邪魔な品でもわたしにとってはそうではないので、ここはお言葉に甘えてみることにした。
ギャバナの王城敷地内、隔離された区画にある半地下の倉っぽい建物。
ここがいわくつきの呪いの品を集めた専用の倉庫。
ライト王子の好意? によってここに足を運んだわたしとルーシー。
陽炎のごとくゆらめく妖気。建物全体に何重にも呪染対策がみっちり施されているという話だが、わたしの目にはむしろ建物自体が収蔵品の影響を受けて、呪われてしまっているかのように映る。
「ある意味、そういうことなのでしょう」
「?」
「呪いを弾き返す呪い。呪いを封じる呪い。方向性がちがうだけで、中味は同じようなものですから」
ルーシーの説明に「うーん」と首をかしげつつも、わたしは建物の扉の取っ手を掴む。
横にスライドする大扉。けっこうな重さにて、おもわず「うんとこどっこいしょ」と言ってしまった。
建物内部には薄っすらと表面にホコリが積もったショーケースが整然と並んでおり、中には短剣、長剣、指輪に冠、ネックレスや髪飾りなどのアクセサリー類に、宝石がごてごて付いたベルトやら小物入れなどがずらり。
壁沿いのケースには鎧や鎖帷子、ドレスに調度品などの比較的大きな品が陳列されてある。
どいつもこいつもいわくありげのドヤ顔にて、じつに堂々たる呪われっぷり。
すべての品にはご丁寧にも説明書きが添えられてある。これはありがたい。
「はてさて、なにか使えそうな品はあるかなぁ。えーと、この短剣はモテるけどどこまでいってもいいひと止まりか。こっちの髪飾りはダイエット効果が期待できるけれども背中に毛がわさわさにて耳毛も生えてくると、なんか処理がたいへんそう」
「絶交のイヤリングなんてものもありますよ、リンネさま。なんでも異性にモテモテだけれども同性から蛇蝎のごとく嫌われるみたいです。女同士の友情か男との愛情か、これはとてもデリケートなところをついてきますね」
主従にて目を皿のようにして品物を物色すること三時間。
ろくでもないエピソード満載なグッズの数々。その中から最終的にわたしが選んだのは、細いチェーンにてネックレスのように首から下げられる指輪。
なんら装飾が施されていないシンプルな造りの銀製品。
これは、身につけていると金運がちょっぴりアップするかわりに、恋愛運がダダ下がりするというシロモノ。大人しそうな見た目に反して、愛と金の二択を迫るとか地味にえぐい。
何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。
いささか交換レートに首を傾げるものの、対価を支払うという観点は至極真っ当なような気もする呪法の世界。
とはいえ、やたらと恋愛運を犠牲にする品が多いような気がするのだけれども……。
「いつの世も色恋絡みの悩みは尽きないということなのでしょう。もっとも身近にて強烈な呪力が発生しやすい案件ですので」とルーシーさん。
青い目のお人形さんから、ためになるようなならないような、そんなお話を拝聴しつつ倉庫漁りは終了。
最後にライト王子に挨拶してから引き上げるかと、城内の廊下をトテトテ歩いていたら、前方の床にて何やらキラリと光るものを発見!
すかさず近寄ってみたらコインが落ちてたよ。さっそく呪いのアイテムの効果発動。なんてこったい、すごい効き目じゃないか。これさえあれば一生、小銭に不自由しないですむぞ。
拾ったコインを手に、「うひょー」と浮かれるわたしを尻目にルーシーがぷつぷつつぶやく。
「コイン一枚拾得するのに支払う対価。推定にておおよそ恋愛運十。ちなみに最大値百ですので交換レートとしては、かなりのぼったくり」
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