キケンなバディ!

daidai

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付録・短編

第19話 後編

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44 けがれた黄金
最終章 結締めの雫



 居城<キャッスル・アイランド>を失ったウォルターは神戸のある場所に潜んでいた。神戸港臨海地域は再開発計画が決行されていたが、予定より遅れており、閉鎖された貨物駅や廃工場が放置されている荒れ果てた土地であった。ウォルター一味はそこを巣窟にした。
 新たなウォルターの居城〝ウォルター要塞〟には、<キャッスル・アイランド>のような一晩中楽しめる娯楽や快適なVIPルームはない。おまけに電気や水道が通っておらず、不便さが極まりない。ウォルターは達洋のせいで痛い目に遭っており、機嫌を損ねているかと思われたが…

 ウォルターは手下を集めて、次なる策略を練ろうとしていた。
「今夜は何かと災難アクシデントがあったが、気持ちを切り替えて行動しなければならない」
「………」
 ウォルターは冷静だが、内心は怒りに燃えている。彼の手下には重い空気が伸し掛かっていた。
「明朝八時、ここに探偵がやって来る、丁重に歓迎してやるんだ」
「奴は警察と繋がっているという情報が…一人で来るでしょうか?」
「さあな、どう打って出るか楽しみだ」
 ウォルターは警戒している側近の前で、不敵な笑みを浮かべた。彼にはまだ余裕があるようだ。
 一夜明ければ、達洋とウォルターの取引が開始される。予定時間は刻々と迫り…

 達洋は隠れ家の倉庫で隠し持っていた銃器、弾薬に触れていた。彼はあまり睡眠をとっていない。緊張、不安、恐怖、苦悩、興奮、あらゆる気持ちが入り混じり、ぐっすり寝る暇はなかった。
「……ふう」
 達洋は控えていた煙草に火をつけて一服していた。彼は煙草とインスタントコーヒーで気を紛れさせて、出かける準備に取り掛かった。
 その一方で…

 達洋の探偵事務所の前に人影があった。彩友は達洋と夏女のことが心配になり、早朝に訪ねてきていた。彼女は呼び鈴を鳴らしたり、ノックをするが…

達洋タツさん、夏女ちゃん…」
 彩友は住人の反応がないため、仕方なく去っていった。
「………」
 夏女は自室で引き篭もった状態で、彩友の来訪を無視して居留守を使っていた。彼女は達洋が説得に応じなかったことにショックを受けて、精神が病んでいた。
 達洋と夏女の関係は溝が深まる一途を辿っており、その日は二人にとって運命を決定づける日となった。

 達洋は険しい表情で愛車フォード・マスタングを運転して、ウォルターが待つ神戸港臨海地域へと向かった。
「…奴が来ました、一人のようです」
「勇ましいじゃないか、温かく出迎えてやろう」
 ウォルター一味は所定の位置について、達洋を監視していた。

「……!」
 達洋は廃工場が密集した区域で。ウォルターたちの気配に気づいた。達洋の監視役は武装して、じっと息を殺していた。廃工場周辺は不穏な空気が漂っており…

達洋は愛車から降りて、取引相手との接触を試みた。
「グッモーニン、よく来たな」
 達洋の眼前には、大勢の手下を従えたウォルターの姿があった。
「約束通り一人で来てやった、取引と行こうか」
「そうくな…仮装の趣味が?西部劇が好きなのか?」
 緊張感が高まる中、ウォルターは達洋の服装ファッションを揶揄した。
「自慢の衣装でね…あんたの国の映画は最高だ」
「私も日本の…時代劇が好きだ」
 達洋たちは雑談をしてから本題に入ろうとした。

「…品はちゃんと持ってきたんだろうな?」
 ウォルターがそう言うと、達洋は上着のポケットから、黒革の手帳を取り出した。
昨夜きのうは悪かったな、俺のせいでもう店じまいだろう?」
「私のドル箱の一つを潰しただけで良い気になるな、その手帳があれば、元が取れる」
「この手帳には散々振り回されてきたが、依頼人きゃくの戦利品だ、手放すのが惜しい」
「タダでとは言わない、そのための取引だ」
 ウォルターは手下に命じて、あるものを用意した。手下が持ち運んでいるのはジェラルミンケースであった。
「そいつは?」
「今までのことは水に流そう、だ」
 ジェラルミンケースの中には大量の札束が納められていた。
「この金は俺に?」
「ドルの価値が下がっているため、換金するとかさばったが…およそ一億ある」
「本当に貰えるのか?」
 達洋は札束を目にして、動揺が隠せなかった。
「その手帳は用意した金以上の値打ちがある、渡してもらおうか」
「………」
 達洋は手が届く大金で目がくらんで、究極の選択を迫られた。彼は黒革の手帳を手放す決断をした。

「人間は欲が絡むと実に弱いな、これで商談成立と思うか?」
「何だと?」
 ウォルターが黒革の手帳を手に入れると、その場の状況は一変した。達洋は武装したウォルター一味に包囲された。
「確かに手帳は受け取った…だが、ここで大人しく帰すわけにはいかない、君は我々のことを知りすぎた、覚悟してもらう」
「やはり、絶体絶命は避けられないか…」
 達洋は苦笑して、危機を受け入れようとした。さらに…

「………ふう…ふう」
 ウォルター要塞には何かが棲みついていた。それは達洋の命を狙っており、脅威の存在であった。ここで達洋の最期の戦いが始まろうとした。
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