79 / 146
間奏 00章『先んじるビタースウィートな初恋』
00章-10
しおりを挟む神殺しのテュルファング。
手にした者にチカラと引き換えに絶望の呪いを与える漆黒の剣。
これを腰に差して、わたしはギャバナのライト王子のもとへと向かう。
お願いして呪染対策チームを派遣してもらった手前、最低限の説明責任は果たしておこうと考えての行動。あとお世話になった以上は、きちんとお礼を言っておかなければね。
わたしは基本的にちゃんとしたえらい人には媚びへつらこともじさない女。
だから菓子折りを持っての表敬訪問。
「……話はだいたいわかった。そいつの所有権も認めよう。というかそんな物騒な品を置いて行かれてもこちらとしては迷惑だしな」ライト王子は言った。「それにしても健康スキルに思わぬ使い道が発覚したな。呪いの影響をまるで受けないのだから、そっち系統のアイテムを使い放題じゃないか」
呪いの武器、呪いの鎧、呪いの仮面、呪いの指輪、呪いのネックレスなどなど、各種呪いのアイテム。
この手の品々は高性能な反面、使用者に多大なリスクを負わせる。
だいたい調子がいいのは初めだけ。最終的には、とーっても悲惨な結末が待っているのがお約束。
しかしわたしであればリスクを負うことなく、全身を呪いグッズでコーディネートしたところで、心おきなく使用できるというわけさ。
はははは、ちっともうれしくないや。わたしはもっと普通のおしゃれの方がいい。
「とはいえ剣なんて扱えるのか? 撃つ殴る蹴る漁るが専門のおまえに」
せっかくの名刀も素人が握れば、その辺の木の枝とかわらない。
だからこそのライト王子のこの言葉。
そしてわたしの場合、剣は完全に門外漢。それは自分自身が重々承知をしている。
「そのへんのことも踏まえて、ちゃんと戦い方は考えてあるよ」
敵とテュルファングを手にして対峙。
カンカンカンとしばらく打ち合えば、相手も「あれ? 剣はやたらと立派だけど、こいつ、へっぽこ剣士だぞ」と気がつく。
頃合いを見計らってうっかり剣を手放すわたし。あわてて拾おうとするも自分のつま先にてこつんとカーリング。大事な相棒が敵の方へと向かい「あぁ、しまった!」
足下に転がってきた得物を見た敵。
「へっへっへっ、とんだマヌケめ」
これ幸いと武器を奪おうとする。
だがそれこそが恐ろしいトラップ。
なにせ神殺しの剣には手にした途端に発動する呪いがあるのだから。
うっかり手をのばしたが最後、すかさず人生坂をごろごろと転げ落ちていく。バッドエンドに向かって一直線。
……といったような使い道を得得と説明したら、ライト王子は「なんてイヤらしい戦法なんだ」「戦うことになる相手が気の毒すぎる」と顔をしかめる。
「でもそれだけ悲惨な目にあったら、逆に自棄になって暴れたりしないか」
辛すぎて人生に悲観。絶望のあまりキレて凶行に走ることを懸念するライト王子。
その心配はごもっともながら、やはり問題なし。
なぜなら暴れたくとも腰がぎっくり状態にて、まともに動けやしないからだ。うっかり剣を手にリキもうならば、とたんにお尻の爆弾が破裂する。
なによりウツウツした気分のせいでやる気が出ない。「もう、なんか、どうでもいいや」と投げやりになり無気力にて万年床でグッタリ。そして枕元の抜け毛の多さに恐れおののく。
うん。改めて口に出して説明してみると、じつにヒドイ話だな。なんという負のスパイラル。
神殺しの呪い、おそるべし。
「もういい、わかった。だからとりあえずソイツをこっちに近づけんな」
「心配しなくてもだいじょうぶだよ。テュルファングにはわたしの許可ナシには呪いを発動しないようにと、よーく言い含めてあるから」
呪いの使用制限。
それこそわたしが神殺しのテュルファングに課した降伏の条件。
ちなみにルーシーが課した条件は研究協力。
なにせいろいろと問題がある剣ではあるものの、激レア素材の神鋼造りであることにはちがいない。青い目のお人形さんは貴重なサンプルとしておおいに役立てるつもりのようだ。「べつにきさまが生きてようが死んでようがワタシはどちらでもかまわない」とルーシーに言われて、テュルファングが「ひぃぃ」と悲鳴をあげる。これにより序列が完全に確定した。
彼の加入によって飛躍する魔導科学。
リンネ組はますますの発展を遂げることであろう。
そんなことをぽわぽわ妄想していたら、ライト王子がある提案を口にする。
「それはともかくとして、なんならウチが所蔵している呪いの品を見てみるか? 気に入ったのがあったら適当に持っていってかまわんぞ。保管していても百害あって邪魔なだけだし。有効利用できる者がいるのならば、そいつが活かすべきであろう」
タダでいいぞとか、めずらしく太っ腹なこと仰る王子さま。
