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シーズン1
第46話 後編
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キケンなバディ! 第一期
最終章 夏女
8
「ステファニー・アレクサという名は本名か?」
真部はミシェルと名乗っていた殺し屋に関する情報を、岩中に提供してもらっていた。
「恐らく芸名だろう…スカウトされて役者をしている時期があった」
女殺し屋〝ストレンジ〟は、ハリウッドで女優業を行っていた過去があり、主役級ではないがそれなりに素質はあった。
また、裏方の仕事にも就き、演技力の他、変装術も磨いていった。彼女の幅広い分野の経験は、裏稼業に活かされた。
「よく生きてたな…」
「しぶといだろ…貸しを作っちまったな」
「ツケを払うか…今度、同居している女を連れてこい」
ここにまた夏女ファンが在(い)た。岩中は照れながら願い出た。
真部は岩中の店を去った後、まだ寄る場所があり、小雨の中、愛車トヨタ2000GTで次なる目的地に向かった。
真部は行きつけの喫茶店<フリージア>で、誰かと待ち合わせしていた。
「…コーヒーのおかわりは?」
「もらうとするか…」
真部はかなり待たされているようで、灰皿は煙草の吸殻が溢れそうになり、コーヒーのおかわりを頻繫にしていた。
そして、しばらくすると…
カラン~
来店者を知らせる扉鈴の音が鳴り、真部は出入り口付近を向くと、安堵するのであった。
「…コーヒー頼む」
来店者は傘を差しながら走って来たのか、少々息が上がって汗と雨が入り混じり、びしょびしょだった。
「酷い顔だな…無理するな、年齢考えろよ…」
斎藤は注文した後、黙って真部の隣に座った。
「…すまん遅くなって、何かとバタバタしていてな」
「羨ましい話だな…これ、役に立ったよ」
真部は女殺し屋の所持品(押収品)の撮影写真を斎藤に返却した。
「あの女のことなんだが…」
「経歴はいい…彼女を撥ね殺した車のことが知りたい」
「お前の言うアメ車だが…目撃情報はなく、盗難の届け出もない…手掛かりは一切なしだ」
「そうか…悪かったな、忙しい時に呼び出して…」
「いや…うちに捜査する権限がなくてな、気をしっかり持てよ…」
斎藤は何処となく元気がない親友を、そっと気遣った。そして、注文したコーヒーを飲み干して独り去るのであった。
「…さて、俺も帰るか」
「…ちょい待ち、忘れもんや」
真部が店を出ようとすると、ウェイトレスの彩加が彼を呼び止めた。
「何だ、それは?」
「何言うてんねん…今日は大事な日やろ?」
彩加がそう言うと、真部は口を大きく開き、一部の記憶が戻った。
「すまん…それはツケといてくれ、すぐに払うから」
「いつでもかまへんで…夏女ちゃんによろしく言っといて~」
真部はお土産を手に取り、マスターと彩加に別れを告げた。そして…
「お帰り…」
夏女は静かに真部の帰宅を出迎えた。
「…飯はまだ早いな、ちょっといいか?」
真部は神妙な面持ちで、夏女に話を持ち掛けた。二人は静かにリビングルームのソファーに腰を下ろすわけだが…
「話は何?」
「…いや、今月は大して仕事がなかったし…災難が続いたからな…しかし、辛いことも受け入れないといけない」
「分かってるわ…私は大丈夫よ」
夏女はミシェルの手紙のことをしばらく黙っておこうとした。それから真部は話題を変えようとして…
「一つ訊きたい…お前がここに来て、もう一年経とうとしている、今の気持ちを率直に言ってほしいんだ…」
真部は改まって、夏女の心境を知ろうとした。
「とても幸せよ、あなたのお陰でちゃんと生活できてるし…感謝してもしきれないわ…本当よ!」
真部は夏女の偽りない顔つきを見て、軽く笑みを浮かべた。
「優しいな…お前の記憶が戻った場合のことを考えたりする…もし、ミシェルのようになったら…」
「え?」
「友人や知人によく言われる…お前が寝返って、命を狙って来たらどうするんだと…一年前はよく考えなかったが…今は少し恐い」
真部はらしくない不安げな表情を夏女の前で浮かべた。すると…
「…私も悩んでいます、記憶を戻した方が良いか…このままで良いか…でも今は…あなたと一緒に生きたいわ!」
夏女は照れることなく、真っ直ぐ真部を見て、はっきりと口を開いて、自身の気持ちを答えた。
「…俺の在る世界は得体の知れない所だ、どうなるか分からんぞ」
「勿論、覚悟してるわ…私がいたら迷惑?」
「いや…では、契約更新ということで…」
真部は堂々とした夏女に圧倒されていた。二人は商談が成立すると、厚く握手を交わした。そして…
「…ところで今日はお前の誕生日だろ?」
「あら、そうだっけ?」
「六月二八日って決めただろ、ほれ、ケーキも買ってきた」
「ありがとう、さて、ご飯の用意しましょうか」
真部たちが夕食の準備に取り掛かると、雨が止んで、雲が流れていき、美しい夕暮れが一望できた。
夕食後、夏女の誕生日と契約更新の祝いを兼ねたお祝いパーティーが開催されて、二人は<フリージア>特製のケーキを口にした。
こうして、真部たちの未知なる生活が続くのであった。
最終章 夏女 完
最終章 夏女
8
「ステファニー・アレクサという名は本名か?」
真部はミシェルと名乗っていた殺し屋に関する情報を、岩中に提供してもらっていた。
「恐らく芸名だろう…スカウトされて役者をしている時期があった」
女殺し屋〝ストレンジ〟は、ハリウッドで女優業を行っていた過去があり、主役級ではないがそれなりに素質はあった。
また、裏方の仕事にも就き、演技力の他、変装術も磨いていった。彼女の幅広い分野の経験は、裏稼業に活かされた。
「よく生きてたな…」
「しぶといだろ…貸しを作っちまったな」
「ツケを払うか…今度、同居している女を連れてこい」
ここにまた夏女ファンが在(い)た。岩中は照れながら願い出た。
真部は岩中の店を去った後、まだ寄る場所があり、小雨の中、愛車トヨタ2000GTで次なる目的地に向かった。
真部は行きつけの喫茶店<フリージア>で、誰かと待ち合わせしていた。
「…コーヒーのおかわりは?」
「もらうとするか…」
真部はかなり待たされているようで、灰皿は煙草の吸殻が溢れそうになり、コーヒーのおかわりを頻繫にしていた。
そして、しばらくすると…
カラン~
来店者を知らせる扉鈴の音が鳴り、真部は出入り口付近を向くと、安堵するのであった。
「…コーヒー頼む」
来店者は傘を差しながら走って来たのか、少々息が上がって汗と雨が入り混じり、びしょびしょだった。
「酷い顔だな…無理するな、年齢考えろよ…」
斎藤は注文した後、黙って真部の隣に座った。
「…すまん遅くなって、何かとバタバタしていてな」
「羨ましい話だな…これ、役に立ったよ」
真部は女殺し屋の所持品(押収品)の撮影写真を斎藤に返却した。
「あの女のことなんだが…」
「経歴はいい…彼女を撥ね殺した車のことが知りたい」
「お前の言うアメ車だが…目撃情報はなく、盗難の届け出もない…手掛かりは一切なしだ」
「そうか…悪かったな、忙しい時に呼び出して…」
「いや…うちに捜査する権限がなくてな、気をしっかり持てよ…」
斎藤は何処となく元気がない親友を、そっと気遣った。そして、注文したコーヒーを飲み干して独り去るのであった。
「…さて、俺も帰るか」
「…ちょい待ち、忘れもんや」
真部が店を出ようとすると、ウェイトレスの彩加が彼を呼び止めた。
「何だ、それは?」
「何言うてんねん…今日は大事な日やろ?」
彩加がそう言うと、真部は口を大きく開き、一部の記憶が戻った。
「すまん…それはツケといてくれ、すぐに払うから」
「いつでもかまへんで…夏女ちゃんによろしく言っといて~」
真部はお土産を手に取り、マスターと彩加に別れを告げた。そして…
「お帰り…」
夏女は静かに真部の帰宅を出迎えた。
「…飯はまだ早いな、ちょっといいか?」
真部は神妙な面持ちで、夏女に話を持ち掛けた。二人は静かにリビングルームのソファーに腰を下ろすわけだが…
「話は何?」
「…いや、今月は大して仕事がなかったし…災難が続いたからな…しかし、辛いことも受け入れないといけない」
「分かってるわ…私は大丈夫よ」
夏女はミシェルの手紙のことをしばらく黙っておこうとした。それから真部は話題を変えようとして…
「一つ訊きたい…お前がここに来て、もう一年経とうとしている、今の気持ちを率直に言ってほしいんだ…」
真部は改まって、夏女の心境を知ろうとした。
「とても幸せよ、あなたのお陰でちゃんと生活できてるし…感謝してもしきれないわ…本当よ!」
真部は夏女の偽りない顔つきを見て、軽く笑みを浮かべた。
「優しいな…お前の記憶が戻った場合のことを考えたりする…もし、ミシェルのようになったら…」
「え?」
「友人や知人によく言われる…お前が寝返って、命を狙って来たらどうするんだと…一年前はよく考えなかったが…今は少し恐い」
真部はらしくない不安げな表情を夏女の前で浮かべた。すると…
「…私も悩んでいます、記憶を戻した方が良いか…このままで良いか…でも今は…あなたと一緒に生きたいわ!」
夏女は照れることなく、真っ直ぐ真部を見て、はっきりと口を開いて、自身の気持ちを答えた。
「…俺の在る世界は得体の知れない所だ、どうなるか分からんぞ」
「勿論、覚悟してるわ…私がいたら迷惑?」
「いや…では、契約更新ということで…」
真部は堂々とした夏女に圧倒されていた。二人は商談が成立すると、厚く握手を交わした。そして…
「…ところで今日はお前の誕生日だろ?」
「あら、そうだっけ?」
「六月二八日って決めただろ、ほれ、ケーキも買ってきた」
「ありがとう、さて、ご飯の用意しましょうか」
真部たちが夕食の準備に取り掛かると、雨が止んで、雲が流れていき、美しい夕暮れが一望できた。
夕食後、夏女の誕生日と契約更新の祝いを兼ねたお祝いパーティーが開催されて、二人は<フリージア>特製のケーキを口にした。
こうして、真部たちの未知なる生活が続くのであった。
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