『刻の輪廻で君を守る』

ぜのん

文字の大きさ
上 下
70 / 146
間奏 00章『先んじるビタースウィートな初恋』

00章-01

しおりを挟む
 
 深い井戸のような、長いトンネルのような真っ暗な場所を、猛烈な勢いにて引っ張られるようにして落ちていく。
 遠ざかる入り口はすぐに点となって見えなくなった。
 ここで景色が一変。
 急に視界がひらけたと思ったら、そこは空の上。
 眼下に広がる真っ赤な大地へとスカイダイビングの真っ最中。
 そんなわたしのカラダにのびてきたのは富士丸くんの手。
 彼はそっとわたしの身をつかむと、すぐさま背中のロケットを点火。
 おかげでことなきを得たわたしたちは、そのまま地表へと降り立つ。
 見渡すかぎりの赤さび色の荒涼地帯。土も空気も風も、何もかもが乾いている。
 雰囲気がどことなく富士丸の亜空間に似ている。
 天を見上げるも自分たちが落ちてきたとおぼしき箇所はどこにも見当たらない。
 おそらくはあの石のヒョウタンの中にとり込まれたのだろうけれども……。

「どれ、人形召喚! おいでませ。たまさぶろう」

 ちょっと格好よく言ってみたけれども、反応はなし。
 富士丸にも自分の亜空間へ行けるか試してもらったけど、こちらもダメ。
 まいったね、こりゃあ。どうやらここは外部から完全に隔絶された場所らしい。
 となると、ルーシーたちとわたしとの間のエネルギー供給回線がどうなっているのかが気になるところ。抜け目のないルーシーのことだから、不測の事態に備えて備蓄はしているだろうけれども、それとてもいつまでもつかわからない。
 わたし発電のクリーンエネルギーにて回っているリンネ組やその周辺にとって、歩く電源であるわたしの身柄こそが肝要。
 青い目をしたお人形さんもつね日頃から「リンネさまは余計なことはしなくていいから、ただ健やかでいて」と口をすっぱくして言っていたっけか。
 ムムム、これはマズいね。急いで外に帰る算段をつけないと。もたもたしていたら怒られちゃうよ。
 珍しく己の脳細胞を使い、うんうん唸っていたら富士丸がある方向を指し示す。
 荒野を渡った先にある山。
 そこには城らしきものの姿が見えている。

「建物があるってことは、ここには何者かがいるってことか。とりあえず行ってみようか」

 富士丸くんの手の平にのって、ギューンとお空をゆく。
 ずんずんと近寄って来る山のお城。岩肌を削ったりくりぬいて作ったような野趣たっぷりな造り。

「あら、けっこう大きな山城。おーい、誰かいませんかー」

 わたしが声をかけたら奥から聞こえてきたのは、カサカサという音。
 その音を耳にしたとたんに、背中にゾクリと悪寒が走る。
 これは……、なにやら聞き覚えがあるような。
 台所の片隅とか、お風呂場の片隅とか、部屋の片隅とか。
 見つけた人を阿鼻叫喚へと誘うは黒くテカるボディ。
 不快度指数と血圧を急上昇させる憎いあんちくしょう。

「ちっ、よもやこんなところで『Gの戦慄』と遭遇するハメになるなんてね」

 昆虫型のハイボ・ロードがいる以上、その可能性が十分にあり得ることにはとっくに気がついていたさ。でもあえて考えないようにしていたんだ。
 もちろん相手がいかにソレからの進化系であろうとも友好的な種族であれば、わたしは偏見を捨てて手をとりあって誼を結ぶ所存であった。
 だが城の中からゾロゾロと溢れ出てきた連中からは、品性の欠片すらも認められない。
 それどころか念話にてこちらの脳裏に届くは「喰いたい」という一念のみ。
 なんとも旺盛な食欲にて本能全開。
 あー、これは意志の疎通は無理だね。
 しかも鬼メイドのアルバよりも一回りデカい「Gの戦慄」とか、とんだ悪夢だよ。
 映画公開されたら失神者続出にて、即上映禁止処分をくらうであろう大迫力の光景。
 健康スキルによる神鋼精神でなかったら、わたしとてどうなっていたことか。
 まぁ、だからこそ何者かの手によって石のヒョウタンの中に封じられていたのかもしれないけど。

 ついに辛抱たまらんとばかりに、連中がワラワラと向かって来たので、わたしは左人差し指型マグナムをズドンと放ち、先頭の一匹の脳天を打ち抜く。
 車が派手に横転するかのごとくカラダがはずみ、黄色い体液が血飛沫となりて舞い散る。
 これが開戦の合図となって、これより地獄の大乱戦が幕を開けた。
 はじめは空の上から一方的に射撃を展開しようかとおもったけれども、連中にもツバサがあることを思い出してヤメる。
 ぶーんとこっちに向かってくる姿はちょっと見たくないもの。
 富士丸の眼がピカっとして光線が一閃。爆発大炎上する大地。吹き飛び爆散する無数の敵影。だがそれでも怯まずに突っ込んでくる連中を、富士丸の肩の上からわたしがバンバン右の中指マシンガンで掃射し、左腕から発射されるロケットランチャーで蹴散らす。

「遠慮はいらないよ! 存分にやっちゃって、富士丸」
「ウンガー」

 日頃は何かとチカラを抑えることを強要されてばかりいる異形の巨人。
 しかしここでは遠慮は無用だろう。いちおう隔絶された空間みたいだし、きっと大丈夫。
 だから「好きにやっちゃえ」と許可を出す。
 嬉々としてロケットパンチを放つ富士丸。なんだかよくわらないが金色に輝く拳が飛んでいき、バチバチの火花とプラズマが大量発生。視界を埋め尽くし、敵勢力をなぎ倒し粉砕していく。ついでに大地もゴリゴリ削れていく。
 そしてわたしもこれまで「こいつはちょっとヤバすぎてダメかなぁ」と考えて、使用を自主的に控えていた武器を解禁。
 左膝を立てる形にてしゃがみ込むと、膝の頭がパカンと開いてジャキンと姿をあらわしたのは小型の砲塔。見た目はちょっとずんぐりむっくり。それこそいつの時代の兵器だよと言いたくなるようなレトロ具合。しかしその実態はわたしの魔力を攻撃へと転化して放つ魔導砲なる武器。ちなみに連射こそはできないけれども、魔力を込めれば込めるほどに威力が増していく。

「エネルギー充填はえーと、とりあえず三十ぐらいにしておくか。では、ファイヤー」

 ほんの様子見にて初弾は軽くすませるつもりだった。
 だけれどもいざ攻撃を放とうとした瞬間に「あっ、これマズい」と本能が警鐘をガンガン鳴らしたもので、わたしはすぐさま「富士丸っ、しっかり押さえて!」と叫ぶ。
 あわてて富士丸がわたしの体をその大きな手で器用に掴み支える。
 ほぼそれと同時に放たれた一撃は、神の怒りか、悪魔の咆哮か。
 世界を破滅させるに足る禍々しい蒼光が敵勢もろとも、背後の城、山、それどころか大地に空をも割って、ついには次元の壁をもパリンとぶち抜いた。

 リンネが魔導砲をぶっ放したのと同時刻。
 岩山から発掘されたナゾの巨大ヒョウタン。その内部にのみ込まれたとおぼしき富士丸とリンネの身を案じて、対象の調査検分をしていたルーシーと分体たちは、何やらイヤな気配を感じて、総員が即座に現場を離脱。
 直後にヒョウタンの表面に無数の亀裂が入ったかとおもえば、内部からとんでもないエネルギー量の光線が飛び出してきたからたまらない。
 斜め上空へと突き抜けていった光の奔流。
 空の厚い雲を突破、風穴を開け消し飛ばし、更に飛んで、ついには星の海へ。三千世界の彼方にてキラリ一番星となる。
 一方地上の発射現場はまるで一度に何十ものロケットをまとめて発射したかのような灼熱の風が吹き荒れ、稲妻の嵐が轟々と渦をまき、しっちゃかめっちゃか。
 それがようやく収まったあと。
 ごっそりすり鉢状に抉れた穴の中心部。
 半ば瓦礫に埋もれるような格好にて、コテンとひっくりかえっていたのは、富士丸とわたしことアマノリンネ。
 わたしたちの姿を見つけて駆け寄って来るルーシーズ。
 ムクリと起きて、それをぼんやりと眺めながらわたしが「魔導砲は封印だね」とつぶやくと、富士丸が小刻みに震えながら、コクコク頷いて同意した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...