これさいわいと面倒なお荷物をわたしに押しつける気だ。
だがみんなにとっては邪魔な品でもわたしにとってはそうではないので、ここはお言葉に甘えてみることにした。
ギャバナの王城敷地内、隔離された区画にある半地下の倉っぽい建物。
ここがいわくつきの呪いの品を集めた専用の倉庫。
ライト王子の好意? によってここに足を運んだわたしとルーシー。
陽炎のごとくゆらめく妖気。建物全体に何重にも呪染対策がみっちり施されているという話だが、わたしの目にはむしろ建物自体が収蔵品の影響を受けて、呪われてしまっているかのように映る。
「ある意味、そういうことなのでしょう」
「?」
「呪いを弾き返す呪い。呪いを封じる呪い。方向性がちがうだけで、中味は同じようなものですから」
ルーシーの説明に「うーん」と首をかしげつつも、わたしは建物の扉の取っ手を掴む。
横にスライドする大扉。けっこうな重さにて、おもわず「うんとこどっこいしょ」と言ってしまった。
建物内部には薄っすらと表面にホコリが積もったショーケースが整然と並んでおり、中には短剣、長剣、指輪に冠、ネックレスや髪飾りなどのアクセサリー類に、宝石がごてごて付いたベルトやら小物入れなどがずらり。
壁沿いのケースには鎧や鎖帷子、ドレスに調度品などの比較的大きな品が陳列されてある。
どいつもこいつもいわくありげのドヤ顔にて、じつに堂々たる呪われっぷり。
すべての品にはご丁寧にも説明書きが添えられてある。これはありがたい。
「はてさて、なにか使えそうな品はあるかなぁ。えーと、この短剣はモテるけどどこまでいってもいいひと止まりか。こっちの髪飾りはダイエット効果が期待できるけれども背中に毛がわさわさにて耳毛も生えてくると、なんか処理がたいへんそう」
「絶交のイヤリングなんてものもありますよ、リンネさま。なんでも異性にモテモテだけれども同性から蛇蝎のごとく嫌われるみたいです。女同士の友情か男との愛情か、これはとてもデリケートなところをついてきますね」
主従にて目を皿のようにして品物を物色すること三時間。
ろくでもないエピソード満載なグッズの数々。その中から最終的にわたしが選んだのは、細いチェーンにてネックレスのように首から下げられる指輪。
なんら装飾が施されていないシンプルな造りの銀製品。
これは、身につけていると金運がちょっぴりアップするかわりに、恋愛運がダダ下がりするというシロモノ。大人しそうな見た目に反して、愛と金の二択を迫るとか地味にえぐい。
何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。
いささか交換レートに首を傾げるものの、対価を支払うという観点は至極真っ当なような気もする呪法の世界。
とはいえ、やたらと恋愛運を犠牲にする品が多いような気がするのだけれども……。
「いつの世も色恋絡みの悩みは尽きないということなのでしょう。もっとも身近にて強烈な呪力が発生しやすい案件ですので」とルーシーさん。
青い目のお人形さんから、ためになるようなならないような、そんなお話を拝聴しつつ倉庫漁りは終了。
最後にライト王子に挨拶してから引き上げるかと、城内の廊下をトテトテ歩いていたら、前方の床にて何やらキラリと光るものを発見!
すかさず近寄ってみたらコインが落ちてたよ。さっそく呪いのアイテムの効果発動。なんてこったい、すごい効き目じゃないか。これさえあれば一生、小銭に不自由しないですむぞ。
拾ったコインを手に、「うひょー」と浮かれるわたしを尻目にルーシーがぷつぷつつぶやく。
「コイン一枚拾得するのに支払う対価。推定にておおよそ恋愛運十。ちなみに最大値百ですので交換レートとしては、かなりのぼったくり」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する
真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
冤罪で断罪されたら、魔王の娘に生まれ変わりました〜今度はやりたい放題します
みおな
ファンタジー
王国の公爵令嬢として、王太子殿下の婚約者として、私なりに頑張っていたつもりでした。
それなのに、聖女とやらに公爵令嬢の座も婚約者の座も奪われて、冤罪で処刑されました。
死んだはずの私が目覚めたのは・・・
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。
※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。
※2020-01-16より執筆開始。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる