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第一巻

巨大生物の謎 第7話 その2

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異邦のほし
第一巻 巨大生物の謎

漆.

 日が沈んで空は暗くなり、怪獣は自衛隊に包囲されて、進路を塞がれていた。奴の百メートルの黒い巨体は、艦隊の照明を浴びており…

 自衛隊軍と怪獣の睨み合いが続くが、ついに戦いの火蓋が切られようとしていた。

「…目標が第一防衛ラインに達した、攻撃用意!」
 東城は統合幕僚長の指示に対して、静かに頷いた。彼はオペレーションルームのモニター越しで、険しい顔を浮かべて、白森率いる<バック・クラウド>も緊迫感に包まれていた。
 
まず、現場の戦闘機部隊が美しい隊形を描き、じっとしている怪獣を煽る。そして、一斉に上空から重火器の雨を降らせた。
 有人機と無人機が入り混じり、怪獣の咆哮が鳴り響く。
「弾幕を張れ!ミサイル発射を許可する!」
 航空自衛隊部隊は攻撃を続けて、火力が倍増していった。が…それでも怪獣の動きは緩まなかった。

「何だ…どうした?」
 怪獣との交戦中、何やら異変が起きた。突然、戦闘機にトラブルが発生して、司令部の東城たちは思わず口を開く…

「…により、有人・無人両機の通信・制御不能です」
「まさか…奴の仕業か?」
 東城の勘は当たっていた。怪獣は妨害電波ジャマ―を発する能力があった。よって、その影響で戦闘機がただの鉄の塊となり、呆気なく海中に墜落していく。
 怪獣に接近する艦隊にも影響を与えて、計器が故障する事態となる。戦況は明らかに怪獣側が有利だった。

「…一旦、退くんだ、白森…」「了解」
 東城は冷静に判断して、白森は上官《かれ》の指示に従った。
怪獣側が優勢の中、自衛隊側の〝切り札〟の力が試される。
「…標的は厄介な能力を使う、注意を払って任務に従事しろ」
「了解…慎重に行動…接近する」
<バック・クラウド>は、出撃中の≪朱雀壱号機改≫パイロットに的確な指示をした。その結果…

「…機体に問題は?」
「どうやら大丈夫みたいです…」
 怪獣の妨害電波攻撃は、≪朱雀壱号機改≫に効果は無かった。本機は特殊装甲の素材に覆われており、妨害電波を遮断する機能ちからがある。

「…威嚇射撃を開始する」
≪朱雀壱号機改≫パイロットは、装備された機関砲を連射した。あくまで牽制・威嚇で、怪獣のダメージは望まれない。ただ、前壱号機より機動性が上回っており、奴の核熱光線を簡単に回避していた。

「…その調子だ、陽動している間、出撃部隊の態勢を立て直すんだ」
 東城はかすかなチャンスを見逃さず、怪獣侵攻をどうにか防ごうと躍起になっていた。そして…

≪朱雀壱号機改≫は、怪獣をある区域ばしょまで誘導した。そこには≪朱雀弐号機≫が待機しており、合流地点だった。

「≪朱雀弐号機≫全システム起動…攻撃開始」
<バック・クラウド>は≪朱雀弐号機≫を遠隔操作して、怪獣迎撃を始めようとした。
 本機には、左右対称長距離射程の大砲(二門)が装備されており、怪獣が射程に入ると、砲身がまばゆく光りだした。囮役の≪朱雀壱号機改≫は、命令で一旦離脱して…

≪朱雀弐号機≫は、主要武器の〝ロングレンジ・プラズマランチャー〟を怪獣に目がけて発射した。

「目標に命中…距離を保って行動を続行せよ」
<バック・クラウド>は≪朱雀弐号機≫の攻撃力を期待せず、怪獣の反応を窺った。奴は本機の砲撃で海中に沈んでいくが…

「≪朱雀≫二機は怪獣の特殊電波うらわざに耐えられる…ひとまず安心だな」
「戦闘データ記録…奴の放射能レベルを測定中です」
「勝てない相手じゃない…奴の好きにさせるな!」
 東城の気合の一声で、オペレーションルームの士気が高まっていった。
 怪獣は海中から起き上がり、≪朱雀≫二機に対して、敵意を剥き出しにした。自衛隊と怪獣の戦いはまだ始まったばかりである。
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