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付録・短編
第8話 後編
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44 けがれた黄金
第二章 追われる男と匿う女
4
「私たちを乗せて何処に?」
「うちの事務所だよ、そこの方が安全だ」
「もう手が回っていたのね、危なかったわね、お二人さん」
「…その大事そうに持っている鞄に例の金が入っているのか?」
「ええ…」
その時、洸は何か思い詰めているようで、達洋は彼の様子を気にしていた。
「………」
達洋の愛車の背後には、一台の不審車が走行していた。それは尾行車で、一定の距離を保っていた。達洋は運転しながらバックミラーに映るものに神経を集中させた。彼はいつでも尾行車を撒く自信はあった。
車や人の量が増えていくと、尾行車の姿は見なくなり、達洋たちは無事に事務者に辿り着いた。
「二階の空き部屋で休むといい、自由に使ってくれ」
「お世話になります」
達洋は事務所の住居スペースを依頼人たちに提供した。ちなみに、家賃を請求するつもりはないようだ。
「一階に食事をする場所とお風呂場があります」
夏女は事務所の案内役を担って、水葉は興味津々で、彼女についていくが…
「二階は俺が案内しよう…」
「はあ…」
達洋は、緊張が解れていない洸と絡もうとした。
「彼女の住居の方が居心地良かったかもしれんが、我慢してくれ」
「そんな…すみません、迷惑ですよね?」
「迷惑なのは俺らじゃなくて、彼女だろ?よく匿ってくれたな」
「ええ…水葉と会っていなかったらどうなっていたか…」
「小学校の時の友達なんだってな…」
「親しいわけじゃないですが…彼女は人気者で、虐められていた僕をよく助けてくれました…」
洸は恩人の水葉のことを想うと、自然と表情が和らいでいった。
「成程…大人になっても妙な絆で結ばれているわけだ、ところで…」
「達洋、入っていい~?」
達洋が何か言いかけた時、夏女の声が覆いかぶさった。
「何か用か?」
「夕飯の買い物に行こうと思うんだけど…水葉さんも連れて行って良い?」
「構わんよ、はい、お駄賃だ~」
「二人で何話していたの?」
「別に…男同士仲良くやってるよ、早く行けよ」
「何よ~気持ち悪い~」
達洋は夏女を追い出すのに必死だった。
「ふ~これで邪魔者はいなくなった…」
「あの…まだ何か話すことあるんですか?」
「ああ、訊きたいことが…依頼の件で隠していることはないか?」
「え?」
達洋が言ったことは図星のようで、洸の声が裏返った。
「…その鞄が気になってな、金以上に大事なものが入ってそうだ」
「侮れませんね…外見とは裏腹に…」
「元刑事の勘さ、話せるな?」
洸は達洋の実力を感じて、全てを白状しようとした。
「追手の狙いは、恐らく…これでしょう」
洸が鞄から出したのは、一冊の〝黒革の手帳〟だった。それは裏金より重要な代物だった。
「…それは?」
「この手帳は盗んだ金以上の価値があります、神戸の裏社会に精通している者なら、喉から手が出るほど欲しいはずです」
洸は手を震わせながら手帳を持っていて、達洋に危険度か伝わっていた。
「中身を見ていいか?」
「どうぞ」
達洋は洸の許可を得て、問題の手帳に触れた。
「ぎっしり書かれているな…この数字は金か?」
「はい、帳簿と上納記録の担当ですから…」
「上納…?」
「不定期ですが…ある組織に金を納める日がありまして…」
達洋は手帳の頁を捲りながら、洸の暴露を耳にした。
「…神戸を、関西を拠点にしている闇組織がズラリだな」
達洋は手帳に書かれた内容を目にして、独り興奮していた。
「帝水会を含めて、複数の反社会組織が一つの組織の傘下に入っています」
「馴染みのある古株もいるぞ、そんな連中を束ねる存在がいるのか?」
「はい、僕も数回しか接していないんですが…」
洸は神戸の裏社会に蔓延る者の正体を、達洋に明かしていった。
そして…
「………くくく」
達洋の事務所付近に〝不審な男〟の姿があった。彼は薄気味悪く笑い、じっと事務所側を視ていた。
