キケンなバディ!

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シーズン1

第37話 後編

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キケンなバディ! 第一期
第六章 探偵の日常

   6

 翌日、夏女は胸をときめかせながら劇場稽古場に向かうが、何か様子が違っていた。

「あの…稽古は?」
「今日はする必要ないわ、今から出掛けます、ついてきて…」
 夏女は奈央の指示に従い、数人の劇団仲間と共に外出した。彼女だけ行き先は分からず、黙ってついて行くしかなかった。奈央たちは劇場から三宮中心部へと向かい、公共交通機関を利用しようとした。

「…阪急電鉄はんきゅうでんてつ?」
 夏女は阪急電鉄の車両に乗るのは初めてであった。阪急電鉄は大阪・神戸・宝塚・京都を結ぶ大手私鉄である。
車両の特徴として、外装は独特な小豆色であり、〝阪急マルーン〟と呼ばれている。内装は木目調で深緑のゆったりできる座席シート、高級感溢れる関西の足として活躍している。

「…行先は宝塚たからづか…<宝塚大劇場たからづかだいげきじょう>よ」
 夏女は奈央から目的地を聞いたが、聞き慣れない場所であった。
 
 宝塚市に向かうにはいくつか手段があるが、奈央たちは敢えて、阪急電鉄を利用した。車内の広告スペースには当たり前のように上演中、上演予定の<宝塚歌劇団たからづかかげきだん>の宣伝ポスターが貼付されている。同劇団は阪急電鉄側の娯楽事業として運営されていた。
 
阪急三宮駅から宝塚を目指すには、西宮北口駅で途中下車して、阪急今津線に乗り換える必要がある。各駅停車のため、少々時間が掛かるが、高級住宅街を一望できて、平和な時間に酔いしれるのであった。
 
<宝塚大劇場>は終点の宝塚駅から行くのも手だが、一駅前の宝塚南口(宝塚ホテル前)駅を降りて、行くことも可能である。
駅から兵庫県南東部を流れる河川(武庫川)を目指して、架っている大橋を渡っていくと、劇場に辿り着く。劇場周辺は温泉や観光街の他、遊園地や動物園がある。都市部に拠点を置く湊歌劇団とは環境が全く違っていた。

「…ここが宝塚の劇場…!」
 夏女は初めて<宝塚大劇場>の前に立ち、愕然としていたが、彼女にゆっくりと眺める時間はなかった。
「開演十分前よ、急いで!」
 夏女はわけも分からず、チケットを渡されて、開演場所へと走った。そこは宝塚大劇場内に併設された小劇場であった。

 小劇場の正式名称は〝宝塚たからづかバウホール〟大劇場に比べると規模が小さく、トップスター以外の選抜メンバーが舞台に立つこととなる。
 上演される作品は、どちらかといえば、王道ではなく、若手スター育成のための作品が多い。また、劇団員だけでなく、若手の演出家の登竜門として役割を担っている。

<バウホール>は豪華さはないが、観客との距離が近くなり、大劇場とは違う観劇方法を味わうことができた。

 本日の上演作品だが、現代のアメリカを舞台に前途有望な建築技師とバレリーナ志望の娘との恋愛を描いたミュージカル。 第一部はドラマ中心に、第二部はショーアップした構成である。

 偶然にも、<バウホール>の上演作品は、<湊歌劇団>と同じくアメリカが舞台であった。
 奈央たち劇団員は、単に観劇しに来たわけでなく、勉強するためにやって来たのであった。バウホールの空間は<湊歌劇団>の劇場と似ており、彼女たちにとって、教科書のような存在であった。
 
 公演終了後、宝塚歌劇ファンには楽しみがまだあった。
 宝塚スターの入り出待ちは名物のようなもので、舞台メイクをしていない素顔を拝むことができる。ファンはまだかまだかと待ち望んでいたが…

「何があるんですか?」
よ…観劇した作品の出演者…劇団員が出てくるの…」
 夏女は奈央に説明してもらい、黙って一緒に待つことにした。そして…

 数時間後、ようやく、出演者である歌劇団スターがファンの前に現れた。

「きゃあ~○○様~!」
 宝塚若手スターの周りには女性ファンが集結しており、黄色い声援が飛び交う中、奈央たちは距離を取っていた。彼女たちは遠くの位置から宝塚スターをとして見ていた。
宝塚スターからは、普段のファッションやファンへの対応、立ち振る舞い、癖など学ぶべきことはいくつもあった。

「…よし、もう帰ろうか」
 奈央たちは何人かの宝塚スターの姿を見た後、静かに立ち去ろうとした。
「…何か参考になった?」
 夏女は帰り際、何気なく奈央に質問した。
「ええ…悪かったね、付き合わせちゃって…」
「いいえ…大事なことなんでしょ?」
「<宝塚歌劇団>は私たちのお手本だからね…手が届かない存在だけど…〝宝塚〟になくて、〝湊〟だけにあるもの…それを見極めたいのよ…」
 奈央は属する歌劇団に対しての想いを熱く語り、部外者である夏女に深く伝わった。
 夏女は奈央たち劇団員と共に、稽古に専念して、公演初日に備えるのであった。
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