探偵バディと不審な男との、死闘の刻が近かった。
第二章 追われる男と匿う女
4
「私たちを乗せて何処に?」
「うちの事務所だよ、そこの方が安全だ」
「もう手が回っていたのね、危なかったわね、お二人さん」
「…その大事そうに持っている鞄に例の金が入っているのか?」
「ええ…」
その時、洸は何か思い詰めているようで、達洋は彼の様子を気にしていた。
「………」
達洋の愛車の背後には、一台の不審車が走行していた。それは尾行車で、一定の距離を保っていた。達洋は運転しながらバックミラーに映るものに神経を集中させた。彼はいつでも尾行車を撒く自信はあった。
車や人の量が増えていくと、尾行車の姿は見なくなり、達洋たちは無事に事務者に辿り着いた。
「二階の空き部屋で休むといい、自由に使ってくれ」
「お世話になります」
達洋は事務所の住居スペースを依頼人たちに提供した。ちなみに、家賃を請求するつもりはないようだ。
「一階に食事をする場所とお風呂場があります」
夏女は事務所の案内役を担って、水葉は興味津々で、彼女についていくが…
「二階は俺が案内しよう…」
「はあ…」
達洋は、緊張が解れていない洸と絡もうとした。
「彼女の住居の方が居心地良かったかもしれんが、我慢してくれ」
「そんな…すみません、迷惑ですよね?」
「迷惑なのは俺らじゃなくて、彼女だろ?よく匿ってくれたな」
「ええ…水葉と会っていなかったらどうなっていたか…」
「小学校の時の友達なんだってな…」
「親しいわけじゃないですが…彼女は人気者で、虐められていた僕をよく助けてくれました…」
洸は恩人の水葉のことを想うと、自然と表情が和らいでいった。
「成程…大人になっても妙な絆で結ばれているわけだ、ところで…」
「達洋、入っていい~?」
達洋が何か言いかけた時、夏女の声が覆いかぶさった。
「何か用か?」
「夕飯の買い物に行こうと思うんだけど…水葉さんも連れて行って良い?」
「構わんよ、はい、お駄賃だ~」
「二人で何話していたの?」
「別に…男同士仲良くやってるよ、早く行けよ」
「何よ~気持ち悪い~」
達洋は夏女を追い出すのに必死だった。
「ふ~これで邪魔者はいなくなった…」
「あの…まだ何か話すことあるんですか?」
「ああ、訊きたいことが…依頼の件で隠していることはないか?」
「え?」
達洋が言ったことは図星のようで、洸の声が裏返った。
「…その鞄が気になってな、金以上に大事なものが入ってそうだ」
「侮れませんね…外見とは裏腹に…」
「元刑事の勘さ、話せるな?」
洸は達洋の実力を感じて、全てを白状しようとした。
「追手の狙いは、恐らく…これでしょう」
洸が鞄から出したのは、一冊の〝黒革の手帳〟だった。それは裏金より重要な代物だった。
「…それは?」
「この手帳は盗んだ金以上の価値があります、神戸の裏社会に精通している者なら、喉から手が出るほど欲しいはずです」
洸は手を震わせながら手帳を持っていて、達洋に危険度か伝わっていた。
「中身を見ていいか?」
「どうぞ」
達洋は洸の許可を得て、問題の手帳に触れた。
「ぎっしり書かれているな…この数字は金か?」
「はい、帳簿と上納記録の担当ですから…」
「上納…?」
「不定期ですが…ある組織に金を納める日がありまして…」
達洋は手帳の頁を捲りながら、洸の暴露を耳にした。
「…神戸を、関西を拠点にしている闇組織がズラリだな」
達洋は手帳に書かれた内容を目にして、独り興奮していた。
「帝水会を含めて、複数の反社会組織が一つの組織の傘下に入っています」
「馴染みのある古株もいるぞ、そんな連中を束ねる存在がいるのか?」
「はい、僕も数回しか接していないんですが…」
洸は神戸の裏社会に蔓延る者の正体を、達洋に明かしていった。
そして…
「………くくく」
達洋の事務所付近に〝不審な男〟の姿があった。彼は薄気味悪く笑い、じっと事務所側を視ていた。
探偵バディと不審な男との、死闘の刻が近かった。
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